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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第九章 師走(十二月)

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227.十二月二十三日 日中 余韻

 日曜は八早月の本当番日である。そのため、深夜には友人たちを寝かせたままで妖討伐へと出掛けていた。となると昼食をとってしばらくすると当然のように眠気が襲って来たがなんとか耐えているという状況だった。


「八早月ちゃん眠そうだね、夜はお役目で出掛けていたの?

 私は雪女退治で興奮したと思ったのにいつもよりぐっすり寝ちゃったよ」


「モコを使うと言うことは自分の力を使うと言うこと、当然疲れたのでしょう。

 しかも初めてなのだから当然だわ、それに立派に果たせたのは凄いことよ?」


「でも無抵抗な相手だったからちょっと悪い気がしちゃったなぁ。

 雪女ってもっとアクティブで家々を回るのかと思ってたからなおさらね」


「そうなのよね、雪女と言うのは分類するなら雪の自然神なの。

 だから自然の力があるところでしか動けないわけ。

 今はどの家でも大抵自然物以外の建築材料が沢山使われているでしょう?」


「なるほど、だから家々を回ることが出来ないってことなんだね。

 でもそれなら山の中で佇んでないで放浪してもいいと思うんだけどなあ」


「きっと彼女たちにもなにか留まっている理由があるのではないかしら。

 純粋な妖ではないから放っておいても男性が近寄らなければ害もないのだし」


「そう言われると罪悪感が…… 本当はどうするのが正解だったんだろう。

 八早月ちゃんはそのままにするつもりだったでしょ? そのほうが良かった?」


「正解はないわね、放っておいて害の有る無しは結果が出ないとわからないもの。

 でも昨日そのままにするつもりだったのは害がないとわかっていたからよ。

 だって雪女は晴れ間が続くと消えてしまうんだもの」


「えー、じゃあ私こんなに悩む必要なかったんじゃないの?

 退治してもしなくても結果は同じで、雪女が消えるタイミングが違うだけかあ。

 なんか拍子抜けだけど、練習にはなったから良かったと思っていいのかな?」


「そうね、ちゃんとモコが働いたところが見られて良かったわね。

 今までも――」


 モコは今まで綾乃の知らないうちに微弱な妖を退け続けている。八早月がそのことを伝えようとすると、(みくず)から横やりが入った。主である八早月の言葉を遮るのは相当に珍しく、思わず耳を傾けると随分と面白いことを言ってきたではないか。


『主様、藻孤(モコ)は自身の働きをあまり知られたくないようです。

 どうやらそれが当たり前になると称賛がもらえなくなると考えている様子。

 なにとぞその先は口になさらないようお願い申し上げます』


『そうなのですか? あの子は本当にひねくれていて面白いですね。

 まあ藻さんがそこまで言うなら秘密にしておきましょう』


 だが途中まで言いかけてしまった事をそのまま流してくれる綾乃ではない。案の定続きを聞かせろと迫ってきた。


「どうしたの八早月ちゃん? 今までなにかあったの?」


「いいえなんでもないわ、今までも命じる機会があれば働いたはず。

 そう言いたかっただけよ、でも機会はなかったわね」


「そんなことないよ! 前に一つ目の妖に出会ったじゃない?

 あの時は相性が悪いせいもあって倒せなかったけど……

 でも慣れてきたら私たちでも退治できるようになったりしない?」


「そう言えば怠惰坊と遭遇したことがあったわね。

 でもあれはモコには倒せないわ、理由は攻撃のために接触が必要だからなの。

 怠惰坊に触れた瞬間やる気を削がれてしまうから倒せないと言うわけ。

 倒せないだけならまだしも、そのまま取り込まれてしまったら大ごとだわ」


「じゃあもしかして雪女を倒すのに失敗したらモコは消えちゃうの!?

 そんなの嫌だよ、絶対に嫌! ずっと一緒に居るんだもん!」


「綾乃さん大丈夫よ? そのために相手との力量差を知る力があるのだから。

 藻さん曰く、敵わない相手と判断したら綾乃さんが命じても動かないそうよ」


「なんだぁ、それなら安心だよ、モコ? 便利な力を貰えてて良かったねえ。

 それに早々妖と遭遇するなんてことないだろうし、心配し過ぎちゃった」


 それを聞いたモコは、綾乃の頭の上であくびをしながら薄目を開けたが、なにも言わずにまた寝たふりへと戻る。その様子を見た八早月はきっと照れくさいのだろうなと想いながら自身の行動を振り返り気が付いた。


『そう言えば真宵さんや藻さん、もちろん巳さんのことを褒めたことが無いわ。

 とは言ってももちろんお礼や労いの気持ちも言葉は忘れてはいないはずよ?

 でもそうでは無くて、綾乃さんのように褒めた方が嬉しいと思わなくて?』


『八早月様? それはまさか藻孤が綾乃殿にされているようなことを、と?

 お気持ちはありがたいのですが…… ご勘弁願えますでしょうか』


『真宵殿と同じく、童ではないですから私も遠慮させていただきましょう。

 巳女殿なら小さく可愛らしいので撫でてあげるとよろしいのでは?』


『藻殿! なにをおっしゃいますのじゃ? (わらわ)もいい歳ぞ?

 少なくとも主様よりはるかに年上なのじゃから撫でられては敵わぬのじゃ』


 八早月がせっかく申し出たことはあっさりと全員に拒まれ、小さな主はガッカリしている。そもそも言い出したこと自体が突飛過ぎなことは間違いない。どう見ても妙齢女性な真宵や、熟れ頃と言えそうな藻を、それよりはるかに若い少女の八早月が撫でて褒めるのは無理のある提案だった


 人形を写し取った姿を持つ巳女であれば見た目的にはおかしくないかもしれないが、彼女とて年齢に換算すれば千を超えていると言う話である。いくら主に褒められることが嬉しかろうと断るのも当然だろう。


 だが一斉に断られたことで八早月もムキになってしまった。こう言うところ、いや、こういう時は都合よく年齢なりの子供になるのである。


『皆でそんなに拒否しなくても良いではありませんか。

 しかも悪いことを相談しているわけでもあるまいし、少しでいいので撫でさせてくださいな』


『いかがなされたのですか!? 八早月様らしからぬ言動と行動にございます。

 それともただのお(たわむ)れなのでしょうか?』


『いいえ真宵さん、私は本気ですよ? 綾乃さんがモコを撫でるでしょう?

 あの姿を見ていると和むと言えば良いのか、とにかく私もやってみたいのです!

 だってあの毛皮! とても撫で心地が良さそうに見えませんか?』


『確かにそうかもしれませんが、私に毛皮はございませぬ。

 それにどちらかと言うと私や藻殿が八早月様を愛でる側ではないかと……』


「それでは当たり前すぎて面白さも工夫もないではありませんか!」


 興奮しすぎた八早月は思わず声を上げてしまった。ここだけ聞いた者には意味不明だが、それでも綾乃にならわかることがある。


「八早月ちゃんったらそんなに大声あげてどうしちゃったの?

 真宵さんか藻さんと言い合いでもしていたんだろうけど程々にね。

 あっ、大声出したから目を覚ましちゃったんじゃない?」


 そう言うと綾乃はシャープペンシルを置いて立ち上がり火鉢の側へ寄る。そこには二人の大きな赤ん坊(美晴と夢路)が寝かしつけられているのだが、八早月の声に反応して寝返りをうったのが起きたように見えたのだ。


 だが目覚めるほどではなかったようで、そのまますぐに寝息を立て始める。八早月と綾乃は向かい合って笑いあうと、止めていた手を再び動かし冬休みの宿題を続けるのだった。


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