1ー20 竜討伐対策会議3
ちょっと短め
「魔力変換不全症」とは、体内で生成される霊力を魔力に変換できない体質のことらしい。
これを一から説明するには、魔術世界における人間の構造を理解する必要がある。
人間は、物質体である肉体、精神体である霊力で構成される霊体、存在情報核とも呼ばれる魂、この三要素でできていると考えられている。
魔力変換不全症と直接関わってくるのは、物質体と精神体の狭間にある魔力孔と呼ばれるものだ。
ここで霊力と魔力について軽く説明しておこう。
俺が今日まで必死になって操ろうとしていた魔力。これは俺の内から溢れ出ていた。
人間の内にあるものは魔力なのか、それとも霊力なのか。
答えは両方である。
霊力は微量ながらも人間の核である魂から常に生成されている。そして魂が肉体という器から出ていかないようにする楔としての役割もある。
しかし、コップに水を注ぎ続ければ溢れてしまうように霊力も溢れてしまうのだが、そうして霊力が身体から抜け出ていくと楔としての役割が果たせず危険なのだ。
そのための安全装置が魔力孔。
霊力を劣化させて量を増やし魔力とする機能を持った噴出孔である。
余談だが、霊力1に対し変換された魔力10という風に数値化して見てみよう。
数字上は魔力の方が多いのだが、実際はこの二つは同等なのだ。
その上魔力は霊力の劣化版であるため、量では同等でも質では霊力の方が上なのである。
さて、ここまでくれば魔力変換不全症がどういうものか理解できてきたのではなかろうか?
魔力変換不全症のメリットと、それを上回るデメリット。
メリットは、魔力を燃料とした術より霊力を燃料とした術の方が、効果や威力が高くなること。
デメリットは、魔力に変換できないせいで術を使うときは霊力を消費するしかなく、霊力を消費し続ければ魂を肉体に留める力が弱まっていく危険が付き纏うこと。
普通の術師は魔力を用いて術を行使するが、彼らには霊力という予備ストックがあるため長く術を行使し続けられる。それに対し魔力変換不全症の者が普通の術師と同じように霊力を用いて術を行使すると、早く限界が訪れ死に至る。
長期戦なんてできない体質なのだ。
これが、加奈子先輩から明かされた彼女の体質の内容だった。
「…………」
(ふざ、けるな。なんだよそれ。そんな危険な体質をしてるのに、こいつらは先輩を戦わせようとしているのか。師匠は戦おうとしているのか!)
話を聞き終えた俺の心は怒りで煮えたぎっていた。
祓魔師たちへの怒りもそうだが、何より俺が怒っているのは加奈子先輩に対してだ。
町を守るために死のうとしているようにしか見えず、その愚かさに苛立ちを覚え、その気高い心に惹かれてしまう。
あぁ、腹立たしい。
素直に怒らせてくれない加奈子先輩に、凄く腹が立ってしまう。
「悠真、私は――」
「……どうして師匠が戦わなければならない。そんな危ない体質で、死んでしまうかもしれないのに何で戦わせようとするんだお前らはっ!!」
「――……っ!?」
とうとう爆発して漏れてしまった本音。
加奈子先輩は俺の怒りに言葉を詰まらせ、大酉の爺さんたちは痛いところを突かれたように表情を歪める。
「なんでだよ!答えろ、おい――っ」
「悠真、やめなさいっ!!」
「っ、せん、ぱい……?」
「死の危険と隣り合わせなのは私だけではないんだ!彼らを責めるのはやめなさい!」
命を懸け死の危険があるのはここにいる彼らも変わらないのに、加奈子先輩の命の危険のみに文句を言った。
これじゃあ他の人はどうでもいいと言ったようなもんだ。
俺は冷や水を掛けられたような気分になって、熱くなっていた心が一瞬で冷えていく。
怒りが消えた訳ではないが、冷静に考えることはできるようになった。
(クソッ……今不満を口に出す必要はなかった。先輩への苛立ちも全部爺さんたちにぶつけちゃったし、多分先輩もそのことに気付いてるよな)
後悔先に立たず。
大切な人たちを守るときこそ冷静になれるよう心掛けていたのに、こんなことで感情のまま行動しているようでは俺もまだまだ未熟なんだと痛感する。
俺は加奈子先輩が死んでしまうぐらいなら、祓魔師たちを犠牲にしてでも必ず助けだす。これはおざわ荘の誰であっても同じことで、例えばおざわ荘の皆を救うには世界を滅ぼさないといけないとなったら、俺は世界を滅ぼす選択をする。
これが俺、水瀬悠真の在り方なのだ。
と言っても俺にも常識はあるし、ちゃんと善悪の判断もできる。
だから自身の考えが現代社会に受け入れられないのも理解してる。
過激すぎる思想は異端だとされるのが人間の社会だ。
だから俺が今この場で取るべき行動は、本音を胸に秘め謝罪すること。
「一時の感情に任せ暴言を吐いてしまい、すみませんでした」
頭を下げる。
なぜか周りがどよめいたような気がするけど、その理由を気にするとまたイラッとしそうなのでスルーする。
「こぞ――いや、悠真。頭を上げてくれ。こちらこそすまなかった。お前さんの大事な師匠の秘密を黙ったまま、危険な戦いに参加させようとしていた」
本当に、本当に申し訳なさそうな顔で謝る大酉の爺さん。
まさか彼が俺を名前で呼ぶとは思っていなかったので、驚きを隠せず表情に出てしまった。真面目な話中なので慌てて表情を引き締める。
「お前さんの抱く不安も最もだ。しかしそれでもどうか、嬢ちゃんの参加を許してはもらえんか?彼女がいなくては勝ち目はほぼなくなってしまうんだ。どうか頼む」
「…………」
いつになく真剣な表情での頼み事に、俺はどうすべきか考えた。
加奈子先輩の参加を許すか否かではなく、どうすれば最善を手にできるのかをだ。
文句を垂れるだけなんてカッコ悪い真似なんてしない。不満があるなら、まず自分で考えるべきなのだから。




