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星神様と眷属達  作者: キサラギ ソラ
第1章 神殺し
14/30

1ー13 精霊術と魔術

 デートの翌日。朝食を食べ終えたソフィアを捕まえた俺は、精霊術とは何かを詳しく教えてもらおうとしていた。


「構いませんよ。むしろわたしの方から教えるつもりでしたから」

「そうだったのか。でも、ありがとう!」


 これで俺の好奇心を満たせる!

 俺は心をワクワクさせながら、ソフィアを連れて自室に戻った。


 そして精霊術、というか世界の事象を改変する秘術の授業が始まった。


 ソフィア曰わく、世界の事象を改変する秘術は主に二つに分けられるらしい。


 一つは精霊術。

 前にソフィアが光の玉を作り出したのは精霊術に該当するようだ。


 もう一つは魔術。

 これは術式という特殊な事象を改変するための、数学で例えるなら公式のようなものを用いるのだとか。


 ざっくりした説明だし何がなんやらでよく理解できなかったが、とりあえずそういうものだと納得することにした。

 疑問解消のため、一つずつソフィアに質問していく。


「世界の事象を改変って、つまりどういうこと?」

「事象を改変する。それは言ってみれば、『ない』ものを『ある』ことにしてしまうということです。例えばわたしの掌には何もありませんよね?しかし事象を改変すると、ほらっ、この通り!掌に光が現れました。『何もない』を『光がある』に変えた。これが事象を改変するということです」


 ソフィアは俺の質問に嫌な顔をせずに説明してくれる。

 説明も実演を交えてしてくれるため、非常にわかりやすかった。


「精霊術には術式?っていうのがいらないのか?」

「はい。精霊術はイメージを魔力に伝え、思い描く通りに事象を操る術ですから。術式を介さずイメージだけで事象を改変するため、自由度は高いですが繊細な改変にはかなりの技量が必要となります」

「……もしかして、『精霊』術って言うぐらいだし、精霊じゃないと使えなかったりする?」

「はい、基本的(・・・)には精霊しか使えません。わたしたち精霊の身体は半霊体という特殊な体質をしており、世界との親和性が他の生物より高いのです。世界との親和性が高いというのはそれだけ魔力との相性もよく、それはイメージを魔力に伝えるのに非常に適していているのです。これまで精霊以外の半霊体は確認されていないため、精霊術と呼ばれているのかもしれませんね」


 体質の問題なら仕方ないのか。いや、ソフィアは基本的にはって言った。つまり他に精霊術を使う例外があるのかも。

 けど半霊体っていう体質のことが気になった。


「半霊体は世界と親和性が高いって言うけど、もっと詳しく教えてくれ。漠然としすぎて、いまいちピンとこない」

「……えーっと、半霊体は肉体が霊的要素を強く含んでいると言いますか。肉体でありながら霊体としての特徴を持ち合わせていると言いますか。う、うぅ~」


 うまく説明できないらしく、ソフィアの説明が要領得ないものになった。俺が理解しきれず首を傾げると、ソフィアは難しい顔をしながら可愛く唸った。


「えーっと、肉体を持ちながらも、肉体を霊体に変えられるんです!こんな風に!」


 少し自棄になったソフィアはそう言うと、有言実行なのか、彼女の身体に変化が表れた。具体的には、ソフィアの身体が薄くなり、彼女の背後が正面からうっすら見えている。


「霊体は物質の影響を受けなくなります。そのため、この通りコップを持ち上げることもできません」


 ソフィアが傍に置いてあったコップに手を伸ばすと、彼女の手はコップに触れることなくすり抜けてしまった。

 その今までで一番非現実的な現象に、俺はあんぐりと口を開けて驚いた。


「……すっげー」

「ふぅ~、……霊体は霊力という、魔力が変質する前の高次のエネルギーで構成されているんです。だから霊体化って精霊術を使うより疲れます……」


 霊体化を解いて元に戻ったソフィアはもの凄くしんどそうだった。だから俺はしばらく彼女に休憩して貰うことにする。

 リビングに行き、キッチンからお茶とコップを持って来る。


 ソフィアが休憩している間、俺はタブレット型の電子端末を持ってきて、これまで教えて貰った内容を記録していく。この作業が終わる頃にはソフィアの顔色も大分良くなっていた。

 俺達は授業を再開した。

 

「そう言えばさっき精霊術を使えるのが精霊だけかって聞いたとき、『基本的には』って言ったよな?つまり、例外もあるのか?」

「はい。その例外の一つは以前にも申し上げた『眷属契約』ですね」


 『眷属契約』という言葉で、俺はこの前の浴場での出来事を思い出した。


 ソフィアの身体、柔らかくて、そしてすっごい綺麗だったなぁ~……って、今思い出すのはそっちじゃねーよ!


 あのときも『眷属契約』がどうこう言ってたな。確かーー


「『眷属契約』すると主は眷属の技能とかを与えられるんだっけ。え、まさかっ!」

「契約によって精霊術が使える力も与えられます」

「マジですか!すげーなっ!!だったらすぐにでもやりたいんだけど、その契約ってどうすりゃできんの?」

「え!?あ、いや、それは……」

「?」


 急に言いよどむソフィアに俺は首を傾げる。

 何かあるのか?


「実はそのぉ、契約する為の儀式に必要な道具がなくてすぐにはできないんです……」

「…………、え?ええぇぇえええっっ!!?」


 明かされた衝撃の事実に度肝を抜かれてしまった。


「それじゃあお前、俺と契約するのはどうするつもりだったんだ?」


 ソフィアは俺と『眷属契約』をして、神殺しの手伝いをするべくわざわざ異世界から来たはずだ。なら当然契約の為の準備は万全にしているはず。そう考えていたのだが、これは一体どういうことだ?


「わたしもここに来る前は、こちらで必要になる物はしっかり準備をしていました。しかしこちらに来る際事故があり、侍女から荷物を受け取る寸前に転移してしまって……結果、わたしは何も持たずにこちらへ来てしまったのです」


 その説明を聞いて、俺はソフィアと初めて会ったときのことを思い出した。

 確かにあのときソフィアは何も持っていなかったな。

 あのときは事情を知らなかったから疑問に思わなかったが、今思い返せば、女の子が身一つだけでやって来るなんておかしな話だった。


「なるほどね。んー、とりあえず日用品は俺達が用意してやれたけどさ、儀式に必要な道具ってのはどうするつもりだ?こっちで手に入れられる物なのか?」

「恐らく問題ないと思います。魔術の先生にこういった場合の道具の集め方を、色々教えてもらいましたから。ですから、そのぉ……集めるの、手伝っていただけませんか?」

「あぁ、いいぞ。むしろこっちからお願いしたいぐらいだ」

「よかった……」


 安心したのかホッと息を吐くソフィア。

 俺としてはとても興味惹かれる話なので、全力で協力する所存である。

 精霊術を使えるようになるのが楽しみだ。

 決して俺の好奇心の為だけじゃないぞ。覚えないと星神とやらに殺されかねないというのもあるのだ。


「そんじゃあ精霊術はまた今度ってことにして、今は魔術の方を教えてくれないか?」

「わかりました。ではまず魔術についてですが、魔術とは『術式』を用いた術の総称です。魔術には様々な種類が存在し、魔術を使う者によって違いがあります。魔法陣など図形を地面に描いて行う儀式魔術、声に魔力を乗せる詠唱魔術、結晶や金属を媒体にする媒介魔術など色々です」

「ソフィアはどんな魔術を使うの?」

「わたしは魔力を操って直接術式を描く魔術を使います。精霊が使う魔術の中で一番ポピュラーな方法ですね。何か試してみましょうか?」

「え、いいの?それじゃあお願い」

「わかりました。ではーー」


 ソフィアは手をコップに翳して集中し始める。

 その瞬間、変化が起きた。

 さっきソフィアが霊体化したときとは違って、独特な緊張感が部屋の中を満たしていく。俺が緊張で押し黙っていると、ソフィアの翳した手の先の空間に光が集まり出した。


 もしかして、俺が見えるように魔力を集中させているのか?


 俺は魔力というものが見えないが、今彼女の手の先で光っているのが魔力なのだろうというのは察することが出来た。

 普通見えないものを、見えるようにする。

 それは非常に大変な作業に違いない。なぜなら集中しているソフィアの額には大粒の汗が滲み出ており、表情がとても苦しそうに見えたからだ。


 集まった光が動いて幾何学的な文字を空中に描いていく。

 何重にも重なっているような、それぞれ大きさも種類も違う図形になっているような、不可思議な何か。

 まるで糸を編むように絡まり合い、不規則で、それでいてどこか規則性があるような、幾何学的な文字を含んだ三次元的な図形のようなモノが出来上がっていく。

 これが『術式』か。


 俺はそれに驚きの声を上げることなく、ただその光景に見入り続けた。


 術式が一際強い輝きを放ちコップに吸い込まれるようにして消える。するとコップが浮き上がり、すーっと俺の胸の前辺りまで移動した。

 俺は両手を前に出しコップを掴む。

 するとコップが先ほどまでとは違い、熱くなっているのに気づいた。


「今術式に組み込んだのは、コップの中のお茶を温めること、コップをユーマ様の前まで浮かせて運ぶことの二つです。魔術は術式に組み込む要素や条件の数が増えることで複雑になり、そしてその分魔力を消費します。今回はそれほど複雑にはならないタイプの術式を実演しました」

「その割に疲れているみたいだけど大丈夫か?」

「問題ありません。お気遣いいただきありがとうございます、ユーマ様。ただ魔力を可視化するために、魔力を多く消費してしまっただけですから」

「そっか。俺の為にありがとうソフィア。……にしても魔力を可視化ってそんなに疲れるんだ」


 あの光の正体が魔力であるという俺の予想は当たっていたらしい。魔力の可視化が術者を疲れさせることも。

 俺は手に持ったコップをソフィアに渡し一息入れさせてから、それについて説明を求めた。


「魔力は素養のない生物には感知できないのです。それは魔力が物質ではなく高次元に存在するエネルギーであるから。魔力の元である霊力が物質に触れられないのも同じ理由です。しかし魔力や霊力を意図的に一点に集めると、素養のない生物でも見ることができるようになるのです。ユーマ様はまだ魔力を感知することができないようなので可視化させました。これの難点は見えるまで魔力を集める上に、術式維持と発動に必要な魔力が必要になり、いつも以上に疲れることです。正直疲れるだけでお勧めできない行為ですね」


 疲れた表情で、それでも笑顔を浮かべ説明してくれるソフィアに、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 俺なんかのためにそこまでしてくれてありがとう。絶対無駄にはしないよ!

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