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星神様と眷属達  作者: キサラギ ソラ
第1章 神殺し
19/30

1ー18 竜討伐対策会議1

 おざわ荘を出て石畳の階段を下った所に、一台の黒い車が停車していた。車の側には二十歳くらいの女性が立っており、俺たちのことを待っていた。


「加奈子様、お待ちしておりました」


 加奈子先輩に対して一礼する女性を見たソフィアが、俺の袖を引いて小声で尋ねてきた。


「あの、その方は?」

「あぁ、彼女の名前は小紫鈴夏(こむらさきすずか)。加奈子先輩の付き人のような人、かな」


 そして彼女もまたこの町の祓魔師だったりする。

 鈴夏さんは俺とソフィアをチラリと見る。


「そちらの二人もご一緒に?」

「ああ」


 肯定する加奈子先輩。鈴夏さんはそれ以上尋ねることなく「では急いでお乗りください」と乗車を促した。


 車が発進する。

 初めて車に乗ったソフィアはキョロキョロと車内を見回したり、外の後ろに流れていく景色を興味津々といった様子で眺めていたが、今は緊急事態だからかソワソワするだけで話しかけてくることはなかった。

 また今度、車に乗る機会をあげようと心にメモしておく。


『予定に追加しました』


 頭の中にナヴィの声が響く。どうやら思考を読み取って〈シグル〉に記録してくれたようだ。

 これでもし忘れても、ナヴィが教えてくれる。

 ナヴィは俺にとって、本当に優秀な秘書(あいぼう)なのだ。


『それがワタシの存在意義ですから、マイマスター』






 走り続けること約十五分。車は大きな日本屋敷の前で停車した。


「私は車を中に駐車してきます。加奈子様たちは先に行ってください。場所はいつもの大広間ですから」


 鈴夏さんにそう言われ、俺たちは先に屋敷の中に入る。

 屋敷の中は静かだった外とは違い騒然としていた。


「何だかすごく慌ただしい雰囲気ですね」

「それだけ危険な魔物が現れたってことなんだろうな」


 ソフィアも俺も屋敷内の雰囲気に呑まれ、交わす言葉に緊張が混じる。

 ここまで祓魔師たちが慌てているなんて、俺の記憶にある限りでは今までなかったはずだ。一体何が現れたと言うのか。

 俺は前を進む加奈子先輩の全く臆した様子のない背中に、凄い人だなぁと憧憬の念を抱いた。


 大広間ははっきり言って物凄く混沌とした状況だった。

 ここにいる三十人以上いても尚有り余るくらい広い大広間の中には、壁際に通信機器が設置されており、そこから得た情報を中央に置かれた大きなテーブルの所に集約しているようだ。

 紙や電子機器が散乱しており、何だか仮設の司令室のような印象を受ける。


「二人共ついて来てくれ」

「「はい」」


 加奈子先輩に続いて中を歩いていく。向かう先は大広間の中央。報告を聞いている途中らしい、着物の着た老人の下へ。

 近づくと老人の方がこちらに気付き、側にいた男の報告を切り上げさせる。


「来たか嬢ちゃん。それに水瀬の小僧まで。小僧、お前さんは呼んでないはずだが?」

「この町のピンチなんだろ?だったら俺が来ない訳ねぇだろうが」


 俺を睨み付ける老人に、負けじと睨み返す。


「悠真、この方はこの町の祓魔師たちのトップなんだ。形だけでも敬っておきなさい」

「絶対に嫌です!」

「かっか!嬢ちゃんも言うようになったじゃねえか!」


 加奈子先輩の毒舌を軽く笑って流す老人に、俺と加奈子先輩は白けた目を向けていた。

 それといくら加奈子先輩の言葉でも、俺はこの老人を敬うなんてできない。

 とっくの昔に死んでしまったらしい祖母と因縁があるとか言って、過去に色々からかわれたことを俺は絶対忘れない。絶対にいつか仕返ししてやる、クソジジィ!


「……んで、そっちの嬢ちゃんは誰なんだ?人間じゃねえよなぁ?」


 驚いた。まさか、ソフィアが人間とは違うことを見抜くなんて。

 雰囲気がガラリと変わり真面目な顔付きになった老人は、俺の後方、ソフィアに鋭い視線を向けている。

 ソフィアはその眼光に一瞬たじろいだものの、すぐに気を持ち直して真正面から受け止めていた。


(爺さんの“圧“を真正面から受け止めるなんて……やっぱりソフィアは、名ばかりの王女ではないんだな)


 俺は内心でソフィアを称賛した。

 老人が放つ"圧“を正面から受け止められるような胆力の持ち主は数少ない。この町の祓魔師のトップというだけあって、年老いた今でもその実力は衰えていないらしい。


 田舎の祓魔師の実力がそんなに高いのかと思う人もいるだろう。

 だがこの老人は日本でも指折りの実力者で、祓魔師業界のランキングではトップ50に入るのだ。

 ぶっちゃけ化け物である。


 元地主の家系だからこの町から離れていないとのことだが、初めて老人の強さを知ったときは「何でこんな田舎にいるんだよ!?」と思わずにいられなかったものだ。


 そしてソフィアの胆力だが、考えてみれば彼女も普通ではない。

 誰も頼れる者がいない未知の地に、国の命運という重責を背負って一人でやって来たのだ。

 相当な恐怖だったはずだ。

 もし俺とすぐ出会えなければ、事故で荷物を何も持たずに来てしまったソフィアはどうなっていたことか……。想像したくない。

 見知らぬ地で一人でも、弱音を吐かず気丈に振る舞えるその精神力は並外れていると言えるだろう。


 正直俺にはソフィアが眩しく見えた。


「確かにわたしは人間ではありません。わたしの名前はソフィア=クランベル。精霊の庭エレメンタル・ガーデンより参りました、光の精霊です」

「ほう、精霊とな。確かに瘴気は感じられんから魔物ではないようじゃが……お前さんが精霊とはなぁ……」


 感慨深げに溢す老人の態度に、俺は何か引っ掛かるものを感じた。


「何かあんのかよ爺さん」

「いんや。小僧が面白いモンに出会ったんだなぁと思っただけさ。祓魔師や魔術師の間では、異界に住む精霊ってのは、結構有名なんだぞ」

「いや知らんけどさ……そんでソフィアのことはもういいか?」

「まあ見たとこ問題はなさそうだし、小僧が信頼してんだ。悪い子ではねえんだろ?」

「ああ、ソフィアは凄くいい子だよ。保証する」


 褒められて嬉しいのかソフィアがニマニマと笑みを浮かべた。


「嬢ちゃんが名乗ったんなら、オレも名乗らねえとなぁ。オレは大酉弘正(おおとりひろまさ)。この屋敷の主で、この町の祓魔師をまとめている。よろしくな、精霊の嬢ちゃん」

「はい。よろしくお願いします」


 老人ーー大酉の爺さんが差し出した手をソフィアが握る。

 内心穏やかではなかった俺は、誰にも気づかれないようホッと息を吐いた。


 俺は今まで、本質を見抜く目を持たないバカがソフィアのことを魔物の類いと勘違いして襲ってくる可能性があると憂慮していた。

 しかしここのトップである大酉の爺さんがソフィアを認めたことで、その可能性はなくなったはずだ。

 魔物を相手にする前に厄介事なんて嫌だからな。


 …………あっ!


「てかこんなことしてる場合じゃないだろ!?魔物!今までここまで大騒ぎするようなことなかったんだし、やっぱりとんでもない化け物が現れたのか?」


 すっかり忘れてしまっていた。

 いつの間にか手を止めこっちを伺っていた者たちも、俺の声で我に返り、大慌てで持ち場に戻っていく。


「何です?まだ説明してなかったのですか、大酉殿」

「あー、忘れとったわスマン」


 車を駐車しに行っていた鈴夏さんが合流する。

 彼女は俺たちがまだ現状の説明を受けてないことに気づくと、大酉の爺さんに苦言を呈する。

 大酉の爺さんは凄くバツの悪そうな表情を浮かべながら謝ると、コホンと咳払いして気を取り直した。


「今回は相手が相手だからな。嬢ちゃんにも協力してもらわねぇと全滅しかねないんだ。なんせ今回現れたのは『シャドードラゴン』だからな」

「本当にドラゴンが現れたんですね……」

 

 加奈子先輩はドラゴン出現の情報を知っていたようだ。

 ソフィアもドラゴンと聞いて顔が強張っている。

 なんだか重たい空気になってきたところで俺は手を挙げた。


「えーっと、あの……そのシャドードラゴンってそんなに危険なの?」

「「「「…………」」」」


 妙な沈黙が流れる。

 すごく気まずい空気になったけど気にしない。

 だってドラゴンって、羽の生えた巨大トカゲなイメージがあるから……。

 俺一人だけ危険性がわかってないのは困るんだよね。






「それでは現状の説明を始めます。今回出現した魔物は竜種、シャドードラゴンであることが本日未明に確認されました」


 一時的に気まずい空気になったものの、すぐに全員が気持ちを切り替えた。

 そして鈴夏さんの仕切りの下、状況説明が始まった。


「お前さんらニュースを見たか?山肌が崩れ車が巻き込まれた事件。あれでシャドードラゴンの存在が確認できたんだ」


 俺はすぐさまナヴィにネットニュースを検索させた。

 〈シグル〉にはインターネットに繋がる機能もあるのだ。

 検索結果はすぐに出て、俺の視界にニュースの映像が表示される。


(うわっ、ひでぇなこれ……)


 山肌は二十メートルほど滑り落ちていた。無残に崩れさった道路の残骸の中に、変形してしまったワゴン車が見える。


『どうやら奇跡的に乗車していた四人は助かったようです。しかしこの惨状をシャドードラゴンが生み出したのなら、危険度はかなり高いでしょう』


 ナヴィの補足を聞いて、俺はシャドードラゴンの危険性を理解する。

 俺は持っていた鞄を床に下ろしてから、ポケットに入れていたプティークをテーブルの上に置き、ナヴィに遠隔操作させて今見た映像を流した。

 そしてそれを見たソフィアが隣で息を呑むのがわかった。


「こんな事件が起きたってのも問題なんだが、本当に問題なのはシャドードラゴンがこの町に向かっているってことだ」

「ドラゴンの出現原因やここに向かっている理由はわかっていません」


 事件の起きた地点と御滝沢市を線で結んでも、この町より先は海しかない。

 偶然ここに向かっていると俺は思うのだが、祓魔師たちの意見は違うようだった。


「これを見ろ。偵察班が撮ったシャドードラゴンの姿だ」


 影の魔物は全身が魔力で構築されているため肉眼や科学機器でも捉えられないが、大酉の爺さんが示す写真には、ぼんやりとだがドラゴンらしき黒いシルエットが見れた。

 ただ撮影時間が夜なため、よく目を凝らさないと確認できない。


「なるほど、明らかに不自然だ」

「先輩、どういうことですか?」

「日本に古くから伝わる竜は、多くが蛇に近い姿をしている。そのため日本で出現する竜種の魔物もほとんどは蛇に近い姿なんだ。けど、このドラゴンは違う。西洋(・・)でよく見られる、トカゲに近い姿をしている。つまりコイツは、ヨーロッパの方から来た可能性が高いんだ」

「!?」


 それはつまり、日本で現れるはずのない魔物が現れたということ。

 俺は魔物について詳しい訳ではないが、今回のドラゴン出現が明らかな異常事態であることは理解できた。

以前に加奈子が、「ソフィアから魔物と似た気配がする」と言っていましたが、アレはソフィアたち精霊が半霊体で、身体の半分が霊力でできているからです。


つまり魔物と似た部分があるわけですね(  ̄▽ ̄)


大酉の爺さんは経験豊富な爺さんなので、その辺にも気づいたんでしょう。



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