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資本家  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
55/59

第55章

 

 一方、クーパーウッドの身柄は新しい看守長に引き渡されて、一階の第三区画にある新しい独房に移された。大きさは他の部屋と同じ十×十六フィートで、前に述べた小さな庭がついていた。移送の二日前に、デスマス所長がやって来て、独房の扉越しにまた短い会話を交わした。

 

「あなたの身柄は月曜日に移されます」デスマスは抑えた、ゆっくりした口調で言った。「庭つきですが、大してあなたの役には立たないでしょう――庭には一日に三十分しかいられませんから。仕事の件は看守長に伝えておいたんで、きちんと対応してくれるでしょう。ただ、そっちに時間をかけ過ぎないように気をつけてください。そうすればうまくいきます。あなたには籐椅子編みを覚えてもらうことにしました。あなたのためにはそれが一番いいことですよ。簡単ですし、集中できますから」

 

 所長とその仲間の政治家たちはこの刑務作業からたっぷり利益を得ていた。作業は決して重労働ではなく、与えられる仕事は単純で過酷ではなかったが、製品はすぐに完売し、利益が懐に入った。だから、囚人全員が働いている姿を見るのはいいことであり、囚人にとってもいいことだった。クーパーウッドはあまり読書に関心がなかったので、何かをする機会ができてうれしかった。ウィンゲートに関係することや過去の出来事を考えても、満足いく形で頭を使えなかった。同時に、もし今の自分が奇妙に見えるのなら、この狭い鉄格子の向こうで、藤椅子編みという平凡な作業をしているときの自分は、どれほど奇妙に見えるだろうか、と考えずにいられなかった。それでも、今運び込まれたばかりのシーツや洗面用具に礼を言ったように、この件にもさっそくデスマスに礼を言った。

 

「どういたしまして」デスマスは感じよく穏やかに答えた。今ではすっかりクーパーウッドに興味をそそられていた。「どこも一緒ですが、ここにもいろんな人がいる。こういうものの使い方を心得ていて、清潔でいたいのなら、私はそれを邪魔するつもりはありません」

 

 クーパーウッドが相手にしなければならなくなった新しい看守長は、エリアス・チェイピンとは全然違う人物だった。名前はウォルター・ボンハ、年齢は三十七歳にも満たず――大柄で、しまりのない体に、ずる賢い頭を持つ男で、彼の人生の一番の目的は、自ら気づいたように、この刑務所の状況を利用して、通常の給料以上の収入を得ることだった。ボンハをじっくり観察すると、デスマスの密告屋にも見えたが、実際のところは必ずしもそうではなかった。というのも、ボンハは抜け目のない、ごますりで、自分や他人の利益になる点を見つけるのがすばやくて、デスマスは本能的に彼のことを、命じるかそれとなく言っておけば、手心の加え方を任せられる男だと見ていた。もしデスマスがある囚人に少しでも関心を持ったら、ボンハに多くを言う必要はなかった。この男はこれまで違う生活をしてきたんだとか、過去の経験を考えると乱暴に扱うのは彼には酷かもしれんな、と示唆するだけでよかった。するとボンハは精一杯感じのいい態度をとろうとした。問題は、洗練された抜け目ない者に対するボンハの気配りは、明らかに下心があって行われていたから不快であり、貧しい者や無学な者に対しては、粗暴で侮蔑的だったことだ。ボンハは、刑務所内に密かに持ち込んだ特別な支給品を囚人に売って、所内に独自の特別な収入源を築いていた。倉庫で扱っていないもの――タバコ、便箋、ペン、インク、ウイスキー、葉巻、あらゆる贅沢な食料品――を持ち込むことは、少なくとも建前上は厳しく禁じられていた。一方で、ボンハにとって極めて都合がよかったのは、粗末なペン、インク、紙や、粗悪なタバコが支給されたといっても、どうにかできるのであれば、自尊心のある者には耐えられないような代物であることだった。ウイスキーは一切禁止であり、贅沢な食料品は明らかな特別待遇として忌み嫌われたが、それでも持ち込まれた。もし囚人がお金を持っていて、苦労に見合う代償をボンハが確保できるよう取り計らうのを厭わなければ、ほぼ何でも手に入った。また、〝模範囚〟として大きな庭に連れ出される特権や、一部の独房にある小さな専用の庭に、通常許可される三十分よりも長くいられる特権も売ってもらえた。

 

 この時、クーパーウッドに有利に働いた奇妙なことの一つは、ボンハがステナーを担当した看守長と仲がいいという事実だった。ステナーは政治家の友だちの計らいで厚遇されていて、ボンハはこれを知っていた。ボンハは注意して新聞を読む人間ではなく、重大な出来事を知的に把握できなかった。しかし、今ではステナーとクーパーウッドの両名が地域社会の大物、もしくはかつてそうであったことや、二人のうちではクーパーウッドの方が大物であることも知っていた。もっといいのは、ボンハがこの頃聞きつけたように、クーパーウッドはまだお金を持っていた。新聞を読むことを許されていたある囚人が、ボンハにそれを教えた。するとボンハは、かなり控えめで曖昧な言い方で伝えられたデスマス所長の勧めとはまったく関係なく、対価を得るために、自分がクーパーウッドにできることを確かめたくなった。

 

 クーパーウッドが新しい独房に移された日、ボンハは開いている扉の前まで気だるげにやって来て、やや横柄な態度で「もう荷物は全部運んだか?」と言った。クーパーウッドが中に入ったら、扉を施錠するのが彼の役目だった。

 

「はい終わりました」クーパーウッドは答えた。抜かりなくチェイピンから新しい看守長の名前を聞き出してあった。「ボンハさんですね?」

 

「そうだ」ボンハは自分が知られていたことに少なからず気を良くして答えた。しかし、あくまでこの出会いの実用的な面に関心があってのことだった。クーパーウッドを研究して、どういうタイプの男なのかを見極めたかった。

 

「上と下とでは、少し違うでしょう」ボンハは言った。「あまり息苦しくないんだ。庭に出るドアがあると違うもんでね」

 

「確かに、そうですね」クーパーウッドは注意しながら、抜け目なく言った。「あれがデスマス所長の言っていた庭ですね」

 

 もしボンハが馬だったら、この魔法の名前が告げられたときに、耳がぴくっと立つさまが見られただろう。当然のことだが、これから収容される独房のタイプを事前に伝えられるほど、クーパーウッドがデスマスと親しいのであれば、ボンハは特に注意しなければならないからだ。

 

「ああ、そうだ、でも大したことはない」ボンハは言った。「庭には一日に三十分しかいられないから。でも、もっと長く外にいられたらいいんだろうけどね」

 

 これはボンハが初めてほのめかした賄賂と特別待遇の誘いだ。クーパーウッドは相手の声にその響きをはっきり聞き取った。

 

「それは残念ですね」と言った。「良い行いをすれば、もっと長くいられるというものでもないでしょうしね」クーパーウッドは返事を聞こうと待ったが、ボンハは答えず続けた。「さっそく新しい仕事を教えた方がいいかな。あなたは籐椅子編みを覚えなくちゃいけない、と所長が言うんでね。よければ、すぐに始められる」しかし、クーパーウッドの同意を待たずに、ボンハは行ってしまった。しばらくして、ニスの塗っていない椅子の骨組み三つと、籐だか柳の紐の束を持って戻り、床の上に置いた。それが済むと――これ見よがしに――さっそく続けた。「さあ、見るなら、実演しますよ」ボンハは、紐がどんなふうに両側の穴に通されて、切断され、小さなヒッコリー材の留め具で留められるのかをクーパーウッドに実演して見せ始めた。これが終わると、押し錐と小さな金づち、留め具の入った箱、はさみを持ってきた。別の紐を使って、幾何学的な模様がどのように作られるかを何度か簡単に実演してから、ボンハはクーパーウッドにもそれをいじらせて、肩越しに様子を見守った。手作業でも頭脳労働でも何でも飲み込みが早いこの資本家は、いつものように精力的に作業に取り組み、場数を踏まねば身につけられない技術とスピード以外は、人並みにできることをものの五分でボンハに証明してみせた。「あなたなら大丈夫だ」ボンハは言った。「一日に十個やることになっている。でも、慣れるまでは、日数は計算しないよ。そのくらいしたら、様子を見に来ます。扉にタオルをかける件はわかってますね?」ボンハは尋ねた。

 

「はい、チェイピンさんが説明してくれました」クーパーウッドは答えた。「もう、規則はほとんど覚えたと思います。どれも破らないようにします」

 

 その後の日々は、刑務所の生活に多少の改善をもたらしはしたが、決してクーパーウッドが満足できるほどのものではなかった。ボンハはクーパーウッドに藤椅子の編み方を教え始めた最初の数日の間に、自分にはあなたのためにやれることがたくさんある、という姿勢を完全に鮮明にした。ボンハをこうさせた要因の一つは、ステナーの友だちが、クーパーウッドの友だちよりも大勢面会に来て、時々果物入りのかごを差し入れ、ステナーがそれを看守長たちに渡していることや、彼の妻子がすでに通常の面会日以外の面会を許されていることに、驚いたからだ。これがボンハの嫉妬を招いた。同僚の看守長たちはそのことで彼に向かって偉そうな態度をとっていた――第四区画の盛り上がりぶりをありありと話すのだ。ボンハとしては、クーパーウッドにいいところを見せてもらいたい、社交力でも何でもいいから、実力を発揮してほしかった。

 

 さっそくボンハは切り出した。「毎日、弁護士と仕事の仲間がここに来るのを見かけるけど、面会に来てほしい人は他にいないんですか? もちろん、奥さんや妹さん、そういう人を面会日以外に迎えるのは規則違反なんだが――」ここでボンハは口を閉ざして、何かいいたげな、大きな目をぎょろりとクーパーウッドに向けた。――いかにも後ろめたい秘密を伝えようとする目だった。「でも、ここだって、すべての規則が必ずしも守られるわけじゃない」

 

 クーパーウッドはこういうチャンスを逃す人間ではなかった。少し微笑んだ――それだけで自分の緊張をほぐし、ボンハには知らせてくれたことへの感謝を示すに十分だったが、言葉にして述べた。「実を言いますとね、ボンハさん。あなたは他の誰よりも私の立場を理解し、相談できる方だと信じています。ここに来たいという者はいるんですが、来させるのをためらっていたんです。そんなことができるとは知りませんでした。もしできるのであれば、大変ありがたいことです。あなたも私も現実のわかる人間です――私は、何か世話になれば、それをかなえるのを助けてくれた人たちに相応の礼を尽くさねばならないことを承知しています。ここの暮らしがもう少し快適になるようお力添えいただけるなら、私はそのことへの感謝をあなたにお示しします。手元に現金はありませんが、いつでも用意できるし、あなたがちゃんと報われるよう手配します」

 

 ボンハの短くて分厚い耳はむずむずした。これこそ彼が聞きたかった話だ。「そういうことなら何だってできるんですよ、クーパーウッドさん」ボンハはへつらうように答えた。「私に任せてください。会いたい人がいたら、いつでも言ってください。もちろん、とても慎重にやらねばなりません。あなたもですよ。でもうまくいきますって。これからは、午前中もう少し庭に出ていたいとか、午後や夕方でも出たくなったら、どうぞご自由に。構いませんから。扉は開けておきます。所長か誰か他の者が来たら、私が鍵で扉を引っ掻くから、あなたは中に入って扉を閉めてください。外から持ち込みたいものがあれば何でも調達します――ゼリーや卵、バター、そういうちょっとした物でもね。そうやって少しは食事をよくしたいんじゃありませんか」

 

「本当にありがとうございます、ボンハさん」クーパーウッドはいたって堂々とした態度で応じた。微笑みたいところだが、真剣な表情を崩さなかった。

 

「もうひとつの件は」ボンハは特別な面会者の件に触れながら続けた。「会いたくなったら、いつでも手配できます。門にいる連中とは懇意でしてね。ここに来てほしい人がいたら、メモにその人のことを書いて私にください。そして、来たときに私を呼ぶようその人に伝えてください。そうすればちゃんと中へ入れます。相手がここまで来れば、あとは独房で話ができる。いいですか! ただし、私が扉を叩いたら、その人は出なくてはいけませんよ。それだけは覚えておいてください。ただ知らせるだけでいいんです」

 

 クーパーウッドは感謝の気持ちでいっぱいだった。率直で、上品な言葉で礼を述べた。これでアイリーンに会える、さっそく来るように知らせることができる、という考えがすぐに浮かんだ。ちゃんとベールで隠せば、おそらくは安全だ。クーパーウッドはアイリーンに手紙を書くことにして、ウィンゲートが来たときに渡して投函させた。

 

 二日後の午後三時――クーパーウッドが指定した時間――に、アイリーンは面会に来た。アイリーンは、白いビロードの飾りと、銀のように光るカットスチールのボタンのついた、グレーのブロードクロスの服をまとい、飾りと防寒を兼ねて、雪のように白いアーミンの帽子とストールとマフをしていた。このかなり目を引く装いの上に、暗い色の円形の長い外套を羽織っていたが、これは着いたらすぐに脱ぐつもりだった。靴、手袋、髪、つけている金の装飾品に至るまで、とても念入りに身支度を整えていた。クーパーウッドの助言どおりに、顔は厚手のグリーンのベールで隠されていた。アイリーンは、彼が事前に手配できる範囲で、できるだけひとりでいそうな時間に到着した。ウィンゲートはいつも仕事が終わってから四時に来たし、ジュテーガーは来るとすれば午前中だった。アイリーンはこの未知の冒険にひどく緊張していた。行くのに選んだ路面鉄道を少し離れたところで降りて脇道を歩いてやってきた。寒い天気と、灰色の空の下にそびえる灰色の壁は、彼女に敗北感を与えたが、恋人を元気づけるために、美しく見せようと精一杯努力をしていた。適切に装えば、彼が自分の美しさにどんなにすばやく反応するか、彼女はよく知っていた。

 

 クーパーウッドはアイリーンが来るのに備えて、独房をできるだけ見苦しくないようにした。自分で床を掃き、ベッドを整えたので、部屋は清潔だった。そのうえで、髭を剃り、髪をとかし、他にやれることをきちんとした。作業中の藤椅子はベッドの片隅に追いやられ、数少ない食器は洗って吊るされ、木靴はそれ用に取っておいたブラシで磨かれていた。アイリーンはこれまでこんな私を見たことがないんだ、と美観の悪化にわだかまりを感じながら我が身を振り返った。いつも服の趣味の良さや着こなし方を褒めてくれたあの彼女が、どれほど威厳のある体も、見るに耐えなくしてしまう服に身を包んだこの自分を、これから見ることになるのだ。自分の魂の尊厳に自制的に向き合うことしか、ここでは支えにならなかった。結局のところ、自分はフランク・A・クーパーウッドであり、何を着ていようが中身は変わらない。そして、アイリーンもそれを知っている。いつかまた自由になって裕福になるかもしれない。そして、アイリーンがそれを信じていることも彼は知っていた。何にせよ、状況がどんなことになっても、自分の見た目がアイリーンに影響することはない。アイリーンはそんな自分をますます愛すだけだろう。クーパーウッドが恐れたのは、アイリーンの情熱的な同情だった。鉄格子の扉越しに話をしたら、みじめなことになりそうだから、アイリーンは独房に入っていい、とボンハが言ってくれたことをクーパーウッドはとても喜んだ。

 

 到着するとアイリーンはボンハを呼び出し、中央の円形ホールへ行くことを許された。そこにボンハが差し向けられた。ボンハが現れると、アイリーンは小声で言った。「よろしければ、クーパーウッドさんに面会したいのですが」するとボンハが大きな声で言った。「それじゃ、私と一緒に来てください」廊下から円形ホールを横切る間、顔こそ見えなかったが、ボンハはアイリーンのはっきりとした若さに衝撃を受けた。これはまさに、彼がクーパーウッドに期待したものと一致していた。五十万ドルを盗み、街中を騒然とさせられるほどの男は、あらゆる種類のすばらしい冒険をしているに違いない。アイリーンはまさにそんな冒険のひとつだ。ボンハはアイリーンを、自分の机があり、面会者を待機させておく小さな部屋に案内した。それからクーパーウッドの独房へ駆けつけた。クーパーウッドは椅子作りに取り組んでいた。ボンハは鍵で扉をひっかき、声をかけた。「若い女性が面会に来てます。中に入れますか?」

 

「ありがとうございます」クーパーウッドは答えた。粗野で無作法なボンハは、独房の扉の鍵を開けるのをうっかり忘れて、さっさと行ってしまい、そのためアイリーンの前で扉を開ける羽目になった。分厚い扉、数学的にきちんと配置された鉄格子、灰色の石張りの長い廊下は、アイリーンを心細くさせた。刑務所、鉄の独房! そして、その中のひとつに彼がいる。そのことが、普段なら勇敢なアイリーンの心をくじいた。あたしのフランクが、こんなひどいところにいるなんて! こんなところに入れるなんて、何て恐ろしいことかしら! 裁判官、陪審員、裁判所、法律、刑務所が、口から泡を吹いていきりたつ怪物に見えた。それが世界中にたくさんいて、彼女と彼女の恋路を目の敵にしているように思えた。錠前の中で鍵がカチャッと鳴り、扉が重そうに外側に開かれると、彼女の不吉な予感は決定的になった。すると、クーパーウッドの姿が目に入った。

 

 報酬を受取ることになっていたので、ボンハはアイリーンを入れると、気を利かせてその場を離れた。アイリーンはベール越しにクーパーウッドを見た。ボンハがいなくなったのを確信するまで話すのが怖かった。クーパーウッドは必死に平静を保っていたが、少ししてから、やっとの思いで合図を送った。「もう大丈夫だよ」彼は言った。「看守は行っちゃったからね」アイリーンはベールを上げて、外套を脱いだ。そして、それとなく、むっとするほど狭苦しくて圧迫感のある部屋、みすぼらしい靴、安っぽい不格好な囚人服、独房の小さな庭に通じている彼の背後の鉄の扉を見てとった。ベッドの隅に見える作りかけの藤椅子を背景にしたクーパーウッドは、不自然であり、異様にさえ見えた。あたしのフランクが! しかも、こんな状態で。アイリーンは震えてしまい、話そうとしても話せなかった。抱きしめて、頭をなで、ささやくことしかできなかった。「かわいそうに――あなた。こんな目に遭っていたのね? ああ、かわいそうに」アイリーンは彼の頭を抱きかかえた。その間、クーパーウッドは平静を保とうしながらも、体をすくめて震えた。アイリーンの愛はあふれんばかりで――嘘偽りのないものだった。それは慰めていながら同時に、彼から力を奪っていて、今実感しているように、彼を再び子供に戻していた。すると、生まれて初めて、説明のつかない何かの化学反応――肉体の不思議な反応、時としていとも簡単に理性を押しのける盲目的な力――が作用してクーパーウッドは自制心を失った。アイリーンの深い感情、あやすような声の響き、ビロードのような手の柔らかい感触、彼をずっと引きつけてきたあの美しさが――おそらく、この堅固な壁の中で、自分自身の惨めさに向き合ううちに、これまで以上に輝きを増して――彼から完全に力を抜き取った。どうしてこうなるのかわからなかった。その気持ちにあらがおうとしたが、あらがいきれなかった。アイリーンが彼の頭を抱き寄せて撫でたときには、どうすることもできないまま、突然、胸が詰まって息が苦しくなり、喉が痛んだ。彼にとっては驚くほど奇妙な感覚だった。泣きたくなったのだ。それを必死にこらえたが、あまりにも衝撃的だった。そのとき、つい最近失ったばかりの偉大な世界といつか取り戻したい美しい壮大な世界の奇妙で豊かな光景が、いっせいに押し寄せ、彼を打ちのめした。この瞬間、木靴、木綿のシャツ、縞柄の囚人服、永久にぬぐえない囚人の汚名を、これまで以上に痛感した。彼はアイリーンから素早く身を引いて、背を向け、拳を握りしめ、筋肉を引き締めたが、遅すぎた。声を上げて泣いてしまい、とめることができなかった。

 

「ああ、くそっ!」激しい憤りと羞恥の入り混じった状態にあった彼は、半分は怒りにまかせ、半分は自分を情けなく感じながら、叫んだ。「なんだって、泣かなきゃいけないんだ? 一体全体どうしちまったんだ?」

 

 アイリーンはそれを見て、勢いよく前に飛び出し、片手で頭、もう片方の手でみすぼらしい囚人服越しに腰をつかみ、簡単に振りほどけないほどの力でしっかり抱きしめた。

 

「ああ、あなた、あなた、あなた!」アイリーンは哀れみに浸っているうちに熱く興奮して叫んだ。「愛してる。大好きよ。あなたのためなら、この体をバラバラにされたって構わない。あなたのことを泣かせるなんて! ああ、あなた、あなた、あたしの愛しい人!」

 

 アイリーンはまだ震えている彼の体をいっそう強く引き寄せて、空いている方の手で頭を撫で、目に、髪に、頬にキスをした。クーパーウッドはしばらくして「私は一体どうなっちまったんだ!」と叫びながら、再び体を引き離したが、アイリーンは引き戻した。

 

「いいのよ、あなた、泣いたって恥じることはないわ。あたしの肩で泣きなさい。あたしと一緒にここで泣きましょう。あたしの赤ちゃん――あたしの大切なあなた!」

 

 しばらくするとクーパーウッドは落ち着いた。ボンハに気をつけるようアイリーンに注意を促し、取り乱したことを恥ずかしがりながら、さっきまでの冷静さを取り戻した。

 

「きみは、すばらしい子だよ」優しく、申し訳なさそうに微笑んで言った。「きみがいてくれる――それだけでいい――とても心強いよ。だけど、もう私のことは心配しないでくれ。私なら大丈夫だ。きみが思うほどひどくはないよ。きみの方はどうなんだい?」

 

 アイリーンはそう簡単におさまるはずがなかった。ここでの惨めな境遇を含めたクーパーウッドの数多くの苦悩は、彼女の正義感と尊厳を踏みにじったのだ。あたしの立派な、すてきなフランクが、こんな――泣くような――目に遭わされるなんて。アイリーンは彼の頭を優しく撫でた。その間に、人生や運命や厄介な対立軸に対する、無謀で破滅的な道理をわきまえない反発が、頭の中で渦巻いた。お父さん――あのくそったれめ! 家族――ふん! それが何だっていうの? あたしにはフランク――フランクがいる。フランクの前では、他のことなんてみんな取るに足らないものだわ。絶対、絶対、絶対に、あたしはフランクを見捨てない――絶対に――何があっても。そして今、アイリーンは黙って彼にしがみついた。その間も、頭の中では人生と法律と運命と状況を相手に、熾烈な闘いを繰り広げた。法律――くだらない! どいつもこいつも、けだもの、悪魔、敵、犬っころよ! 自己犠牲でさえ、喜んで、熱狂して、迎えるわ。こうなった以上、フランクのためなら、フランクと一緒なら、どこにでも行くわ。フランクのためなら何だってする。家族なんかいらない――人生だっていらない、いらない、いらないわ。彼の望むことは何だってする、それ以上でもそれ以下でもない。彼を救うためなら、彼の人生をもっと幸せにするためなら、自分にできることを何だってするわ。他の人のためには何もしないけど。

 


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