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資本家  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第50章

 

 月曜日まで保安官による行動は何もないから、クーパーウッドは月曜日に出頭すればいい、という知らせを持ってシュテーガーが来ると、事態はやわらいだ。これで考える――家庭の細かい問題をゆっくり調整する――時間ができた。慰めるようにして両親にこれを報告し、家族がもうすぐ引っ越さねばならないもっと小さな家に関する、直ちに調整すべき問題について、弟たちと父親と一緒に話し合った。この崩壊しかけている会社のさまざまなメンバーの間で、細かい事柄に関する多くの協議があった。クーパーウッドは、シュテーガーと打ち合わせをしたり、デービソン、リー、ジェイ・クック商会のアベリー・ストーン、ジョージ・ウォーターマン(昔の雇用主のヘンリーは死去)、前政権と共に退陣した前州財務官のヴァン・ノーストランドなどと直接会ったりして多忙だった。いよいよ本当に刑務所に行くことになった今、金融界の仲間に集まってもらい、知事に働きかけることで、自分を出所させることが彼らにできるかを確かめたかった。州最高裁判所の判事の間で意見が割れたことが、クーパーウッドの口実であり強みだった。シュテーガーにはこの線で話を進めてほしかった。自分の役に立ちそうなありとあらゆる人――今も三番街で営業しているティグ商会のエドワード・ティグ、ニュートン・ターグール、アーサー・リヴァース、衣料雑貨王で今や大富豪のジョセフ・ジマーマン、ジャッジ・キッチン、ハリスバーグ金融界の元代表テレンス・レリイハン、その他大勢――に会おうとする努力を惜しまなかった。

 

 レイリハンには報道機関と接触して彼らの態度を自分を釈放する方向に再調整できないか確認してほしかった。ウォルター・リーには富裕層などの重要人物がこぞって名前を連ねた嘆願書を作成して、自分の釈放を知事に求める活動の陣頭指揮を取ってほしかった。レイリハン並びにリーその他大勢がこれに快く賛同した。

 

 あとはアイリーンと再会する以外、本当に何もすることがなかった。他の難問や責務が山積する中で、時にはほぼ不可能に思えることもあったが――それでもやり遂げた――無知なくせにすべてを包み込む彼女の愛の大きさに癒やされ慰められたくてたまらなかったからだ。この頃のアイリーンの目! その中で輝くのは、クーパーウッドと彼の幸せを願う、熱く燃えている探求心だ。彼が――あたしのフランクがこんなに苦しめられるなんて! ああ――彼が何を言おうと、どんなに勇ましく明るく話そうと、あたしにはわかる。今は信じて疑わないが、あたしの彼に対する愛が、彼が刑務所に送られる主な原因なのだ。父のひどい仕打ち! 敵の小物ぶり――新聞で写真を見たあの愚かなステナーがいい例だ。現に彼女はフランクを前にするといつも、フランク――彼女の強くてハンサムな恋人――世界一強くて勇敢で賢くて優しいハンサムな男性のために、化学反応のような苦しみの中で完全に煮えくり返った。ああ、彼女が知らないなんてことはない! そしてクーパーウッドは、アイリーンの目を見て、この理屈の通じない彼にとってとても心地よい情熱を実感して、微笑み、感動した。こういう愛情! 犬が飼い主に向ける愛、母親が子供に注ぐ愛。彼はどうやってそれを呼び覚ましたのだろう? 彼にもわからなかった。しかしそれは美しかった。

 

 そして今、この最後のつらいときにクーパーウッドはアイリーンに会いたくてたまらなかった――そして会った――有罪の評決から上告棄却までの自由でいられたその月の間に少なくとも四回会った。刑務所に入る直前――刑の宣告がある月曜日の前の土曜日――クーパーウッドはアイリーンに――アイリーンはクーパーウッドに――会う最後のチャンスを手に入れた。最高裁の判決以降、彼はアイリーンと接触していなかったが、彼女から私書箱宛ての手紙を受け取り、キャムデンの小さなホテルに土曜日の予約をいれた。そこは川向こうだからフィラデルフィアのどこよりも安全だとクーパーウッドは判断した。月曜日以降、すぐには会えなくなるかもしれないのをアイリーンがどう受け止めるか、また、好きなようにたびたび相談できなくなる場所に自分が行ったら、アイリーンは全体的にどう振る舞うか、少し不安だった。だからこそ、アイリーンと話がしたかった。しかしこの時、クーパーウッドが予期し、恐れてさえいたとおり、彼女のことが気の毒に思えるほど、アイリーンの抗議はこれまでになく強烈だった。実際、強烈を上回っていた。クーパーウッドが遠くから近づいてくるのを見るとアイリーンは、彼女だけが彼にとれるあのまっすぐな力強い態度で、クーパーウッドが楽しみ称賛してやまない、男のような性急さで、彼に会おうと進み出た。そして首に腕をまわしながら言った。「ねえ、あなた、あたしに言う必要はないわ。この前の朝、新聞で見たから。気にしないで、あなた。愛してる。あたしはあなたを待ってるわ。たとえ十二年待つことになっても、あたしはあなたと一緒よ。百年かかったってへっちゃらだわ。ただあなたはお気の毒だけどね、フランク。これが終わるまで、あたしはずっとあなたと一緒よ。全力であなたを愛し続けるわ」

 

 アイリーンはクーパーウッドを撫で、クーパーウッドは、自分が落ち着いていることと、まだアイリーンに関心があって満足していることを同時に示す、あの物静かな態度で相手を見た。アイリーンを愛さずにはいられない、愛さずにいられる者がいるだろうか、と考えた。アイリーンはとても情熱的で、活発で、欲望に満ちていた。クーパーウッドは今、これまで以上に心から彼女を称賛せずにはいられなかった。何しろ自分の知的な強さをもってしても、文字通り、彼女を支配することが本当にできなかったからだ。アイリーンは、彼が冷静に批判的な態度で距離を置いても、まるで彼が自分の特別な所有物、おもちゃででもあるかのように、迫った。アイリーンはいつも彼に話しかけた。特に興奮しているときは、まるで彼が赤ん坊か自分のペットであるかのように話しかけた。クーパーウッドは時々、アイリーンはこの自分を精神的に圧倒し、従属させてしまうのではないか、と感じることがあった。彼女はとても個性的であり、女性としての自分の重要性を信じていた。

 

 このときアイリーンは、彼が失意のどん底にいて彼女の精一杯の気遣いと優しさを必要としているかのようにしゃべり続けたが、クーパーウッドは全然そうではなかった。なのに、彼女はこのときクーパーウッドに、実際にそう感じさせた。

 

「そんなにひどくはないんだよ、アイリーン」とうとうクーパーウッドから言う始末だった。相手がアイリーンであっても彼にしては珍しいくらいに穏やかで優しい態度でだった。しかしアイリーンは彼に構わず力強く続けた。

 

「あら、ひどいわよ、あなた、わかってるんだから。ああ、かわいそうなフランク! でもあたしはあなたに会いに行くわ。どんなことが起こったって、どうすればいいかは知ってるから。あそこって、どのくらいの頻度で囚人に面会させてくれるの?」

 

「三か月に一度だけという話だ。でも入所してから、こっちで調整できると思う。ただすぐには来ようとしない方がいいんじゃないか、アイリーン? 今がどんな状況かわかってるはずだ。しばらく待った方がいいんじゃないかな? お父さんを刺激する危険があるんじゃないか? お父さんがその気なら、あそこで大騒ぎを起こすかもしれないよ」

 

「三か月にたった一度ですって!」クーパーウッドがこの説明を始めると、アイリーンは声を荒らげて叫んだ。「ねえ、フランク、嫌よ! まさか! 三か月に一度だなんて! ああ、そんなの耐えられないわ! 従うもんですか! 所長に直談判してやる。そうすれば会わせてもらえるわよ。所長に話せば、きっと会わせてくれるわ」

 

 アイリーンは興奮してかなり息を切らしているのに長話をやめようとしなかった。クーパーウッドは割って入った。「きみは自分が言っていることを考えていないんだ、アイリーン。きみは考えていないよ。お父さんのことを忘れちゃいけない! 家族を忘れちゃいけない! お父さんはあそこの所長と知り合いかもしれないよ。きみだって、私に会いにあそこに通ってるって町中に広めたくはないだろ? お父さんが邪魔立てするかもしれないよ。それにきみは政党の小物の政治家ってものを私ほどわかっちゃいない。あいつらは婆さんみたいに噂話をするんだ。何をどうやるにしても、せいぜい用心しないといけないよ。私はきみを失いたくはないんだ。きみに会いたいよ。でもきみは自分がしていることに注意しなくちゃいけない。すぐに私に会おうとしては駄目だ。私だってきみに会いに来てほしいけど状況を見極めたい。きみも見極めてほしい。きみが私を失うことはないんだ。私はちゃんとあそこにいるだろうからね」

 

 そこにあるにちがいない鉄の独房の長い列を思い浮かべて、クーパーウッドは口をつぐんだ――そのうちの一つが自分用だ――刑期はどれくらいだろう?――そして、独房の扉越しか中に入って自分に会うアイリーンのことを考えた。同時に、他のことをあれこれ考えていたにもかかわらず、今日のアイリーンは何て魅力的に見えるのだろう、と考えていた。彼女は何て若々しく、何て力強いのだろう! クーパーウッドが壮年の盛りに近づきつつある一方で、アイリーンはまだ比較的若い娘であり、相変わらず美しかった。当時の奇妙なバッスルスタイルの白黒の縞模様のシルクのドレスを着て、赤みをおびた金髪のてっぺんに、小さなアザラシ皮の帽子をおしゃれにのせて、アザラシの毛皮製品一式を身につけていた。

 

「わかってる。わかってるわよ」アイリーンはきっぱりと答えた。「でも三か月よ! フランク、無理だわ! あたしはいやよ! ばかげてるわ! 三か月だなんて! もしうちの父があそこの誰か、あるいは頼み事をしたい他の相手に会いたかったら、三か月も待つ必要はないって知ってるもの。だからあたしも待ったりしない。何とかするわよ」

 

 クーパーウッドは微笑まざるをえなかった。アイリーンをそう簡単に打ち負かすことはできない。

 

「でも、きみはお父さんじゃないからね、アイリーン。それにお父さんには知られたくはないだろう」

 

「そんなことわかってる。でも、あたしが誰なのかを相手が知る必要はないでしょ。厚手のベールをかぶって行けばいいのよ。所長は父を知らないと思うわ。知ってるかもしれないけど。とにかく所長はあたしを知らないわ。もし知っていたとしても、あたしが話せば告げ口したりしないわよ」

 

 自分の魅力、個性、世俗的な特権に対するアイリーンの自信は、何ものにも支配されない自分本位なものだった。クーパーウッドは首を振った。

 

「きみという女性は最高でありながら最悪でもあるね」クーパーウッドはアイリーンの頭を引き寄せてキスをしながら優しく言った。「でも、やっぱり、私の言うことを聞かなきゃ駄目だ。シュテーガーという弁護士がいるんだ――知ってるよね。彼がこの件で所長と打ち合わせをすることになっている――今日やってるんだ。調整できるかもしれないし、できないかもしれない。明日か日曜日にはわかるから手紙を書くよ。知らせが届くまでは先走って軽はずみなことはしないことだ。面会の制限は半分に減らせると思う。多分月に一回か二週間に一回程度にね。手紙は三か月に一回しか書けない」――アイリーンは再び憤慨した――「その辺は改められるはずだ――多少はね。でも連絡がいくまでは私に手紙を書いてはいけないよ、少なくとも名前や住所は書かないこと。手紙はすべて検閲されるからね。私に面会したり手紙を書いたりするなら、用心しないと。きみは世界一用心深い人じゃないからね。いい子になってくれるかい?」

 

 二人はさらにたくさんの話をした――彼の家族のこと、月曜日に出廷すること、係争中の訴訟に出席するためにすぐに釈放されるか、恩赦が与えられるかどうか。アイリーンは今でも彼の将来を信じていた。彼を支持した反対派判事の意見にも、彼を支持しなかった三名の賛成派判事の意見にも目を通していた。フィラデルフィアでの彼の時代は終わっていない、いつか立ち直ってどこか他の地に自分を連れて行ってくれる、と信じていた。クーパーウッド夫人にはすまないと思ったが、彼女はフランクにふさわしくない――フランクに必要なのは自分のような相手だ、若さと美しさと力を備えた女性だ――自分しかいない、と確信していた。別れの時間が来るまで、アイリーンは恍惚と彼に抱きついたまま離れなかった。正確な調整をつけようのない状況で、行動計画の調整がつく範囲で、調整がつけられた。最後の瞬間、クーパーウッドと同じように、アイリーンは別れをめぐって、どうしようもなく落ち込んだ。しかしいつもの力で気を引き締めて、毅然とした眼差しで暗い将来と向き合った。

 


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