1ー23 第一部隊の精鋭たち
屋敷の外に出ると、車が一台だけ停まっていた。ここに来るときに乗ったのと同じ車だ。
助手席にいる師匠が俺たちに気づく。
「早く乗れ、お前たち!」
「「はい!」」
急いで後部座席に乗り込んだ。
俺は乗り込みながら師匠に尋ねた。
「俺の荷物はどこにありますか?」
「お前の後ろに置いてある。さあ行くぞ。早く座れ」
俺に続いたソフィアがドアを閉めると、シートベルトを締める暇なく、運転席に座っている鈴夏さんは車を発進させた。
「きゃっ!!」
「のわっ!?」
急発進でバランスを崩したソフィアが倒れこんできた。何とかソフィアの身体を抱き止めるが、むぎゅうと押しつぶれる幸せな感触を感じ、心臓が早鐘を打つ。
「だ、大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます」
「すみません。少々飛ばしますので、早くシートベルトを締めてください、ね!」
「のわぁああっ!!?」
「きゃああぁああっ!!」
車が右に曲がって生まれた遠心力によって、俺たちはまた体勢を崩し、今度は俺がソフィアに覆い被さる形になった。
二人揃ってカア~~~ッと顔が赤く染まった。
(近い!顔が近い!睫毛が長くて綺麗だし、唇はプルプルで凄く柔らかそう……って何考えてんだ、俺はぁ!?)
慌ててソフィアから離れ、シートベルトを着けるよう促す。目を合わせてくれなかったが仕方ない。
俺は自分の荷物を確認すべく、席の後ろのスペースを覗き込んだ。
そこにあったのは、黒いアタッシュケース。
俺はアタッシュケースを掴み、席に座った。
もちろんすぐにシートベルトは締めた。
「何ですかソレ?」
アタッシュケースが気になるのか、ソフィアがケースを見つめながら尋ねてくる。
俺はケースの鍵を解除しながら答える。
「今回の秘密兵器、その一だよ」
アタッシュケースの中に入っていたのは、ドッジボールよりやや小さめのサイズの機械の球体二つと、黒のウエストバッグ。
球体に触れてカチッとスイッチを押すと、赤い光のラインが走った。
『……同期完了。待機モードに移行します』
このケースの中に入っている機械は、一言で言うなればサラ謹製の秘密兵器である。
俺は無事機械の球体が起動できたことを確認してから、アタッシュケースを閉じた。
□□
作戦ポイントに到着し、車を降りる。
夜10時過ぎの山道に祓魔師たちが集まっている光景は、見慣れていなければ異様だと思うだろう。
集団の一角に第一部隊の面々が固まっているのが見えた。
俺が近づくと、真っ先に大酉の爺さんが気づいて目が合った。
「間に合ったか小僧。で、そっちはちゃんとできたんだろうな?」
「それは問題なし。俺も戦えるぞ」
「フン!絶対、絶対ヘマかまして死んだりすんじゃねぇぞ!アイリスちゃんが悲しむ顔なんざ見たくないからな!」
最後の一言は余計だ。それのせいでアンタの威厳とか好感とかがガタ落ちしてんだぞ。
マジで昔ちょっとだけ尊敬してた俺に謝れクソジジイ。
大酉の爺さんに白けた目を向けていると突然視界を遮られた。
突然のことに驚き、反射的に視界を遮っていた手を払ってその場から飛び退いた。
先ほどまでいた場所に目を向けると、手を払われてポカンと間抜けな表情を晒す少女が立っていた。
「おいアキ何すんだよ。ビビったじゃねえか」
「あはは~ゴメンね?隙だらけだったからイタズラしたくなっちゃった」
テヘッと擬音が付きそうなあざとい仕草で謝る少女に苛立ちを覚える。が、背筋が凍るような悪寒を感じ、すぐさましゃがみこんだ。
次の瞬間頭上をゴオゥッと凄まじい風音を鳴らして何かが通り過ぎる。
「チッ、仕留め損ねた」
「あ、あっぶねぇ!?ツバキお前殺す気か!」
俺の頭上を通り過ぎたのは、巨大な戦斧だった。俺は振り向いてその事実に青ざめると、犯人だった少女に抗議する。
しかし少女は俺を完全無視して、戦斧を持ち主に返しに行っていた。
その態度にムカついた俺は彼女に詰め寄ろうとしたが、背後からさっきの少女に絡みつかれてしまった。
「おい、ちょ、アキ!どこ触ろうとしてんだ!?」
「にひひ、私を無視してツバキちゃんとイチャつくなんて許さないんだからぁ」
俺に絡みついて身体を撫で回しながらも、キッチリ関節を極められている。
離れるためもがいていると、戦斧で俺を殺そうとしてきた少女が怒り心頭な様子で戻って来た。その後ろには戦斧を背負った男が続いていた。
「悠真さん!またお姉ちゃんに手を出して……本当で殺しますよ!」
「はあ!?いやこれはコイツからだから。ってかさっきのもちょっと遅かったら俺死んでたからね!?」
「も~悠真ったらぁ、私にも構って~!」
「おうおう兄ちゃん。モテモテだね~」
「そんなこと言ってないで助けてー!?」
その後すぐに騒ぎに気づいたソフィアと加奈子先輩に助けてもらい、一先ず落ち着くことができたのだった。
「はあ……もう少しで死ぬとこだった……」
「大丈夫ですかユーマ様?お水をどうぞ」
「おーありがとう」
ソフィアの持ってきたペットボトルの水を飲みながら、俺は少し離れた所にいるさっきの少女たちを見た。
水分補給を終え、俺は彼女たちをソフィアに紹介することにした。
「ソフィア見えるか?あそこにいるさっきの連中。一応あいつらが第一部隊の仲間だ」
「え、あの方たちが?」
「おう。さっき俺に絡みついてたのが北条アキ。そんでアキに話しかけてるのが双子の妹の北条ツバキ。戦斧を背負った筋肉ムッキムキの大男が堂嶋孝治だ」
北条姉妹は隣町からの増援だ。
姉のアキは、同い年だというのに会う度にスキンシップ過多で接して来るから、いつも対応に困らせられる。でもいつも元気で祓魔師界のマスコット的存在だ。
妹のツバキはお姉ちゃん大好きっ娘で、アキが俺に絡む度に怒ってくる。そのまま髪を下ろしている姉とは違い、お下げが特徴的な女の子。
そしてこの双子姉妹、実はくノ一だったりする。
アキは分身の術を、ツバキは雷遁の術と呼ばれる術を使う。
歴史にあるような地味な忍術ではなく、フィクションに出てくるような術を編み出した家系なんだとか。
大男と呼ぶに相応しい身長2メートル超えの上半身裸男である堂嶋孝治は、この町の海沿いの地区を担当するエリアリーダーだ。
彼の特徴はと言うと、やはり背負っている二本の巨大な戦斧と、何より美しくすらある筋肉だろう。
見事なまでに鍛え抜かれたその身体は、まさに『ザ・筋肉』とあだ名がつくほどである。
(そう言えば、妹に比べ若干スレンダーなアキの腰とほぼ同じ太さのあの腕で振り下ろされる戦斧は、岩を真っ二つにできると噂で聞いたことがあったな)
「ねえ悠真?」
「え、ん?うぉわ!?」
「誰がスレンダーだって?」
ソフィアに説明しているといつの間にかアキが目の前にいて、心臓が飛び出しそうになるぐらい驚いた。
ソフィアも気づいていなかったのか驚いて悲鳴を上げていた。
「ねえ?」
「あ、ははは。何のこと?俺は何も言ってないけど……」
「…………」
こっわ!めっちゃコワイ!そんな淀んだ瞳でじっと見つめないで!?
「……ま、そういうことにしてあげるよ」
そう言うと元気で明るいアキに戻り、俺は無意識の内にしていた緊張が解けて、どっと冷や汗が出た。
アキは妹と比べ、若干胸の成長が芳しくないことを気にしているのだが、この話題を口にすると本当に恐ろしい目に遭うのだが……
(そこまで気にすることないのに。貧乳好きだっているんだから……って、ひいっ!?)
じっとこっちを見つめるアキと目が合った。どうやら考えるだけでもダメらしい。
って、勘鋭いとかそんなレベル超えてるよね!?怖ぇよ!
全員に支給品が配られた。通信用の無線機一式だ。それを祓魔師としての能力がない支援班の人たちから受け取っていると、大酉の爺さんが誰もいない空を向いて声を上げた。
「オイ、カゲー!いるだろ?出てこい!」
その声に反応して全員が大酉の爺さんの方を向いた。
だから突然背後に現れた気配にびっくりしてしまった。
「そんな大声上げなくても聞こえますよ」
「うおぉう!?びっくりしたぁ……!」
「おお、すまない我が盟友よ。驚かせてしまったな」
「ビビらせないでよ影嶄」
俺の背後から突如現れたのは、黒のスーツの上にこれまた黒の外套を纏うという奇抜な恰好をした長身の男だった。彼の顔は被っているフードで半分以上隠れていて、口元しか見るできない。
彼の通称は影嶄。そして愛称はカゲさんという。なぜ通称なのかというと、それは彼自身がそう名乗っていて、周囲が本名ではなく通称か愛称でしか呼ばないからだ。
彼は影を利用した術が得意で気配を消すのが上手い。そのためその特技を買われ、「偵察任務には影嶄以外にあり得ない」と謳われるほどの実力者だ。
どうやらシャドードラゴンの動向を屋敷の作戦本部に知らせていた偵察隊のリーダーも、彼だったようだ。
「来たかカゲ。んで、ヤツは?」
「順調に町に向かって一直線ですな。後十分程度でここからでも見えるでしょう」
「そうか。では早急に装備を整えろ。すぐに作戦地点に向かう」
「了解した。大酉殿」
「皆も聞いたな。全員準備を整えろ!2分後に移動を開始する!」
大酉の爺さんの号令で一気に慌ただしくなり、空気に緊張感が増した。
俺も一応装備を再確認しておく。
影嶄は着物姿の女性に近づいて御札の束を受け取っていた。
着物姿の女性は雨倉知代。霧の幻影に毒物や『呪符』と呼ばれる札で戦う祓魔師だ。
御滝沢市を守る祓魔師を纏める五人のエリアリーダーがここに揃った。
東町の中央担当で祓魔師のまとめ役、大酉弘正。
東町のおざわ荘がある北側担当、桐島加奈子。
東町の海沿いの南側担当、堂嶋孝治。
西町の山側(北側)担当、影嶄。
西町の海側(南側)担当、雨倉知代。
エリアリーダーであるため、影嶄と知代さんも第一部隊のメンバーだ。
そして隣町からの増援である北条姉妹と、外部からの参戦である俺とソフィア。
ここにてようやく第一部隊のメンバーが全員集結したのだった。
そして、
「――では行くぞ!」
第一部隊、第二部隊共に全員が作戦位置につき、とうとうシャドードラゴンとの戦闘の幕が上がった。




