1ー27 おざわ荘、襲撃される
今回ちょっと長いかもしれませんが、読んでいただけると嬉しいです!
結界を出て突然鳴り響いた警報に、俺は背筋が凍りつくような恐怖を覚えた。
おざわ荘の警備システムが作動し、その七割が機能をしていないということはつまり――、
(――おざわ荘が襲撃されてる!?)
いったい何が!? と疑問が過ったときには既に、無意識の内に動き出していた。
隣にいたソフィアを抱き寄せ、彼女との魂の繋がりに意識を向ける。そして覚えたばかりの翼を出して、バンッと音を上げ空に舞い上がった。瞬時に御滝沢市の方向を理解した俺はそちらに身体を向け、一気に最高速度で飛翔した。
「いきなりどうしたのですか!?」
「すまないソフィア。事情は話すから、今は俺の中に戻ってくれ! 二人揃ってだと飛びづらいんだ!」
俺の頼みを聞いたソフィアはすぐに中に入って来てくれた。おかげで俺は飛行のバランスを取りやすくなり、魔力を昂らせて更に加速した。ぶっちゃけ、シャドードラゴンに最後の一撃を与える寸前の飛行以上の速度が出ていたと思う。速すぎるあまり置き去りにしてしまった〈万能ボール君〉で観測するまでもないくらいだ。
飛行しながらソフィアへ現在の状況を伝える。
声に出さず、念じるように会話する。〈シグル〉は常に俺の頭を読み取っているので特に意識せずともナヴィに伝わるのだが、ソフィアはナヴィではないので、言葉を伝えることをより明確に意識して話さねばならかった。そして初の試みだったが、念話は一度で成功することができた。
『たった今、おざわ荘が何者かに襲撃されてる知らせが届いた。だからこうして急いで戻っているっていう状況なんだ』
『それは本当ですか!? どうしてそんなことが!?』
『わからない。今ナヴィに調べてもらってるけど、誰が襲撃してるのか、何が目的なのかもわからないんだ。ただ襲撃されていることだけがわかっている状況なんだよ』
結界を出た瞬間に警報が鳴ったのは、結界が外部からの電波を遮断していたからだろう。
だから警備システムが七割も機能停止するまでナヴィが知らせてこなかったのだ。
(くそっ、警備の七割を突破するとかマジで何者なんだよ! 国の特殊部隊だったとしても、アレの一割を使えば無力化できるっていうのに!)
そう俺が焦りと怒りでいっぱいになりながら飛んでいる最中、ソフィアとナヴィは、
『ナヴィって、いったい――』
『それはワタシのことです。ソフィア』
『え、誰!?』
『ワタシはマスターのサポートをするモノです。今は特別に、マスターと貴女が会話した思考パターンを解析して、マスターの無意識領域を間借りすることで貴女と会話しています』
『?? え、ど、どういうこと?』
『マスターを介さず貴女と意思の疎通をこなすには、「魔力」という観測できない力が必要でしたので、こういう形を採らざるを得なかったのですが……どうやら理解できていないようですね』
『ごめんなさい……ちょっと難しくて』
『無理もありません。実際、この地球に住む人間が貴女と同じ立場に立っても、そのほとんどがワタシの存在を正しく理解できないでしょうから。ですから今は、マスター悠真を助ける存在であると、ワタシのことを理解してください』
『わ、わかりました……』
『貴女がワタシに敬語を使う必要はありませんよ。ソフィア』
といった会話がなされていた。
この会話は、直接俺が聞いたものではない。後でナヴィがこういう会話をしましたと、音声記録を聞かせてくれたときに知ったのだ。
俺の無意識、つまり意識的に使用されていない脳の機能を一部間借りして行われたため、俺は二人が会話していることに気づかず飛んでいた訳である。いや、ソフィアの方は魂の繋がりを通して、俺ではない誰かと話している気がするな~と、感覚的に伝わってきてはいたのだが。
ナヴィが俺の脳の無意識領域を勝手に使ったことについて、人間の意識を勝手に利用できることを危険だと、普通は危機感を覚える人の方が多いだろう。
確かにその感覚は間違いではない。俺もナヴィに意識を完全に乗っ取られ、自害させられたりするのは嫌だ。だから〈シグル〉には、装着者を命の危険に晒したり、不利益になることはしてはならないなどの、破ることのできない絶対的制限が掛けてある。代わりに、俺が認識できない脅威をナヴィが認識した場合や、俺の利益になると判断した場合は俺の身体へ干渉できるのだ。
例えば、戦略・戦術サポートシステムは俺の脳に信号を流して、すべき行動を視覚的に表示したりイメージとして認識させたりしている。そもそも〈シグル〉自体俺の脳を常に読み取り記憶のバックアップなどをすることが機械としての役目なのだから、仕様上、俺の身体への干渉は仕方ないのである。
もっとも、俺は自分で作り上げたナヴィのことを娘のように想い信じているから、不測の事態が起きるなんてこれっぽっちも思っていなかったりするんだけどね!
そんなこんなで全力飛行を続け、車で三十分かけて通った山を十分足らずで抜けることができた。山道が直線出なかったことを抜きにしてもかなり速く町に戻れたのだが、俺は警報を聞いてから十分も経っていることに焦りを覚えた。
『マスター、おざわ荘の警備システムが完全に機能しなくなりました。今、生き残っている監視カメラと、人工衛星で確認した映像を出します』
「…………」
そうして見せられた映像に、俺は絶句した。
映し出されたのは、一面白く凍りついたおざわ荘の姿だった。凍りついた範囲は、山の中にあるおざわ荘へ繋がる階段の一番下まで届いていて、まるで周囲を凍りつかせながら階段を上っておざわ荘に向かったような凍り方だった。
凍りついた場所には幾つもの大小様々な武装ドローンや固定式トラップが見つかった。
動き回れる武装ドローンは全て侵入者の迎撃に向かったため、凄まじい数が凍りついていた。木々の中に紛れていた赤外線や音、映像など様々なものを識別する超小型監視装置も、凍りついていて機能停止していた。
凍りついていない場所に残った警備システムは全て固定されたタイプのようで、本当におざわ荘の警備システムが全滅しているのがわかった。
「――ッ!! みんなぁあああーーーーッッ!!!!」
俺はおざわ荘に向かって降下した。最悪な想像が幾つも脳裏を横切る。
地面ギリギリで急制動をかけ着地した俺はおざわ荘の中に駆け込もうとした。
しかし中から誰かが出てくる気配がして足を止めた。
直感で、その気配の主がおざわ荘に住む誰のものとも一致しないと感じたのだ。
シャドードラゴンとの戦闘を経験して、俺の感覚は信じられないくらい鋭敏になっていた。
『あれ? 意外と早く帰って来たんだな?』
その人物が発した言語は英語のようだった。別に英語が理解できないわけではないが、リアルタイムでナヴィが日本語に翻訳加工した音声が、その人物と同じ声で流れてきた。
「お前か。ここを襲った犯人は」
「へえ、英語話せるんだ? だったら話は早いな」
「質問に答えろっ!」
おざわ荘から出てきたのは、黒地に金糸の刺繍が施された高級そうなローブのような服を纏った男だった。金髪碧眼に白い肌、背は高く190センチはあるだろう。線は細いがひょろっとした印象はない。顔は端正で、まさしくイケメンと呼べる男だ。
男は薄っぺらい笑みを浮かべた。
「あはは、怖いなー。そうだよ。ちょっと探してるモノがあってね。それでここに来たんだけど、入るなり襲って来るからさ。反撃させてもらったよ」
そんなはずはない。俺は男が嘘を吐いていると見抜いた。
おざわ荘のセキュリティは、無断侵入したからといってすぐに警備ロボットに襲われることはないのだ。まずは警告を行い、それでも侵入しようとした場合は非殺傷兵器で行動不能にするのである。これでも行動不能にならず侵入を試みたときは、殺害を前提とした警備システムが起動する。
ナヴィは警備システムが完全に機能しなくなったと告げていた。それはつまり殺害を前提とした警備システムまでも無力化したということであり、侵入に対する警告を無視したということでもある。
そんな人間が、「自分は悪くないですー。自己防衛だったんですー」と言いたげな被害者面した態度でいるのは、無性に腹が立った。
(何が、入るなり襲って来ただ。警告無視したくせにふざけんな!)
怒りを募らせる俺だったが、男の背後から現れた物体を目にした瞬間血の気が引いた。
現れた物体は、四つの透明な棺だった。棺は空中を浮かび移動している。
そしてその棺にはそれぞれ、母さん、サラ、美奈穂、紺野先輩が入れられている。
まさか死んでいるのかと恐怖に苛まれながら、母さんたちの姿に目を凝らした。
胸が上下に動いて呼吸している。どうやら死んでいる訳ではないとわかり、心底安堵した。
「母さんたちに何をした! 今すぐに解放しろ!」
男をキッと睨みつけながら俺は皆の解放を要求する。
しかし男は嗤って、
「えー、嫌だね。せっかく良い女を見つけたんだ。精霊を捕まえてさっさと帰るつもりだったけど、こんな上玉放っておけるわけないよね? だから持ち帰ることにしたんだ」
「持ち帰る、だと……!?」
まさかこの男は、皆を辱めるつもりなのか!?
皆が目の前の男に辱められる姿を想像した瞬間、目の前が怒りで真っ赤になった。
「ふっざけんなぁあああああああ!!」
俺は男に向かって駆け出した。拳を握り殴りかかる。
だが俺の意思に反し、身体は全く動くことができなかった。否、動けないようにされた。
「やめてくれ。僕は男に迫られる趣味なんて持ち合わせてないんだから」
「――……!?」
声が出せない。指一本動かせない。まるで身体が石になったかのようだ。
俺は咄嗟に魔力視に込める魔力を増やして、自然界に漂う魔力を注意深く観察した。
シャドードラゴンとの戦いからずっと発動し続けていた魔力視によって、俺の視界には普通の景色に重なるように魔力の色で彩られた景色が映っていた。
おざわ荘は辺り一面凍りつき、そこから白っぽい魔力の光が微量ながら発生している。そしてその魔力はここ一帯の空間を満たしていて、同じ色の魔力を纏うこの男が魔力を操作しても、色が同じせいで全く気づけなかった。
(動けないのは、この白い魔力のせいか!)
男の魔力が俺の身体に纏わり付いているのが視えた。
拘束している元凶が魔力が纏わり付いているせいだと考えた俺は、自身の魔力を外部に放出して吹き飛ばしてしまおうと思いついた。
「……ん……のぉ……ッ!!」
腹の奥に力を籠め、内側から蓋を押し上げるように魔力を放出した。
パァンと纏わり付いていた魔力が弾けて消える。予想以上に魔力を消耗したが、俺は身体の自由を取り戻すことに成功した。
(魔力を操ってる……祓魔師が一般人に手を出すはずないし、やっぱりこいつ魔術師か)
魔術師。その存在は、祓魔師たちと交流するうちに噂程度に聞いて知っていた。
魔術を用いて世界の理に干渉し、世界の真理を探究する者。それが主な魔術師の在り方で、神秘の術を操れる者はだいたい魔術師と呼ばれるらしい。日本で影の魔物を討伐する祓魔師も、広義的な意味では魔術師と変わらない。魔術師は自分の利益の為に神秘を求めるが、祓魔師は人々を魔物の脅威から守る為に神秘を求めるという違いから呼び方が違うだけで、両者ともに術式を介して事象を改変することに変わりはないからだ。
ゆえに俺は最大級の危機感を感じていた。
祓魔師とは違って魔術師は、自分の目的の為なら一般人にも危害を加えるから気をつけるように、過去に大酉の爺さんから注意されていたからだ。
魔術師の男に母さんたちの身柄を握られている状況は、何をされるかわからないという不安を覚える以上、何としても取り戻さなければならない。
「僕の魔術から逃れるなんてね。魔力を操れるみたいだし、キミも魔術師なのかな?」
「ふんっ。俺は魔術師じゃない。魔術なんて使えないからな」
立ち上がった俺を見て目を丸くする魔術師の言葉に、俺は吐き捨てるように返答した。
「あー、そっか。日本じゃ魔術師じゃなくて祓魔師って呼ぶんだっけ。キリスト教とは関係なくても、魔を祓うという意味では似てるしね」
俺は祓魔師でもないんだが……。加奈子先輩が祓魔師として活動してるから、たまに祓魔師の真似事で魔物討伐をしているだけで。ただそのことを訂正する必要もないので勘違いさせたまま黙っておく。
「祓魔師ならさ。もしかしてキミもあのドラゴンと戦ってた?」
「? ……何でそんなことを聞く?」
「質問してるのは僕だよ。キミはただ、僕の質問に答えていればいいんだ」
飄々としていた魔術師の態度が威圧的なもの変わった。
その変化から、この魔術師がシャドードラゴンと何か関係があるのではないかという推測が浮かんだ。
シャドードラゴンは日本ではなく西洋で現れるタイプだった。そして魔術師の容姿は西洋人に見える。この共通点は偶然か? 俺は、シャドードラゴンが現れたのはこの男の仕業だと直感し、その直感を信じることにした。
(でも、シャドードラゴンが現れたのがコイツの仕業だとして、その目的は何だ?)
ただこの町を襲わせたかっただけではないだろう。何か目的があってシャドードラゴンを日本に出現させたような気がする。しかしこれはまだ妄想じみた推測でしかなく、確信に至る為の情報が欠けていた。
だから今は、皆を取り戻すことを優先する!
「だったら皆を返せ、クソ野郎っ!」
俺は走り出した。右手で小太刀を抜きながら、左腕で目元を覆う。
魔術師が魔力を練り上げ術式を構築しようとしているのが視えたが、俺が精霊術を放つ方が速かった。
突き出した右手から魔力の塊が放たれる。魔力の塊は俺と魔術師との中間で弾け、閃光で夜の闇を染め上げた。
一気に距離を詰める。
魔術師の視界は今の光で奪えたはず。俺は腕で目元を覆っていたため光の影響はほぼ受けずに、視界を正常に保っている。
――チャンスは、今しかない!
魔力はシャドードラゴン戦で大量に消費してしまっていて、もうほとんど残っていないのだ。おざわ荘に戻るときに飛行した時点で総量の一割にも満たなかったのに、あのときは無我夢中だった。
今は飛行なんてできない。翼を出しただけでぶっ倒れるだろう。魔力がない状態っていうのは、身体の内から力が抜けていく感じがして、今にも地面が消えるんじゃないかってぐらい全身の感覚が不安定になって、非常に気分が悪い。大切な人たちの危機だから気力を振り絞っていられるが、そうでなければとっくの前に気絶していた。
だから今しかないのだ。この敵を殺すには。
この魔術師が皆を辱める可能性が高いとわかった瞬間から、俺の中からこの男を殺すことへの躊躇いは消えている。
殺しへの忌避感や罪悪感、高揚や快感などは一切ない。
ただの作業だ。
俺から大切なものを奪おうとする害虫を排除する。
たったそれだけの純粋な殺意が俺を突き動かし、魔術師の首めがけ小太刀を振るった。
――殺った。
そう確信した瞬間、小太刀が首に届く数センチ手前で、ガキィインと見えない何かに阻まれた。
刹那、魔術師の顔を確認した。男はきつく目を瞑っていて、目くらましが成功していたのは間違いない。ではなぜ不意打ちを防がれた!?
答えは単純。事前に防御用の術式を用意していて、それに俺が気づけなかったのだ。
小太刀を阻んだ見えない何か。それは透明な壁だと思ったが、周りの凍りついた景色からそれが氷でできた壁なのではないかと推測する。
(氷の壁を作り出すだけなら、目が見えなくてもできるってことか。やっかいな)
なるほど。防壁を張ってしまえば、例え目が見えなくても勝手に敵の攻撃を防いでくれる。合理的ではあるが、今の俺にとっては忌々しいことこの上ない。
視界の端で魔力の奇妙な動きが見えた俺は、すぐさま後ろに飛び退き魔術師から距離を取った。次の瞬間、俺の居た場所の地面から氷の杭が生える。
「あーもうっ、まだ目が見にくい。よくもやってくれたなクズの分際で!」
魔術師の男が端正な顔を怒りで歪めながら睨んでくる。
そして腕を横に振るうと、魔術師の前に知らない文字や記号が幾重にも重なり合ったような幾何学模様が浮かび上がった。
「仕返しだ。これでも喰らえ」
幾何学模様から約一メートルの氷の柱が射出された。
〈シグル〉のサポートのおかげで何とか目で追えるが、この大きさではまともに受けたら一撃でノックアウトだ。身体を捻って、ギリギリの所で回避する。
「へえ、躱せるんだ。けど、まだまだいくよ」
連続で射出される氷柱に、俺はじわじわと追い詰められていく。
体力の限界がある以上、回避に専念しているわけにはいかない。けどだからといって、攻めようにも氷の壁を破る手段がわからない。
打開策を模索している今この瞬間も、俺は自分の本当の限界が近づいていることに焦りを覚える。そして俺は、一か八か賭けに出ることにした。
迫る氷柱を回避し、息を短く吸って呼吸と思考を整えた。次弾発射まで約二秒。
小太刀を構え駆け出す。左手に小さな光を生み出して、それを魔術師めがけ投げる。魔術師は目くらましを警戒して腕で目元を覆った。目くらましができるほど無駄な魔力は残っていないのに。しかし、これで俺から注意が外れた。次弾発射までの時間がほんのわずかだけ延びた。
残りの魔力を全て練り上げる。身体の中と小太刀で魔力を循環させながら隅々にまで行きわたらせ、筋力の上昇と小太刀の強化を図る。
できるとは限らない。咄嗟の思いつきでソフィアに確認を取ることもできなかったし、イメージを補強するサポートもない。ただ精霊術は魔力にイメージを送ることが何よりも大事だということはこれまでの経験からわかっていたから、俺はできるとただひたすら信じて魔力にイメージを込めた。
(わたしもお力になります! ユーマ様!)
こんなわずかな時間で、俺が何をしようとしてるのかわかったのか!?
ソフィアから声が届くと同時に、身体強化と武器の強度向上の精霊術のイメージが流れ込んでくる。
力が湧き上がってくる。
俺は氷の壁に、渾身の力を籠めた小太刀を突き立てた。
「うおおおぉぉォオオオオオッ!!」
押す。押す。押し込める。
魔術師が何かの術式を構築しているのがわかったが、形振り構わず小太刀を氷の壁に突き立てた。
やがて切っ先が氷に傷を付け、段々と深く刺さった。小太刀が刺さり切ると刃を90度横に捻った。すると氷の壁に一筋の亀裂が走り、真っ二つに割れた。
氷の壁は魔術で生み出されたからなのか、割れた途端粉々に砕け消滅する。
阻む物は何もない。
だが魔術は既に発動しかけている。
結局、魔術が発動するのと俺が魔術師を斬りつけるのは、全くの同時だった。
全身を衝撃が襲い吹き飛ばされる。その際小太刀が手から離れ、地面に転がった。
背中を地面に強く打ち付けて一瞬意識が飛ぶ。
動けない俺に向かって更に魔術が行使され、氷で首から下を全て氷で覆われ拘束されてしまった。
「痛い。まさか祓魔師ごときに傷を付けられるなんてね。さすがに舐めすぎてたか。けどこれで、僕の質問に答えるしかなくなったよね?」
「く、そ……が」
全身に力が入らない。集中力も途切れ、今にも気を失いそうなぐらい気持ち悪い。
それでも俺は魔術師を睨んで悪態をついた。
「さあ、質問の続きだ。キミはあのドラゴンと戦っていたかい?」
魔力が底をついたことで魔力視まで使えなくなったが、本能的に嘘を吐くのは危険だと感じ俺は大人しく頷いた。何となく、嘘を吐いてもバレるような気がしたのだ。魔術だろうか。
「それじゃあ精霊について何か知らないかな? ドラゴンとの戦闘に参加していなかったかい?」
「せい、れい……?」
まずい。たしかこいつ、さっき精霊を捕まえるとか言ってたな。
ソフィアまでこの男に捕まってしまうわけにはいかない。彼女だっておざわ荘に住む仲間で、既に大切な存在の一人になっているのだから。ソフィアを渡して母さんたちを取り戻すなんて選択肢はない。だから、
(ナヴィ。ソフィアをこいつに渡せない。何とか誤魔化してくれ)
『了解しました。マスターの身体の支配権を一時的に譲り受けます』
次の瞬間、五感全てを感じなくなり、代わりに暗闇の中で映像が映し出される。俺の目を通して見られる光景が映し出された映像だ。
そして俺自身は喋っていないのに、俺の口が言葉を紡ぎだす。
「精霊とは、何のことだ?」
「ん? まさか精霊のことも知らないわけ?」
頷きもしない。ただじっと俺は、いやナヴィは魔術師の男を見つめる。
「精霊っていうのは、別の世界に存在する人間そっくりの、それでいて変わった魔術を使える生物のことさ。僕はそいつを捕まえにこんな辺鄙な場所まで来たんだよ」
「……まさかお前、精霊を捕まえる為に、シャドードラゴンにこの町を襲わせようとしたんじゃ……」
「へえ、察しがいいんじゃん。うん、僕があのドラゴンを放ったんだ。ドラゴンが現れたら、何かしら行動を起こすと思ったからね」
たったそれだけの為に町を襲わせるなんて……。天井知らずの憎悪が更に増していく。
「だったら残念だったな。精霊がドラゴンと戦っているところなんて見てないぞ」
「はあ? ……嘘、ではないのか」
魔術師はなぜかナヴィの言葉を嘘ではないと判断した。
(確かにソフィアは俺の中にいたから、シャドードラゴンと直接戦った姿なんて見てないよな。……それにしても、どうやって嘘かどうか識別してるんだ?)
何をもって嘘か真か判断しているのだろうか? 嘘発見器みたいに脈拍などの身体的変化を読み取るのなら、意図的にそういった身体的反応をコントロールできるナヴィは余裕で魔術師を騙せる。しかし意識を読み取ることが可能だとするなら、慎重に気づかれない程度ではぐらかさないと、嘘を吐いたと認識されかねない。
「じゃあ質問を変える。最近、ここに精霊が来ていたはずだね。答えろ」
「……確かに、変わった女の子がここにいた。だが、今はまだ、おざわ荘に帰って来ていない」
かなり苦しい言い訳だ。ナヴィはただいまと言ってない間は帰っていないと考えることで、意識を読まれた場合に備えているのだろう。魔術師は懐から取り出した青い石をちらりと見ながら舌打ちする。
「それじゃあその女の子が多分精霊だ。で、その子はいつ帰ってくる?」
「……わかるわけ、ないだろ。彼女は出ていったんだから」
「はあー。使えないね、キミ」
蔑んだ瞳で見下された。
しかし魔術師は何かを思いついたのかニヤリと嗤うと、あまりに受け入れ難い提案を一方的に押し付けてきた。
「決めた。今日の所はこれで帰るよ。その代わりキミには、一ヶ月以内にその精霊を見つけてもらうことにする」
「何……?」
「一ヶ月後にまたここへ来るから、それまでに精霊を見つけ出すんだ。これ、精霊探知の石ね」
そう言って青い石を俺の側に置いた。どうやら噓発見器ではなかったらしい。
「見事精霊を捕まえられたら、この女たちは返してあげるよ。だから必死で探したまえ」
「……!?」
空から何かが落ちてきた。それは白き竜。翼で減速すると、魔術師の背後に着地した。
魔力視なしではっきり見えているということは、この白い竜は完全に実体化しているドラゴンなのだろう。
魔術師は軽い身のこなしで竜の背中に乗る。そして皆の入った棺も全て竜の背中に乗せられ、氷で括り付けられた。
白い竜が飛び立とうとする。
(ユーマ様! わたしが今出ていけば、皆さんを連れていかずに済むのでは!?)
(ダメだ! 今ソフィアが出ていっても、まとめて連れていかれるだけだ!)
魔術師の男は母さんたちを女として見ていた以上、今ソフィアが出ていったところで返して貰える可能性は低い。むしろ一石二鳥だと喜んで皆を連れていくだろう。そう説明することで、外に出ていこうとするソフィアを何とか引き留める。
「待て……っ! お前は一体何者なんだ! なぜ精霊を望む!」
俺は身体の支配権を戻して叫んだ。ホバリングする白い竜の上から、魔術師は答える。
「理由を教える必要はないだろう。だが、僕の名前と正体ぐらいは教えてあげよう。僕の名前はジュリアス・フローゼン。そしてこの星の全てを支配する星神さ! 次、僕に歯向かうような真似をしたら殺してやるから、よく覚えておくがいい!」
「星神、だと……!?」
「それでは一ヶ月後、精霊が捕まえられていることを期待しているよ。さようなら、祓魔師」
白い竜が飛び立っていく。
俺はその後ろ姿に向かって叫んだ。
「絶対! 絶対助ける! だから少しだけ待っててくれ、みんなぁー!!」
そして自ら星神と名乗った魔術師の男、ジュリアス・フローゼン。俺の大切な人たちに手を出したお前だけは、絶対に殺す!
とうとう星神が登場しました!
星神に敗北してしまった悠真は、連れ去られてしまったおざわ荘の女性陣を助けだすことができるのか!
次話では悠真やサラが超科学的アイテムを持つ理由や秘密の一端が明かされます。
一章を早く終わらせるためにも、年内に次を投稿したいです(願望)。
読んでいただきありがとうございました。




