第八十四話・竜族の里
グラたん「第八十四話です」
~嵩都
あの戦いから半月が過ぎた。
なんのって? 闘技大会だ。
六月の中旬に入った今日この頃、亮平とクロフィナさんの結婚が正式に公表され、ハイクフォックの大聖堂もまもなく完成するらしい。
結婚式の様子はST技術と名付けられたSTが開発した空中ディスプレイに映し出される予定だ。
式の一週間前に俺は国王命令で再びルーテの護衛に付くことになった。
一週間前ともなると色々書類が飛び交ったりして城内は大騒ぎだ。
学校は公欠の域を超えてついに休学を言い渡された。
それから一週間後にハイクフォックに向かい、式が行われた。
その式を見届けるのがウリクレアだというのが何とも面白い。
式場にはバルフォレスを除く各国の貴族や王族、エルフやウンディーネなどの首長が参列した。その後に続いて博太たちの式も行われた。
フェルノの両親とレイデメテス……博太の姉もコッソリ来ていた。
レイデメテスは慣れているのか毅然としていたが両親の方は貴族王族に囲まれて非常にオロオロしていた。当の本人たちは緊張して気づかなかったようだが。
その夜の事だった。
二組のパーティーで盛り上がっている所を抜け出し、大聖堂に来た。
大聖堂に来たのはウリクレアが俺を呼んだからだ。
「どうしましたか、教皇様?」
俺がそういうとウリクレアが大聖堂一面に盗聴妨害魔法をかけた。
そして俺とウリクレアの関係を疑った馬鹿共を爆殺した。
「もう一度聞こう。どうした、ウリクレア?」
「――カルラッハより緊急の通信です。この間追放した輩が反乱を起こしました」
それだけで十分理解した。他の情報は一切必要はない。
「分かった」
俺はたった一度だけ指を鳴らして、その反乱分子共を魔力に帰した。
「お手を煩わせて申し訳ありません」
「良い。どうせこうなると思っていた。要件は終わりか?」
「はい。ありがとうございます」
俺は外套を翻して大聖堂を出た。
愚か者共め……。だが、これで見せしめにはなったはずだ。二度と起こらないと良いが。
時が過ぎるのは早い。季節は熱い七月を迎えた。
学校も衣替えを済ませ、俺も薄着が多くなった。
学校では相変わらずブーイングを食らう。そろそろ本格的に泣きたくなってきた。
さて、そんなことよりも学校が夏季休業期間に入り、俺たちも修行期間に入った。
俺はバルフォレスに行き、聖女と呼ばれる人物を発見した。
予想通り固有魔法持ちだ。その魔法は勇者スキルと同等の奇跡という魔法だ。
文字通り戦争国家である軍国では回復魔法が使える者は重宝される。勇者もしかりだ。
その聖女を特定したので俺は四天王とシャンたちに伝えた。
下準備は整った。さて、俺は自分を強くするために竜の里へ向かった。
位置は前にレニールから教えて貰ったので分かる。
竜の里は連なる山脈の奥の奥、秘境と呼ぶにふさわしいくらい深い場所にある。
そこには常に霧が立ち込み、それは空中にまで及び、積乱雲のように積み重なっていた。
そして正規のルートでない者が入った場合の迷いの魔法が掛けられていた。
俺は邪神スキルにある魔法無効化を使ってこれを対処した。
抜けた先で目に入ったのは城だ。それもアジェンド城に引けを取らないくらいの巨城だ。
山脈を駆使した天然の山脈や森が城壁がわりになっており、要塞となっていた。
まずは門の前まで降りた。そして歩いていく。
「止まれ、人間が何用だ」
門兵と思われる人の形を取った、しかし、長い角や尻尾、特有の羽がある――差し詰め、竜兵士とでも言おう、そいつが待ったを掛けた。
「レニールという者に会いに来た。通してほしい」
すると竜兵士は訝し気に俺を見た。
「……本当か? レニール様は竜族の中でも高位の種で在られるぞ。貴様のような人間に接点があるとは思えぬが」
「ならば邪神と言えばいいか?」
少々考え込むと『待て』と言ってなにやら上と話しているらしかった。
数分も立つと城下町の方から人型になったらしいレニールがやってきた。
何故分かったか。それは魔力の流れや匂いが全く同じだからだ。
人型のレニールは先程、竜兵士が高位種と言ったことが分かるように整った顔立ちだった。
それに賢者を思わせる袖の長いローブに錫杖を持っていた。
頭には簪に見える朱色の物を差しており、髪飾りの装飾をしていた。
竜兵士はレニールを見るや頭を下げて一礼した。
「この者が邪神と名乗りレニール様に会いたいと申された者です。……正直、信じられませんが……」
レニールは竜兵士の言葉を手で遮り『良い』とだけ言って俺の方を向いた。
そして長い耳を下げ、背中の羽を畳み、会釈をした。
これは竜族が相手に最大の敬意を払う礼だということを後で知った。
それを見た竜兵士はそれを見て恐れおおのき、レニールに倣って頭を下げた。
「まずは兵の非礼をお詫びさせて頂きます」
と言ってレニールは再び頭を下げた。
頭を上げた時には再開を喜ぶ笑みを浮かべていた。
「ようこそいらっしゃいました。我々、竜族一同は邪神様を歓迎致します」
どうぞこちらへ、と続けられ、竜を象られた門をくぐった。
門の先は人間界よりも活発で少しうるさくも感じられた。
ここには竜だけしかいないらしくすれ違う人が角、尻尾、羽を見せていた。
人型なのはなにも大人だけではない。子供もそうだ。
親と一緒に買い物をしたり、何かを買って貰おうとだだをこねたりしているのは、もはや人間と遜色ない様に思わせる。上空には飛竜形態の竜が飛んでいた。
中央を過ぎれば先程見た城へと着く。
レニールの客人とあって城への入場は顔パスだった。
「邪神様には、まず我が主に謁見をしていただきます。これはこの国を訪れた者は必ず最初に向かうよう定められているのです」
「分かった」
城の門が開かれると同時にレニールが言った。
それに応じ、答えを聞くやレニールは歩みを再開した。
廊下を歩き、階段を昇って行くと扉の前で止まった。
扉の前にいる兵はレニールを見ると即座に門を開けた。
その先に進むと竜族の武官や文官。蚊帳の仕切りで相対する様で、その奥に人が居た。
近いものだと平安や奈良時代の天皇に謁見することに近いだろう。
レニールが一礼した。俺は勝手が分からないので騎士礼を取った。
すると、それで良かったのか奥から凛とした声が響いた。
「遠路はるばるようこそ、邪神よ」
「お初お目にかかる。余は朝宮嵩都という者。以後、お見知りおきを」
思いっきり本名だがスルトと偽名を名乗るよりはいいだろう。
側近たちはその挨拶は気に食わなかったのか俺を睨みつけた。
舐められていると思い、俺は威圧を飛ばすと奴らは視線を下げた。
それをどうとったのか彼女は蚊帳の奥で微笑んだ。
「憶えておこう嵩都よ。我は竜神コウクラーナ。この辺り一帯を統括している」
お互いが名乗り終わった所でコウクラーナは表情を引き戻した。
「さて、嵩都とやら。そちは何用で来たか? 戦争を起こすために来たわけではあるまい。仮にそうなら我々はこの場でそちを捕える必要がある」
コウクラーナが言えば周りの側近や文官、武官が警戒態勢を取り殺気を向けた。
「別に戦争がしたいわけではない」
それに対して俺は警戒する必要はないと笑みを作った。
「レニールに会いに来たのは当然の事として、目的は『修行』だ」
この時この場に居た全員が『まだ力不足とでも言う気か』と思ったらしい。
そう思いながらもレニールは検案していた場所を指定した。
「でしたら大罪の間が良いと思います」
レニールの言葉に、コウクラーナは頷いた。
そして何故か武官や文官が口元を歪め、笑った。
「許可する」
そしてレニールに促されて一礼をし、退出した。
それに続いて次々と退出していく。
その中には恐怖の視線が大半を占め、一部、好奇の視線があり、それらは俺の背を追っていた。
レニールに案内されたのは一つの部屋だった。
扉には魔方陣のような紋が刻まれており、その取っ手をレニールが掴み、押した。
すると扉が開き、白い部屋があった。
奥には一面がガラスに、いや、クリスタルになっている壁があった。
「ここが大罪の間です。――現在の邪神様に最も適していると思われます」
大罪の間……なんとも不気味な名前だな。
「ここではどういう修行をするつもりだ?」
聞くと、レニールは驚愕した。
「まさか……入る前に八大罪を従えるとは――」
何を驚いているのかさっぱり分からない。
「レニール?」
「っと、申し訳ありません。……ここは己の闇を映し出す間であり、過去を映し出す場所でもあります。――正直に申し上げて、過去の邪神様も苦戦を免れなかったと聞き及んでおります。最悪、死に至る場合があります。しかし現段階の邪神様の力ですと、やはりここが最適かと思われます」
その言葉を聞き終わるより早く、俺は部屋の中に足を踏み入れた。
黒の魔力を纏い、ゆらりと侵入した。
「およそ一週間すれば、倒す、倒さずであろうとも終了する仕組みになっております」
「分かった」
レニールは俺の背に向けて頭を下げた。
「ご武運を」
レニールがそう締めくくり、扉が閉まった。
死に至るほどの敵、どんな奴が出てくるのだろうか?
「……さて、何が出て来るやら」
目前にあるクリスタルが少しずつ歪んでいく。
~竜族
全員が退出したあと、コウクラーナはいまだに苦しい胸を押さえていた。
「なんなのじゃ……私が威圧された?」
彼女は現在に至るまでに邪神と名乗る存在にあったことがある。
だが、そのいずれもまがい物の人間でしかなかった。
本当の意味で邪神にあったことがない彼女は不可解な思いに惑わされていた。
竜神と名乗ってはいるが実際は長寿なだけであり、神ではない。
「あの邪神――我が竜騎兵にあれだけの殺気を食らいながら笑顔だった……解せぬ」
コウクラーナは誰もいないのを良いことに大きな咳を込んだ。
この国で竜騎兵というのは人間の将軍と同等の価値がある。
ただの実力で言うならばこの国に入れた時点で十分な化け物だ。
「あれだけの強さを持っておきながら、まだ強さを望むか……一体何が彼を動かす?」
ただの疑問は興味へと変わり、好奇心となった。
コウクラーナは彼が退出した扉に目を向けた。
子供が笑うように、興味をむけるように笑った。
彼の事をもっと知りたい。その強さを求める意味を知りたい。
そう思ったがためにコウクラーナは立ち上がった。
大罪の間を後にしたレニールはコウクラーナに報告するために謁見場へ向かっていた。
すると、向こう側からコウクラーナが近衛を付けずにこちらへ向かって来た。
「コウクラーナ様、一体如何なされましたか?」
「レニールよ。あの者――嵩都と言ったか? 彼の様子を見たい」
「珍しいですね。コウクラーナ様が人間に興味を示すとは」
レニールの言葉にコウクラーナは鼻を鳴らした。
「人間? 馬鹿を申せ。アレは化け物の類であろう」
「左様ですね。初対面でいきなり威圧をしたり殺気を向けられて笑顔でいたりとおかしなことをするようですが」
「勝手が分からぬのじゃろうて。過去に来た自身を邪神と偽る人間もそうだったではないか」
「ええ……まあ」
「しかしお主もあの場で酷なことを申したのはどういう魂胆じゃ? 大罪の間などと言うが実際は邪神殺しの間ではないか」
邪神は悪意と罪の塊だ。大罪の間は過去の己の罪を見せて苦しめる部屋だ。
実に処刑場、拷問部屋と言っても過言ではない。
「しかしながら、あの邪神様は入る前の段階で八大罪を下に置きました」
レニールが言うとコウクラーナの赤い瞳が光った。
大罪は全部で九つある。嫉妬、強欲、怠惰、憤怒、色欲、憂鬱、虚飾、傲慢、暴食。
嵩都はこの内の八つを既に支配下に置いていた。
「ほう……。我らでも良くて三つが限度だというのにか?」
付け加えるならば、過去の邪神のほとんどは二つ目で朽ち果て、三つ目を突破できるのは極稀でしかない。
「はい。現在、いきなりですが最終関門の九大罪に挑戦なされています」
「ほほう! して、その大罪名は?」
「それは――っと、観戦室に到着しましたよ」
レニールがとある一室の扉を開けて中に入る。
そこには大型のテーブルと水晶玉が一つあるだけだった。
古代物質であるこの水晶玉はこの世界に置いてどの場所でも同時に最大三つまで展開し、観ることができる。画質や大きさは自由に変えられる。
レニールが水晶玉を起動して画面を出すとそこには嵩都ともう一人の嵩都が対峙していた。
一人は禍々しい黒魔力を纏い、もう一人は清き聖なる白魔力を纏っていた。
「して、レニールよ。先程の問いの答えは何ぞ?」
そしてレニールが先程の問いの答えを口にする。
「邪神様の最後の大罪は――虚飾です」
グラたん「ああ、もう冬なんですねぇ」
嵩都「急にどうした?」
グラたん「風邪、引きました」
嵩都「寝てろ」
グラたん「そうも行きません。ここまできて」
グラたん「最も、一週間近く拗らせているんですけどね」
グラたん「さてさてそんなわけで次回、虚飾の戦い」
嵩都「全力闘争か。初めてやるかもな」
グラたん「まあ、ある程度省略はすると思います」
嵩都「何故だ」
グラたん「風邪ですので」




