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資本家  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
57/59

第57章

 

 クーパーウッドがペンシルベニア州イースタン刑務所で過ごした時間は、入所日から出所まででちょうど十三か月だった。この結果をもたらした要因は、彼の働きかけによる部分と、そうでないものによる部分があった。まず、収監から約六か月後に、エドワード・マリア・バトラーが自宅の仕事部屋で椅子に座ったまま息を引き取った。アイリーンの振る舞いがバトラーには大きな負担になっていた。クーパーウッドが判決を受けてから、とりわけ彼が刑務所で彼女の肩にすがって泣いたときから、アイリーンは父親に対して残酷と言っていいほどの態度をとるようになった。彼女の態度は、娘としては不自然でも、苦しめられた恋人のものだと思えばちゃんと説明がつくものだった。私に恩赦が与えられないようバトラーが自分の影響力を駆使してるんだ、たとえ彼がかなり関心を持って獄中での生活を見守ってるステナーに与えられることがあってもね、とクーパーウッドが彼女に伝えると、これが計り知れないほどアイリーンを憤慨させたのだ。彼女は事あるごとに、ほとんど侮辱していると言っていい態度を父親に取り続けた。あらゆる場面で父親を無視し、同じテーブルで食事をすることを極力拒み、同席するときはノラに代わってもらい、ノラの席である母親の隣に座った。父親がいるときは、歌うことも演奏することも拒絶し、さらには、大勢の若い政治家志願者たちが家に来るのは、ある意味では彼女のためなのだが、その彼らのことまで執拗に無視した。バトラーは、もちろん、そのすべての意味を理解していたが、何も言わなかった。彼には娘をなだめることができなかった。

 

 母親も兄たちも最初は状況がまったくわからなかった。(バトラー夫人は最後までわからなかった。)しかしクーパーウッドが収監されて間もなく、カラムとオーエンは事の真相に気がついた。財界での存在感が増して歓迎されるようになったある名家のパーティーから帰ろうとしたときのこと、オーエンは顔見知り程度だった二人の男性の一人が、玄関先に立ち、コートを直しながら、相手に言った言葉を聞きつけた。「あのクーパーウッドって奴が四年の刑をくらっただろ?」

 

「ああ」相手は答えた。「なかなかの切れ者だっただろ? おれ、関係のあった女の子も知ってんだ――わかるだろ、誰のことか。バトラーんとこの娘――そんな名前じゃなかったか?」

 

 オーエンは自分の聞き間違いかと思った。もう一人の客がドアを開けて外に出るときに言うまで、話がつながらなかった。「じゃ、バトラーの爺さんは仕返しをしたってわけだ。爺さんが奴をぶちこんだって話だからな」

 

 オーエンの眉間に皺が寄った。目には激しい好戦的な光が宿った。彼は父親の力をたっぷり受け継いでいた。こいつらは一体何の話をしているんだ? どんなバトラーの娘を考えているんだ? アイリーンかノラの可能性はあるだろうか? どうすればクーパーウッドがどちらかと関係を持てるんだ? ノラはありえないとオーエンは思った。ノアはオーエンの知り合いの青年に夢中で、その青年と結婚するのだから。アイリーンはクーパーウッド家とかなり親しく、よくあの資本家のことを褒めていた。アイリーンってことが、ありえるだろうか? オーエンにはそれが信じられなかった。二人の知人を追いかけて、真意を問いただしてやろうと一度は考えたが、玄関の階段まで出たときには、相手はすでに通りをだいぶ進んでいて、彼が行きたい方向の反対方向にいた。オーエンはこの件を父親に尋ねることにした。

 

 聞かれると、バトラーはすぐに打ち明けたが、この件は黙っているよう息子に強く言った。

 

「僕が知ってたらなあ」オーエンは険しい顔で言った。「あの下衆野郎、撃ち殺してやったのに」

 

「まあ、落ち着け」バトラーは言った。「お前の人生の方がずっと大切だし、残りの家族まであいつもろとも泥沼に引きずり込むことになるだけだ。あいつは自分の卑劣な仕打ちの報いは受けたし、これからもっと受けることになる。誰にも言うんじゃないぞ。待つんだ。あいつは一、二年で、出たくてたまらなくなくなる。アイリーンにも何も言うな。話したところでどうにもならない。あいつさえしばらくいなくなれば、アイリーンも正気に戻ると思うんだ」その後、オーエンは妹に礼儀正しく振る舞おうと努めたが、社交に不可欠な完璧な体面と出世にこだわりがあって、自分も世の中で頭角を現したいと熱望していた彼には、妹がどうしてそんなことをしたのか理解できなかった。妹が自分の前途に置いた障害に激しい憤りを感じた。何にせよ、今や彼の敵は、やりたくなれば、彼の顔に投げつける材料を手に入れた――そして、やりたくなるに決まっている。人生はそういうものだ。

 

 カラムがこの件を知ったのは、まったく別の形でだが、ほぼ同時刻だった。彼は、市内に魅力的な建物を構えるアスレチック・クラブと、立派なカントリー・クラブの会員で、時々そこに行って関連施設のプールやトルコ風呂を楽しんでいた。ある晩、ビリヤード室で友人の一人が近づいてきて言った。「なあ、バトラー、ぼくは君の親友だよね?」

 

「ああ、もちろんだよ」カラムは答えた。「それがどうした?」

 

「あのね」リチャード・ペチックという名の若者は、無理してつくった親しげな表情でカラムを見て言った。「きみの気分を損ねるというか、知るべきではないような話を持って来るつもりはなかったんだけど、きみはこれを知っておくべきだと思ってね」若者は首を絞めつけている白いハイカラーを引っ張った。

 

「きみがそんなんじゃないことくらい知ってるよ、ペチック」カラムは興味津々で答えた。「何なんだい? どういうことなんだい?」

 

「ううん、言いたくはないんだけどさ」ペチックは答えた。「ヒッブスの奴が、このあたりできみの妹さんのことを言いふらしているんだ」

 

「何だと?」カラムは勢いよく体を起こし、こういう場合に社交界で正しいとされている作法を思い出しながら叫んだ。ここは激怒すべきだ。何らかの形でしかるべき謝罪を要求して、落とし前をつけないとな――いずれにせよ、名誉が傷つけられたのなら、拳に訴えるのが相応か。「そいつは妹のことを何て言ってるんだ? そもそも、そいつは何の権利があってここで妹の名前を出さなきゃいけないんだ? 妹のことなど知らんくせに」

 

 ペチックは、自分がカラムとヒッブスの間をもめさせてしまわないかと、とても配しているふりをした。言いたくないと言いながら、本当は言いたくてたまらなかった。ようやく口を開いた。「ヒッブスは、きみの妹さんが、最近裁判にかけられたクーパーウッドと関係していたと作り話を言いふらしているんだ。だからあいつが刑務所に行くことになったってね」

 

「何だって?」カラムは、平静を装うのをやめて、必死の形相をまとって叫んだ。「そいつが、そう言ってんだな? 今どこにいる? それをぼくに面と向かって言えるか、確かめたいもんだ」

 

 父親ゆずりの容赦のない闘争本能が、彼の細面でかなり洗練された若い顔に垣間見えた。

 

「なあ、カラム」ペチックは自分が本物の嵐を引き起こしたことに気づくと、結果が少し恐ろしくなって強く言った。「言葉には気をつけろよ。ここで騒ぎを起こすなよ。規則違反だって知ってるよな。それに、あいつだって酔っぱらってるのかもしれない。どこかで聞いた馬鹿げた話にすぎないよ、きっと。なあ、頼むから、そんなに興奮しないでくれよ」ペチックはこの嵐を起こしておきながら、結果が自分に及ぼす影響を少なからず危惧していた。カルムだけでなく、告げ口をした自分まで、巻き込まれかねないからだ。

 

 しかし、こうなってしまうとカラムはそう簡単には抑えられなかった。顔は真っ青で、古風なイギリス風のグリルルームに向かっていた。ヒッブスはたまたまそこにいて、同年代の友人とブランデーソーダを飲んでいた。カラムは店に入って名前を呼んだ。

 

「おい、ヒッブス」

 

 ヒッブスはその声を聞き、入口にいる相手を見ると、立ち上がって向かって行った。プリンストン大学で教育を受けた、いかにも大学生といった興味深い青年だった。いろいろな情報源――クラブの別の会員――からアイリーンにまつわる噂を耳にして、それをわざわざペチックの前で繰り返したのだ。

 

「うちの妹のことで何を言ってたんだ?」カラムはヒッブスの目を見すえながら険しい表情で問いただした。

 

「えっ、ぼ、ぼくは――」ヒッブスは口ごもった。もめごとになるのを察知して、避けるのに必死だった。彼はとりたてて勇敢なわけではなく、外見もそう見えた。髪は麦わら色、目は青、頬はピンクだった。「いや――特別なことは何も言ってないよ。ぼくが妹さんの話をしてるなんて、誰が言ったんだ?」ヒッブスは、告げ口をしたのはこいつだと見抜いて、ペチックに目を向けた。すると、ペチックは興奮して叫んだ。

 

「しらばっくれようとすんなよ、ヒッブス。ぼくはきみから聞いたよな?」

 

「じゃあ、ぼくは何て言ったんだ?」ヒッブスは開き直って聞き返した。

 

「さあ、お前は何て言ったんだ?」カラムは厳しい顔で話に割り込み、会話を自分に振り向けた。「それを知りたいんだよ」

 

「ああ」ヒッブスは緊張してしどろもどろになった。「ぼくは、他の人が言ったことがないようなことは、言ってないと思うんだがな。きみの妹がクーパーウッドと親密だった、と誰かが言ったのを繰り返しただけさ。ここらで他の人が言うのを聞いた以上のことは言ってないよ」

 

「ほう、そうだったんだ?」カラムは叫んで、ポケットから手を出すや、ヒッブスの顔面を平手打ちした。さらに左手でもう一度、激しく打ちつけた。「これで、うちの妹の名前は口に出すもんじゃないってことがわかっただろう、この青二才が!」

 

 ヒッブスの両腕が跳ね上がった。ボクシングの心得がないわけでもなかったので、果敢に反撃し、カラムの胸に一発と、首に一発食らわせた。瞬く間に、この続き部屋の二間は大騒ぎになった。現場に駆けつけようとしている男たちの勢いで、テーブルや椅子はひっくりかえされた。当事者の二人はすぐに引き離された。双方ともそれぞれの友人に肩入れされ、興奮した説明が行われては、突っぱねられた。カラムは、自分が放った一撃で切れた左手の拳の関節の具合を見ていた。カラムは紳士らしい落ち着きを保っていた。ヒッブスはひどく取り乱して興奮し、自分は極めて不当な扱い方をされたと言い張った。まさか、こんなところで襲撃を受けるなんて。そもそも、ペチックが盗み聞きをした上に自分のことで嘘をついてるんだ、と今度は言い出した。ちなみに、ペチックは、自分は名誉を重んじる友人として当然のことをしただけだ、と反論していた。クラブではこの話はすぐに忘れられ、双方の友人たちの懸命な努力によって、新聞沙汰にだけはならなかった。クラブの噂はすでに広まっている世間の噂をある程度根拠にしている、と知ってカラムは憤慨し、退会を申し出て、二度とそこにはいかなかった。

 

「そんな奴、殴らなきゃよかったのに」この事件が告げられると、オーエンはたしなめた。「余計、噂を広げるだけだぞ。アイリーンはここを離れるべきなんだが、離れないだろうな。まだあいつに夢中だし、ノラや母さんには話せない。この話は最後まで聞くはめになるぞ、お前もぼくも――きっと」

 

「くそ、無理にでも行かせるべきだ」カラムは叫んだ。

 

「まあ、承知せんだろうな」オーエンは答えた。「お父さんは行かせようとしたんだが、アイリーンは行こうとしなかった。このままにしておくしかない。あいつは今、刑務所にいる。おそらくは終わりだ。世間じゃお父さんがあいつをぶち込んだと思ってるようだ。それがせめてもの救いだな。多分、もう少ししたら、アイリーンを説得してどこかに行かせられるかもしれない。あいつにさえ出会わなかったらなあ。あいつが出所したら、ぶっ殺してやりたいくらいだ」

 

「いや、そんなことは御免だな」カラムは答えた。「無益だし、騒ぎを蒸し返すだけだ。とにかくあいつは破滅したんだ」

 

 二人は、できるだけ早く結婚するようノラをせかせることにした。アイリーンに対する二人の気持ちは、とても冷たい態度になった。バトラー夫人はこの頃から、それをひどく戸惑い、嘆き、驚きをもって見るようになった。

 

 この分断された世界の中で、バトラーはとうとう、自分が何を考え、どうすればいいのかわからぬまま、途方に暮れていることに気がついた。もう何か月も悩んでいるのに、いまだに何ひとつ解決策が見つからなかった。そして、ついには信仰心ゆえの深い絶望に陥り、自分の机で仕事用の椅子に座ったまま力尽きた――疲れ果て、悲嘆に暮れた七十歳の男の姿があった。左心室不全が直接の死因だったが、アイリーンのことで思い悩んでいたことが、ある程度は精神的な要因だった。バトラーの死は必ずしもアイリーンに対する深い悲しみのせいにできなかった。彼はとても大柄な男で、卒中を起こしやすく、静脈も動脈も硬化していたからだ。もう何年もろくに運動しておらず、そのために消化機能が著しく低下していた。七十歳を過ぎて、その時を迎えたのだ。発見は翌朝で、両手は膝の上で組まれ、頭は胸にうなだれた状態で冷たくなっていた。

 

 バトラーはセント・ティモシー教会で、名誉をもって葬られた。葬儀には大勢の政治家や市の役人が参列した。彼らは、娘のことでの悲嘆が死因に関係したのではないかと密かにささやき合った。もちろん、彼の善行はすべて思い起こされ、モレンハウワーとシンプソンは追悼として立派な花輪を送った。三人は親しい仲間だったので、二人ともバトラーの死をとても悲しんだ。しかし、バトラーが死んだことで、二人の関心は途絶えた。バトラーはこれまでに地元で記録された最も短い遺言の一つで全財産を妻に遺した。

 

「愛する妻ノラに、全財産を譲る。処分は妻の裁量によってなされるものとする」

 

 これには誤解の生じる余地がなかった。生前バトラーが妻のために密かに作っておいた私的な書類に、妻の死後、財産がどう処分されるべきかが記されていた。それは妻の遺言を装ったバトラーの真の遺言だった。バトラー夫人は何があってもそれを変更しようとしなかった。バトラーは、妻が死ぬまで、何ものにも邪魔されることなくすべてのものを妻が所有できるようにしておきたかった。もともとアイリーンに割り当てられていた分は一度も変更されなかった。この世のいかなる力もバトラー夫人にそれを変えさせることができなかったからだ。アイリーンはバトラーの遺言により、夫人の死後に支払われる二十五万ドルが残された。この事実も、文書に記された他のいかなる事実も、夫人から告げられることはなく、夫人はこれを自分の遺言として残すために保管した。アイリーンは、自分に何が残されたのか、時々気にはなったが知ろうとはしなかった。どうせ何もない、と思いはしたが、それも仕方がないことだと感じた。

 

 バトラーの死はたちまち家庭の空気を一変させた。葬儀のあと、家族は一見平穏な以前と変わらぬ生活に戻ったように見えたが、それはただの見せかけにすぎなかった。カラムとオーエンはアイリーンに一定の軽蔑を示す態度をとり、それを察したアイリーンも同じ態度で応じた。アイリーンはとても傲慢だった。オーエンはバトラーの死後アイリーンを無理やり追い出そうと考えたが、最終的にそれが何になるんだと自問した。古い家を離れたがらないバトラー夫人が、アイリーンをえらく気に入っていて、アイリーンをそのままいさせておく理由になったからだ。それに、無理に追い出そうとすれば、母親に説明せざるを得なくなり、そうなるのは賢明ではないと思われた。オーエンはキャロライン・モーレンハウワーに関心を寄せていて、いつか結婚したいと思っていた――彼女のことは大好きだったが、その他の理由と同じくらい、将来の財産に大きな期待をかけていた。八月にバトラーが亡くなった翌年の一月、ノラがひっそりと結婚した。続いて春にはカラムも同じ冒険に乗り出した。

 

 その一方で、バトラーの死により、政治状況の支配構造が大きく様変わりした。かつてはバトラーの子分の一人で、近頃は多くの酒場を持ち、他にもいかがわしい店を牛耳る一区、二区、三区、四区の実力者になっていたトム・コリンズという人物が、政治的承認を求めて名乗りを上げた。彼は十一万五千票の行方をかなり不確実にできたので、モレンハウワーとシンプソンは、彼に相談しなければならなかった。その多くは不正投票だったが、だからといって、いざというときにその致命的性質が変わるわけではなかった。バトラーの息子たちは政治的要因としては消滅し、路面鉄道と請負業に専念せざるを得なくなった。ステナーを収監し続けることでクーパーウッドも収監しておけたのだから、バトラーがいれば反対したであろうが、クーパーウッドとステナーの恩赦はだいぶやりやすくなった。公金横領のスキャンダルは、徐々に沈静化し、新聞はもうこの件に全然触れなくなっていた。シュテーガーとウィンゲートを通じて、有力な金融業者やブローカーの署名を集めた大がかりな嘆願書が知事に提出された。それは、クーパーウッドの裁判と有罪判決が著しく不当であることを指摘して、恩赦を求めていた。ステナーに関しては、そういう働きかけはまったく必要なかった。政治家たちは、機が熟したと見えればいつでも知事に彼の釈放を進言する用意ができていた。彼らがためらっていたのは、バトラーがクーパーウッドの釈放に反対していたからにすぎなかった。片方を釈放し、もう片方を無視することは、事実上不可能だった。この嘆願書は、バトラーの死と相まって、見事に道を切り開いた。

 

 それでも、バトラーの死の翌年の三月、ステナーとクーパーウッドの両名が収監されて十三か月、一般大衆の怒りを鎮めるのに十分と思われる期間、が経過するまで、何も行われなかった。この間にステナーは肉体的にも精神的にもかなりの変化を遂げていた。彼の気前のよさでいろいろな利益を得ていた小物の市会議員たちが、ときどき面会に訪れ、このとおり、彼は所内でほぼ自由を与えられ、家族が困窮することもなかったが、それでも、自分の政治的、社会的繁栄の時代は終わったと自覚していた。今は時折誰かが果物のかごを差し入れ、もうそんなに長く苦しむことはないと請け合ってくれるかもしれないが、出所したところで、自分には保険代理店か不動産業者としての経験以外に頼るものがないことを知っていた。小さな政治的足場を築こうとしていた頃でさえ、不安定な仕事だった。五十万ドルの公金を横領して五年も刑務所に送られた男としてしか知られないこれからは、どうなるんだ? たとえ四、五千ドルでも、小さな再出発の資金を誰が貸すだろう? 時々表敬がてら面会に来て、ひどい目に遭いましたね、と慰めてくれる連中はどうだ? あり得ない。彼らは皆、自分にそんな余裕はない、と正直に言うかもしれない。確かな担保があれば――応じるだろう、しかし確かな担保があれば、そもそも彼らのところへ行く必要はないのだ。もしステナーが知ってさえいたら、本当に彼を助けたであろう人物は、フランク・A・クーパーウッドだった。クーパーウッドからすれば、ステナーが自分の過ちを認めることができるのなら、クーパーウッドは見返りなど考えずに喜んでその金を渡しただろう。しかし、ステナーは人間性を理解する能力が乏しかったので、クーパーウッドは自分の敵に違いないと考えた。それに彼に近づく勇気も経営上の判断力もなかっただろう。

 

 クーパーウッドは収監中に、ウィンゲートを通じて少しずつわずかな資金を蓄えていた。彼は折に触れてかなりの金額をシュテーガーに支払っていたが、この立派な男もついには、これ以上受け取るのは公平ではないと判断した。

 

「いつか立ち直ったら、フランク」と彼は言った。「よかったら、私を思い出してください。でも、そんな気にはならないでしょうね。あなたは私のせいで負けてばかりでしたから。知事への嘆願の件は、無報酬で引き受けます。今後、あなたのために私にできることは、何でも無料、タダ、無償でやりますよ」

 

「なあ、馬鹿なこと言うなよ、ハーパー」クーパーウッドは答えた。「私の一件で、これ以上の仕事をやれた人間は思いつかないよ。きっと、これほど信頼できた人間は誰もいないって。知ってるだろ、私は弁護士っていうのが好きじゃないんだ」

 

「そうでしたね――まあ」シュテーガーは言った。「弁護士だって金融屋にはかないませんって。じゃあ、おあいこってことで」二人は握手を交わした。

 

 一八七三年三月上旬、ついにステナーの恩赦が決まると――クーパーウッドの恩赦も必然的に、しかし極めて慎重に付け加えられた。ストロビク、ハーモン、ウィンペニーから成る代表団は、いかにも議会と市政の総意を代表しているかのように、承認者のモレンハウワーとシンプソンに代わって、ハリスバーグの知事を訪ね、世間向けの体裁をつくるのが目的の、必要な正式の陳述を行った。同時に、シュテーガー、デービソン、ウォルター・リーの働きかけによって、クーパーウッドのための嘆願書も提出された。この委員よりもはるか上から事前に指示を受けていた知事は、すべての手続きに対してとても厳粛な態度を取った。知事は、この問題を検討することとし、この二人の男たちの犯罪の経緯と記録を調べ、約束はできないが――確認してみましょう、と言った。しかし、棚の一つに嘆願書を放置してかなり埃をかぶらせて、何も調査しないまま、十日後に知事は別々の恩赦状を二通発行した。一通は儀礼的に、ストロビク、ハーモン、ウィンペニーに手渡され、彼らの希望どおり、ステナーに直接届けるものとなった。もう一通は、シュテーガーの要望とおりに、シュテーガーに渡した。書類を受け取りに来た二つグループはそれぞれ出発し、その日の午後、ストロビク、ハーモン、ウィンペニーのグループと、シュテーガー、ウィンゲート、ウォルター・リーのグループは、別々の時間に刑務所の門に到着した。

 


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