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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第六十四話・アジェンドの裏と闇

嵩都「第六十四話。大国の深淵、特とご覧あれ」


国王命令で謁見場に来ていた。

いつもとは違って国王を始め、宰相、大臣、アネルーテ、近衛騎士、王宮魔導士、来賓――様々な人たちがこの儀式に参列していた。



「それでは汝、朝宮嵩都を第二王女アネルーテの専属近衛騎士に任ずる」

「ハハッ!」



ここで異議を唱える者はいない。

俺の裏の顔を知るものなら尚更異議は唱えられない。



「異議あり!」



そして異議を唱える者はこの城の中、貴族の中でも位の低い者たちだ。

要するに新米貴族やハブられ貴族の代表格だ。

古株貴族や上位貴族はこういう場で獲物を見定めてシャブっていく。

現に異議を唱えなかった貴族共の目が蛙を見つけた蛇の目だ。



「お、おい、止めんか」



先ほど異議を唱えた若者の父親らしき人物が止めに入った。



「何故そんな素性も知れぬ奴に王女殿下の護衛など……この場にいる者は節穴か!」



そして貴族は一同に失笑する。



「流石は若いだけある」

「あの家は最近武功で成り上がった家ですなぁ」

「ほぅ、しかしいささか常識にかけておりますな」

「何を笑っている!」



若者は失笑を買っている意味が分からず更に喚きたてる。

あまりにも無様だ。貴族の世界を知らな過ぎている。

仕方ないので俺が仲裁役を買って出る。王に礼し、若貴族の前に立つ。



「まあまあ。そんなことを言っても始まりませんよ。初めまして勇者です」

「そんなことは知っておるわ!」

「おや、それは可笑しい。私の素性を存じ上げてないと先ほどおっしゃられていたようにお見受けされますが?」



若貴族の顔が紅潮し、貴族たちが少々声を漏らして笑い出した。



「言葉の綾だ! それに何が勇者だ! そんな肩書き程度に皆騙されて!」



こいつは典型的な馬鹿下級貴族だな。言葉使いが出来ていない。

それに状況的に異議立てするのはこの場しかなかったとはいえ癇癪を起し過ぎだ。



「ふむ、それで? 結局貴方はどうしたいと?」

「決まっている! 王女殿下にはもっと相応しい人物がいるはずだ!」



あー、そういうことか。結局こいつはアネルーテの騎士になりたかったと。



「少なくても貴方ではありませんね」

「なぁ――――ッ!」



やべっ、思わず口が滑った。



「そこまでにせんか。陛下の御前であるぞ」



ナイス宰相。危うく決闘を申し込まれるところだった。

この場合の危うくとはこいつが半殺しにされることを意味する。



「それにこれはもう決まったことだ。第一、陛下は異議立てを認められておらぬ」



そういえばそうだ。その言葉で他の貴族が噴き出した。



「決―――」



いよ、待ってました!



「取り押さえろ!!」



 宰相の一瞬の機転で半殺しに出来なかった。

 宰相を見ると俺に向かって首を振っていた。

 ――チッ、読まれていたか。


「な、なにをするんだ! 離せ、この!」 



 衛兵が駆けつけて若者貴族が抵抗するものの取り押さえられた。

 そして父親共々別室へとお連れなされた。



「さて、式を再開しようか。アネルーテ、良いな?」

「はい。彼は知らぬ人ではありませんしその実力は良く知っておりますゆえ」



 アネルーテがそういうと国王は納得した素振りを見せた。



「そうか。では現時刻より任を開始せよ」

「ハッ」



 俺は命令通りにアネルーテの傍に行き、背後に立って待機する。






 式と簡単な打ち合わせが終わって貴族たちが退出していく。



「では、参りましょうか」

「はい」



 アネルーテの後に続いて俺も退出する。



「待っていたぞ」



 退出すると同時にそこには先ほどの若者がいた。

 アネルーテが興味の欠片もなく立ち去るので俺も去る。



「待てと言っているんだ!」



 とは言え今の俺は任務中の身、どんな風評が立とうとも勝手な行動は出来ない。



「どうした臆病風に吹かれたか!」



 そんな風はないと内心で突っ込んでおく。



「ええい! この腰抜けめ!」



 もうどうでもいいので彼の声を意識の外に出してアネルーテに追従した。



 任務に従事する間に俺は分身体を作り出し、とある情報屋に芝居を依頼することにした。





 仕事を終えて風呂に入った就寝前。

 俺はまだ狸寝入りしているプレアを起こした。

 それからの問答無用のキスを食らい、それから俺は口を開いた。



「プレア、そろそろこの世界の奴らに情報を開示してもいいんじゃないか?」



 余計な事を一切言っていない言葉を正確に理解したプレアが頷いた。



「そう? 確実にやるなら黙っておいた方がいいと思うけどなぁ? まあ、嵩都には何か考えがあるんだよね。計画に支障が出ない限りなら大丈夫だと思うよ」

「ありがとう」



 言いたかったのはそれだけだ。俺はプレアを抱き枕にして寝静まった。







~幕間



「なんなんだあいつは!」



 若貴族の青年は苛立ちと共に壁を殴りつけた。



「お、おい、止めんか。誰かに聞かれでもしたら……」

「親父は黙ってろ!」



 彼の声に父親は黙りこくる。

 彼の苛立ちが募り、頂点に達しようとしたとき、前方から美女と美形の面々がやってくるがその足どりは少し暗い。

 彼はそいつらの顔を見て先ほどの勇者と名乗る青年同様の美形さに苛立ちを募らせた。



(ちっ……だが所詮は平民だな)



 彼は向かってくる一団の服装を見てそう決めつけた。



(それにあいつら中々の上玉じゃねぇか)



 ジロリと情欲の滾った視線で彼女らを見た。

 この国、この世界では地位が人生の大半を決める。

 だからこそ、平民に生まれ持前の腕のみで成り上がった彼は貴族になれた、ただそれだけのことを威張り散らしていた。



「おい、お前等」



 と、彼らを止めようとしたが彼らは何かを話しているようで聞こえていないようだ。

 いや、呼び止めた彼自身のことが眼中にないようだ。



「おい、無視すんじゃねぇ!」



 ガッとすれ違った青年の肩を掴む。

 そこでようやく気が付いたのか青年は彼に目を向け、他の仲間も足を止めた。



「ん? なんだ?」

(なっ――)



 敬意の欠片もない言葉に彼は絶句した。



「なんだじゃない! 俺は貴族だぞ! お前等が敬うべき人種だぞ!」

「はっ? おい、筑笹ヘルプ。こいつ何言ってんだ?」



 彼の視線の先には中々に大きく発育した胸を持つ美女が居た。



「大方、最近成り上がって有頂天になっている貴族だろう。そんなことよりも佐藤が会えると連絡をくれた。先の戦いで破損した結果と威力の算出がすんだらしい。私たちの機体も出来上がったそうだ」

「おお、マジか! それは急いだ方がいいな!」



 青年は彼を完全に度外視し、彼女たちを連れて廊下を歩いて行ってしまった。



(なんなんだ……なんなんだよ)

「ちくしょうがぁぁぁああああ!!」



 貴族なのに、貴族になったのにまるで相手にされない現実に彼は雄たけびをあげた。





 夜――彼は帰宅せず路地裏の情報屋に来ていた。



「へい、何をお望みですか?」

「勇者……今日王女殿下の護衛になった勇者の情報だ。金はいくらでも出す、全部くれ」



 すると情報屋は顔を歪めて彼に向かって手を振った。



「あいつか……無理だな。その情報だけはやれない」



 彼はその態度に苛立った。



「なんでだ! 金はいくらでもあるんだぞ!」



 彼の言葉に怖気づかず情報屋は呆れたように首を振った。



「それ以上に命が惜しい。知らないようだから教えてやるがこの国にいるならあいつにだけは関わらない方がいい」

「はぁ? 勇者なんだろ、あいつは? なんでそんなに――」

「あー、あんさん、表の人だね」



 彼は動揺した。高い金を払ってまで裏紹介の伝手を使ったのにばれたのだ。



「くくっ、裏の人間なら口をそろえてあいつのことを『闇』そう呼ぶ。理由は簡単だ。あいつはこの国の闇 そのものだ―――と、しゃべり過ぎちまったな」



 彼は情報屋の言葉に食いついた。



「……裏の情報ならくれるのか?」



 その言葉に情報屋は少し思案する。



「――いいぜ。だが、間違ってもそれを表に出すなよ? 死にたくなければな」

「分かった」



 彼はエルが詰まった袋を取り出して情報屋の前に置く。



「――あいつは、最近ポッと出てきた奴だ。俺は一度しかその裏の姿をみたことがないが、アレは人間じゃねぇ。常識のある人間なら人は殺さねぇ。奪わねぇ。だが、あいつは平然とやる。奪う奴は大抵しっぺ返しを食らうと相場が決まっているがあいつに限ってそれはねぇ。アレはずっと奪い続ける一種の化け物だ。これは推測だが――あいつからもし何が大事な物が一つでも奪われれば、この国は亡ぶ。いや、この国だけで済めば良い。あいつのコネクションは大貴族をも凌駕している。その気になればこの国さえ乗っ取られかねない。なんであいつが国王に従っているのか理解し難いね。人質を取られているようにも見えないし――」



 そんな非現実的な話があるか。彼は必死にそう思い込むしかなかった。

 だが語られることが真実であると理性が理解している。



「悪いことは言わねぇ。あいつと、あいつの周り、勇者たちには何があっても関わるな。お前さんが貴族として生きたいのなら、あいつのする事に異論を上げるな。奪われるのなら大人しく奪われろ。間違っても恨むな、奪うな」

「そんな理不尽な――」

「それはこの世界全てに言えることだ。どこに平等なんて言葉がある?」



 彼はそういわれて、昔の自身を思い返した。

 いくら努力しようとも報われない。才能がないから。

 平民と貴族の差。生まれ落ちた環境の違い。金の量。顔つきの違い。権力の差。

 叩けばいくらでも出てくる不平等。



「お前さんの気持ちは分かる。私とて同じようなものだ。だからこそ言える。あれは不平等の頂点だ。決して覆ることのない理不尽の塊だ。いいな? いくら努力しようがその差は埋まらない。ま、愚痴っちまった詫びとしてもう一つ情報をくれてやる」



 彼は情報屋から聞いた言葉だけで敗北を悟ってしまった。

 彼はぼんやりと情報屋の言葉を聞いていた。



「昨日、北門で見ちまったんだよ。あいつの本性。あいつは仲間を仲間と思ってない。残虐過ぎる。ましてや第一王女様の首を絞めて殺そうとするなんて……」



 ふと、彼の口元が吊り上がった。

 それに気づいた情報屋が先んじて宣告する。



「止めておけ。それを表沙汰にしたら、あいつじゃなくてお前の命――いや、お前の全てが危なくなる。言ったからな?」



 彼は何も言わずに情報屋を出て行った。





 そして数時間後、黒のコートを纏った青年が入ってくる。



「お勤めご苦労。これは報酬だ」

「いえいえ。貴方様のおかげで繁盛しておりますわ。今後とも御贔屓に……」

「そうさせて貰う。では――」



 青年は情報屋に報酬を渡すと姿を消した。





 次の日の明朝、とある成り上がり貴族の一族が屋敷内で無残な姿になって発見された。

 その中に肢体がちぎれ飛んで見るに堪えないことになっているが辛うじて原型を留めていて若貴族だと判断できる肉塊が転がっていた。

 その一族の死体、屋敷内にいた者たちは揃って首が無く、その全ての首が屋敷の中庭に丁寧に鎮座していた。



嵩都「次は俺の過去回になりそうだな」

プレア「わくわく」

嵩都「……出来れば知らないままでいて欲しいなぁ」

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