1ー26 シャドードラゴン討伐戦3
光球を五個同時に放った。それらは全てシャドードラゴンに着弾したが、光球程度では然程ダメージを与えることはできなかった。
だがそれは想定の範囲内だ。問題ない。
『戦略・戦術サポートシステム、正常に起動しました。マスターを勝利へ導きます』
〈シグル〉の機能の一つ、未来予測演算により勝利条件達成への行動を導き出す『戦略・戦術サポートシステム』。近未来の光景が現在の光景に重なるように視界に映し出され、自身のしなければならない行動イメージを直接思考に送られると同時に、ナヴィの音声によって行動を導かれる。
これは機械が勝手に導き出すのではなく、〈シグル〉が俺の思考から何を望みどうしたいのかを読み取ることで、それを元に戦略・戦術を組み上げるのである。
そのため俺はナヴィの導きに一挙手一投足違わず従って行動するだけで、勝利することができるのだ。
ただしこの機能にも欠点があり、未来予測演算の際に観測機のデータ不足があったりすると、未来予測の不完全性が増して勝率が下がってしまうのだ。実際、影の魔物を相手にすると観測機器はほぼ使い物にならないため、得られる情報は俺の主観的情報、つまりは俺が見て肌で感じたような情報のみで演算するため、偏った情報のせいで予測が不完全になってしまう。
だが、完全でなくても『戦略・戦術サポートシステム』のアシスト効果は非常に高く、使わないより使った方が勝率が高いため、戦闘には必須の機能として愛用しているのだ。
光球によってシャドードラゴンの目を眩ませ、俺の姿を見失った隙に接近する。
シャドードラゴンの側面に回って最も簡単で生成スピードが速い光球を連射した。
「ソフィア、術に『浄化』の付与を頼む」
『はい。任せてください!』
連射途中から、精霊術に『浄化』の効果の付与をソフィアに任せたことで光球生成スピードが更に上がる。三秒に一個から一秒に一個ぐらいには連射速度を上げることができた。
そしてソフィアと役割を分担したことで、彼女が『浄化』の付与に専念できるため光球生成の精度が上がり、同時に『浄化』の効果も上げられた。つまりシャドードラゴンに与えられるダメージが、消費魔力はほぼ変わらないのに上がったのだ。
だがそれでも、シャドードラゴンの魔力が余り削れずにいた。
総魔力量が多いため魔力弾でダメージを与えても、全体から見ると微々たるダメージでしかないのだ。
(これじゃあダメか。なら――)
ちまちま攻撃してもダメージを与えられないのなら、一撃の威力を上げるしかない。翼が消費する魔力が思った以上に多いので、早く決着をつけねば魔力枯渇で戦闘継続ができなくなる。
そう考え次の行動に移そうとした瞬間、シャドードラゴンの周りに闇色の魔力球が現れた。数は三十以上。俺が同時に維持できる数を軽く超えた数だ。
(ヤバい――ッ!?)
闇色の魔力球に命の危機を感じた俺は、咄嗟に翼へ流す魔力を抑えた。翼そのものが消えたわけではないが、魔力が抑えられたことで空を飛ぶ力が失われる。
身体が重力を思い出し、俺は落下する。するとさっきまで俺がいた位置を大量の魔力球が襲った。魔力球は弾となり、軌道を自在に変化させ俺を追尾してくる。
俺は追尾してくる魔力弾から逃れるため、再び翼に魔力を流し飛翔する。
後方に光球を放ち接近する魔力弾を撃ち落としながら、ナヴィの指示通りに空を駆け逃げ続ける。
「くそっ、キリがねえ! 逃げ続けるだけじゃジリ貧になるだけだ」
『マスター、この状況を打開するには、シャドードラゴンより上空に陣取るべきです』
「りょう、かい……!」
俺は身体をグッと縮める。足裏にジャンプ台があるイメージで魔力を踏み台にし、垂直方向に飛び上がった。一気にシャドードラゴンの上まで上昇した俺は、下方から接近する魔力弾を迎え撃った。
魔力弾は全て纏まった状態で迫っている。今なら纏めて撃ち落とすことができる。
俺は腰から小太刀を抜き放った。勝手に魔力が小太刀へ流れていくが、それをコントロールし魔力の刃を形成していく。小太刀が、光り輝く刃の長刀になる。
「――ハアッ!!」
小太刀を振り下ろす。魔力でできた斬撃の光が弧を描きながら、迫りくる魔力弾を薙ぎ払い消滅させた。
シャドードラゴンに向かって飛翔する。更に小太刀へ魔力を流し刀身を巨大化させる。小太刀が振動し、キィイイインと嫌な音を立てた。魔力が刀身に集中して負担が掛かり、これ以上魔力を流せば内側から刀身が弾けると感じたところで止める。
接近する俺に向かってシャドードラゴンがブレスを放った。しかし溜めの時間は短く、〈万能ボール君〉のバリアを破ったときのような威力はない。
俺は光を放ち巨大な刃を形成する小太刀でブレスを斬り裂きながら更に接近する。
「いい加減落ちろ! ヤァアアアアアーーーッッ!!」
巨躯の至る所に斬撃が走り、シャドードラゴンを縦横無尽に斬り刻んだ。『浄化』の力が込められた魔力の刃は、シャドードラゴンの魔力障壁を容易く斬り裂き身体まで届く。
絶叫を上げるシャドードラゴン。斬撃が両翼を斬り落とし、飛行能力を奪われる。
シャドードラゴンが地面に墜落し、地面を揺らして土煙りを上げた。
今の攻撃によってシャドードラゴンは大量の魔力を消耗したようだった。戦闘前に感じた威圧感など影も形もなく、魔力視で視える魔力量も二割以下にまで減っているようだった。
このままいけば倒せる。そう油断しかけたそのとき、俺は二つの事に気づいた。
一つは、シャドードラゴンの中心に魔力が集中している部分があること。まるで核のようだ、と思った。どうやら魔力が少なくなって色が薄くなったからこそ、集中している部分を視えるようになったようだ。
もう一つは、シャドードラゴンがもうほとんど実体化しているということだ。墜落時に地面が揺れたり土煙りが上がったことから、物理的に干渉できないはずの影の魔物が実体化しかけているのは間違いない。
(まさか、魔力を消費して実体化を早めているのか!?)
魔力が一気に減った理由が俺の攻撃だけでないのなら、その可能性もあるのかもしれない。
しかしこの推測が正しい場合、非常に拙い。シャドードラゴンはまだ二割もの魔力を残しているのだ。それをギリギリまで使えば実体化できる可能性は高いとナヴィは示しているし、実体化が完了すればここにいる者たちだけで倒せるかわからない。
魔力で作られた身体だから攻撃が有効だったという前提が崩れれば、ドラゴンの天然の要塞とも呼ぶべき鱗の防御力を突破することは難しいと、あの大酉の爺さん自身が断言していたのを聞いていたから。
防御を突破できなくなれば、消耗した祓魔師たちに打つ手はなくなるだろう。
そうなれば、待つのはドラゴンによる蹂躙だ。
全員が死んでしまう未来だ。
だから次の攻撃で仕留めなければ、俺たちの敗北が確定する。
俺は最高速度で飛翔し、シャドードラゴンに向かって降下した。
飛翔しながら光槍を生成し放つ。
一本、二本と光槍が突き刺さった。しかし三本目は刺さったものの浅くまでしか刺さらず、四本目は弾かれた。
シャドードラゴンの魔力が残り一割を切った。黒い鱗がくっきり形を成し、月光を鈍く反射する。最悪だ。どうやら俺の推測は正しいらしい。
それなのにもう遠距離でシャドードラゴンに効果のある攻撃手段がない。魔力だけの攻撃ではダメージを与えられない。
焦りが募る。
実体化に回す魔力を再生に回さなければならない状況にしてやれば、実体化完了まで時間が稼げるのに!
実体化の邪魔ができれば、俺が接近戦に持ち込んで止めを刺してやるのに……!
ほんの一秒だけでいい。誰か稼いでくれ。誰か、誰か――
(――師匠!!)
心の中で加奈子先輩のことを強く想った瞬間だった。
〈シグル〉の機能で超人的にまで引き上げられた俺の動体視力をもってしても捉えるのがギリギリな速さで駆け抜ける、一人の剣士の姿を見たのは。
霊力を全身から迸らせ、一条の光となってシャドードラゴンに迫る。
加奈子先輩は鞘に納めた愛刀を抜刀する。
――日河護神流武術 桐島派抜刀術『裏羽刃斬り』
刹那、振られた刀の間合い、その三倍の空間に斬痕が刻まれた。
シャドードラゴンの巨躯に一筋の線のような斬痕が引かれ、傷口からは魔力が出血するように溢れ出る。刀の間合いの内だった頭部は、上顎と下顎を両断され、首半ばまで斬り裂かれていた。
今のが渾身の一撃だったのだろう。加奈子先輩は力尽きたように地面に倒れてしまった。
あのダメージでは、シャドードラゴンは再生しないわけにはいかないはずだ。
加奈子先輩が作ってくれたこのチャンス、逃すわけにはいかない。
実体化を邪魔され怒ったシャドードラゴンが、無防備な加奈子先輩に向かって尾をしならせる。
「――させるかぁッ!!」
尾が加奈子先輩に当たる寸前に間に割り込み、小太刀で尾を斬り飛ばした。
そして俺は小太刀を矢を引き絞るような姿勢で構え直し、シャドードラゴンの魔力が集中している場所に狙いをつける。
「これで終わりだ、シャドードラゴン――ッ!!」
渾身の力を籠め、小太刀を突き立てた。刀身は鱗を貫き肉まで届いた。気迫の籠った声を上げ、小太刀を通して残りほぼ全ての魔力を放つ。俺の放った魔力はシャドードラゴンの核と思わしき魔力の塊をぶち抜き、そのまま体内を蹂躙した。そして巨躯が内側から膨れ上がると、爆散して魔力を辺り一面に撒き散らした。
「はあっ、はあっ……くっ」
息も絶え絶えになって、その場で膝を着いた。
顔を上げるとシャドードラゴンの姿は完全に消滅し、散った魔力がまるで粉雪のように降っていた。雪と違って粒が光っているため非常に美しく、しばし魅入ってしまった。
身体の中から何かが抜けていく感覚がしたかと思うと、俺の目の前にソフィアが姿を現した。
「やりましたよユーマ様! わたしたちの勝利です!」
「ソフィア……俺たち、勝てたのか」
「はい。勝ちました!」
「そっか……そっか……! 勝てたんだな」
戦いが終わったと頭が理解した瞬間、俺は全身の力が抜けてしまった。
前のめりに倒れそうになったところをソフィアに抱き留められる。
「ははっ、気が抜けちゃったみたいだ」
「しばらくこのままで居ていいですよ。ユーマ様は大変良く頑張られたのですから」
「ありがとう。じゃ、もう少しこのままで」
一度気が抜けてしまうと、再び元気になるまで時間が掛かるものだ。身体を動かすのも億劫だし、しばらくソフィアの好意に甘え、彼女に身を委ねることにした。
『おめでとうございます。マスター』
(お前もありがとうな、ナヴィ。見事な働きだったよ)
『もったいないお言葉です。でも、ありがとうございます』
ナヴィの働きは表向き目立たないものの、一、二を争うぐらい役に立ってくれた。彼女のサポートがなければソフィアとのイメージ伝達も上手くいかなかっただろうし、まともに戦うことすらできなかっただろう。上空でのシャドードラゴンとの一騎打ちでなんて、戦略・戦術サポートシステムがなければ地上の祓魔師たちに被害が出ない立ち回りをできず、流れ弾を彼らの方に飛ばしていたかもしれない。
本当に、俺が戦闘する際は〈シグル〉を統括するナヴィの存在は必須なのだと実感する。
「おーおー、羨ましいご身分だな、小僧」
「その声……爺さんか。今ちょっと動きたくないから相手したくないんだけど」
俺は視線を向けずに大酉の爺さんに返答する。周りに意識を向けると第一部隊の面々が集合してきている気配を感じられた。
いつまでもソフィアにもたれかかっている姿勢だと彼女に迷惑だと反省して、億劫なのは変わらないが仕方なく上半身を上げた。
祓魔師たちに目を向けると、大酉の爺さんはニヤニヤしながら俺を見ていた。戦闘装束が所々血で汚れているが目立った怪我はないようで、さすが日本でトップクラスの祓魔師と言うべきか。
大酉の爺さんのから少し離れた位置にいる知代さんは、表情に疲れが見えるものの着物が汚れている程度で、爺さん同様大した怪我はしていなさそうだ。そして彼女は、負傷して影嶄に背負われて来た孝治に治療を施していた。
加奈子先輩は大丈夫だろうかと姿を探そうとすると、姦しい話し声が聞こえてきた。
「加奈子さん。じっとしていてくださいね。気休めですが術で治療しますから」
「ありがとう。だがアキも無理はするな。お前も傷が治っているわけではないのだろう?」
「そうですけど……」
「大丈夫です! お姉ちゃんのことは無茶しないよう私が見てますから!」
「いや、ツバキも魔力がすっからかんになって動くのも辛いんじゃないか?」
「そうだよツバキちゃん。あんなに大技使ってたんだから、ちゃんと休んでないとダメだよ?」
「それは二人には言われたくないんですけどぉ!?」
戦闘中、孝治に庇われていたアキとツバキだが、二人は歩ける程度には回復できたらしい。今は霊力を消費しすぎて憔悴している加奈子先輩の介抱をしながら、三人揃って和気藹々とした空気を形成していた。
加奈子先輩は最後の攻撃で危険なぐらい霊力を消費していたが、彼女が死んでしまうことがなくて本当に良かった。
「おい小僧、ちょっといいか」
「? どうしたんだよ爺さん」
「いや、今回、ソフィア殿も含めてお前たちの助力がなければ、犠牲なしで勝利はできなかった。感謝する、悠真」
「――!?」
大酉の爺さんが俺の名前を呼んだことに、俺は驚くと共に不満を覚えた。彼が誰かを名前で呼ぶときは対等であると認めている証。しかし俺は、今その評価をされることに納得がいかなかった。
今回の戦いは、戦闘全体を見ても、犠牲なく勝利できたのは奇跡のようだと思わざるを得ない。俺とソフィアだけでは絶対に勝てなかったし、祓魔師たちだけでは犠牲なしで勝つことはできなかっただろう。
つまり全員が力を合わせ、各々ができることを全力でやったからこそ、勝利できたのだ。
だから――、
「こんなことで俺を認めるなよ、大酉弘正。俺は、俺自身が納得できる形であんたに認めさせるから、それまでは小僧って呼んでおけ」
「――。くくっ、相変わらず生意気な小僧だな、お前さんは」
俺の本音にポカンとした表情を浮かべていたが、すぐに不敵な笑みを浮かべ、鋭い眼光で俺を射抜く。
「そこまで言うなら認めさせてみせろ。いつまでも待っててやる」
「ハッ、すぐに認めさせてやるさ。度肝を抜いてやるから、精々腰を抜かさないように気をつけてやがれ!」
俺も不敵な笑みを浮かべ、宣戦布告する。そして予感がした。
大酉弘正に己の実力を認めさせるのは、そう遠くない未来になる、と。
俺は大酉の爺さんから離れ、加奈子先輩たちの下へ向かった。
「加奈子先輩、体調はどうですか?」
「悠真……うーん、あまり良いとは言えないな。弟子の前でこんな情けない姿を見せたくなかったんだが」
そう言うと加奈子先輩はバツの悪そうな笑みを浮かべる。
ただ後ろめたいというよりも恥ずかしい気持ちが強いのか、照れの要素が強い気がした。
「たまには情けない姿を見せてくれてもいいんですよ。いつも俺ばっかり情けない姿を見せているんですから」
「だとしても、こんな姿は見られたくないんだよ」
「……そういうもんですか」
「にひひ。悠真ったら、そんなこともわかんないの~?」
「お姉ちゃん。悠真さんにそんなこと求めるなんて酷ですよ。なんたって悠真さんですから」
なぜ俺は北条姉妹にそこまで言われなければいけないのか。特に妹の方! ツバキだけ俺をすごくバカにしてくるのが理解できない。アキと仲良くするのが気に喰わなくて敵意を剥き出しにしてくることはあるけど、アキが絡まない話にまで敵意を剥き出しにしないで欲しい。
それと俺は別に加奈子先輩が「見られたくない」と言った理由が理解できていない訳ではない。加奈子先輩は普段凛々しくて格好いい女性なのだが、可愛いものをこよなく愛するという女の子らしい一面を持っているのだ。
だから女の子として、俺に情けない恥ずかしい姿を見られたくないと言っていることもちゃんと理解できている。
……ただ、いつも鍛錬で情けない姿を見せている身としては、たまには加奈子先輩にも同じ思いをして欲しいな~とか、思ってしまっただけなのだ。
「ゆ、ユーマ様! あれ、あれを見てください!」
「何かあったのかソフィア……って、はあ!? なんじゃこりゃ!」
突然ソフィアに腕を揺さぶられた。不思議に思って彼女に尋ねようと振り返ると、俺はとんでもないものを目にすることになった。
それは結晶だった。人の身体ほどもある、巨大な結晶。黒紫色の結晶は地面に転がっているのだが、それがある場所は、シャドードラゴンが死んだ位置だった。
「おい、まさかアレ、魔石なのか!?」
魔力視で視ると結晶には魔力が籠っていることがわかり、それが魔石なのだとわかった。しかし見たこともないサイズに驚かずにいられなかった。
「いやー、こいつぁ凄ぇな。このサイズは、オレでもほとんど見たことねぇぞ」
と、大酉の爺さんが驚いていることからも、この魔石は規格外だということがわかる。
「シャドードラゴンの魔力が多すぎて、魔石になるのに時間が掛かったみたいですね。あのサイズは、わたしも見たことがほとんどありません」
「ソフィアもないんだ。それじゃあ、本当に凄い代物なんだな」
精霊のお姫様でも見たことがないなら、精霊の庭でも人間と同じサイズの魔石っていうのは珍しいのかもしれない。そう考えると、更にこの魔石が貴重なのだと理解させられる。
「こいつなら、今回の討伐報酬は期待していいぞ。全員たんまり金が手に入るだろうな」
「おおっ、では報酬がどのくらいになるかわかりませんか!?」
「ふむ……大体一人当たり、八千万から一億ぐらいだろうな」
『おお~!』と声が上がった。三十人も参加しているにも関わらず、最低でも一人に八千万円もの報酬金を貰えるというのだ。興奮しない訳がなかった。
術の研鑽や、装備を整えようとするには莫大な金銭が掛かる。
術の触媒は一般には出回らない魔物から採れる素材などの神秘の塊で、これは出回る数が少なかったり入手方法が難しいことが多くて希少な物が大半だ。祓魔師の装備も神秘に触れた素材を使うので、こちらも数を多く作れない。
故にこれらは自然と価値が高くなり、入手には莫大な金銭が掛かるのだ。
それと術師の家系は金持ちが多い。高度な術の研究をするには希少な素材が必要になることが多く、術師として大成する家は自然と高級素材を買って研究できる者に限られるからだ。
そういう者たちは、己の研鑽の為ならば金を惜しまない。
だから祓魔師たちは自分が狩った魔物から得られた素材、代表的な素材では魔石などを祓魔師組合という組織を通して素材を欲しがる者に売り、生計を立てるのだ。そしてそのお金を使って、彼らも自分たちに必要な物を手に入れるのである。
今回の魔石の希少価値は桁違いで、こいつを欲しがる者は多いだろうからオークションにだすことになるだろうと大酉の爺さんは言う。そしてきっと落札額はとんでもないことになるのは間違いないと断言していた。
「一応聞くが、この魔石が欲しい奴はいるか? 三十億出せるなら引き取ってもいいが」
その声に応える者はいない。オークションに出せば三十億円よりも高くなると予想しているのだろうから、三十億円というのはむしろ安いのだろう。しかし、ぽんとそんな大金を出せるわけないし、何より、
「そんな大きな魔石、持て余して無駄にするのがオチですよぉ~……」
アキがぼやいた言葉からわかるように、身の丈に合わない希少価値が高い素材を手に取っても、扱いきれず無駄にしてしまう術者は多いのだ。
シャドードラゴンの魔力が集まった魔石は最高品質の素材のようで、そんな代物を扱いきれる自信がある祓魔師は、ここにはいないのだった。
そもそもこんな魔石を扱える術者だったら、シャドードラゴンを一人で屠れるぐらいの凄腕だろうとのことだったが。……それが本当だったら、そいつの方が化け物じゃないか。
結局魔石を欲しいと言う者は現れず、オークションで売却された金額から報酬金が出ることで決まった。
残りは後処理をするだけとなったので、俺は先に帰ることにした。
生き残っていた方の〈万能ボール君〉に壊れた〈万能ボール君〉を回収させてから、加奈子先輩に声を掛ける。
「加奈子先輩。俺とソフィアは先に帰りますけど、先輩はどうしますか?」
「私は後処理を手伝ってから帰るよ。皆も起きて待っているだろうし、早く帰って安心させてやりなさい」
「わかりました。それじゃあ先に帰りますけど、先輩も気をつけて帰って来てくださいね」
「わかってるよ。……ほんと、心配性なんだから……」
最後に何か呟いていたみたいだけど、声が小さくて聞き取れなかった。深く追及するのも野暮だと思い、他の祓魔師たちに声を掛けてから俺は帰路に就いた。
結界維持をしていた祓魔師の一人にお願いして、結界に人が通れるぐらいの裂け目を開けてもらった。
後処理を終えずに結界を完全に解除してしまうと戦闘跡が元の世界に残ってしまうため、結界を張ってわざわざ人目につかないようにした意味がなくなってしまうらしいのだ。だから結界の外に出るために、裂け目を開けてもらう必要があったのである。
裂け目を通って異空間から現実に戻った瞬間、
『緊急事態発生! おざわ荘にて最高レベルの警備システムが作動しています。尚、現在警備システムの七割が機能していません。至急、状況を確認してください。繰り返します――』
不吉な警報が、頭の中に鳴り響いたのだった。
どうやらまだ、不穏な夜は終わらないらしい。
次話から話が大きく動くので、次回予告的なことをしてみます。
見事シャドードラゴンを倒した悠真たち。しかしそこへおざわ荘の危機を伝える警報が鳴る!
おざわ荘にいったい何が起きたのか!?
悠真たちは振りかかる巨大な試練を乗り越えられるのか!
次回をお楽しみに!
お目汚ししてすみませんでした……!




