第六十五話・朝宮嵩都
グラたん「ご注意警告。この回はいつもの五割増しでグロくなっております」
グラたん「狂気、狂乱、惨殺、拷問、薬物等々が練り込まれております故、閲覧する時はしっかりと心の準備をして、眩暈や吐き気などを感じた時はすぐに閲覧を中止してください」
鹿耶「どうでも良いが、この回よりもグロいラノベは割りとありそうだぞ?」
グラたん「念の為です」
~嵩都
アネルーテの護衛を請け負ってから三日が過ぎ、俺たちはハイクフォック城に向かっていた。
転移やゲートなんていう楽な移動手段はない。魔界がうらやましい。
要するにST製の携帯移動型の一軒家に俺とアネルーテ、従者としてアネルーテが連れてきたプレアと司と一緒にハイクフォックまで旅していた。
ヴェスリーラは既にムスペルヘイムにて待機している。
さて、この家だが必要最低限の物が設置されている。
家の原動力は馬二頭と魔力だ。御者は俺。つまり常時俺の魔力が吸い取られているわけだ。車輪はゴム製で耐震加工と対破加工をしてある。
内部には水や電気が通っている。これも魔力で代替している。
ハッキリ言って常人が十人と千本のポーションがあってやっとローテーション出来るような代物だ。
なんでこんな馬鹿みたいなのに乗っているかというと大典の腹いせ――実験に協力しているからだ。
これで役に立たないという結論が出たらぶっ飛ばす。
邪神モードになっていない通常モードではかなりの疲労がある。
だが、それ以上に精神的疲労がある。
「アストー、お茶頂戴」
「アスト、まだー?」
この雛鳥のようなピーチク騒ぎに参っている。
司が機密漏洩などクソくらえと言わんばかりに俺のコードネームを二人にばらした。
そして『アスト』が気に入ったのかアネルーテはそれ以降俺のことをずっとアストと呼んでいる。
そしてあと二人は完全に面白がって多様している。
今、俺たちは俺が常時張っている自動迎撃式物理魔法反射結界の家の中でカードゲームをしている。
先ほどから惨敗している俺はお茶汲み係となっている。
それもこれも川城商店が売り出したこのトランプが悪い。
何故負けるか。簡単だ、俺が全くスキルを使っていないからだ。
理解習得を作動させれば永遠と俺のターンだ。だがそんなのは面白くない。
そういうわけで俺本来の実力で惨敗している。
「アストー、桃剥いてー」
「アスト、早くお茶頂戴」
「アスト、早く続きをしましょう」
ええい、じゃかしいわ!
そんなことを負けた身が言えるわけもなく、俺は分身せんが勢いでお茶を汲む。
お茶を淹れ終わり、自作の茶菓子と共に持っていく。
「お菓子は私が持っていくわ」
「ありがとう。助かる」
一人でも持って行けなくはないが、さりげなくアネルーテが手伝ってくれる。
不意に視線が合うとアネルーテは恥ずかしそうに早足で茶菓子を持っていく。
ドクン、と一回だけ心臓が高鳴る。
そして次の瞬間に『ないわ』と我に返る。
やはりおかしい。アネルーテを見かけるとこういう事が偶にあったが、ここ数日は特に頻度が高い。
浮気性なのだろうか?
いや、そもそも一国の王女相手に恋するとか有り得ない。
それこそ亮平でもない限り……。
思考を振り払い、お茶を持っていく。
さて、それはまだ良かった。
道中の第二の難関。それは――。
「嵩都、お風呂行こー」
湯煙殺人事件である。
被害者は俺で犯人はいない。そうしたい。
プレアは羞恥心というものがないのか平然と誘ってくる。
いくら夫婦とて常識というものが――あるはずだ。多分。
「えっ、ええ!?」
「そ、それはちょっと――」
アネルーテと司はまともな反応をしてくれる。
「え、まさかいつも一緒に?」
司が恐る恐るというように聞いてくる。
「そんなわけないだろ。それに家には他に四人いるのに一緒に入れるか。ばれたら尋問は免れないぞ。主に俺が―――」
「でも誰もいないときは……ね?」
プレア、そこで爆弾を投下しなくてもいいだろ……。
ほらみろ。アネルーテと司が固まったぞ。
「だったら今は無理だという状況を把握してくれ」
「ヤダ」
そんな無垢な笑顔で言われても説得されません。
アネルーテと司に連行されてプレアは泣く泣く風呂場に行った。
俺はその間に皿洗いを済ませ、紅茶を淹れて彼女たちが出るのを待つ。
――とでも思ったか。俺だって男。ならすべきことは一つ!
と言いたいところだが下手をすると本気でプレアが俺を浴槽に引きずり込みかねないので止めておく。
プレアたちが出て紅茶を差し出し、入れ替わるように俺は風呂に行く。
~居間にて
「はぁ~」
「流石、嵩都は何でも出来て気が利くねぇ」
紅茶をすする音が聞こえる。
「で、本当に決行するの?」
司が確認するようにプレアに問う。
「勿論。それが私たちの仕事だからね」
「プレア……」
アネルーテが顔を紅潮させて紅茶を置く。
「ルー姉だって興味あるでしょ?」
「うっ……それは……そうだけど……」
プレアに言われてまた少し顔が赤くなる。
(やっぱり、ルー姉は嵩都のことを意識しているんだね……)
プレアは笑顔の裏でそう結論付けた。
「よし、それじゃ~、女子版ラグナロク、開始!」
『お、お~!』
プレアを先頭にアネルーテと司が浴槽へと近づいていく。
~嵩都
俺とて風呂くらいはのんびりしたい。
スキルを全部オフにして長々と浸かる。
今日は精神的疲労が溜まった。ここ一週間分は溜まったんじゃないか?
いい湯だ……お年寄り臭かったか? だがしかし風呂は悪くない。
浴槽は広ければ広いほど良く、露店であれば尚良いがそこまでの贅沢は言わない。
この風呂は良質な水を使った銭湯故に疲れも取れる。
心も体のコリもほぐれていくようだ。
いつもより少し長湯したところで俺は浴槽を上がった。
――ガタン
「ん?」
誰かが風呂場の入り口にいるようだ。影は三つ。
「あっ―――」
入口から聞こえた細い悲鳴。
俺は自分の今の体を確認する。
そしてバスタオルを全身に巻いて入り口に近づく。
――――見られた。よりにもよって三人に。
ガララ―――
「うっ」
「あう」
スライド式の扉が開き、アネルーテ、プレア、司の三人が倒れ込んだ。
「―――プレア、アネルーテ、司……見たな?」
「うっ―――」
そう、プレアでさえも目を見開いて驚いている。
そりゃそうだ。俺の背は他人が見て嫌悪感を抱くようなものだ。
火傷、切り傷、むち打ち、抉り傷、突き跡、銃痕、凍傷、そして一部だが白い骨が見え隠れしている。
俺の背中と肩、上半身は戦死した死兵などよりも酷い状態だ。ありとあらゆる拷問を受けたような跡が残っているんだ。
俺は更衣室に入り、着流しを羽織って居間に彼女たちを誘導する。
見られた事による不快感はあるが、それ以上に見てしまったプレアたちは気持ち悪いとすら思っていることだろう。それが気まずさとなり、空気を悪くしている。
長い沈黙――最初にそれを破ったのはプレアだ。
「あ、あの、そんなつもりじゃなかったんだ。本当に――」
徐々に言葉の勢いが無くなっていく。こういうプレアは初めて見るな。
「……いいよ。まさか覗かれているとは思ってなかったから」
俺はプレアたちのことを許す。そもそもスキルをオフにしていた俺も悪い。
「今まで黙っていてすまない。これは知らない方がいいと思ったんだ。だが、見られた以上気になるよな?」
プレアたちは恐る恐る頷く。
「――これを知っているのは亮平だけだ。……いつまでも隠し通せるものじゃないとは分かっているんだがな……。……知りたいか?」
俺の問いにプレア、アネルーテ、司が頷いた。
俺は一度目を瞑り、チャットを開き、亮平を除く今、城に残っている筑笹たち用のスレを立ち上げる。
同時進行で話を進めよう。
「分かった。なら、聞いてくれ。俺の過去の事を――」
この傷を負う事件が起こったのは俺が中学三年の時だ。
確かあれは二〇三四年の九月くらいだったか、その日はちょうど行きたい高校の出願を出すために郵便局に行っていた。
「動くんじゃねえ! このバックに金を詰めろ!」
そしてその郵便局に偶々集団強盗が入って人質にされた。
やがて警察が到着してその強盗も要求を突きつけた。
そして目当ての金や逃走車が用意されると予想通り、奴らは小型の銃を取り出した。
「突入!!」
警察が踏み込んでくる。俺たちはもう死んだことが前提の踏み込み方だった。
俺は初めて死ぬと思った。
気づけば――近くにいた強盗を背後から殴り飛ばして銃を奪い取って……撃った
乱射した銃は強盗集団に当たり、全部で十五人いる内の四人までは殺した。
その光景に他の奴らも仰天したのか動きを止め、その隙に警察に取り押さえられた。
全員が取り押さえられ、俺は安堵した。
次の瞬間には血とか内臓とかの匂いで吐きそうになって蹲った。
そのあとはご想像通りだ。
だが、俺は終わったと思っていたから油断した。
俺は強盗の死んだと思っていた一人に人質にされた。
今度は警察も動くことは出来ず、結局俺は誘拐された。
強盗団のアジトに連れていかれ、俺はあらゆる拷問を受けた。
「テメェの性で! テメェがいたから!!」
その時の傷がこの背中の傷だ。一番酷くやられて現代技術じゃ完治不可能だった。
他に肢体欠損したり生爪剥がされたりサンドバッグにされたり……。
「くへへ、テメェにはこれをくれてやるよ」
それは、注射器や粉薬だ。見ただけで分かる。ドラッグの類だ。
そして俺は―――。
それから――幾日かして妹の夕夏が誘拐されてきた。俺の身元がばれたのだろう。
そして俺の目の前で夕夏が奴らに押し倒された時、俺は初めて激情に身を焦がした。
火事場の馬鹿力だったのだろう。
その時だけは常時打たれていた薬物の効果を怒りが打ち消した。素手で人間を殺せるほどに覚醒した。
無我夢中で殺した。代わりに俺も幾度なくナイフや銃弾を身に受けた。
俺はこの時に自分の中の殺人衝動の歯止めを失ったのだろう。
この時の記憶は痛みが激しくて所々分からないんだ。
薬物の性かもしれない。記憶が所々飛んでいるが間違っても記憶操作をされたとか暗示をかけられたとかの類はない。
一方的な虐殺だった。
殴り、蹴る、撃つ――――撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。
結局、殺し合いに勝ったのは俺だ。全員、俺が殺した。
俺は腕が折れ、服はボロボロ、全身は痣だらけ。
最後の一人の首を折るあの感触は忘れられない。
俺はそいつを斃したことでまた怖くなった。
また生き返って俺を痛めつけるのだと思った。
――パン―――
気が付けば強盗共を寄せ集めて落ちていた銃を持って、そいつ等を撃っていた。
――パパパパパパパパパパパパパ―――――
「ヒャァハィヤァハウェアハアハハァァハハハイヒャァァァハハハハッハハ―――!!」
思い出す、歯止めが利かなくなった時の自分のものとは思えない壊れた笑い声。
「クヒャァァァハハッハハハハヒャィハハァァハハハハハハハ―――――ッ!!」
笑いながら死人を撃つ。夕夏にとっては恐怖以外の何者でもないだろう。
その時は俺自身も度を過ぎたまでに狂っていたと思う。
偶々、そいつらの一人のポケットから折り畳みナイフが出てきた。
「ァァァァ―――――ッ!! フィヒャァァァ――――ッ!!」
銃弾が切れたから今度はナイフで奴らを切り裂いた。細かく、ただ細かく。
ナイフが折れた次は素手だ。素手で人肉を引き裂いた。
肉を開き、血を浴びて、骨を叩き割った。
終いには火までつけて燃やしていた。二度と生き返らないように……。
血と、飛び散った肉片、その他の色々が混ざった匂いは今でも鮮明に思い出せる。
―――やがて警察が来た。
火が上がったから近所の人が通報してくれたのだと思う。
後から考えれば夕夏は無事に保護されていた。
「フャ? ア、ア、ア、ア、ンペボボロロオンバババアアア!!!」
俺は狂っていた。壊れていた。精神的にも肉体的にも。
この時の俺には奴らの援軍が来たと思っていた。
夕夏に触れた警察を俺は殴り飛ばした。そうすると他の警察官が夕夏に近寄った。
俺は気絶した警察官のホルダーから納めていた拳銃を抜いて撃った。
夕夏に当たらないようにしたのが幸いだったのかその警察官は負傷だけで済んだ。
次々と来る援軍。俺は夕夏を守るために銃口を向けた。
結果的に言えば警察官側に死傷者は出なかった。
出なかったが、俺を取り押さえるのに相当時間がかかったらしい。
最終的には七百人前後の人数が緊急出動していたらしい。
つまり、それだけの人数が出勤されるほど俺は異常だったようだ。
次に目が覚めたのは病院だった。
全治は不可。動けるようになるまで三か月を要した。
正確には三か月間眠っていた。おかげですっかり薬物は抜けていた。
進歩した技術と最新技術によって欠損部位は再生した。
ただ、背中の痕は内蔵近くにまで食い込んでいる上、多種多様の薬物が合わさった結果、皮膚が拒否反応をきたしたそうだ。よって完治はせず、ある程度直して終わった。
事情聴取は割とそういう精神の人を経験している人だから話が早かった。
必要以上に警戒しなく、それでいて分かってくれた人だった。
事情聴取は割と早く終わった。けど、高校の進学は絶望的だった。
理由は言わずもがな。そんな人間が我が校舎には入れられない。
生徒たちとも孤立するだろう。社会にも影響が出るしまた殺人衝動がでるかもしれない。
まあ、そう言われればそうかもしれない。
それを直で聞いた時は誘拐以上に悲観に暮れた。
誤解が無いように言うがその時は進学校合格確実とまで言われていたからな。
割と結構ショックだった。それでもやったことに後悔は無い。
それこそ夕夏の方が大事だから。
そのあと四日後くらいか、政府の人が来てこの高校に行かないかと言われた。
それが俺たちが転移するまで通っていた高校だったというわけだ。
その時はすごい適当に返事をした気がする。もう全部どうでもいい位の気持ちだった。
その高校で亮平と出会い、政府の人たちから請け負った裏のお仕事をしながら生活していた。しばらくやっていると板について偶に外国へ行って殺しをすることもあった。
恨みを買われたこともあった。殺した。
ヤクザやマフィアに絡まれたこともあった。殺した。
殺し過ぎて抗争や戦争に巻き込まれたこともあった。殺した。
最終的には皆殺しになる前に政府が手を打って終わったわけだが。
さて、夕夏は最初は取り乱したものの俺に助けられたことから敬愛を抱くようになった。
傍から見ればこじらせたブラコンだ。
その後、夕夏は普通の中学校に進学し、中の良い友人も出来た。
夕夏はいつも亮平の弟だという伸平君や藤林刻夜君、大海聖奈さんの四人で大体一緒に居る。三人とも礼儀正しい良い子だ。
夕夏曰く、刻夜君と聖奈さんは幼馴染且つ半場婚約者なんていう噂があるらしい。
――と、話が逸れたか。
「とまあ、こんなところか。この世界じゃよくある話だったか?」
軽くまとめたつもりがプレアたちも、スレを閲覧していた筑笹たちも無言。
本当、ただ無言で居られることが俺には辛い。なんか言ってくれ。
そしてプレアが動いた。
「嵩都……ボクは――」
そのあとの言葉に詰まったようだ。
アネルーテには刺激が強かったかな。司は……どうなのかわからない。
スレを眺めても誰も何も言ってこない。
「以上だ。この世界で人殺しが異常なのは分かっている。俺がおかしいのも気持ち悪いのも軽蔑してくれて構わない…………」
だからこそ邪神という役目を与えられたのだろう。
狂っているから、異常なまでに強いから。
その日、俺たちはそれ以上言葉を交わすことなく就寝した。
グラたん「言いました。言っておきました。最後までお読みいただきありがとうございました」
嵩都「次回、宗教国家ハイクフォック」
グラたん「次からはライトな話に戻ります」
嵩都「……今は流れ的にダークサイドの話なんだけどな」




