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星神様と眷属達  作者: キサラギ ソラ
第1章 神殺し
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1ー21 竜討伐対策会議4

「俺を第一部隊に加えて下さい!」


 頭を下げて頼み込んだ。

 俺は祓魔師たちからすれば部外者でしかなく、今ここにいられるのは師匠――加奈子先輩の力添えによるものだ。

 だから俺は本来、祓魔師たちと共にシャドードラゴン討伐隊に参加することはできないのだが、彼らも人手が足りていないため猫の手も借りたい状況なのだ。しかしそうなると大酉の爺さんは、実力不足な俺を比較的危険でない第二部隊に回そうとするのが予想できた。そして俺自身も、短刀の力無しじゃまともに影小鬼とも戦えない未熟者だという自覚はあった。

 でも、だからと言っても第二部隊に回されるのは御免だった。そんなことになれば、後方で師匠が危険な状態になっても助けに入ることができなくなるからだ。


 ぶっちゃけると第一部隊の皆と一緒に戦えない場合は、俺一人でもシャドードラゴンを倒しに行くつもりだった。

 ただこの案はすぐに却下した。

 そんなことをしても無惨に死ぬだけだとわかっているからだ。

 だから俺はこうして頭を下げ、参加させて欲しいと直接に頼み込むことにしたのだ。

 けど、大酉の爺さんは、


「だめだ。お前さんを第一部隊に加えることはできん」


 俺の願いを一蹴した。

 けどこの展開になることはわかっていたため、諦めずに食い下がった。


「そこをなんとか!俺だって戦えるようになったんだ!一緒に戦わせてくれっ!!」

「戦えるようになっただぁ?」

「「――ッ、ユーマ様(悠真)!!」


 大酉の爺さんの眼が冷たい光を放ち、悪寒を覚えた俺は咄嗟に腕を前にして防御姿勢を取った。

 次の瞬間、腕にドカンッと重い衝撃が走り、俺の身体は大きく宙に浮いて後ろに吹っ飛ばされた。


「――ガハッ……」


 背中から床に叩きつけられ、肺の中の空気をほとんど吐き出してしまい、痛みで目の前が明滅する。

 動けない俺の元に駆け寄ってくるソフィアと師匠に身体を起こしてもらった。


(……アレ、は……)


 いつの間にか大酉の爺さんの前に立っていたソレに気づき、直感的にソレが俺を殴り飛ばしたのだと理解した。

 俺を殴り飛ばしたソレは、まるで真っ黒な人間が日本の戦国武将の鎧を着ているような姿をしており、炎のように揺らめく赤い双眸がこちらを見下ろしていた。

 この鎧武者は人ではない。

 術者によって仮初の命を与えられた、式神の一種だ。


(全く見えなかった……!)


 歯を噛み、鎧武者を、そして大酉の爺さんを睨む。

 

「フン。これで理解したか?コイツの隠形にすら気づけんようなヒヨッコにしゃしゃり出られても、役立つどころかオレたちの迷惑になるだけだ」


 何も言い返せなかった。

 隠形――対象の姿を見えなくする術に、俺は殴られた瞬間になっても気づくことはできなかったのだから。

 ソフィアも師匠も、すぐに気づいていたというのに……。

 自分の実力不足は自覚していたが、こういう形で実感させられてしまうとやるせない気持ちになってしまう。


「……クソッ……」

「ユーマ様……」


 悪態をつく俺を心配そうに見つめるソフィア。

 師匠はこんな俺を見かねて、


「……悠真、しばらく外で頭を冷やして来なさい。ソフィア、悠真を頼む」

「……はい。さあ、行きましょうユーマ様」


 ソフィアに手を借りて立ち上がる。そして彼女に付き添われながら、無言のまま俺は部屋の外に向かう。


「第二部隊になら入れてやる。小僧、よく考えるこった」


 出ていく直前に掛けられた言葉に一度立ち止まるも、振り返ることなくそのまま部屋を出た。



  □□



「ちくしょう……ッ!!」

「――ッ!?」


 部屋から少し離れた所まで来ると、感情を抑えられなくなって近くの柱を殴りつけてしまった。

 その音に驚いたソフィアが肩をビクッとさせたが、荒れ狂う感情を抑えられない俺に彼女を気遣う余裕はなかった。

 肩で息をして少し気持ちが落ち着いてくると、今まで忘れていたかのように腕に鈍い痛みが走った。


(式神にやられたせいか……)


 どうやら感情がオーバーフローして、今の今まで腕の痛みを忘れていたらしい。どんどん痛みが強くなってきて、攻撃をもろに受け止めた右の前腕を左手で抑える。


「ユーマ様、まさかお怪我を!?早く見せて下さい!」


 俺の様子に気づいたソフィアが焦りながらも優しい手つきで患部を確かめる。

 その結果どうやら骨に罅が入っていることがわかった。


「ソフィアって医療の知識もあるのか?凄いね……イッ、~~~っっ……!!?!?」

「動かないでください。痛くなりますよ!」


 既に痛いですソフィア先生。


「わたしも完璧とは言い難いですが、こういう時どうすればいいのかちゃんと教わりました。事故して大怪我した方の治療をしたことだってあります。……うん、このくらいなら――」


 ソフィアが患部に手をかざす。すると手から光が現れ、右腕を包み込んだ。

 光に包まれていると段々と痛みが引いていき、三十秒程で痛みが感じなくなった。


「……ふう。腕を動かしてみてください。まだ痛みますか?」


 そう言われ、肘を曲げたり軽く上下に振ってみたりした。


「なんか痛かったはずが急に痛くなくったことに違和感を覚えるけど、全然大丈夫。もう痛くないよ。ありがとう」

「それなら良かったです」


 一安心して微笑むソフィア。俺は右腕を動かしながら彼女に気になったことを尋ねた。


「もしかして今のも精霊術?」

「はい、治癒の精霊術です。治癒系はわたしの得意分野なんですよ」

「へえ、そりゃ凄い」


 素直に感心した。もしかしたら今まで見せてきて貰った光を出したり半透明になる精霊術よりも、俺にとって一番ファンタジーな術を見せて貰ったのかもしれない。

 実は、光を出したり半透明になったりは、似たようなことをサラの発明品でもできる。それこそ光は小型ライトを重力制御装置で浮かせばいいし、半透明化だって背景映像をマントの表面に映し出し姿を隠す透明マントを応用すれば可能だったりする。

 でもそんなサラの発明品でも、骨折を数十秒で治すような物はなかったため、この精霊術が一番ファンタジーらしく感じられたのだ。


 ソフィアと話していることで、幾らか心が落ち着くことができた。

 そして自分のさっきまでの態度を思い出し、軽く自己嫌悪と反省をしてからソフィアに謝罪した。


「その、悪かった。いきなり怒り出したもんだから驚いただろ?」

「いえ、ユーマ様が焦っておられたのはわかっていますから。気にしてません」

「いやそれでもだ。あんな態度は取るべきじゃなかった。すまなかった」


 頭を下げて謝った。ソフィアは少し困ったような顔で、


「じゃあ同じようにカナコさんにも謝ってあげてください。あの方も大変ユーマ様のことを心配していましたから」

「ああ、もちろん。後でちゃんと謝るよ」


 何だか急に肩の力が抜けた気分になり、その場に座り込んで空を見上げる。この町に危機が迫っていても、夜空は穏やかで半月が優しく光っていた。

 月を眺めながらも、思考はどうすれば師匠を死なせることなくシャドードラゴンを倒せるかでいっぱいだ。

 そうして物思いに耽っていると、横に座ったソフィアが俺の顔を見つめながら、不安気で自信のない声で話しかけて来た。


「ユーマ様は、とても優しい方ですよね」

「え?何、突然に」

「だって先程取り乱してしまったのは、全てカナコさんのことを想ってのことなのでしょう?誰かの為にそこまで必死になれるユーマ様は、他人ひとを思い遣ることのできる優しい方なのだと、わたしは思います」


 そこまで言われるとさすがに照れるんだけど。

 目を逸らして頬を掻いていると、ソフィアは「でも――」と話を続ける。


「その優しさは、時に周りのヒトたちを傷つけることもわかって欲しいです」

「うぐ……」


 この前美奈穂に言われたことと似たような台詞を、まさかソフィアにまで言われることになろうとは……。

 俺がおざわ荘に住む皆のことを大切に想っているように、皆も俺のことを大切に想っていることは重々承知している。これは俺の勘違いや一人よがりな妄想ではなく、事実だ。そう想い合えるぐらいの信頼の積み重ねを、長い年月をかけて行って来たのだから。

 だから俺が皆のためにと思って無茶をすると、心配させてしまうことはわかっている。わかっているのだが……つい心が逸って無茶をしてしまうのだ。


「でも、やっぱり俺は大切な人たちが危ない目にあっているのなら、絶対に助けたい。それがどれだけ無茶なことだったとしても、諦めるっていう選択だけは絶対しない。さっきは最善の方法を見つけられなくて焦っちゃったけど、俺はどんな状況でも、大切な人たちのために戦える人間でいたいって思ってる」


 言ってて恥ずかしくなる台詞だったが、これが俺の本心である以上嘘は吐きたくなかった。

 ソフィアは話を聞き終えてから、しばらく何かを思い悩んでいたようだが、不安に揺れながらも決意を秘めた瞳を向けてきた。


「では、ユーマ様はわたしが助けを求めたら、助けて下さいますか?星神となり、創造神を倒して、わたしの国を救って下さいますか?」


 それは以前にも聞いた、ソフィアの願い。

 

 そして今度は、――俺の覚悟を問う言葉だ。


「もちろんだ。例え何があっても、どんなことでも、ソフィアが助けを求めるなら助ける。星神になって、創造神も倒す。この言葉に嘘はない」


 真っ直ぐ想いを伝えると、ソフィアは感極まった様子で目尻に涙を浮かべる。


「ありがとうございます。その言葉のおかげで、わたしも覚悟が決まりました」


 そして恐れるものなど何もないような力の籠った笑みを浮かべ、


「ユーマ様、まずは一緒にシャドードラゴンを倒しましょう。わたしに秘策があります」



  □□



俺たちは作戦会議が行われている部屋に戻って来た。

 何人かの視線がこちらに集まる。


「……小僧、少しは頭が冷えたか?」

「ああ、もう冷えたよ。……あの、師匠。心配かけてすむませんでした」

「身体は大丈夫か?痛みは?」

「大丈夫です」

「そう。良かった」


 師匠は安堵した後、ちょっと怒った表情になって、「もう無茶をするなよ」と叱ってくれた。

 俺はそれを素直に受け止めると、大酉の爺さんのほうを向いた。


「そうそう、ソフィアが新しい案を思いついてくれたよ」

「精霊の嬢ちゃんが?」

「はい。わたしはの精霊術の中に『浄化』ができる術があります。そしてこの『浄化』が影の魔物にも有効であることは確認済みです。これならシャドードラゴンにも有効な攻撃手段になりませんか?」


 ソフィアの話を聞いていた祓魔師たちに動揺が広がる。本当なのかと疑う声も上がっていた。


「例えその話が本当だとしても、ドラゴン相手に通用するかはわからんぞ?」


 ソフィアに厳しい目を向ける大酉の爺さん。期待させるだけさせておいて、やっぱりドラゴンには効きませんでしたでは、祓魔師たちの士気に関わる。おいそれと鵜呑みにできないのだろう。

 だがこっちだって、そのことは承知している。

 だから俺はソフィアにアイコンタクトし、事前に決めた通り『浄化』の実演をする。


「では実際にやってみますので、ご自身で見極めて下さい」


 ソフィアの魔力が高まり、彼女の身体が光に包まれる。そしてその光が部屋中に広がり満たしていった。


(何だか部屋の空気が軽くなったというか……綺麗になった?)


 俺はその程度の変化しかわからなかったが、祓魔師たちには、俺にはわからない何かをはっきり感じられたらしい。多分、ソフィアの言う『浄化』の力、その凄さだろう。

 部屋を見渡すと、全員が動きを止め、ソフィアに畏怖の目を向けていた。


「ソフィア……こんなことができたのか」


 師匠も驚きを隠せないようだった。

 ……未熟なせいで俺だけソフィアの凄さを感じられてないのは、ちょっと仲間外れされた気分になるね。別に寂しくない。ないったらない!


ソフィア殿・・・・・、貴女の力は間違いなくシャドードラゴンにも届くだろう。どうか我らと共に戦ってはもらえんか?」


 大酉の爺さんが、物凄く真面目な態度でソフィアに討伐隊へ参加して欲しいと頼み込んだ。

 それを見た俺は、頭をハンマーで殴られたような衝撃を感じた。


 あの大酉弘正が、ソフィアのことを『嬢ちゃん』呼びではなく、はっきり名前で呼んだ。これは彼を知る者からすれば非常に珍しいことだった。

 なぜなら大酉弘正が名前呼びした相手というのは、彼が自身と同等かそれ以上で敬意を払うに値すると認めた者に限られるからだ。

 そしてこの場にいる祓魔師たちは、誰一人して彼に認められていない。俺が尊敬する師匠だって認められてないのだ。


 多くの者から嫉妬や畏怖、尊敬や羨望の眼差しを集めるソフィアに、俺は若干の嫉妬を覚えると共に憧れにも似た気持ちを覚えていた。

 加奈子先輩を剣の師として憧れたように、ソフィアは魔力などの神秘を教えてくれる先生であり、加奈子先輩に向けるのと同じ憧れの気持ちをソフィアに向けていたことに、今になって気がついた。


「わたしが討伐に参加するのは構いません。ただし、ユーマ様も一緒でなければお断りさせて頂きます」

「いや、しかし小僧が参加しても無駄死にする可能性が高い。それでも参加させろと言うのか?」

「はい。その通りです」


 まいったなと言いたげに頭を掻く大酉の爺さん。

 ソフィアは優しく微笑み諭すように続ける。


「大丈夫ですよ。何故ならユーマ様は、使のですから」

『…………は?』


 言葉の意味が理解できず、ポカンと間抜け面を晒す彼らに、ソフィアは秘策の内容を語って聞かせた。


 それはシャドードラゴンを倒すカギになり得る、俺たちにとっての最善の策――『眷属契約』の詳細である。

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