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星神様と眷属達  作者: キサラギ ソラ
第1章 神殺し
23/30

1ー22 はじめての眷属契約

 ソフィアの秘策である『眷属契約』。

 ぶっちゃけると俺は先程提案されるまで、これのことをすっかり忘れてしまっていた。魔力操作に気を取られすぎて、すっかり頭から転がり落ちていたようだ。


 まあ、それはともかく、『眷属契約』すれば俺もシャドードラゴンと戦うことができるようになるのだ。

 なぜなら『眷属契約』で主従関係を結ばれると、主は眷属の技能などを自身にコピーできるからだ。

 俺がソフィアを眷属にすれば、彼女の精霊術を俺も使えるようになる。そうすれば『浄化』の力も俺が使えるわけで、シャドードラゴンと戦えるだけの力を得られるのである。


 そして説明が終わった後の皆の反応はと言うと……脱力したり呆れたりと、色々だった。精霊の力は彼らからすると規格外らしく、それを俺が扱えるようになると聞いて複雑な気持ちなのだろう。

 ただ師匠だけは、以前ソフィアがこっちの世界に来た理由を話した時に『眷属契約』のことも触れていたのを思い出したようで、「なるほど。それなら……」と呟いていた。

 

「はあぁぁぁぁ~~……わかった。その『眷属契約』てのが成功したなら、小僧の参加を認めてやる。けど、できなければソフィア殿だけが参加する。これでよろしいか?」

「はい。わたしはそれで構いません」

「ありがとな。爺さん」


 俺が御礼を言うと、しかめっ面になって、


「ちぇ、お前さんを参加させたらアイリスちゃんに怒られるのはオレなんだぞ。ったく……」


 と、呟いた。

 

 え、ちょっと待て。なんでそこで母さんの名前が出てくんだ?あと母さんのことを「アイリスちゃん」なんて呼ぶんじゃねぇよ、クソジジィ!!

 大酉の爺さんが母さんのファンなのは薄々気づいてたけど、この人もう隠す気ないだろ。



  □□



 俺の参加が仮確定で決まり、その上で作戦の詳細を詰めていくことになった。

 尚、この場にソフィアはいない。

 作戦会議の時間を無駄にしないために、別室にて『眷属契約』の準備を行っているのだ。


 少し前にここに連絡があり、他の町から五人の増援が来ることになった。

 増援に来る者たちとの合流地点は、迎撃ポイントから一番近い山道になり、それをプティークの三次元マップに書き加える。


 討伐作戦の概要だが、まずシャドードラゴンの進路上――町から北東3㎞の地点に陣を張る。第二部隊が第一部隊を囲むように円陣を敷く形になる。


 第二部隊の仕事は二つ。

 一つは周辺に被害が出ないよう、空間をずらして内から外に、外から内に出られない結界を張って、これを維持すること。

 この結界なら、内側からドラゴンが攻撃してもそれが結界に阻まれ外に影響を与えないし、空間がずれることで結界内を外から見れなくなり、衛星カメラでもドラゴンとの戦闘が見られず、社会にいらぬ混乱を与えないようにできるのだ。

 もう一つは、シャドードラゴンの弱体化だ。

 大人数で行う『浄化』の儀式で、シャドードラゴンの魔力を浄化し弱体化させるのだ。

 余談だが、ソフィアが『浄化』をやって見せて驚かれたのは、普通人間が『浄化』を行うには数人掛かりでの儀式が必要で、それをソフィアが個人で同等かそれ以上の効果を発揮できることを示したかららしい。そりゃ驚かれるって。


 そして第一部隊の仕事だが、こっちはシンプル。

 シャドードラゴンと戦い、討伐すること、だ。


 部隊編成では、総指揮及び第一部隊の隊長を大酉の爺さんが務めることになった。

 そして残りの師匠を含んだエリアリーダー四人と合流予定の五人の内から二人、そして部外者(正式な祓魔師でないという意味)からの参加である俺とソフィアが第一部隊になる。

 第二部隊は隊長を鈴夏さんが務めることになり、残ったこの町の祓魔師十七人と合流予定の残りの三人が組み込まれた。

 総勢三十人で、シャドードラゴンという脅威に立ち向かうことになった。


 これ以外にも、予想外の事態へ対応できるよう作戦を詰めていった。そして作戦会議が終わった時には、シャドードラゴン迎撃予定時間まで一時間を切っていた。



  □□



 俺はすぐにソフィアの元に向かった。

 すれ違う人にぶつからないよう気をつけながら、屋敷の廊下を走った。

 祓魔師たちは皆、出発準備をしている最中だ。

 彼らには俺たちが遅れた場合は先に出発するよう言っておいたが、できれば一緒に出発をしたい。長くても後十五分程しか待っていて貰えないだろう。


(早くしないと……!)


 急ぐ傍らで、相棒に確認を取った。


(ナヴィ、会議中に頼んでおいたアレは?)


『現在おざわ荘から発送されており、五分後にはこの屋敷に着きます』


 作戦会議中に俺は幾つかの指示をナヴィに行っていた。

 その指示の一つの確認を取ったのだが、無事に遂行中のようだった。


「よし。これで後は『眷属契約』を無事に終わらせられれば、全ての準備が整う!」


 そんなやり取りをしているうちに、ソフィアがいると聞いてきた部屋の前に到着する。

 一回深呼吸して息を整えてから、部屋の中へ声を掛けた。


「ソフィア、俺だ。入っていいか?」

「はい、どうぞ」


 了承の声が返って来たので襖を開ける。

 そして中にいるソフィアの姿を見た瞬間、俺は息を呑み固まってしまった。

 ソフィアはさっきまで着ていた私服ではなく、初めて出会った時に着ていた服――ソフィアは自身を巫女姫と称していたから巫女服だろうか?――を着ていた。

 巫女服を身に纏った姿は神秘的な美しさが際立っており、俺は出会った時のように見惚れてしまっていた。


(綺麗だ……)


『マスター、時間が迫っております。お急ぎ下さい』


(――ハッ!……すまん、助かった)


 ナヴィに急かされ我に返った。なんだかナヴィの声がいつもより冷やかだった気がするが、深く考えると更に不機嫌になりそうなので触れないでおこう……。


「あ、えっと、もう準備は終わったのか?」


 我を忘れ見惚れていたのが恥ずかしくて、誤魔化すように話しかけた。

 ソフィアはそんな俺の態度に首を傾げるが、深く追求してくることなく準備が完了していると伝えてくれた。

 見惚れていて気づかなかったが、よく見ると床には赤い布が敷かれていて、その上には不可思議な紋様が幾つも重なってできたような円陣が描かれていた。俗に言う魔法陣みたいなやつだ。


 ソフィアが着ている巫女服と床に敷かれた赤い布は、ここに来る時に持ってきていた鞄の中に入っていたものだ。

 この町に危険が迫っていると聞いた時から、必要になるかもしれないと考え持ってきたのだとか。持ってきて正解だったね、ホント。

 赤い布は俺が魔力操作の訓練を始めた頃から用意し始めていたらしい。本当ならこっちに来る時に一緒に持ってくるはずだった道具の一つだったが、持って来れなかった以上仕方ないので、母さんに頼んで必要な物を用意してもらって自分で作っていたようだ。

 結構なサイズの布で、鞄が重かった原因の大半はこれだったのだろう。


 鞄には巫女服も入れていたようなのだが、今着ているのを良く見ると、皺一つ付いていないのがわかった。折り畳んでいた跡もないのは不思議だった。

 どうしてか理由を聞いてみたら、皺が付いても勝手に元の状態に戻るようになっていると答えが返ってきた。どうやら服までファンタジーなようだ。

 

 とまあ気になったことへの質問はこの辺までにして、本題に移ることにした。


「ユーマ様はこの上に立っていただけますか?」


 ソフィアに促され円陣の上に立った。

 そして説明が続けられる。


「契約においてユーマ様にしていただくことは多くありません。術式の制御はわたしが行いますから、ユーマ様はわたしの誓言に応えるだけで大丈夫です」


 誓言――つまりこの場合は、ソフィアが俺に「眷属になります」と誓う言葉に、受け入れる言葉を言えば良いということらしい。

 『眷属契約』そのものは術式が執り行ってくれるようで、俺がやることはほとんどないみたい。

 ただソフィアの負担が大きいんじゃないかと心配したが、彼女曰く、


「確かにわたしだけで術式を制御しようとすると、術式の制御に気を取られて儀式の段取りを間違えたりするかもしれません。ですが術式はこの『魔術陣』が代わりに制御してくれますから、わたしは魔術陣に魔力を流しながら少し意識を割くだけでいいんですよ」


 「凄いでしょ?」と自慢げに語るソフィアはちょっと可愛かった。

 『魔術陣』とは、アニメなどで見る魔法陣に当たるものだそうだ。

 ソフィアに魔法陣について聞いてみたら、


「魔術に必要な陣なのに魔法陣って言うのは、おかしくないですか?」


 と、変なことを言う人を見るかのように返された。言われてみると確かにそうなので、アホな質問をしたみたいでちょっと恥ずかしくなった。

 その他にも幾つか注意点を伝えられると、儀式が始まった。

 

 ソフィアが魔術陣の上に来ると、俺の前で床に両膝を突く。そして祈るように手を組んだ。


「わたし、ソフィア=クランベルは、ユーマ様を生涯唯一の主とし、未来永劫、身も心も魂さえも捧げ、眷属として仕えることをお許し下さい」


 その言葉は、俺にソフィアの命を背負うことを求める重たすぎるものだった。しかしこれに「嫌だ」と答えることや、「もっと軽くで良いんだよ?」と言うことはできない。儀式の失敗という問題以前に、ここまで言ってくれる女の子を拒否するようなことは、男として最低すぎると思ったからだ。

 それに誓いの内容が命を捧げるような重いものであるほど、『眷属契約』で得られる効果は大きくなると教えられているため、断る余地など元から無かった。

 

――俺は、覚悟を決めた。


「許す。俺はソフィアをあらゆる危険から守ってみせるし、どんな苦難にも二人で乗り越えることを誓う。だからお前は今日から、俺の眷属だ!」


 次の瞬間、魔術陣が光だした。

 ソフィアは俺の左手を両手で触れると、自らの額に持っていく。


――ここからが、正念場だ。

 

 俺とソフィアの身体から、魔力――否、霊力が溢れ出る。

 互いの霊力は術式が導くまま混じり合う。


 まるで二人の存在が一つになるかのようだった。

 近くにいるより、抱きしめ合うより、深く、深く、互いの存在を感じられる。

 やがて霊力は一本の糸に変わった。

 ソフィアの霊力が俺の魂に、俺の霊力がソフィアの魂へと近づく。

 その瞬間俺の脳裏に、魔力操作の訓練の最初にソフィアの魔力が魂に近づいた時の恐怖と拒否感がフラッシュバックする。


(……いや、怖気づくな!俺は、信じるって決めたんだ!)


 心を開く。拒絶する感情や本能を意思の力で叩き伏せ、無防備な魂をソフィアの霊力の前に晒す。

 それは自身の生殺与奪の権利を明け渡すに等しい行為だったが、一度信じた者には全幅の信頼を寄せる俺の在り方が、自然とそうさせた。

 そしてそれは、ソフィアにも影響を与えることになる。


 口では何と言おうと、それが本当だと信じることは難しいのが当たり前だ。ソフィアもまた、無意識では完全に心を許せていなかった。

 だが儀式が始まり互いの霊力が混じり出したことで、二人の間に壁はなくなり、意思が伝わり合うようになっていたことが幸いする。

 俺の心が伝わったソフィアは、俺が完全に心を開いていることを知ることができたのだ。


(あぁ、わたしをこんなにも信じてくれているなんて……!あなたになら、何をされても受け入れますっ!)


 ソフィアは涙を浮かべると、魂が感じる恐怖を忘れ、心を開き魂を霊力の糸に委ねる。

 二人の心は完全に開かれ、魂が霊力の糸が結ばれ繋がっていく。


「わたしの愛しいユーマ様。いつまでも、あなたのお側に――」


 ソフィアの呟きは、部屋全体に溢れんばかりの光と、キィィィィンと頭に直接響くような音によってかき消され、俺は正確に聞き取ることができなかった。


 やがて光と音が落ち着いた。

 見た感じ何かが変わった様子はないものの、今の俺にははっきりとソフィアとの繋がりが感じられた。


「契約は……成功したのか?」


 ソフィアに確認を取ろうとする。けど彼女は跪いたままで、顔も下を向いてて見えなかった。


「……ソフィア?」

「ひゃわ!?へ、あ、ひゃい!何でしゅか!?」


 しゃがんでソフィアに声を掛けたら、面白いぐらい動揺された。舌を噛んで呂律も上手く回っていないし、本当にどうしたんだ?


「お、落ち着いて。どうしたんだよ」


 尋ねても顔をリンゴみたいに真っ赤にして口をあわあわさせるだけ。訳がわからずこっちまで混乱してくる。


「ゆ、ゆーまさまぁ……あの、わたしのきもち……しってしまいましたかぁ……?」

「ん?気持ち?」


 涙目で尋ねてくるソフィア。

 俺は頭を働かせ、契約の最中に互いの心が通じ合ったような感覚になったことだろうかと当たりをつけた。


「ああ。ソフィアの気持ちは伝わったよ。俺のことを信頼・・してくれてありがとな」

「……へ?」

「え?」

「…………あ、あぁ……はい。こちらこそ、ありがとうございました」


(あれ?何だかすっごく残念そうな顔をされたんだけど……何か間違えたのか?)


 予想と違う反応をされて狼狽えてしまう。


『……』


 何だかナヴィが冷たい目を向けてくるイメージが浮かんだんだが。


 真っ赤から若干頬が染まった状態に落ち着いたソフィアが、恥ずかしそうにしながら尋ねてきた。


「えっと、ユーマ様。もしかしてわたしの呟きは聞こえてなかったり……?」

「ん?えーっと……あ、もしかして最後の方に言ってたやつ?」

「――ッ!は、はい……」

「あ~悪い。最後は何か耳鳴りみたいな音が頭の中で鳴ってたせいで、良く聞き取れなかったんだわ」

「そう、なんですか?」

「うん。ごめんな」


 俺が謝ると、ソフィアはすごく疲れたような顔して、女の子座りをして脱力してしまった。


「はあぁぁぁぁぁ~~~~。良かったぁぁぁ……」

「???」


 もう何が何だかわからなくなったので、取り敢えずこのことは置いといて、再び契約が成功したのか確認を取ることにした。


「よくわからんが、ところで『眷属契約』は成功したのか?」

「あ、はい。それは問題なく。わたしとユーマ様の間に霊的経路パスが繋がったので、ユーマ様が精霊術を行使することもできますよ」


 試しに魔力を動かしてみる。しかし、


「……どうやってやんの?」


 そもそもどうやって精霊術を使うのかわからないのに、できるわけなかった。なのでソフィアに尋ねる。

 ソフィアは苦笑いしながら教えてくれた。


「今の状態ではユーマ様が精霊術を使うことはできません。経路を通してわたしの能力を送るには難しくて……。わたしがユーマ様の中に入る必要があるんです」

「中にって、どうやって?」

「ふふっ、お忘れですか?わたしは精霊なんですよ?」


 フッとソフィアの姿が半透明になり、彼女が何を言いたいのか少しだけ理解した。


「半霊体……」

「はい。そして半霊体――半分は霊体である精霊であるからこそ、ユーマ様の霊体なかに入ることができるんです」

「あ~、何となくわかったかも。霊体と霊体が近いほど、経路の繋がりが強くなる、ってことじゃないか?」


 俺の答えにソフィアは笑顔で頷いた。


「その通りです。今は肉体間で経路が繋がっている状態ですが、霊体になってユーマ様の中に入れば、物理的な距離はなくなり直に力や知識を伝達することが可能になるのです」


 「それじゃあやってみてくれないか――」と言おうとした瞬間、ナヴィから待ったが掛かった。


『討伐隊の出発時間になりました。今ならまだ間に合います。どうかお急ぎを』

「え、もうそんな時間!?」


 視界の端に〈シグル〉が表示する時間を確認する。やばい、時間過ぎてる……!


「ソフィア!もう出発の時間だ!早く行くぞ!」

「え!?あ、けどこれを片付けないと――」


 俺は速攻で赤い布をクルクル~と巻いて、部屋の端に置いてあった鞄に突っ込んだ。片付ける時間がもったいないかとも思ったが、それで問答する方が時間の無駄だからな。

 鞄を手にすると、呆けた様子のソフィアを見た。


「――行こう!」

「は、はい!」


 俺たちは師匠たちの元へ走った。


 悠真が、大酉の爺さんがアイリスのファンであることを示唆していますが、これ実は過去にアイリスの可愛さに心を撃ち抜かれてベタ惚れした裏話があったりします(笑)。

 わかりやすく言うと、娘が可愛くて構いたくてしょうがないお父さんみたいな感じ。

 悠真が大酉の爺さんを気に入らない理由の一つだったりします。


 今回は悠真の鈍感な部分が出ましたが、これは心が伝わってもそれが親愛なのか恋慕なのか区別できるほど、はっきり伝わるわけじゃなかったりするからです。

 悠真はソフィアの呟きは聞き取れてませんが、機械である〈シグル〉にはバッチリ記録されてます。

 これがこの先どう影響していくのか、期待していてください!


 以上、今回の補足でした!

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