第45章
刑務所暮らしについて一概に語るなら、特別室があって、へつらう看守がいて、できるだけ快適にしようといろいろ手を尽くして大幅に修正されようと、刑務所は刑務所である。そのことからは逃れられない。クーパーウッドは、普通の下宿屋の部屋と何ら遜色のない一室で、この本物の刑務所のまだ自分の一部になっていない区域の特徴を意識していた。ここに独房があることは知っていた。おそらく脂ぎっていて、臭く、害虫が住みつき、重い鉄格子に囲まれている。もしもっといい部屋代を払うお金がなかったら、鉄格子は今そこに収容されている囚人と同じように、彼にも簡単にカシャンという音を聞かせていただろう。人間の平等なるものは、たとえ司法組織の厳しい枠組みの中でさえ、ある人間には彼自身が今楽しんでいるような私的な自由を与え、別の人間にはたまたま機転や存在感や友人や富を欠いているという理由で、お金で買えるもっと快適な環境を拒むのだ。
裁判の翌朝、目が覚めるとクーパーウッドはいぶかしげに身じろぎした。自分はもう自分の寝室の自由で快適な環境ではなく、刑務所の独房、いや、かなり快適な代用品である保安官から借りた寝室にいることに突然気がついた。起き上がって窓の外を見た。外の地面とパセインク・アベニューは雪で真っ白だ。荷馬車が数台、静かにのろのろと通り過ぎて行く。朝の用事で行き来するフィラデルフィア市民が少しではあるがあちらこちらに見えた。クーパーウッドはさっそく、事業を継続するには、再起するには、自分が何をしなければならないか、どう振る舞わねばならないかを考え始めた。考えながら、服を着て、指示されていた呼び鈴の紐を引いた。これで火を起こしその後で食事を運んでくる部屋付きの者が来る。青い制服を着たみすぼらしい刑務所の部屋付きが、クーパーウッドが占有した部屋から彼の地位の高さを意識しながら、暖炉に木と石炭をくべて火を起こし、後で朝食を運んできた。それは刑務所の食事らしからぬものだったが、それでも十分粗末だった。
その後、保安官は心配そうに気遣うふりをしていたが、服を持ってきた弟のエドワードの入室が許可されるまで、辛抱強く数時間待たされた。部屋付きが報酬と引き換えに朝刊を持ってきたが、金融記事以外は漫然と目を通した。午後遅くなってシュテーガーが到着し、特定の訴訟手続きを延期させるのに忙しかったが、重要な用件のある者に限りクーパーウッドの面会が許可されるよう保安官と調整していたことを告げた。
この時までにクーパーウッドは、十日後にはここを出る、当日かその直後に会うだろうからどんなことがあっても自分に会おうとするな、とアイリーンに手紙を書いていた。クーパーウッドも知ってのとおり、アイリーンは彼に会いたがっていた。しかし彼には、彼女が父親に雇われた探偵に監視されていると信じるだけの根拠があった。これは事実ではなかったが、アイリーンの心をむしばんでいた。そして最近夕食の席でオーエンとカラムに言われた誹謗中傷と合わさって、彼女の激しい気性には耐え難いほどになっていた。しかしキャリガン家に届いていたクーパーウッドの手紙のおかげで、十日の朝に、合理的な疑いを証明したいというクーパーウッドの申請が認められて、少なくとも当分の間彼が再び自由の身になることを知るまで、何も行動を起こさなかった。これはずっとやりたがっていたことを実行する勇気をアイリーンに与えた。それは、自分は父親がいなくてもやっていける、自分がやりたくないことは父親でもやらせることはできない、と父親に教えることだった。クーパーウッドがくれた二百ドルはまだ持っていた。それと自分の手持ちの現金がいくらか――全部で三百五十ドル――あった。これだけあれば冒険が終わるまで、あるいは少なくとも何か別の生活の準備が整うまで十分だと考えた。自分に対する家族の感情を知る限り、苦しむのは家族であって自分ではないと感じた。おそらく、自分の決意の強さを知れば、父は干渉をやめ、和解を決心するだろう。とにかくやってみることにした。アイリーンはさっそく、キャリガン家に行きます、自由になったあなたを歓迎します、とクーパーウッドに連絡した。
クーパーウッドは一応アイリーンの連絡を受けてかなり喜んだ。今の自分の窮地は、それがつらくても、バトラーとの対立が大きな原因だと感じていたから、娘を使ってバトラーを攻撃することに全然呵責を感じなかった。バトラーを怒らせないことが賢明だと以前は感じていたが、むしろ無駄だとわかったし、老人をなだめられない以上、アイリーンに彼女の資産がないわけではないことと、父親なしでも彼女が生きられることを、バトラーに示してもらうのもいいかもしれない、と考えた。アイリーンならバトラーに強く迫って、娘に対する父親の態度を変えさせたり、もしかしたら自分に対する政治的な謀略を多少修正させられるかもしれない。嵐のときに港を選り好みしてはいられない――それにもう失うものは何もない。アイリーンの行動は他の何よりも効果があるかもしれないと直感が告げた――だからそれをとめなかった。
アイリーンは、宝石、下着を少々、役に立ちそうなドレスを二、三着、その他の物も少し選んで、持っていた一番大きな旅行鞄に詰めた。靴やストッキングも考えたが、頑張っても欲しいもの全部は詰められないことに気がついた。持っていくと決めた一番すてきな帽子は入れずに持ち運ぶしかなかった。それだけ別にひとつ梱包するのは気が進まなかったが、それでも持っていくことにした。お金や宝石をしまってある小さな引き出しを引っかき回して、三百五十ドル見つけ、財布に入れた。アイリーン自身がわかったように、これでは足らない。でもクーパーウッドが助けてくれるだろう。もしクーパーウッドが自分の面倒を見る手配をせず、父親が折れなかったら、何か仕事をしなければならない。実践的な訓練を受けたことがなく、経済観念がない人たちに世間が向ける厳しい顔を、アイリーンはほとんど知らなかった。人生の過酷な現実を彼女は全然理解していなかった。十二月十日、アイリーンは聞こえよがしに鼻歌を歌いながら、父親が夕食のために下の階へ降りる音が聞こえるまで待った。それから、上の手すりから体を乗り出して、オーエン、カラム、ノラ、母親がテーブルについて、家政婦のケーティがどこにも見えないことを確認した。それから父親の書斎に忍び込み、服の中から書き置きを出し、父親の机の上に置いて外に出た。宛名は「お父さん」で内容はこうだった。
親愛なるお父さん
あたしにはお父さんの期待に応えることができません。クーパーウッドさんをとても愛しているので、出て行くことに決めました。彼共々あたしを探さないでください。お父さんが思いつきそうなところにはいません。彼のところにも行きません。そこにはいませんから。彼があたしを求めて結婚できるまで、しばらく一人で頑張るつもりです。本当にごめんなさい、でもお父さんの期待には応えられません。あたしはお父さんがあたしにした仕打ちを絶対に許すことができません。お母さん、ノラ、兄たちには、あたしに代わってさよならを伝えてください。
アイリーン
確実に発見させるために、アイリーンはバトラーが読み物をする時にいつも使っている縁のぶ厚いメガネを手に取り、その上に置いた。一瞬、とても変な、泥棒にでもなったような感じがした――彼女にとって新しい感覚だった。一瞬、痛みと一緒に恩知らずになった気分さえ感じた。もしかしたら、自分は間違ったことをしているのかもしれない。父はずっとあたしを大切にしてきたのだ。母はひどく落胆するだろう。ノラは悲しむだろう、カラムとオーエンもだ。それでも、みんなはもうあたしを理解してくれない。父の態度は腹立たしい限りだ。父だって問題が何なのかはわかっていたのかもしれないが、だめだ、父は古過ぎる。宗教や既成概念にしばられ過ぎている――変わることはないだろう。二度とあたしに家の敷居をまたがせないかもしれない。構うものか、何とかうまくやっていけるだろう。父に思い知らせてやる。学校の先生になって、必要ならずっとキャリガン家で暮らし、音楽を教えてもいい。
アイリーンはこっそり下の階へ降りて玄関ホールに行き、外のドアを開けて通りをのぞき込んだ。暗闇ではすでに街灯が煌々と燃えていて、冷たい風が吹いていた。鞄は重かったが、アイリーンはかなり力があった。約五十フィート先の街角まで元気に歩いて、南に曲がった。やや神経質に、イライラしながら歩き続けた。これはアイリーンにとって新しい経験であり、すべてがとてもみっともなく、普段のやり慣れている行動とはかなり違うように思えた。ついに街角に鞄を置いて、ひと休みした。遠くで口笛を吹いている少年が目にとまった。近づいて来たので声をかけた。「坊や! ねえ、坊や!」
少年は物珍しそうにアイリーンを見ながらやってきた。
「お小遣い稼ぎたくない?」
「はい」少年は片方の耳を覆っている薄汚い帽子を直しながら礼儀正しく答えた。
「この鞄を運んでちょうだい」アイリーンが言うと少年は鞄を持ち上げて歩き出した。
やがてキャリガン家にたどり着くと、アイリーンは大きな興奮に包まれて新しい家庭の中心に迎え入れられた。いったん落ち着くと、まったく気にもせず、自分の状況を受け入れ、化粧品や自分の着るものを静かに丁寧に整理した。自分と母親とノラの面倒をまとめてみていたメイドのキャサリンがもういないという事実は、勝手が違っても苦にはならなかった。そういう贅沢と永遠に別れたとは感じなかったので気楽なものだった。
マミー・キャリガンと母娘は主人を崇拝する奴隷だったので、アイリーンは自分が求めてやまない慣れ親しんだ雰囲気から完全に抜け出すことはなかった。




