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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第七十六話・会合

スルト「フハハハハハ!」

鹿耶「まだだ……やられてなるものか!」

スルト「では、せいぜい足掻いて見せろ。第七十六話だ」



 背後から朝宮の声がする。

 いや、違う。いつもの朝宮の声じゃない。

 相手を無条件で屈服させるような冷気を纏った声だ。



「申し訳ありません。殺害も考えたのですが邪神様のお考えに沿わないと思い、生かして招き入れ、お戻りになられる際に指示を仰ごうと考えた次第です」

「――そうか。良く分かった。咎めはせぬ」

「寛大なお心に感謝します」



 コツコツ――



 朝宮が此方に近づいてくる。

 

 

「どうしたのですか、筑笹さん?」

「ヴェスリーラ。からかうのはそれくらいにしておけ」

「はい。筑笹さんが面白い反応をするものですからつい……」



 ヴェスリーラ先生は口に手を当ててクスクスと上品に笑う。

 はぁ、と朝宮が吐息を吐いて私の背後に止まった。

 大天幕が開かれ、私の姿が露わになる。

 ――正直、怖い。怖いが、私はたった一言呟いた。



「――――――転移」



 これで朝宮からは逃げきれるだろう。そして亮平たちに一刻も早く教えないと――。

 そこで私は気づく。転移していないことに。



「筑笹、ゲームでもよくあるだろう? 魔王、大魔王、邪神の前からは決して逃げることが出来ない、と。悪いがお前は魔法も道具も使うことは出来ない」



 私は瞬時に本型の固有武装・レイゲルヒルデを開いてスキル名を叫ぶ。



「大桜舞!」



 ――何も起こらない。背後を振り向くと朝宮が私に向かって右手を伸ばしていた。



「無効化――――常識だろ?」



 いっそ清々しいまでに存在そのものがチートだ。



「そしてお前から固有武装を剥奪し、余の手に召喚する」



 ――冗談だろう!? 

 それは一瞬のことだった。私の手からレイゲルヒルデが消え、朝宮の手に召喚された。

 私たちにとって固有武装は最後の生命線だ。それをこうもたやすく奪われた。

 強奪や略奪系スキルも食らったことがあるが固有武装には効かなかった。

 その点、どうやったかは分からないが朝宮は私たちの天敵というべき存在だ。



「ふむ、悪くないな。さて、大人しくこちらに来てもらおうか」



 私はもうどうすることも出来ないので大人しくついて行く。



「あ、これは没収です」



 背後からそっと手が伸びてそっと転移結晶をヴェスリーラ先生に奪われた。

 これで本当に打つ手なしだ。

 ――死ぬかもしれん。

 朝宮は邪神もどきに何かを言って玉座を出た。

 私もついて行き、最上階と思われる東の棟に連れていかれ、私たち二人のみになった。

 東の棟最上階には部屋があり、朝宮は私を入れて扉を閉めた。

 中は小奇麗な調度品で揃えられ、皇室みたいな感じだ。



「まあ座れ」



 促されて座ると朝宮は高級そうな紅茶を淹れ、私に差し出した。

 自分の分も淹れ終わると朝宮は対の席に座った。



「何故、と思ってないか?」



 朝宮が紅茶を一口飲んで私に問いかける。



「何故俺がここに居て邪神と呼ばれているのか? 俺が筑笹たちを騙しているんじゃないか? ヴェスリーラが何故いるのか?」



 見透かしたように問いかけられる。確かに知りたいことだらけだ。



「許可は貰っている。望むのなら全て教えよう。ただしここから出られなくなるがな。聞かないのならば記憶消去をしてこのままアジェンド城に送ろう」

「―――聞く」



 ほぼ反射的にそう答えていた。自由よりも知識欲が勝ってしまった。



「なあ、お前は私たちを裏切っていたのか?」



 最初に言葉に出たのはそれだった。



「いや。裏切ってなどいない」

「お前は敵なのか? 魔王軍の味方なのか?」

「敵ではないと言っておこう」



 二つの質問をし、私は一番聞きたいことを口にした。



「お前は――邪神、だったのか?」

「そうだ」



 一番聞きたくない言葉を聞いた気がした。いや、聞いてしまった。



「何時からお前は邪神になってしまったんだ……」

「順を追って説明しよう。まず、俺は最初から邪神だったらしい」



 ――――らしい?



「らしいというのはプレアが俺の邪神スキルを奪っていたからだ」

「プレア……プレアデスさんが?」



 意外だ。プレアデスさんも朝宮に加担していたようだ。



「そうだ。正式に邪神となったのは魔帝が死んだ後だ」

「それで、お前は何をしようとしているんだ?」

「――神を、この世界の創造主を殺して物語を破壊し、この世界を救う」



 救う? 破壊する? 一体何を言っているんだ?



「神? 神はオーディンじゃないのか?」

「あれは作られた存在でしかない。物語上に登場する脇役だ」



 次々に疑問が生じる。初めて聞く言葉も多い。

 というか神オーディンが脇役なんだ……。



「物語とは一体なんだ?」

「その前に筑笹はこの世界をどんな世界だと思っていた?」

「それは――もちろん異世界だ。もしくはどこかのゲーム世界だと思っていた。スキルや魔法、剣がある世界だからな。そういう小説も読んだことがある」



 それが一番濃厚な線だと思った。

 だが、朝宮が口にしたのは別の答えだった。



「そう、異世界だ。だが、同時に本の中の世界でもある」

「ほ、本?」



 本当に本の中なのかは分からないが、と前置きをして朝宮は続けた。



「創造主というのは作者のことだ。俺たちはそいつの書いた物語に閉じ込められている。そしてこの物語はあと二か月ほどで終わり、この世界は崩壊するそうだ」



 嘘だろう……。あと二か月しかないのか。



「それで、その作者を殺して物語を書き換えるってことか?」

「そこまでは分からない。プレアがやることだからな」

「プレアデスさんが? ということは魔神とは――」

「ああ、プレアのことだ」



 ―――ッ。これも、出来れば知りたくなかったのだろう。

 理性が受け入れを拒否しているように頭が真っ白になっていく。



「そのためにアネルーテ様を殺すというのか?」

「そうだ。世界を救うためのわずかな犠牲だ」



 僅か……。確かに僅かだろう。世界を救うのに八人殺せば良いのだから。



「……それで、全部終わったら生き返らせてハッピーエンドということか?」

「出来ればそうしたいが……そうは行かないかもな。全てが終わったら生き返らせて皆に言うつもりだ」



 ……私の中で朝宮の評価が少しだけ上がった。

 例え終わった後だとしてもけじめをつける気はあるようだ。

 だが、個人的な感情を言うと――。



「許されないぞ……」

「だろうな。だが、俺はプレアが居てくれればそれでいい。それ以上を望むつもりはない。許されるつもりもない」



 その言葉で朝宮がプレアデスさんに相当依存していることが分かる。

 まあ……相思相愛な気はしていたが。



「つまり、お前はプレアデスさんのために行動していた……そういうことか」

「そういうことだ」

「……まだはぐらかされている箇所があったな。まずは贄となる八人を教えてほしい」



 これは一番知りたかったことだ。

 もう行動出来ないにしても答えくらいは知っておきたい。

 朝宮も想定していたようで答えはすぐに返ってきた。



「筑笹にもわかりやすく言うと、オーディン、ハウルベアー、魔帝、子竜、王子……ここまでは知っているな? そしてエンという少女、アネルーテ、そして……――――――――――――――――プレアだ」



 最後だけ、ものすごく嫌そうに言った。



「なっ!」



 当然、私は驚いた。驚愕の域を超えた。

 朝宮は感情を押し殺したように無表情になった。



「ネタバレをすると筑笹たちが俺とバルフォレスに行き、エンという少女を殺すと同時に魔王軍と邪神軍がアジェンド城に攻め込む手はずだった。そして俺は転移し、魔王城にある六本の魔剣を持っていき、プレアがアネルーテを殺し、俺が最後に八本の魔剣をプレアに突き刺し、プレア自身の固有魔法を奪い、固有魔法をプレアに流すことで完成する。もしプレアがしくじれば俺たちは全員死ぬ。出来たとしてもどれくらい時間がかかるかは分からない。プレアにすらわからないんだ」



 その言葉に、それ以前の事に私は憤慨した。



「朝宮……お前、自分が何をしようとしているのか分かっているのか! お前たちを傍から見ていた私が言うが好きなんだろ! お前もプレアデスさんも両想いなんだろ!」



 ずっと見てきた。思えば最初から朝宮たちは仲が良かった。

 気が付けば一緒に居た。時々離れ離れになるが基本的にいちゃいちゃしていた。

 だが、こいつは自分が愛した人を殺す、殺せると言う。



「――そうだ。だが、全ては計画を優先する。失敗すれば意味がないからな」



 あり得ない――。なんでこいつはそう淡々と言えるんだ。



「だが、そんなのってないだろう……。例え後でまた会えるとしても辛いだろ……」



 辛いで済むはずがない。下手をしたらもう逢えないかもしれないから。



「だろうな……。発狂するかもしれない。もしかしたらその性で俺が暴れ、世界が滅ぶのかもしれないな」



 朝宮もそこだけは不本意なのだろう。本心のように見えた。



「……朝宮、他の方法はないのか?」

「物語がある内はシナリオに逆らえない。死期を早めたりある程度違う行動を取ったりは出来るけどな。神はもうこの物語を見ていないだろうから」

「見ていない? ということは――」

「運が良ければ不意を突けるだろう。まさか書いた本の登場人物が飛び出して反逆するとは思っていないだろうからな」



 ――確かにあり得ない話だ。非現実過ぎる。

 その方法なら、万が一つに不意を突いて殺害できるかもしれない。



「さて、ここまでで他に質問はあるか?」



 私は一度話を整理して首を振った。

 今は与えられた情報で満足感が得られている。――自己満足だが。



「まあ、思いついたら答えてやるよ。さて、最後にヴェスリーラだが、あいつは俺の部下、四天王の一人で教育担当だ。今は研修として学校に行かせている。これが答えだ」



 四天王――ちょっと厨二みたいだが良いとは思う。



「――そうだったのか。彼女はこっちでもあのままなのか?」

「そうだ。なんたって気が弱い設定だからな。ちなみに俺がスキルで創造した」

「そんなことも出来るのか」

「神だからな。生死も操れるし、攻撃スキルも豊富だ。代わりに回復系がないからその点では勇者スキルで緩和されているな」



 確かに勇者スキルは回復のみだ。くそ、ずるいな。



「ん? なら、さっきの無効化は邪神のスキルなのか?」

「そうだ。敵を蹂躙するのに事欠かないスキルだと思ってくれればいい」



 最悪だな。特に回復しか使えない勇者からすると圧倒的に不利だ。



「私の固有武装を奪ったのもそれか……」

「いや、違うぞ。強奪や略奪系スキルはあるが俺はそれを使うことはない。というか奪っても劣化するから要らん。固有系は奪えないしな」

「じゃあどうやって?」

「理解習得というスキルだ。発動するだけで無作為に理解し習得していく――まあ、いわば凡人が天才になるための切符だ。お前にもその内発現するんじゃないか?」



 心当たりは今のところない。スキル欄にもないな。

 というか地球にいた頃でもお前は十分天才だっただろうが。

 内心で自らを凡人と言った朝宮に理不尽な怒りをぶつける。

 そこで嵩都が急に立ち上がった。



「っと、そろそろ時間だな。お前のことは俺が常時監視しているから兵士はつけない。城内も勝手に歩いて良いぜ。城下町の方も見てくれ。なんか文句があればカルラッハに言ってくれ。後、何か欲しいものがあれば侍女に言ってくれ。じゃ、悪いが俺はちょっと帰るわ。亮平たちが腹減ったらしい」



 そういえば朝宮とプレアデスさんは亮平たちの飯を作る係だとか前に言っていたな。



「――そうか。分かった」

「じゃあ、また来る。それとお前は俺の客人扱いだから、悪いようにはしない」



 朝宮はそういうと窓の淵に手をかけて飛び降りた。

 飛行――便利だな。スキルがなく自由に飛べない私たちからしたら羨望のスキルだ。

 ――これからどうしようか。それに色々な事実を知り過ぎてまだまとまっていない。

 メモを取ったら少し寝よう。頭が疲れた。

 私はメモに聞いたことを書き綴り、新たに発覚して疑問を書き綴ることに集中した。



 コンコン――。



 いつの間にか寝ていたようだ。

 ある程度身嗜みを整えて出迎える準備をする。



「はい、どうぞ」



 扉は自動開閉式で中にいる私が許可しないと朝宮以外は入れない仕組みになっているようだ。

 現に侍女や兵士も入ることは出来ていない。

 それに扉だけにかかわらず無断侵入しようと朝宮が召喚される仕組みになっている。

 そう朝宮自身が言っていた。



「お邪魔しますよ」



 扉が開くとそこには魔帝様がいた。



 ――――は?



「えっ? は、ま、魔帝……様?」

「ええ。お久しぶりですね、鹿耶さん」



 ど、どういうことだ? はっ、まさか朝宮が約束通り蘇生していたのか?



「なんで――死んだはずでは――」

「嵩都さんに蘇生されました」



 やっぱりか。存在チートめ。この程度は造作もないのか――ッ。

 私が驚いていると魔帝様は非常に穏やかな笑みを浮かべてこちらに来た。

 生前ではあまり見ない表情に驚いていた。



「嵩都さんに聞きましたよ。私が亡き後、随分頑張ってくれたそうですね」

「……はい。しかし、好奇心に勝てずこうして囚われてしまった次第です」

「ふふっ、鹿耶さんらしいですね」

「面目ありません」

「そんなに固くならないでください。それに私はもう魔帝ではないのですから。是非、サフィティーナさんと呼んでくださいな」



 魔帝様が肩の荷が既に下りているような表情でそう言う。



「そ、それは――」

「恐れ多いですか? 歳の差は関係ありませんよ。例え二児の母だとしても貴方とは友人になりたいとずっと思っていましたから」



 ――光栄なことだ。私なんかにそう思ってくれて――。

 魔帝様――いや、サフィティーナさんがほほ笑みながら私に手を差し伸べる。

 私はその手を取り、目に涙を浮かべていた。



「はい、喜んで」

「ありがとうございます。これから毎日が楽しくなりそうですね。話し合ったり、気絶するまで殺し合ったり、実に楽しみです」



 ――あはは。そうだ、そういえばこういう人だった。

 実に殺し合い理論にかけては朝宮――いや、もう面倒くさいし皆も呼んでるから嵩都と呼ぼう。その嵩都とが一番気が合いそうで怖い。

 私はから笑いをしながら対サフィティーナさん対策を考え始めていた。


グラたん「ううっ……運命は覆せないということですね」

鹿耶「一体何の話をしているんだ。私はこの通り生きている」

グラたん「冗談です。それでは久々にお願いします」

サフィティーナ「筑笹鹿耶を失った亮平たちは心配をしながらも明日へと進んでいく。次回、伝承の守護者」

グラたん「はい、ありがとうございます」

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