第357話〜混沌迷宮(カオスフロンティア)②
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¨門¨ほどでないにしろ、街にも僅かながら変化が起きていた。
微かに大地は隆起し、街の至る所で地面にヒビや小さな段差が生じ始めている。
僅かな振動を感じて外の様子を伺う住民もいるが、今の所大きな騒ぎにはまだなっていない。
探索者たちによる動揺も確かにある。
しかしほんの数ヶ月だが、新たな領主とその配下たちが勝ち取ってきた信頼と安心のなせるわざか。
兵士たちの声かけと堂々とした態度に、住民たちは落ち着いて避難を開始していた。
領主命令により、普段からスタンピード等に対する避難訓練や細かい取り決めなどが周知されていたのも大きい。
現代日本から転生したアルタによる予防の一手が功を奏した形だ。
だが、これ以上異変が続けば、いずれ街中が大パニックになるのは間違いないだろう。
今まさに工事を装い、物理的に視界を塞ぐための大きな布や板を設置しているが、¨手¨がこのまま伸び続ければそれも追いつかなくなる。
どれほど心を強く持とうが、耐え抜こうと身構えていようが、レベルとステータスによる数値によって確実に影響を与えてくるのが【状態異常】で、この世界の法則なのだから。
タイムリミットは、近く訪れるだろう。
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「立ち止まる事なく避難場所へ!急ぐ必要はない!女子供、老人を中心に固まって進むんだ!」
「まだ¨スタンピード¨まで猶予はある!焦らず安全に移動するぞ!問題があれば近くの兵に声をかけよ!」
今回の騒動は、ダンジョンによるスタンピードの兆候があった、として通達されている。
概ね間違ってはいないが、しかし予断を許さない状況である事はパニックの観点から伏せられていた。
スタンピードも自然災害に等しい被害をもたらす災いの一つだが、しかし人の手で対処する事が可能な厄災でもある。
今回の全貌は未だに把握できていないが、しかし、まだスタンピードを想定した方がパニックが少ないという判断だった。
ダンジョン内外、その周辺に留まらず広範囲の地形そのものの変化。
これほど大規模なダンジョンによる異変は大陸全土でも記録にない。
高難易度ダンジョンのスタンピードのような、見て分かる脅威とはまた違う。
ダンジョン内部の急成長、これも前例がないわけではない。
しかしダンジョン外部のこれほどまでの急成長は前例がない。
ダンジョンコアを設置し儀式によってダンジョンを生成した事例はあるが、それは数十人規模の魔法使いが何ヶ月もかけて行うものだ。
このままカオスフロンティアが成長を続ければ、騒ぎは街中だけに留まらない。
いずれベルの街を呑み込み、さらにはこの大陸そのものをダンジョンへと変貌させてしまう可能性すらあった。
それほどまでに異常な変化。
すでに異変を察知した動物やモンスターたちは街から離れるか騒ぎ出しており、【気配察知】や【危機察知】などの異変を感じ取るスキル持ちは正体不明の胸騒ぎに右往左往している。
中にはパニックを起こして鎮静化を施される者も現れ始めていた。




