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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第九章 師走(十二月)

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228.二月二十四日 夜 変わり者同士の食事会(閑話)

 とうとうこの日がやって来た。町中にはキラキラとイルミネーションが煌めき、普段は閑散としている駅前通りにも多くの人々が歩いている。その大半は若者たちで、当然のようにカップルらしき男女ばかりだ。


 そんないつもと異なる風景を横目に車を走らせ本来の(・・・)雇用主の元へとやって来たのは板倉英治、当年とって四十一になる優男である。あらかじめ言われていた通り九遠本家には早めに到着し、散髪を済ませ着替えを終えるとなかなかどうして様になっている。


「寄時よぉ、これじゃまるで七五三だ、俺がこんな恰好おかしいだろ?

 今からでも断れないか考えてくれ、お前だって無茶な話だと思うよな?」


 その板倉が普段と違う言葉使いをしている相手は、親友で八早月の叔父でもある九遠寄時(よりとき)だ。今は寄時が用意した上等のスーツを着せられて不満たらたらで文句を言っているが時すでに遅しと言ったところである。


「さすがに当日に言うことじゃないな、もういい加減諦めるべきだろうよ。

 それに姉さんはともかく八早月の機嫌は損ねたくないんでな」


「まあお嬢に強く言われてどうすることもできない俺も情けねえんだが……

 どうも逆らえない雰囲気を醸し出しているんだよなあ、あの年で凄いわ。

 でも中学に上がってからのほうが子供らしくなったのは面白いな」


「ほう、僕の前では小さな頃から少し大人びた子供と言うくらいだったがな。

 それでも息子達よりは随分しっかりしていて、流石旧家だと感じたもんさ」


「良く言うよ、九遠の家だって相当の旧家で由緒正しき家柄じゃねえか。

 なのに俺なんかに関わりやがって、オマエは昔からバカ野郎だよ」


「他人が何を切っ掛けに恩義を感じるかなんてわからないもんだろう?

 僕の場合は君の自由奔放さが眩しかった、ただそれだけで感謝に値するさ。

 結局はこうやって会社を継ぐ羽目になったけど、言われるがままとは違う。

 あの時に経験して学んだ自由と言うものは僕にとって大きいものだったからね」


「お嬢の大げさすぎるのは九遠の血筋なのかねえ、寄時に良く似てるよ。

 そのお嬢の親友が紹介すると言って来た身内だし無碍には出来ねえが……

 ―― っと、そろそろ時間か、気が重いぜ……」


「まあ覗きゃしないからゆっくり楽しんでくれよ、料理はコースだからな?

 テーブルマナーは大丈夫だと思うがさすがに帽子は取らないと失礼だぞ」


「それくらい承知さ、見た目ですぐ帰ってくれりゃそれに越したことはない。

 見た目が悪くて酒も飲めねえ、取り柄も資産もなくて十も年上だからな。

 纏まるはずないからそう言う面では安心だ」


 世捨て人のように投げやりな態度ではあるが、その言い分も理解できるほど板倉の外見は醜悪と言えた。片方の眉毛から上に向かい頭皮半分ほどは頭髪がほぼ無く火傷で変色した皮膚がむき出しになっている。普段大き目のハンチング帽を目深(まぶか)にかぶっているのはそれを隠すためだ。


 もちろん寄時や八早月を初めとする身内は誰一人そんなことを気にしないが、初見で気味悪がられるのは承知しているしすでに慣れっこである。見合い相手の親類である八早月の友人が板倉の外見を気にしていないからと言っても、異なる関係性を求めて会う立場を考えれば敬遠して当然だ。


 場所を提供している寄時もそれは同じように考えており、見合いがうまく行くことは全く考えていない。自分の親友である板倉を気遣ってくれる八早月に義理立てすることが一番の目的だった。



◇◇◇



 山本小鈴(こりん)(二十九歳)卸会社会社事務員、外見は十人並みで取り柄なし、五年ほど付き合っていた彼氏と結婚するつもりだったが、時期などについて相談を持ちかけたところあっさり別れを告げられて傷心中。


 掻い摘んで自己紹介をした小鈴は、よくよく考えたら初対面の男性へここまで伝える必要はなかったことに気が付いた。これではあまりにもガツガツした女だと思われてしまいそうで、恥ずかしくなっているところだ。


 しかも先ほどから相手の男性は一言も話題を振ってくることもなく黙ったままである。事前に聞いていた通り大怪我の跡があるせいで一見すると怖い印象だが、会社に大勢いる配送ドライバーたちのような横柄さや威圧感のようなものは感じず、あえて言うなら紳士的との表現がぴったりだと感じていた。


 ではなぜなにもしゃべらないのだろうかと小鈴は気になったが、次々にコース料理が運ばれてきて、食べるのが忙しい自分と同じなのかもしれないと無理やり納得させる。


 不慣れなカトラリーを用いて音を立てないよう緊張しながらの食事に冷や汗をかく思いの小鈴は、もう一点、従妹の夢路がアノ(・・)九遠グループの親族と友達だからと今回の見合い話を持ってきたことも未だ飲みこめず、この数日ずっと混乱したままだった。


 この混乱した頭と緊張感の中、自分から話しかけるのは無理だと判断し黙っているのだが、なぜか相手も黙ったままなので、元来おしゃべりな小鈴にとっては針のむしろである。こうなったら――


「あの――」

「ええっと―― ああ、申し訳ございません、どうぞお先にお話しください」


 考えていることはどちらも大差なかったようで、タイミング悪く同時に話しはじめてしまった。しかし小鈴は言葉を発する直前、相手の男性がこちらを見つめていたことに気が付いていた。


「すいません、大したことではないのですけど自動車事故にあわれたそうで。

 あ、ぼ、私ったら何を聞こうとしてるんだろう、失礼ですよね、ごめんなさい」


「いえいえ、全然気にしてませんし構いません。事故と言っても自損なのでね。

 まったく恥ずかしい限りでして、若気の至りってやつでしょうか」


「そうですか、若い頃にお怪我されたのですか、ご苦労なさったでしょうね。

 あ、また失礼なことを…… 本当に申し訳ありません……

 ところで板倉さん…… は、なにか気になることでも?」


「ま、こちらも大したことではないんですが、フォーマルなドレスが美しいなと。

 ですが足元がドライビングシューズですし、そこにレーシンググローブを……」


 小鈴がハッとして足元を確認すると確かに用意したはずのヒールではない。車の中で履き替えるつもりがうっかりそのまま来てしまっていたことを、今になって指摘され初めて気が付いた。しかもテーブルの上には車を止めて歩いてくる間に外したグローブを無造作に置いてしまっている。


 どうやら緊張のあまり、自分のおかしな行動に気付かなかったようだ。小鈴はこんな恥ずかしい思いをしたのはいつ振りだろうかと、耳まで真っ赤に染めてうつむいてしまった。


「こりゃどうも、恥をかかせるつもりではなかったんでご勘弁ください。

 私も昔は気合入れて車走らせてた身、シューズやグローブを大切にしてました。

 ですから指摘したのではなく興味を持ったのだとご理解くださいませ」


「お気遣いありがとうございます、板倉さんってとっても紳士的ですね。

 それに車の運転もお好きとは、運転手をされていると聞いていただけなので」


 小鈴は思っていたよりも相当好印象を持った自分に驚きを感じているが、それは板倉も似たようなものだ。ただしこちらは予想に反して好印象を持たれてしまった(・・・・・・・・)という意味だが。


 それでもせっかく話の切っ掛けも出来たことだし、気になっていることもあるので板倉は続けて話を切り出した。もちろんこの流れから行けば、当然話題は車のことになる。


「車の話題ついでにもう一つお尋ねしてもよろしいですかね?

 山本のお嬢さんからお伺いしましたが、なにやらペタンコの車にお乗りだとか。

 失礼を申し上げるつもりではないですが、もしかしてお名前と関係あります?」


「よくわかりましたね! 変わってるってほど珍しくはない名前なのに!

 初めて会ったのに名前の由来を当てた人って初めてっすよ!

 実はボクの祖父が古い車を治す仕事してたんですけどその影響らしいです」


「ボクっすか? 名前よりも話し方のほうが珍しいかもしれませんね。

 いえいえ、私もなるべく取り繕うよう言われてきてますから気にはしません。

 正直言うと仕事以外で堅苦しいのは苦手なんですよ」


「あ、いっけない、ボロが出ちゃった…… まあ別にいいっすよね?

 小鈴って名前はおじいちゃんの三番目の子供につける予定だったんですって。

 でも男の子が産まれたんで使われなくて、母さんが私に使ったってわけ。

 ちなみに長女が樹里亜(じゅりあ)、うちの母さんが四葉(よつは)っす」


「ほほう、二人目まではイタリアなのに三番目はイギリスですか、ふむ面白い。

 俺の名は英治でこう書くんですがね、英子と治の子供って単純なやつですよ。

 それに比べたら小鈴さんなんて小洒落れてて素敵な名じゃねえですかね」


「あれま、お上手っすね、そう言えばどちらも英国絡みってのはこじつけかな。

 もし良かったら食事の後乗ってみます? おじいちゃんが残してくれた車ですんごく古いですけど」


 見合いなぞ気が乗らないと言っていたはずの板倉だったが、車が絡むと血が騒ぐのだろう。思わず腰を浮かせながら興味津々といったところだ。名前とペタンコの黒い車、そして彼女の祖父が営んでいた稼業から察するに――


「それは興味深い申し出ですな、念のためですがお名前にちなんだ車ですよね?

 そして黒いペタンコでどうやらシューズとグローブが欲しくなると。

 と言うことは山本さんの乗ってきた車はスペシャルですか?」


「惜しい! 残念ながら色だけスペシャルなブラックにゴールドラインっすね。

 車自体はS2ってヤツなんすけど、中身はあり合わせだって聞いてます。

 当時の部品が無くて完全には治せなかったから売らなかったんですって。

 でもコンディションは最高で不完全なんてことないっすよ!

 跡を継いだ叔父さんが完璧に整備してくれてて走りはバッチリっすからね」


「いやあ、そんな貴重な車を運転させてもらってよろしいので?

 でもそろそろ町中も積もってくるでしょうから乗れるのもあと僅かでしょう」


「ですね、冬の間はガレージで保管してもらって軽の四駆に乗り換えます。

 これはこれでまた別の楽しみがあるから気に入ってるっす」


「それじゃあまり遅くならないうちに運転させてもらいましょうかね。

 いやあ楽しみですよ、もう何年もスポーツカーは運転してないので安全運転で行きます」


 どちらも勧めてきた者の顔を立てるためとこの場へやって来たはずだったが、思いのほか意気投合し談笑しながらいい雰囲気で九遠家を出て行く。その際声をかけられた寄時は、一体何が起きたのかわからず首をかしげた。


 そして最後に見た状況はきっちりと手繰へ報告され、更に誇張されながら八早月や夢路の母へと伝達されたのは言うまでもない。


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