表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
87/466

第八十三話・書庫荒らしの正体

グラたん「ふう、流石にもうネタがありませんよね。ああ、良かった良かったです」

グラたん「では、第八十三話です!」

 会場のアナウンスを聞きながら入場――する前から俺へのブーイングが絶えない。



『BUUUUU!!!』



 入場すると亮平たちが先に入場していたようでそちら半分は絶大な声援だ。



「嵩都、お前一体何をしたらこうなるんだ?」

「俺が聞きたい。俺は特に何もしていない」

「理由がある人は皆そういう……」



 最近毒舌になりつつあるフェルノの言葉に苦笑いしておく。



『両者準備は良いですか?』

「さて、始めようか」



 亮平たちが固有武装や魔法の準備をし始めたので俺も武装一式を装備する。

 どういうものかのおおよそは先の試合で分かっているだろう。

 亮平たちの陣形は亮平、博太、フェルノによる前衛三人後衛一人の布陣だ。

 明らかに速攻抑え込み布陣だ。やはり俺はそれを逆手に取る。



『それでは、開始!』



 開始と同時にクロフィナさんの支援が入る。

 そして前衛三人が突撃してきたので俺も前に出る。

 ただし、歩いて。まずは後衛を潰せば良いだろう。



「うおお!!」

「えいっ!」



 スキルと思われる色とりどりのエフェクトを纏わせながら計算された連携で襲い掛かってくるが、悉く(ことごと)無効化していく。

 うん、やはりちゃんと発動している。やっぱり愛は偉大だ。

 さて、俺は両手を前に出して十~三十程度のリ・タルの魔法陣を無詠唱で空中に展開し、クロフィナさんに向けて一斉発動する。



「ファリス・ウォール!」



 当然魔法防御くらいは張るか。じゃ、おまけしてラスサアル級を混ぜる。



 ズムッ――――



 たった一回の最上級氷魔法を唱えただけなのに魔法防御を貫通して中にいたクロフィナさんに突き刺さった。HPバーがゼロになり、地に付した。

 ……ちょっとした罪悪感。

 さて、俺は未だ攻撃を続けている三人に対して真空波を飛ばし、牽制する。

 予想通り奴らは過剰に反応した。

 まずは亮平を沈黙させる。

 この中で一番攻撃力があるのが亮平だが、奇跡やまぐれは常勝によって起こらない。

 そういえば……プレアと戦った時は常勝が発動しなかったな。

 相殺されたのか、もしくは同等以上の力量だからか……。



「くっ――おお!!」



 亮平が潔く死にに来たのでエクスカリバーを弾いて首を飛ばす。



「亮平!」



 博太が飛び込んできた。フェルノが来るまで少し遊んでやろう。

 その気になれば即死魔法でキュッと殺せるがそれでは面白くない。



「はあああ!!」



 型は城の剣術に似ている。教わったのがこの城だからだろう。

 博太の剣は思ったより実戦で使われた剣だ。小手先で言えば博太のが上か。

 特に意味はないが剣で受けてやる。後の布石にもなる……かな?



「博太、加勢する……!」



 そこへフェルノが爪を振りかぶって攻撃してくる。

 長年武術科にいるだけあってか、それに時折依頼に行っている成果中々鋭い攻撃だ。

 一瞬、狐って肉食だっけと思ったがどうでもいいと思い直す。

 夫婦なだけあって連携は上手い。上手い、が。



「それだけじゃ勝てないな」



 博太の剣を弾き、蹴りを腹にめり込ませる。



「ぐぅ―――」



 地面を二、三回ほど跳ねて転がる。

 フェルノは無視して俺は博太に追い打ちをかける。

 博太が避ける間もなく再び蹴り飛ばし、空中にかち上げ、顔面にかかと落としを繰り出す。

 更にダメ押しの真空波でHPを削る。大体七割削ったかな?



「博太……逃げて!」



 背後からフェルノが襲ってくる。爪には爪を、龍スキルを使って左手だけ変化させる。

 緑色の竜鱗がついた手になる。爪は強吾で鋭く尖る。

 その手でハイタッチする。

 バキッ―――。フェルノの爪が粉々に割れる。

 フェルノが痛そうに爪から血を流しつつ一度距離を取ろうとしたのでちょっとだけ黒魔力を出して鞭状にしてフェルノに叩きつけた。

 しかもその鞭は自在に棘を出せるので衝撃が最も強い部分から棘を出した。



「――――ッ!!」



 叩かれた衝撃でフェルノが盛大に吹き飛んで隆起していた岩に体をぶつけて跳ね飛んだ。

 そして地面に落ちて力なく横たわった。

 しかし残念なことにHPがまだ一割残っている。

 かかとに逆爪を出して空中に飛翔し、フェルノの心臓めがけて思いっきりかかと落としを叩きつける。

 グニュリ

 そんな音を立てて逆爪がフェルノを貫いた。

 何のスキルかは知らないがしぶといことにHPを1残している。

 良く見ると数少ないMPをHPに転換して博太を待っているようだ。

 えーっと、フェルノのMPは後24なので実質25回殺せばいいか。

 龍化を解き、ヴァルナクラムをそっとフェルノの額に当てて言う。



「舞え、真空波」



 ズタズタになり見る影もないほどの死体――肉塊となったフェルノを一瞥して博太を待ちうける。

 タイミング良く駆けつけた博太がその惨状を目の当たりにする。



「嵩都てめぇぇええええ!!」



 そりゃ激高するよな。

 それは後で謝るとして俺は激高した博太にもう一度蹴りをかまして地面に伏せさせる。



「ヒャッハァ――――ッ!!」



 思いっきり弾けた悪い笑顔で地面に転がっている博太に剣を振り下ろす。



「ぐあああ!!」



 一回、二回、三回、四回……。ゲェヘヘヘヘヘヘ!!

 一旦手を止めて深呼吸する。

 黒魔力を出したのは間違いだった。思考が虐殺者のそれになっていた。



「えいっ」



 最後は拍子抜けするくらい簡単に首を刺して仕留める。



『そこまで! 博太さんが死亡したため嵩都さんの勝利となります!』

『BUUUUU!!!』

 




 その後は再びフィールドが解かれ、博太たちが生き返り、俺は即、皆に謝った。



「すまん、やり過ぎた」

「いや、多分こうなるだろうとは思っていたから問題ない」



 亮平が言うと皆了承していたように頷いた。

 なんか地味に傷つく。念のため博太、フェルノには誠心誠意を込めて謝っておいた。

 実際逆の立場なら俺だってああする。いかんな。

 そこへ放送が入った。



『お知らせします。予定していた次の最終戦ですが、プレアデス選手が矢の残弾数がないということで棄権したため今期の優勝は魔法科Sクラス、朝宮嵩都さんに決定しました! よって、この後は表彰のため体育館に移動願います。繰り返します……』





『BUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!!』



 学校中から一斉のブーイングが響き渡り、後に優勝したのに称えられることのなかった優勝者として俺の名前が伝えられた。

 俺……もうこの学校に居場所ないんじゃないか?

 表彰はつつがなくブーイングの嵐で終わり、祝勝会と称してソルヴィー亭にみんなで行き、何故か俺持ちで騒ぐことにとなった。

 ……虚しい。こんな終わり方ってあるかい。

 俺、何か悪いことした? ただ勝負に勝って優勝したのになんでブーイング食らわなくちゃならないの? 終わったら終わったで何故か俺持ちで奢らされてるし。

 別に経費で落とすからいいけどさぁ。一体、なんでこうなのだろうか?



「やってらんねぇよぉ……」

「よしよし」



 俺がやけ酒しているとプレアが机に伏して泣いている俺の頭を撫でていた。

 プレアから聞くにあの戦いは本当にギリギリだったらしい。

 次の試合で使うはずだった予備の矢まで使ってようやく勝てたとか。

 本当かどうかは分からないがそういうことにしておこう。



「アストはよく頑張ったよ」



 校長としての後処理も概ね終わったらしいルーテも参加してやさぐれている俺を慰めてくれた。

 ぐびぐびぐびぐび――――








~幕間


 魔王城のとある一室で軍師ポノルは一冊の本を読んでいた。



(これは――)



 本はエンテンス城の地下から拝借して来たものだ。

 内容は地球と勇者の関連性や召喚のタイミング。召喚される場所。地球と言う星。召喚の方法。召喚される人種などが乗っていた。



(たしかにこの間スルトさんが言っていた通り帰還方法だけは乗っていませんね)



 不自然にも破られた箇所があり、ポノルは本棚から別の一冊を手に取った。



(あの持ってきた紙は良く分かりませんでしたが、ふふっ、まさか一度人間界に行った時に荒らした書庫がスルトさんが行った場所と同じだったとはなんとも運命を感じますね。それに、知識を蓄えた今ならこの文字も解読出来、更に地球へと行ける魔術式も作れます。ご丁寧に地球の座標まで乗っていますからね)



 不気味な笑い声と共にポノルは本を読み進めていく。



(地球――ロンプロウムとは違って科学と呼ばれる鉄で出来た世界。核という魔法より劣る物質をぶつけ合う下等生物が争う箱庭……当初はロンプロウムを制圧して人間共に復讐しようと考えていましたが、ロンプロウムは思っていたよりも難航しそうですね。それならば地球に進行し、制圧した方が被害が少なくて済みますね。そして私の目的も達成できますね)



 ポノルは一瞬だけ暗い笑みを浮かべた。



(シャン、それに皆のためにも私が頑張らなくては。それに私の目的、愚劣な人間を踏みにじり、私たちが受けた責め苦をそのまま味合わせて――)



 そこへ扉を叩く音がする。



「姉ちゃん? まだ起きてるの?」



 ふと時計を見ると既に深夜を回っていた。

 本を閉じて仕舞い、扉を開けた。



「もう寝ますよ。それより何故シャンがこの時間に起きているのですか?」

「姉ちゃん、最近根を詰めているように見えるから心配で……」


(あら、シャンに気遣われるほどやってましたか?)


「そう……。ありがとうね。さあ、部屋に行きましょう」

「うん」



 部屋に魔力を流して照明を落とし、扉を固く閉じた。

 シャンと歩いていると少しだけいつものシャンの匂いと違うことに気付く。



(あら? ―――ああ、シャンもそういうお年頃ですか。相手はやはりスルトさんでしょうかねぇ。それとも……?)




 少しだけ腐った脳を持つポノルはそっちの方向性も考慮したがそれはないと思った。



(ふむむ。スルトさんはかなりの優良物件ですし繋がりを考えれば良好過ぎる――しかしロンプロウムでも同じことを考える輩はいるはず。いや、勘違いかもしれませんね。まずはシャンに聞いてみましょうか)


「うん? シャン、貴方……」



 ポノルの予想通りシャンは体を強張らせた。



「な、な、なに?」

「いいえ。隠す必要はありませんよ。そういうお年頃ですものね」

「な、な、な、何言ってるのさ! 僕はスルトのことなんて考えてないんだからね!」



 カマをかけられたシャンは勝手に独白した。


(あら、自分の勘が少し鋭くなったかしら)


 ポノルは自身の評価を上方修正した。



「スルトさん?」

「あぅ」



 急いで口をふさぐが時遅く、ポノルの目には厭らしい輝きが灯っていた。



「ふぅん。スルトさん……ねぇ」

「な、なに?」


(我が妹ながら可愛いこと。もう少しだけ弄りましょうか)


「夜な夜なするくらいなら本人に言えば良いと思うのですが?」

「にゃぁ―――――ッ!?」



 シャンの頬が真っ赤に染まった悲鳴が夜中の城内を駆け巡った。



「い、いやだって、スルトだって僕となんて――」

「政略結婚という手もありますよ。仮にも一国の姫ですから、貴方は」

「け、け、け、結婚…………」


(少し刺激が強かったかしら? まだまだ子供ということにしておきましょう。――それを言うなら私もなのですが……)


 紅潮から脳内妄想に走ったシャンを抱えてポノルはシャンの部屋に向かった。


※多分これが最終回となります。お付き合いください※


亮平「人が人に罰を与えるなど!」

嵩都「愚かな者にロンプロウムを汚染し破壊する権利もない! 私が粛清する!」

亮平「人間の知恵はそんなものだって乗り越えられる!」

嵩都「愚民どもにその才能を利用されている者の言う事か!」

亮平「エゴだよ、それは!」

嵩都「人間のエゴ全てを飲み込めるほどロンプロウムは巨大じゃない! 見ろ、ムスペルヘイムはもう落下しているのだぞ!」

亮平「馬鹿にして……。そうやって貴様は永遠に他人を見下すことしか出来ないんだ! 見てろ! あんな石ころ一つ、押し出してやる!」

博太「すまんな……皆の命をくれ!」

嵩都「この暖かさを持った人間がロンプロウムを破壊するんだ。それを分かれ、リョウヘイ!」

亮平「そんなことさせるか!!」


※ご愛読ありがとうございました※

グラたん「さて、次回からはちゃんと戻ります」

嵩都「次回、竜族の里」

カルラッハ「行け、ムスペルヘイムよ! 忌まわしき記憶と共に!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ