第七十五話・暴挙
鹿耶「第七十五話。さあ、今回は私がメインだ」
~筑笹
――昨夜、朝宮たちの家を出て、源道たちと別れた私は学生寮の自室に戻ってきていた。
前は三人、加藤と山崎という同級生と住んでいたが彼女たちはバルフォレスに誘拐されて今では私一人だ。
当然、彼女たちが居なくなっても生徒会はあるので代理を任命した。
そんなことはどうでもいい。今考えるべきは朝宮のことだ。
あいつはまだ何か隠している気がする。後藤と青葉についてもそうだ。
何故敵である魔王軍に囚われている彼女たちの存命を知れているのか。
情報屋から買っただけじゃ説明がつかない。
私も度々情報屋を使ってはいるが、とても魔王軍側にいる情報屋が人間に情報を売る――ましてや勇者という重要機密を知っているような人物と繋がりがあると思えない。
もし本当ならそれはそれで問題だが。
それにそんな重要な情報をわざわざ私たちに教える意味も分からない。
私たちは正直に言って先の戦いで朝宮一人に負けている。
勇者内で実質最強なのは朝宮だ。あれだけ強いのならすぐに助けにいけるはず――まさかあれだけ強くてもダメだったということか? だとしたら私たちはどれだけ強さを求めないといけないのだろう。
修行とは言ったものの自力の底上げでしかないからな。劇的に強くはならないだろう。
余程無茶しない限りは……。
腹括って無茶する時かもしれないな。修行自体は源道たちだけでも行ける。
その間に私は何故、邪神が魔神を復活させようとしているのかを知る必要がある。
ハイクフォックの時は混乱して冷静でなかったから聞き逃したのだ。
邪神は要するに悪くても神なわけだ。そんな神が神を復活させる?
邪神自身ではできないようなことなのか?
復活には魔王軍――先の戦いから分かったがあれは魔王軍ではなく魔王連合軍とでもいうべき存在だ。
分析の結果、纏まり方や士気、戦術が違っていた。
その魔王連合軍は当然魔神を復活させてこちらの世界を滅ぼすつもりだろうが、邪神には何の利益がある?
いや、待てよ。そもそも魔王軍と邪神軍の目的は本当に一緒なのか?
あの邪神は魔神を復活させた後はどうでもいいと言っていた気がする。
―――まさか……いや、あり得なくはない。邪神は声色や体系からして男性だ。
ということは魔神は女性の可能性がある。
惚れた女性のためならえんやコラなんてよくある話だ。
―――……あながち冗談に思えなくなってきた。
とりあえず明日時間があれば聞いてみるか?
はぐらかされたら尾行して邪神の居城に行ってやる。協力者の立場を考えれば悪くはされないと思う。
私はST工房に行き、開発中の個人装備フライトユニットを借りた。
朝宮への対抗心から作ったのだと推測できる。
念のため試運転してみるが問題はなさそうだ。
正午になった。午後の授業は公欠し、田中たちと合流して城へ向かう。
制服姿のままだが問題はないだろう。
謁見場で待ってしばらくすると重々しく扉が開いていく。
来たようだな。この場には私たち勇者14人と国王のみしかいない。
邪神が威圧をまき散らしながら入ってくる。共は青い髪の男性だ。
従者にしては強い。私たちが単独で挑めば負け、総がかりならば勝てるような相手だ。
「――失礼。少々回りに潜んでいた鼠を気絶させて貰った」
あ、やっぱり居たのか。国王ならやりかねない。
「今更余の自己紹介の必要はないな。背後にいるのは余の四天王が一人カルラッハだ。知識力と忠誠心は余の配下の中で随一である」
背後にいるカルラッハが邪神に対して僅かに会釈した。
信頼は厚いようだ。しかもあの強さで文官らしい。
武官は一体どうなってしまうのだろう。
「さて、本題に移ろうか。日程だが、およそ二か月後の七月二十日の一日で終わらせたいが依存はあるか?」
私はすかさず手を上げる。
「依存はないが聞きたいことがある。いいか?」
「構わない」
「何故七月二十日に指定したのか教えてもらえるか?」
「だろうな。およそ二か月に指定するのはバルフォレスの場所と内部経路、殺害する人物の調査をするためだ。相手が協力的であれば杞憂だがな」
少し疑問が生じた。おかしな話だ。
「殺す人物を分かっていない? では何故アネルーテ様が贄だと知っているのだ?」
「名前だけは知っている。それがどういう人物かを知らないだけだ」
「では、どうやって見つける? 同姓同名はいるはずだ」
「それは問題ない。一定の時期になるとその固有魔法を所持している者が分かる目を余は持っている。同姓同名、影武者、例えドッペルゲンガーでも分かるのだ」
厄介だな。それではこの後に殺されるアネルーテ様の影武者は出来ないか。
「なるほど。では貴方自身が何故魔神を復活させようとしているのか聞いても良いか? いや、これを聞かないと今回の事には協力できない」
さあ、何て答える。はぐらかそうものなら得意の理詰めで白状させてやる!
「――それは、余にも分からぬ」
「――は?」
邪神の答えに私は素で驚いた。
「何を言っているんだ? 目的も分からぬまま復活させようとしているのか?」
「如何にも。それが余の役目」
――どうしよう。これは予想していなかった。
まさかその役目のためにしか動いてなかったとは。
嘘を言っているようには見えない。仮面を被っているが嘘をつくときは必ずボロが出るんだ。そしてそういう空気を纏う。それがこいつにはない。
つまり、こいつは本当の事しか言っていない!!
落ち着け、昨夜決めたじゃないか。何のためにフライトユニットまで借りてきたんだ。
「そ、そうか。私からは以上だ」
「他は何かあるかな?」
誰も手を上げない。先ほどの言葉のショックが大きかったのだろうか。
「では、七月の二十日の早朝にここに来る。転移して行くので酔い止めを持つことをお勧めする。では、また会おう」
――なんだろうかコイツは。本当に日程を伝えるだけだった。
邪神が退出していき、私たちも今日はもう終わりなので退出する。
こちらの修行日程も決まったのでチャットで飛ばしておく。
――あ、そういえば後藤と青葉たちには届いてないのかな?
邪神を追いかけつつ後藤たちにリンクやチャットを飛ばしてみるが圏外と出た。
……圏外なんてあるんだ。さて、手だてがなくなったので彼女たちは置いておく。
外に出ると予想通り邪神たちは空を飛んだ。兵士たちは岩? みたいのに乗っている。
「ST・オン」
フライトユニットを起動する。そして少々不安定ながらも飛び上がる。
くう、やはり試作機だからか安定性が悪い。
だが、この機会を逃すわけにはいかない。
「タル・スニーク」
私の限界である第二楷のタルを詠唱して気休め程度に隠身をかけておく。
そして全力で飛行すること十分ほど経過すると空中に巨大な大陸が現れた。
大陸だ。浮遊大陸。壮大でどこまでも続いていそうな大陸。
そこはとても幻想的で、一種の感動さえも覚えるような光景だった。
っと、それはともかく邪神を追わないと!
だが流石にMPが切れかけて回復薬をちびちびと飲んでいる。
更に飛翔して上空五百万kmくらいだろうか? 酸素も薄くなってきて息苦しい。
その辺りまでくるとアジェンド城並の巨大な城があった。
寄りにも寄って山岳地帯を天然の要塞に見立てた城だ。
それに敵が来ることも想定して斜面や城壁にはバリスタが配置されている。
――こんな場所に敵が来るとは思えないのだが。そもそも酸素が薄い故に生物などいるのか?
疑問は尽きないが、ゆっくり見学している暇はなさそうだ。
邪神が城の中に入ったので私もこっそり後を付ける。
城下町に着くと同時だろうか、フライトユニットが壊れた。
結構不味い事態になったが今更引き下がれないし帰れない。
くそ、行ってやる!
「なんだ……これは……」
それとなく町を眺めるが本当に邪神の城なのかと疑うくらい治安が良い。
それに大陸で行商でもしているのか魔物や人間らしき人物が商売をしている。
とりあえず目的を果たすため、私は邪神城に侵入した。
運が良いというべきか見張りには見つかっていない。
城内を巡回する兵士にも、だ。
上の階に上がると文官や武官と思われる人間が大きい扉の向こうへ入っていく。
多分、あそこが玉座なのだろう。ということは左右から入れる箇所があるはずだ。
移動して迂回した部屋に入ってみるとやはり玉座に繋がっていたようだ。
玉座の前に立っているのは邪神。その前には青色の髪の男性――確かカルラッハと言ったか? そのカルラッハがいた。
聴覚を強化して大天幕の内側から盗聴してみる。
内容は政治的な物ばかりだ。特必すべきことはなさそうだ。
――ズズズ
私が立ち去ろうとすると扉が開いた。誰が入って来たのだろうか?
少しだけ顔を出して正体を確認する。確認したらすぐさま抜け出そう。
だが、それは躊躇われた上に――――私は目を疑った。
朝宮だ。何故彼がここに居る。いや、何か別の交渉に来たのかもしれない。
「おお、邪神様。おかえりなさいませ」
「おかえりなさいませ」
――ッ! どういうことだ。カルラッハも、あの邪神も朝宮に頭を下げただと!?
まさか、あいつが邪神だったのか!? いや、今カルラッハが言った通りだ。
あいつが邪神なんだ。
私の中で何かが燻った。それが怒りなのか悲しいのか良く分からない。
裏切られていたという絶望なのかもしれない。
これが分かっただけでも収穫だ。私は緊急用の転移結晶を握る。
この転移結晶はこの世界では超が付くほどのレア物だ。一個で一生遊んで暮らせるような額がある。
手に入ったのは本当に偶然だ。何度も売ってしまおうかと悩んだ。
情報は手に入ったが、もう少し様子を見てばれたら逃げる、そうしよう。
「あら? 筑笹さん。今日の課題はもう終わったのですか?」
――体が硬直する。固有武装を出して背後を振り替える。
そこには私たちがよく知っている女性がいた。
「……ヴェスリーラ先生?」
「はい。スルト様に何か御用でしょうか?」
知った顔だったのでいつもの調子で話かけ―――違う。冷静に考えろ! 何故ヴェスリーラ先生がここにいるんだ! それにスニークが解除されている!?
どうする? いや、それ以前にヴェスリーラ先生は今なんて言った。
スルト様? 邪神の名前か。だとしたら―――ッ。
「ところでカルラッハよ。何故勇者を招き入れた?」
鹿耶「くっ、不味いな……」
グラたん「はい、これは非常に危険なパターンですね」
鹿耶「何とかして脱出しなければ……」
グラたん「はい、次の回は間違いなく十八禁展開ですね」
鹿耶「くぅ! それだけは何が何でも回避せねば!」
グラたん「次回、魂の会合」
鹿耶「魂は余計だ。それにそれでは私が死んでしまっているではないか」




