第1話 失踪した少女に対する思い
私、蒼陽 沙夜乃。14歳。
自分で言うのもアレだけど努力家で、勉強も運動も欠かさずにやった結果、見事に優等生の生徒として位置づけられただけの平凡な中学2年生。
もちろん仲の良い友人にも恵まれて、良くも悪くも、それなりに楽しい中学校生活を送っている。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……灯華ちゃん、失踪してから1ヵ月だね」
20XX年7月中旬頃。
ここ神崎中学校・図書室にて、私は親友2人と灯華ちゃんの安否を気にしていた。
時刻は丁度、昼休み。
いつもはここで設置してある本を読み、或いは続きを1~2日にかけて読む為に借りるといった習慣がある。
しかし今回は、そろそろ迎えるのであろう夏休みの、宿題の1つ――読書感想文に必要な本を借りる為に、ここに出向いていた。
「……そうですね」
水野 聡子。私と灯華ちゃんの共通の親友の1人。
彼女はとある良家のお嬢様で、それに鼻にかけずに私達一般人にも分け隔てなく接する、口調も丁寧で性格が良い子。
私と灯華ちゃんとは小学校からの幼馴染であって、今も仲良くしている。
私より背が高いけど細身で、丁寧に手入れしているストレートな長い髪をなびきながら、華奢な立ち振る舞いをする。
そんな彼女の姿を、誰がどう見かけても必ず振り向くほど上品な美人さんだ。
「せっかく仲良くなれたのに、どうして……」
立花 友梨。同じく共通の親友の1人。
彼女とは入学式で出会って、同じクラスメイトとして灯華ちゃんや聡子ちゃんと同じ趣味を持っていたことから仲良くなった。
見た目は小柄だけどスタイルが良く、清楚で可愛くて、灯華ちゃんと同様の性格をしているけど、趣味のことになると人が変わったように饒舌になる。
初めて話した時、私達はそのギャップに思わずびっくりしたけど、彼女の語る姿から、情熱がこもってて楽しそうな雰囲気を出しているから、同じ趣味を持っている身としてはとても親近感が湧いた。
だけど、このような子――それも灯華ちゃんと似たような感じで、一部からは【オタク】として、よく遠回しに見下されたり、馬鹿にされたりしていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あーあ、文瀬の奴、失踪から1ヵ月かぁ……つまんねーの、せっかくこっちが楽しく遊んでやったってのに」
うわ……。来てたのか……。
私はそう心の中で呟きながら、親友2人と共に声のした方向へ一斉に視線を向ける。
姫路 緋依。この学年の中で一の不良女子。
彼女は私達とは相容れない不良――所謂【DQN】?と言うのだろうか。
容姿は身長や体つきのせいで高校生に見えるけど、れっきとした私達と同じ中学生。
彼女は気性が荒く、何かと自分が気に入らない子――特に大人しい子に因縁をつけたりすれば嫌がらせをするし、気分次第で授業の妨害もやる傍若無人ぶりを発揮する。
おまけに嫌でも耳にしてしまうくらい、有名な不良の先輩とは彼女の仲間と一緒によくつるんでいるという話も。
おかげでここ中心とした場所自体、大半彼女達の影響によって治安が悪かったりする。はっきり言って深刻的な問題だ。
「えぇ~?緋依ちゃん、そんなこと言っちゃぁ、めっ!だよぉ~!」
小日向 美雪。この学年の中で一のギャル風ぶりっ子な美少女。
ちなみに彼女こそが、姫路さんの仲間の1人だったりする。
彼女は灯華ちゃんのことを庇うように窘めているけど……。
私達には傍から自分のことの為に、だしに使っているようにしか見えない。
何か、表向きは友達のふりして、裏では端から見下しているみたいで。
彼女は常に自分のことを【可愛くて良い子】アピールを欠かせない、特に男子に対しては健気に振る舞っている。
――元々スタイルが良くて可愛いから、ナチュラルなギャルメイクがなくても、ぶりっ子していようがしてまいが、どっちにしろ殆どの男子には受けが良いのだろう。
逆に女子からの評判は、灯華ちゃんのことじゃなくても、最初からほぼ最悪だけど。
「そうだよ、姫路さん。美雪ちゃんの言う通り、文瀬さんに申し訳ないと思わないのかい?」
西崎 鷹尋。この学年の中で一の人気者。
私と同じ優等生の生徒として位置づけられた、イケメン男子。
ただ私とは違うのは、彼は天才型。
【容姿端麗で成績優秀、スポーツ万能の天才派美男子】といった称号が通っていれば、それはもう殆どの女子にモテること間違いなしだろう。
おかげで努力型の私には、多少ヘイトがかかるのは良い迷惑だけど。
しかも彼は彼でそのことに鼻にかけていて、まさに不遜な性格。
最初は彼のことを気になりかけていたけど、今じゃもう冷めるどころか呆れる。
そもそも彼は自信過剰で、モテていることに優越感を覚えたのか、女子に対する扱いがどこか軽い――いや、悪く言えばだらしない。
それも彼曰く、「全員僕のことが好きだから、多少の扱いくらいで文句は言わないだろう」とそう言っている話を聞いた。
――そんな彼でも、変わらず尚接している大半の女子達に、ある意味尊敬するが。
特に小日向さんとか、彼公認のファンクラブとか……ね。
「西崎ぃ……てめぇ、今日も調子づいてんなァ?」
「んもぅ、緋依ちゃん!喧嘩売らないの!せっかくの美人さんがぁ、台無しだぞ☆」
「黙っとけこのぶりっ子女ァ……大体てめぇはな……」
姫路さんが小日向さんにいつものように悪態をつけようとした時、見知った男子の気怠さがこもりつつも、尚且つかっこいい声が図書室の入口から聞こえてきた。
「3人共、煩い……ここ図書室だぞ」
「あぁ、新藤くぅん♡」
「や、やぁ新藤……すまない、少々荒立ててしまった」
「チッ……」
新藤 悠翔。この学年の中でもう1人の人気者。
彼もまた、優等生の生徒として位置づけられた、イケメン眼鏡男子。
ただ、彼が優秀なのは勉強で、スポーツの方は並程度。
それでも知的な秀才男子として、西崎君とは違って男女問わずに人気がある。
ちなみに、彼も同じ小学校からの幼馴染でもある。
それもあって、私や聡子ちゃんから見て、彼はどこか誰に対しても何に対しても、全てに無関心な雰囲気が漂っている気がする。
何というか、近寄りがたいどころか――寄せ付けない。
灯華ちゃんとは仲良かったらしいけど、今となっては疎遠に近い仲になった。
一体、2人の間に何があったんだろう……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「全く……またアイツのこと話していたのか?」
「いや、それは姫路さんが……」
「あ“ぁ?ただつまんねーから呟いてただけだっつーの」
「新藤君は確かぁ、灯華ちゃんとは昔仲良かったんだよねぇ?心配してるのぉ?」
西崎君と姫路さんが言い合う中、小日向さんが新藤君に灯華ちゃんのことを聞く。
「……別に、アイツとはもう、そんな仲良くなんてない。興味すら微塵もない」
新藤君はそう言い、いつもより気怠そうにそっぽ向いた。
まるで、灯華ちゃんのことは絶対に触れたくないみたいに。
「そっかぁ。そーだよねぇ、あんな地味でオタクな灯華ちゃんは、イケメン眼鏡男子の新藤君にはぁ、やっぱきつかったかぁ」
彼の答えに何を思ったのか、小日向さんは裏のある笑みを浮かべながら灯華ちゃんのことを見下しながら軽蔑する。
「……何が言いたい」
新藤君はそんな彼女の言い方に癪に障ったのか、少し不機嫌な声色で言う。
「い、嫌だなぁ新藤くぅん、冗談だよぉ、冗談!今のは忘れて☆」
小日向さんはそんな彼に少し怯んだのか、灯華ちゃんの話を無理やり終わらせた。
それを傍から見ていた私達だけど、幸いなことにあの4人には見えない場所だった為に、誰1人とも気付かなかった。
……さっきの新藤君の声色、初めて聞いたかも。
私は、心の中で少し怯みながら呟いた。
「全く、灯華さんが行方不明になってもあの3人は言いたい放題……新藤君なんて、何故今はあんなに、灯華さんのことを冷たくするのでしょうね。前までは仲良かったはずですのに」
「私のことはとにかく、アレは酷いと思うわ……姫路本人は遊びだって言うけど、殆どカツアゲや暴力じゃない……!物も壊すし、完全にいじめよ……!」
「西崎君や小日向さんに至っては、もはや自分達の為に端から灯華さんを見下していますし、そのファンクラブの女子達からも軽蔑や罵倒されますし……」
聡子ちゃんと友梨ちゃんが、互いに4人のことに対して腹を立てていた。
常日頃の行いのせいで、普通の常識を持つ人間であれば、誰でも腹立つだろう。
もちろん、私も同じ気持ちだ。寧ろ反吐が出る。
私達にとっての灯華ちゃんは、誰が何と言おうが、心優しい大切な親友なのだから。
「……腹立てても仕方ないよ。あんな奴らは放っておいて、灯華ちゃんが何処かで無事でいることを信じよう?」
私は自分の感情を抑えて、2人を落ち着かせるように言い聞かせた。
「沙夜乃さん……そうですね。すみません、少し憤ってしまいました」
「うん……ごめんね、沙夜乃。1人の友達だったから、つい……」
「いや、2人の気持ちも解るよ。正直、私も心底腹立ってたし……もう止めようか、この話」
私達は気持ちを切り替えるように、席から立ち上がる。
一方あの3人は、相変わらず騒いでいる為に私達にはまだ気付いていない。
それはそれで幸いだ。気付かれたら、またいつものように突っかかってくるし。
「さっさとこの図書室の中にある本から、気になったものを借りて、教室に戻ろ!」
「そうね、その為に来たんだもの。そろそろ夏休みだし、読書感想文に困らないような内容の本を借りたいわね」
「えぇ。あの3人に気付かれないうちに、できれば迅速に探しましょう」
私達の共通する趣味―――読書。
本は、いろんなジャンルがあるからこそ、興味が尽きない。
本は、いろんな種類があるからこそ、面白い。
本は、教科書にはない内容が載っているからこそ、更なる知識や知恵が得られる。
そういったものこそが、私達にはもってこいの魅力だ。
それなのに読書だというだけで、何故つまんないと軽蔑されなきゃいけないのか。
楽しく饒舌に語るだけで、何故『キモイ』等の悪口を言われなきゃいけないのか。
それぞれの批判から総合して、悪い意味で地味な趣味として認識されるなんて。
――こんなのって、理不尽で不公平だ。




