表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
資本家  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
51/59

第51章

 

 月曜日が来た。これでいよいよお別れだった。できることはすべてやった。クーパーウッドは両親、弟たち、妹に別れを告げた。妻とは、やや他人行儀だが実務本位の事務的な会話を交わした。息子と娘には特に別れを告げなかった。月曜日に行かねばならないと知ってからは、木曜、金曜、土曜、日曜の夜帰宅するたびに、特に愛情を込めて少し子供に話しかけようと考えた。自分の日頃の道徳的あるいは非道徳的な態度が、子供たちに一時的に不利益をもたらしているかもしれないと思ったが、それでも確信は持てなかった。ほとんどの人は、甘やかされようが、チャンスを奪われようが、そこそこうまくやっている。おそらくはこの子たちも、何が起ころうと、多くの子供たちと同じようにうまくやっていくだろう――とにかく助けられるのであれば、経済的に見捨てるつもりはなかった。子供たちから妻を、妻から子供たちを、引き離したくはなかった。子供たちの面倒は妻が見るべきだ。子供たちには妻と一緒に快適な生活を送ってほしかった。妻と一緒にどこにいようと、子供たちには時々会いたかった。彼はただ妻と子供たちから自由になりたいだけだった。出ていって、アイリーンとの新しい世界と新しい家庭を築きたかった。だからこの最後の日々、特にこの最後の日曜の夜は、子供たちとの別れが迫っていることをあまり大っぴらにし過ぎないようにして、かなり目立った思いやりを息子と娘に見せた。

 

「フランク」クーパーウッドはこの機会に目に見えて無気力な息子に言った。「しゃきっとして、大きくて強い健康な男になる気はないか? ちゃんと遊んでないだろ。男の子たちの仲間に入ってリーダーになったらいい。どこかに運動できる場所を作って、どれだけ強くなれるか試してみたらどうだ?」

 

 家族はヘンリー・クーパーウッド邸のリビングにいた。この時みんなはかなり意識的にそこに集まっていた。

 

 大きな読書テーブルを挟んで父親の真向かいにいた娘のリリアンは、興味深げに父と兄とを眺めた。子供たちは、父親の事件と現在の窮状を知らずにすむように、しっかり守られていた。父親は一か月くらい旅行に出かけるんだと考えていた。リリアンは去年のクリスマスにプレゼントされた児童雑誌(チャッターボックス)を読んでいた。

 

「お兄ちゃんは何もしないもん」読んでいた本から顔を上げて、彼女にしては妙に批判的に口を挟んだ。「だって、わたしがかけっこやろうって言っても一緒にやってくんないもん」

 

「へっ、お前なんかと誰がかけっこしたがるかよ?」フランク・ジュニアはふてくされて言い返した。「ぼくがお前とかけっこしたくたって、お前は走れないじゃないか」

 

「わたしが走れない?」妹は答えた。「お兄ちゃんなんか負かっしゃうもん」

 

「リリアン!」母親はたしなめる口調で言い聞かせた。

 

 クーパーウッドは微笑み、愛情を込めて手を息子の頭に乗せた。「大丈夫だ、フランク」軽く耳をつまんで声をかけた。「心配するな――努力すればいいだけだ」

 

 息子は期待したほど温かい反応を示さなかった。その晩遅く、クーパーウッド夫人は、夫が娘の華奢なウエストをつかんで抱っこしたり、カールした髪をそっと引っ張ったりするのに気づいて、一瞬、娘に嫉妬した。

 

「お父さんがいない間、いい子にしていられるかい?」クーパーウッドはこっそり娘に言った。

 

「はい、お父さん」娘は明るく答えた。

 

「それでいい」クーパーウッドは答えると、かがみ込んで優しく口にキスをして「ボタンのような目だ」と言った。

 

 夫が行ってしまうとクーパーウッド夫人はため息をついた。「子供たちばかり相手にして、私には見向きもしないのね」リリアンは思ったが、子供たちにしても、これまでそれほどちやほやされてきたわけではなかった。

 

 この最後の時間にクーパーウッドが母親にとった態度は、彼がこの世界で保てる限りの優しさと思いやりに満ちたものだった。クーパーウッドは、母親の関心が派生的に広がって及ぼす影響も、母親が自分や他の関係者のことでどれほど苦しんでいるかも、はっきり理解していた。幼い頃に母が自分に注いだ思いやりのある世話を忘れたことはなかった。母の老後に不幸な破産をさせないためにできることがあったら、それをしていただろう。済んだことを悔やんでも仕方がない。成功か失敗の瞬間に激しい感情を出さずにいることはクーパーウッドにも時にはできないことがある。しかし正しい行いは、それに耐え、表に出さず、口数を減らし、何が待ち構えていようと、あきらめよりはむじろ自分で何とかしようという態度で邁進することだった。それが今朝のクーパーウッドの態度であり、周囲の者に期待したことだった――実際のところはほとんど彼自身の態度によってそういう態度を取らざるを得なかった。

 

「では、お母さん」クーパーウッドは最後の瞬間に快活に言った――母も妻も妹も法廷に来させるつもりはなかった。来たところで自分に何の違いも生じないし、無益に彼女たちの心を傷つけるだけだと主張した――「じゃあ、行ってきます。心配しないで。元気でいてださい」

 

 クーパーウッドは母親の腰に腕をまわした。母親は延々と、気持ちを抑えることなく、絶望に満ちた抱擁とキスをした。

 

「行っておいで、フランク」母親は送り出すときに、むせびながら言った。「神のご加護がありますように。あなたのために祈るわ」クーパーウッドはそれ以上母親に注意を払わなかった。あえて払わなかった。

 

「さようなら、リリアン」妻に明るく、優しく言った。「数日で戻ると思う。裁判が進む中のいくつかの場面に立ち会いに行くんだ」

 

 妹に言った。「じゃあね、アンナ。他の人たちをあまり落ち込ませないようにしてくれよ」

 

「三人とは後で会いましょう」父親と弟たちに告げると、当時の最高にしゃれた服装に身を包んだクーパーウッドはシュテーガーの待つ応接間に急いで、家を出た。彼を送り出すドアが閉まる音を聞いて、家族は胸を刺すような寂しさに襲われた。母親は泣き、父親は最上の友を失ったように見えたが自制し困難に立ち向かおうと懸命に努力し、アンナはリリアンに気にしないように言い、リリアンは何を考えていいのかわからないまま無言で未来を見つめていた。確かに、輝かしい太陽は彼らの身近な風景に、とても哀れに沈んでしまった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ