第14話 玉座の骸骨 2
誰もが身動き一つできず、重苦しい死寂が全員の心にのしかかっていた。
アイクを失ったパーティは、凄まじい威圧感に押されて一歩一歩後退していく。エミとジョエルは長弓を満月のように限界まで引き絞った。エミは深く息を吸い、鋭い視線でジョエルに合図を送る。ジョエルはそれを察し、猛然と頷いた――。
「【万矢斉発】!」
エミの美しい指が弦を放つと、放たれた矢は空中で爆裂し、瞬時に数千発の光の雨へと変貌した。そして、骸骨の頭上へと容赦なく降り注ぐ!
「【急凍氷箭】!」
続くようにジョエルの咆哮が響く。彼の放った矢は極寒の気を纏い、空中で無数の鋭く重い巨大な氷錐へと凝縮され、敵の退路を完全に封鎖した。
同時に、アンナの手数も限界を超えていた。ペンタブのペンが画面上に残像を描き、骸骨の周囲に無数の太く重い鉄鎖を虚空から具現化させ、その場に力任せに縛り付けようとする。
三つの大技がほぼ同一の瞬間に、天から地へと交錯し、包囲網を形成した!
しかし、その骸骨は冷笑を漏らし、退くどころか突き進む! 降り注ぐ圧倒的な攻撃に向かって猛烈に突進し、体ごと空中で高速に一回転した。あのマナの長剣が、隙間のない青い光の幕へと化す。『チェン、チェン、チェン、チェン!』と暴虐的な金属音が連続して響き渡り、なんと空を埋め尽くした光の雨と氷錐をことごとく斬り砕き、すべて弾き飛ばしてしまったのだ!
鎖を振りほどいた骸骨は、惨白い残像と化し、猛スピードでエミの方へと突っ込んでいく!
「危ない!」
それを見たエリアは顔色を変え、体内の魔力を狂ったように循環させ、限界の時間の中で「高速詠唱」を爆発させた。
「【白の障壁】!」
純白の聖光の盾がエミの目の前に立ちはだかる。だが、骸骨が何気なく一振りしただけで、『パリィン』と、盾は脆いガラスのように一瞬で粉砕された!
剣先が今にも喉元を切り裂こうとする中、エリアは両目を血走らせ, 必死に盾を補填し続ける。
「【白の障壁】!【白の障壁】!【白の障壁】――!」
骸骨の攻撃は加速度的に増していく。惨白い骨の手が魔剣を振り回し。盾は出現した瞬間に叩き割られ、再び出現してはまた砕かれる! かろうじて致命傷こそ防いだものの、連続した盾の破壊による凄まじい衝撃波が後方のエミを激しく吹き飛ばし、彼女は冷たく硬いコンクリートの床に無様に転がった。
最後の一面の盾が破れようとする危機一髪の瞬間、怒りの咆哮が轟いた。
「おおおおお――!」
大ラルがその小山のような巨体を地から躍進させ、圧倒的な勢いで骸骨へと激しく体当たりをかました!
『ドォーン――!』
この捨て身の一撃がついに決まり、骸骨は真っ直ぐ吹き飛ばされ、道中の太い古代の石柱を三本も粉砕し、破片が辺りに飛び散った。ラルは好機を逃さず、地鳴りのような足音を響かせ、咆哮しながらさらに狂ったように追撃の体当たりを仕掛けていく。
ようやく勝ち取ったこの僅かな息吹の間に、ヒカリは慌ててエミの元へと這い寄り、切迫した声で問いかけた。「大丈夫!? エミ!」
エミは苦しそうに二度咳き込み、歯を食いしばる。「こいつ……マズすぎるって……」
彼女は無理やり体を支えて立ち上がり、再び弓の弦を引いた。今度は周囲の大気中のマナが、狂ったように矢へと集束し、圧縮され、さらに圧縮され、眩い青い光を放ち始める。
もう一方では、瓦礫の中から骸骨がすでに立ち上がっていた。再び突進してくる巨体のラルに対し、それは驚くほど優雅に、まるで暴れ牛をあしらう超一流の闘牛士のように、ただ軽く身をかわすだけで、ラルとすれ違った。
その瞬間、エミは好機を捉え、限界まで溜めた弓の弦を放つ!
「【インプラス】!」
純粋なマナが凝縮された恐怖の光条の矢が、骸骨の左側へと咆哮を上げて射出された。同時に、突進をかわした骸骨の目が冷たく光り、反転して大ラルへ慈悲なき鋭い二連撃を見舞う!
『シュッ! シュッ!』
ラルが誇る鉄のように硬い肉体も、純粋なマナで造られた魔剣の前では、まるで薄い紙同然だった。その暴虐的な攻撃に耐えかね、ラルは苦しげな哀鳴を上げ、巨体から鮮血を噴き出した。次の瞬間、白い煙と化し、本来の小さく重傷で昏睡した姿に強制的に戻され、地面に力なく倒れ伏した。
ラルを斬り裂いた骸骨は、振り返りさえせず、ただ平然と左手を突き出し、自身に向かって飛来する【インプラス】の光条の矢へと向けた。
『ウォン――』
予想された爆発は起きなかった。あの凄まじい威力を誇るマナの矢は、骸骨の左手に触れた瞬間、まるでスポンジが水を吸うように、綺麗さっぱりとその骨躯の中へと吸収されてしまったのだ!
骸骨はゆっくりと体を引き起こし、空洞の眼窩で冷徹に目の前の者たちを見つめた。
エミはここに至り、ついに双方の戦力にある絶望的な格差を思い知らされた。彼女は顔を青ざめさせ、猛然と振り返ると、入口の方向へ救難信号の矢を放とうとした。
しかし、骸骨はその意図を見抜いたかのように一歩前へ踏み出し、左手を力強く開いた。
周囲の狂暴なマナが一瞬にして目に見えない気流の壁と化し、『パキィン』と、エミの救難の矢を半空で容赦なく握り潰した。
「嘘……そんな、あり得ない……」
エミは絶望のあまりその場にへたり込み、その美しい瞳には信じられないという色が満ちていた。
「驚いてる暇があったら動け!」
ジョエルが狂ったように骸骨へ連射しながら、ヒステリックに叫んだ。だが、自分の全力の矢が、相手の片手によって容易に受け流され、弾かれるのを見て、彼の内心もまた冷たい絶望に少しずつ貪られていく。
「クソッ! これでも喰らえ!」
アンナは歯を食いしばり、液晶タブレットの上で強くペンを振るった。数トンの重さがある巨大な岩が骸骨の頭上に突如出現し、轟音を立てて落下する。
しかし、その骸骨はただ緩慢ながらも確実な足取りで一同へと歩み寄り、手にした魔剣でいくつかの優雅な光の弧を描いた。『シュシュッ』と数回の手数で、落下する巨岩を綺麗な破片へとあっけなく切り刻んでしまった。
歩み寄ってくる「白き死神」を見つめ、ヒカリの足は震えが止まらず、声は泣き出しそうだった。「僕……僕たち……どうすればいいんだ……」
その時、後方に立つエリアが法杖を高く掲げた。その決意が満ちており、彼女がこの生涯で放てる最大の切り札を詠唱した。
「【邪霊悪除】――!!」
『ドォー―――ン!!!』
太く、無上の神聖な威厳を纏った巨大な聖光が、天罰のごとく骸骨の頭上へと轟然と降り注いだ! 恐怖のエネルギー波動が四方八方へと宣洩し、この広大な古代の宮殿は巨大な聖光の波によって激しく振動し、無数の破片が頭上から落下する。
しかし、その光が持続したのはわずか数秒だった。
一同の驚愕の視線の中で、あの骸骨はなんと無傷のまま、ただ俯いてその場に静止していた。
骸骨はゆっくりと頭を上げ、魔剣が再び妖しい光を灯す。そして、一同へ向かって致命的な突進を仕掛けようと身構えた!
全滅が目の前に迫ったその時、アンナは窮余の一策として、血走った目で虚空に向かって一心不乱に絵を描き、引き裂かれるような声で叫んだ。
「止まれ!!!」
『ゴロゴロ! ゴゴゴゴゴゴゴゴ――!!』
無数の巨大な、実体化された白黒の日本語の「オノマトペ(擬音・擬態語)」が虚空から降り注いだ。恐怖の音波と法則の重圧が骸骨の耳の奥で鳴り響き、突進しようとしていた骸骨をその場に無理やり釘付けにし、身動きを封じた!
「早く!! 早く逃げて!!」
アンナは声をからして叫んだ。
エミとジョエルは目を血走らせながら長弓を収め、入口に向かって脱兎のごとく走り出した。しかし、ヒカリだけは呆然とその場に立ち尽くし、遠くで意識を失い、血塗れになっているラルを見つめ、涙が止まらずに流れ落ちていた。
「ヒカリ! 早く!」
エリアがヒカリの手を強く引っ張る。
「でも……でもラルが! ラルがまだあそこにいるんだ!」
ヒカリは泣き叫び、その手を振り払おうとした。
エリアは重傷のラルを見つめ、その瞳に同情と沈痛の陰をよぎらせた。だが彼女は鋭く気づいていた。遠くで釘付けになっている骸骨の体が微かに震えている。それはすでに、アンナのこの奇妙な「オノマトペ」による束縛に慣れ、適応し始めているのだ!
時間は一刻を争う。エリアは一文字に歯を食いしばり、その瞳に強固な意志を宿して、力任せにヒカリを引きずり出した。
「また戻ってくる! 私を信じて! 行こう!」
エリアの強い牽引のもと、一同はついに命からがら危険な地下宮殿を脱出した。
「アンナ! 急いで!」
洞窟の縁まで走ったエリアが振り返って叫ぶ。
その時、後方の「オノマトペ」による防衛線が轟音を立てて崩壊した。骸骨は怒りに満ちた骨の摩擦音を響かせ、身を翻すと、悪鬼のような残像となってアンナの背中へと真っ直ぐ突進した!
アンナは振り返りざまに走りながら、震える手でタブレットの上に狂ったように殴り書きをする。
今にも追いつかれそうなアンナを見て、エリアは足を止め、手にした法杖を猛烈に回転させ、最後の魔力を一切惜しむことなく解放した。
「【聖の障壁】――!」
重厚極まりない巨大な金色の光の壁が、骸骨の前に毅然と出現する。
『ズラァッ――!』
骸骨のあの恐るべき魔剣は、なんとその神聖な障壁の中へと突き刺さり、豆腐でも切るかのように光の壁をゆっくりと切り裂いた。障壁が砕け散る轟音と共に、それは再び全速力でアンナへと迫る。
骨の爪がアンナの服の裾に触れようとしたその刹那、アンナは前進の慣性を利用し、目を閉じて全身の力を振り絞り、前方へと猛然と跳んだ!
『ドボォン!』
アンナは危機一髪のところで洞窟の境界線の外へと飛び出した。洞窟の縁まで追ってきた骸骨は、境界に触れた瞬間にピタリと動きを止めた。
それは怒号を上げることもなく、追いかけることもしなかった。
ただ、その粘り気のある暗闇の中に静かに佇み、あの空洞で氷のように冷たい眼窩で、無様に逃げ惑う一同を、その姿が洞窟の外へと消え去るまで死寂の中にじっと見つめていた。
命拾いをした一同は、冷たい滝の水流へと次々に落ち、その水勢に身を任せて疲れ果てた体で下流へと流され、最終的にひどく無様な姿で岸へと這い上がった。
岸辺では、冷たい河水が一同の衣服からポタポタと滴り落ちていた。
アンナは背中をすっかり濡らし、魂が抜けたように泥の上に座り込み、水に濡れかけたタブレットを呆然と見つめていた。一方、ヒカリは泥にまみれ、微かに震える自身の両手を見つめ、その後、全身の力を振り絞るようにして、涙と冷たい河水で視界を滲ませながら、小さな声で咽び泣いた。
「私……何もできない……」
エミとジョエルは上着が破れ、あれほど誇りにしていた長弓も今は革のカバーが緩み、二人は重苦しく沈痛な面持ちで視線を交わした。惨敗の陰が全員の心に圧しかかり、誰一人として慰めの言葉を発することができない。パーティの空気は底辺まで沈み込んでいた。
エリアは深く息を吸い、体内の魔力枯渇による激しい頭痛に耐えながら歩み寄った。彼女は心を痛めながら腰を落とし、苦痛に震えるヒカリをきつく抱きしめ、ヒカリの頭を自身の温かい肩へと寄せると、耳元で囁くような声で優しく宥めた。
「ラルはきっと大丈夫だから……私を信じて。絶対に、助けに行こう……」
全身に傷を負い、これまでにないほどの挫敗感を抱えながら、一同は服を絞ることさえ忘れたまま、水を吸って鉛のように重くなった足取りを引きずり、落寞とした様子で村長の家の応接室へと戻った。
部屋の中は死んだように静まり返り、窓から差し込む明るい日差しが、かえって室内の凝固したような空気の息苦しさを際立たせていた。ヒカリは最も薄暗い隅の席で頑なに頭を垂れ、全員の体には生々しい血痕や擦り傷、そして乾いた泥の跡が残り、見る影もなく落ちぶれていた。
『ガチャリ』
突然、応接室の木製の扉が勢いよく開け放たれた。
シュウとシルヴィアが前後して中に入ってくる。本来ならその口元にいつもの気楽な笑みを浮かべていたはずのシュウは、室内の光景を完全に目にした瞬間、その場に凍りついたように立ち尽くし、笑顔が瞬時に引きつった。
一同の死んだように沈み切った顔色を見つめ、そして各々の体に刻まれた隠しようのない無惨な傷跡を見たシュウの瞳が、猛烈に縮まった。心の中に極めて強い不吉な予感が湧き上がり、彼は驚愕と信じられないという想いに声を震わせながら口を開いた――。
「どう……したんだ? みんな!?」




