1ー11 デート(3)
服と下着を買い終えた頃にはもう昼時となっており、俺達はショッピングモール内のファミレスで昼食をとることにした。
「いらっしゃいませ~」
元気の良い店員(男)に案内される。
運良くそれ程待つことはなかったが、店内の席は見た感じ全て埋まっていた。
「これ見て何食べたいかを決めてくれ」
俺はテーブルの上に置いてあったメニューの一つを手に取り、ソフィアへと渡した。
「……これは?」
「メニューって言うんだけど……もしかしてソフィア、そっちの世界で外食とかしたことない?」
「はい。実はわたし、お城の外で食事をしたのって、こちらに来てからが初めてだったんです」
ソフィアはえへへと笑いながら告白する。
俺はソフィアに対する周囲の過保護っぷりに呆れた。
(少なくとも、世間一般の常識くらいは覚えさせておいて欲しかった……)
そう思いもしたが、向こう側とこちら側の常識が同じだとは限らないのだから、下手に常識を覚えているより何も知らない方が良いとの判断だったのかもしれない。
「この中に書かれている料理を注文すると、店員が運んで来てくれるんだ。これは写真が見れるから、興味あるのがあったら教えてくれ」
「なるほど……わかりました」
そう言うとソフィアは真剣な表情でメニューを見始める。その姿が妙に可笑しく思えて、俺は彼女に気付かれないようにクスッと笑った。
適当にメニューを眺めた俺はさっさと頼む物を決め、ソフィアが決めるのをメニューを見ながら待つ。
しばらくするとソフィアはメニューの写真を指差しながら、注文する料理を示した。
その後、店員を呼び出して注文をした。
注文内容は、俺は中にチーズの入ったハンバーグのセット、ソフィアはカルボナーラ、そしてドリンクバーを二人分だ。
ソフィアがカルボナーラを選んだ理由は、似た物を食べたことがあったかららしい。
俺達はドリンクバーでジュースを取りに行き、服屋でのことを話題に談笑して待っていると、ウエイトレスが料理を運んで来た。
「あ~腹減った~。そんじゃ食おうか、いただきます」
「いただきます」
俺はフォークとナイフを手に取ってハンバーグを切り、一口食べる。うん、美味い。結構ジューシーだった。
チラッとソフィアの方を窺ってみると、彼女は俺とは違い上品な所作で食べていた。
「味はどう?美味いか?」
「はい、美味しいです。わたしが以前食べたものより味付けが少し濃いようですが」
「へぇー、そうなんだ。ソフィアが前に食べたヤツはどんなの?」
「確か……これよりもっと繊細で、素材の良さを生かした味……と言えば伝わりますか?」
「なるほどなー」
ソフィアは一国の王女。ということは、自然と彼女が普段食べる料理は一流の料理人が作ったものになるはずだ。巫女の修行の一環で贅沢はしていなかったらしいが、今食べているカルボナーラより繊細な味付けのパスタが作れる料理人も城の料理人なのだろう。
この店はファミレスの中でも結構美味しい所と評判なのだが、俺はソフィアが普段から質素な食事をしていたことに感謝してしまった。もし豪華な食事を食べていた場合、この店では満足してもらえなかったかもしれないから。
俺達はその後も他愛ない会話をしながら食事を続けた。最後に食べたデザートのアイスを嬉しそうに食べていたことから、もしかしたらソフィアは甘い物に目がないのではと思った。
□□
ファミレスを出た俺達はバスに乗って大学へと向かった。
「凄い……こんなに広いだなんて……」
「確かに広く見えるけど、今見えているのは一部に過ぎなくて、実際はもっと広いんだぜ?」
そんな会話を正門前でしてから、俺達は大学の敷地に足を踏み入れた。
そして歩き出して暫くすると、なぜか周囲から見られている事に気がついた。
(まさか、な……)
嫌な予感がして冷や汗を流す俺の袖を、不安そうな表情をしたソフィアが掴んだ。
「あの、何だかわたし達、周りから注目されてませんか?……もしかして、勝手に入ったのがダメだったのでしょうか……」
「勝手に入ったのがマズい訳じゃないから安心してくれ。それに――」
――注目されてるのはソフィアの容姿のせいだから。
そう言いそうになった俺はハッと口を噤んだ。まるでこれだとソフィアが悪いみたいじゃないか。
突然口を閉ざした俺を見て更にソフィアを不安にさせてしまったが、いきなり口を噤んだ影響ですぐに言葉が出てこなかった。
上手いフォローが思いつかなかった俺は「何でもない」と言ったのだが、ソフィアにはあまり効果がなかった。
そしてこうしていると野次馬の方から声が聞こえてきた。
「すっげー美人!」
「誰だよ、あれ。モデルか?」
「うわっ、あんな綺麗な人、私初めて見たかも!」
「肌綺麗~、やっぱ外国の人って違うなぁ~」
「もしかしてあの子、SNSの『服屋の女神様』の子じゃない?」
「あっ、ホントだ!?『服屋の女神様』じゃん!」
「おおっ、なんと美しい。まさしく女神様……」
「『服屋の女神様、水城工業大学に降臨ナウ』っと」
「写メ撮ろっと」
俺はそれらを聞きながら口端をヒクつかせる。これではまるで――、
「服屋の時の再現、だな。これは」
一日に二回も同じ目に逢っているという事実に、俺は心の中で驚愕していた。
というかさっきからソフィアに向かって、跪いて祈りを捧げる人が何人かいるんだが。俺達もドン引きしていたが、そいつらに気づいた連中もドン引きしていた。
「ソフィアってさ。無差別に人間を魅了してしまうような能力とか持ってないよな?」
「もっ、持っていないに決まっています!何を言ってるんですかユーマ様!?」
「いや、言ってみただけなんだけど……これを二度も見ちゃうとなぁ」
ただ居るだけでその場にいる者達を魅了し、混沌の渦の中心となるソフィア。この評価ってあながち間違っていないと思うのは俺だけだろうか。
「うぅ……わたしのせいじゃありません……」
若干涙目で否定するソフィアだったが、少なくともソフィアの容姿のせいであるのは確実だろう。
しかし本人に直接そう言うのは可哀想に思え、胸の内に秘めておく。
周りの目から逃れようと俺の背に隠れたソフィアが、何かを見つけたのか「あっ」と声を上げた。
「ほ、ほら!見てくださいユーマ様。あちらでも人だかりが出来てます!わたしだけが注目されてる訳じゃないんですよ!」
そう必死に訴えるソフィアが指差す先には、確かに人だかりが出来ていた。どうやら俺達と同じ目に遭っている人がいるようだ。
俺達が向こうの人だかりを見ている事に気づいた野次馬も、向こうで起きている騒ぎに気付いて注目していく。俺は周囲の変化を敏感に感じとる。
「ソフィア今の内に行くぞ。走れっ!」
「!?は、はい!」
ソフィアの手を取り野次馬の間を駆け抜ける。
背後から世の終わりに絶望するような悲鳴が聞こえてきたが、構うことなく走り続けた。
チラリとソフィアの方を窺う。
最初は呆けた表情をしていたが、目が合うとはにかんできたので、俺は気恥ずかしくなり顔を前に戻す。
何だか、今日は調子が狂うことが多い気がする……。
胸の内で溜め息を吐く俺。
しかし悪い気はしない。むしろ楽しんでいる自分がいる。
俺は楽しんでいる自分がいる事には気づいたが、ソフィアに対してどのような感情を抱いているのかは気がついていなかった。今繋がっているこの手のひらの温もりが、何よりの証拠だということにも。
□□
一方その頃、美奈穂ら四人はと言うと――、
「君、サラちゃんだよね?こんな所で会えるなんて、僕は嬉しいよ!」
「ちょっと何抜け駆けしようとしてるのよ!?はじめましてサラさん。私もあなたに会えて嬉しいわ!」
「オイコラッ!サラちゃんが怯えているじゃねえか!落ち着けお前ら!」
「いや、それお前のせいじゃ……ぐはあっ!?」
「ねえねえサラちゃん。今から私達の研究室に来ない?美味しいお菓子も出すからさ~」
「あっ、ズルい!だったら俺達の所にもっ!」
「私達の所にも来てぇ~、サラちゃ~ん!」
悠真達とは別の人だかりのド真ん中にいたのだった。
「あわ、あわわ……あ、あたしは……」
物凄い人数に囲まれ混乱するサラは、既に涙目になっていた。
サラは世界に名を馳せる天才発明家だ。もちろん水城工業大学に通う学生のほとんどが彼女を知っている。
その才能を狙った組織も数多く、誘拐されかけること数十回。しかしサラはとある事情から、一国を相手に出来る程の戦力が身辺を護っているため、一度も誘拐されたことはない。
まあ、サラを狙った目的が、彼女の愛らしい容姿に目を付けたアイドルプロデュースだったことも何度かあるのだが。
そんなサラが水城工業大学に姿を現せば、学生達が餌を求める魚の如く集まって来るのは必然と言えよう。
「サラちゃんがソフィアみたいになってるって思うのは、私だけかな?」
「いや美奈穂だけやないに。ウチだってあん時と一緒やな~って思ってたもん」
「まあ、サラちゃん可愛いからな。構いたくなるのはわかるぜ」
サラを取り囲む野次馬に呑まれ、少し離れた場所まで引き離された三人は、呑気に人だかりを眺めながら感想を言い合う。三人共呆れや諦めなどの入り混じった、疲れた表情をしていた。
「やっぱりサラちゃんをここに連れて来るのは止めとけば良かったなあ」
「まったくよ。あの子をここに連れて来ればこうなるって、簡単に予想出来てたことじゃない」
「仕方ねえじゃん。サラちゃんが尾行続けたいって言うんだから」
「そして止めへんだ結果がこれや」
どうやらサラは断り切れず、各研究室にお呼ばれすることになったようだ。
学生達によって彼らの研究室に連れて行かれるサラを見て、亮太が肩を落として呟いた。
「帰りてぇ……帰ったらダメか?」
「帰ったら悠真に、『亮太君がサラちゃんを放って先に帰りました』って言うから」
「じょ、冗談だって。だから今の発言はなかった事にしてください。じゃないとアイツに殺される」
泣き言を零した亮太を美奈穂が容赦なく切り捨てる。亮太は悠真に今の発言がバレた時の事を想像し、青ざめながら前言を撤回した。
もしあのシスコンにサラを放って帰ったと伝わった時には、比喩ではなく本当に血の雨が降るだろう。それぐらい悠真は家族の事が大好きだから。
「絶対面倒臭い事になるんやろうけど、ついて行くしかないやろ」
「はぁ~あ……悠真を怒らせるよりマシか~」
「ほら、二人共。置いて行かれる前に行くよ」
「「はぁ~~~い……」」
こうして美奈穂達四人の尾行劇は、一応幕を閉じるのだった。
□□
野次馬の中を駆け抜けた俺達は、そのまま事務室へと向かい許可証を貰ってきた。
そして今度は騒ぎになるのを避けるべく、なるべく人通りの少ない場所を選んで構内を歩いていた。
「ユーマ様、これからどちらに向かわれるのですか?」
首から下げた許可証を弄りながらソフィアが尋ねてきた。
「工学科の、世界の最先端技術を扱っている場所だよ。普通は一般人が入ることの出来ない凄い所なんだ」
「へぇー、それはすご……って、え?それ、わたし達も入れないのでは?」
「だいじょ~ぶ。許可を貰うために事務所に行ったんだから」
俺はこう言ったが、事務所に行っただけで許可が貰える訳がない。だから事務所の人に、許可をくれそうな俺の知り合いに連絡して貰っていた。
そして目的地の近くにやってくると、そこには五十過ぎのおじさん――俺の許可をくれそうな知り合い――が立っていた。
「久しぶり悠真君」
「大園さん、久しぶり。急に呼び出して迷惑だった?」
「いや、特に用事はなかったから安心してくれ。と言っても、君の頼みなら用事があっても駆けつけるがね」
「……そこは代理の人に任せて仕事しろよ」
「あの、ユーマ様。そちらの方は一体……?」
俺が突然見知らぬおじさんと気軽に話し始めたことに驚いたソフィアは、目を丸くしながら尋ねてくる。
紹介もせずにいきなり話し始めてしまったことを恥じた俺は、大園さんと呼んだこのおじさんをソフィアに紹介した。
「この人は大園昌和さん。俺の母さんの友人で、今回見学の許可をくれる人であり、この大学の学長で一応一番偉い人だ」
「はっはっは!一応は余計だよ、悠真君」
俺の軽口に動じることなく笑って返す大園さん。この程度のやり取りはいつものことなので、今さら気にしたりしないのだろう。
「それにしても珍しい事もあるもんだ。君がここに顔を出して、その上僕を呼び出すなんて。そちらの綺麗なお嬢さんと、何か関係があるのかな?」
「なに、ちょっと買い物ついでに街を案内してるだけさ。この街で一番有名な所はここだからな」
「つまり君は彼女に『アレ』を見せたくて、僕を呼び出したという訳か」
「その通り。話が早くて助かる。んで、許可してくれるかな?」
「いいよ。何やら事情があるようだし、特別に今日だけ許可するよ。ただ、君はともかく、普通は部外者を入れてはいけないことは理解しているかい?」
「ああ、わかってる。我が儘を聞いてくれてありがとう」
俺達は大園さんの後に続いて目的の研究棟へと向かった。
研究棟の入口はサラの作ったのと同じドアロックシステム――おざわ荘の浴場の物と同じ――が使われていたが、大園さんが認証システムに俺達を登録してくれたことで問題なく入ることが出来た。
長い廊下を歩き、幾つかの研究室の前を素通りすると、頑丈な壁と扉で守られた一室に辿り着いた。
「ようこそ、水城工業大学の誇る重力変動研究室へ」
重力変動研究室とは、現在世界で公表されている革新的な技術、重力制御を可能とした装置を用いた研究室だ。その研究内容は重力が変化することで起こる事象の観測と応用。例えばAポイントの重力を30Gにして、Aから10センチ離れたBポイントの重力を60Gにした時、二つのポイントの間の空間はどうなるのかなどを研究しているのだ。
ピンポイントで重力を自由に変化させられる装置の特色を良く生かした研究である。
「学長、それと……悠真君!?一体どうしてここに?」
俺達が入ってきたことに気づいた重力変動研究室の教授が駆け寄ってきた。そして彼は俺がいることに気づくと驚きの声を上げた。
大園さんが教授に訳を説明すると、彼は瞳を輝かせて俺を見てから、チラチラとこちらの様子を窺っていた研究生達に声を掛けた。
「喜べ皆、今日は悠真君が見学に来てくれた。何か話したいことがあれば存分に話を聞いてもらいなさい」
その言葉が言い終わった次の瞬間、研究生達が勢い良く俺の所に殺到してきた。あまりの展開について行けない俺は、この状況に目を白黒させることしか出来ないでいた。
彼らの瞳はどれも歓喜で満ちた輝きを放っており、邪険に出来ずどうすればいいのか悩んでいると、隣からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「そ、ソフィア?一体どうした?」
「いえ、すみません。ここではユーマ様の方が人気者なのだなと思ったら、つい……ウフフ」
「ちょ、笑うなよ~……」
どうやら先程野次馬に囲まれた時に、ソフィアが周囲を無差別に魅了してしまうのではと言った事を根に持っていたようだ。本人にその自覚はなさそうだが。
ああいう風に言ってしまった俺にも非はあるので、ソフィアを責める気にはなれなかった。
「にしても、何で俺はこんなにも歓迎されてんの?全く心辺りがないんだけど」
「そんなっ!悠真君はこの大学を救ったヒーローみたいな存在なんだよ!?」
俺の疑問に対し、信じられないと顔に書いてあるような表情をする研究生の女性に、俺はますます疑問を深める。
大学を救ったヒーロー?何の事だ?
「どうやら悠真君は本当にわかっていないようだ。皆、彼に話してあげなさい」
大園さんの一言をきっかけに始まったのは、褒め殺しという名の賛美の雨。羞恥のあまり俺の心が折れるのは、あっという間の事だった。
「……もうやだぁ……俺、そんな大層な人間じゃないよぅ……」
心が折れた俺は若干の幼児退行を起こしながら、部屋の隅で膝を抱え震えていた。
そしてソフィアはというと、研究生達から俺の話を聞いていた。
「凄いですね。経営難に陥っていた大学に技術を提供し、大学の運営システムを組み直してしまったなんて。少々意味のわからない部分もありましたが、ユーマ様がどれだけ凄い事をなさったのかは良~くわかりました!」
「そうでしょ、そうでしょ!確かに妹さんの技術を提供して貰ったことで救われたのだけど、ただ技術を与えられても当時の先輩達では持て余してしまうだけだった。だけどっ、それを悠真君が誰でも扱えるように大学のシステムを作り直しちゃったのよ!」
「しかもそれをしたのは十二歳の時。中学生になったばかりの時なんだ。もう凄過ぎて嫉妬なんて出来ねえよ」
「妹のサラちゃんは世界で注目される天才だから、その影に隠れちゃうことも多いけど、私は悠真君も凄い天才だと思っているわ!」
「ホント、水瀬兄妹は揃いも揃ってスゲーよっ!」
(やめてぇ~~~っ!それ以上褒めないで!恥ずかしさで死ぬぅ~~~~っっっ!!?)
俺は心の中で絶叫した。
皆の話を聞いている内に俺も当時の事を思い出した。
あれは母さんに無理を言って、大学を見に行った時のことだ。
大事な話をすると言うので邪魔しないよう隣で大人しくしていると、話の内容が経営に困っているというものだった。
それを聞いていた母さんが難しい顔をしていたので、俺は母さんを助けられないかと考えた。
そこで俺はサラが作った自立機械人形を見せた。
当時十一歳だったサラの技術は、その時点で世界で渡り合える領域に達していたのだ。そのため大学は俺の提案を即受けた。その結果、サラの技術を提供することになった。
そこからは研究生達が語った通りだ。
彼らにとっては英雄談になるのかもしれないが、俺にとってはただの黒歴史である。恥ずかしい。
「も、もうその話はいいだろ!そんな話するより、早く装置を使ってくれよ」
「ふむ、それもそうだな。皆、それぐらいにしてやってくれ」
「「「「は~~~い」」」」
その後は装置を使って遊ばせてもらった。装置によって実験ルームを無重力状態にして、ソフィアと一緒に遊んだのだ。
ソフィアは「魔力を使わずにこんなことが出来るなんてっ!?」と驚いていたが、むしろ俺は魔力でも可能なのかと驚いた。
無重力体験は今回が初めてではなかったが、意外と楽しむことが出来た。これもソフィアと一緒だったからなのだろうか。
無重力体験の次は研究生達に混じって激論を繰り広げた。
今更だが、俺は高校生であって大学生ではない。なのに彼らは俺がいることに違和感を覚えるどころか、むしろ居て当たり前のように接してくるのだ。時折自分が彼らより年下なのを忘れそうになった。
俺は激論に疲れ、少し離れた場所で休むことにした。
研究生達の方は、宝物を自慢するように自分達の研究結果をソフィアに語っていた。
その様子をぼーっと眺めていると、大園さんが傍にやってきた。
「ははっ、随分お疲れみたいだね」
「まあね。熱中し過ぎた」
大園さんは俺の隣に腰を下ろすと、ソフィアを見つめながら語りかけてきた。
「彼女――ソフィアと言ったか。あの娘は何者なんだい?」
「……どういうこと?」
俺はその質問の真意に薄々気づいていたが、すっとぼけて尋ね返した。
「僕は一応、君達家族の周囲にいる者は調べている。不当な輩が近づいていないか知るために。だが彼女の事は全く知らなかった。あの娘はいつ、君の所に?」
「四日前だよ」
「なん……っ!?では出会ってまだ数日の人間相手に、君が心を許したというのか?」
「そうだよ」
「ますますわからない。あの身内以外に心を許さない君の懐に、ああも接近出来るなんて、あの娘は一体何者なんだ?」
「そんなのは自分で調べろよ。いつもみたいにな。けど一つだけ忠告してやる。わからないからって、俺の機嫌を損ねるような方法は使うなよ」
「…………君がそう言うという事は、彼女にはよっぽど特殊な事情があるんだね。はぁ、だとしたら止めておくよ。君に嫌われるとアイリスさんにも嫌われる」
「最後はともかく、懸命な判断だと思うよ」
そして二人して苦笑いを浮かべる。
それにしても、やっぱりこの人も母さんのファンの一人だったか。母さんはこの街のアイドルを名乗れる気がする。
「そうだ悠真君。この前君のお父上とお話ししたよ」
「――何……っ!?」
父さんの話が出た瞬間、俺は頭の中が真っ白になった。
「いつだっ!アイツと、いつ話した!」
「一週間前だよ。あの方には多大な寄付を頂いているからね。今回もそのお礼をしたんだ」
「ふんっ、こっちには連絡なんて来てないけどなっ!」
大園さんが悪い訳ではないのに、父さんの話だとつい声を荒げてしまう。俺の事情を理解している大園さんは、そんな俺の態度に眉を顰めることもなく、むしろ気遣うような表情をしていた。
「……悠真君は……まだ、お父上の事が嫌いなのかい?」
「ああっ嫌いだ!大っ嫌いだ!俺を母さんと一緒におざわ荘に追いやった元凶だぞ?おざわ荘に来たから美奈穂達に会えたのは嬉しいけど、母さんまで一緒に追いやって悲しませたことだけは許せねえよ!」
「君って本当、家族想いの優しい子だね。お父上はその対象に出来ないのかい?」
「無理。アイツがあんな事をした理由を説明して、ちゃんと謝罪するまでは」
「そうか。……まあ、それは置いておくとして、だ。彼女、さっきからこっちを見ているよ」
「え?……あっ」
大園さんに言われて気づいた。荒げた声に気づいたソフィアが、心配そうな表情をしてこちらを見ていることに。
「あー、悪い。ちょっとカッとなることをこの人が言っただけで、ホント何でもないからさ」
俺はそう言って取り繕うが、ソフィアの表情は晴れない。
「ユーマ様は……お父様の事がお嫌いなのですか?」
「……っ!」
どうやらちゃんと聞こえてしまっていたようだ。
俺は何となく誤魔化し切ろうとは思えず、首肯した。
「そうですか……いつか、仲直り出来ると良いですね。家族想いのユーマ様が、お父様だけをお嫌いだなんて、わたしは何だか嫌ですし」
俺はその言葉に何も言い返せなかった。
本気で彼女も心を痛めているのがわかってしまう微笑み方だったから。
ソフィアの言葉は優しさに満ちていて、なのにとても心が痛くで、気を抜けば泣いていたかもしれない。
それ程までに、彼女の言葉は俺の心に深く届くものだった。
後一話でデート回は終了!その次はやっとファンタジー要素盛り沢山で行きますよ!(予定)




