第43章
最初に陪審に演説するのは被告側弁護士の特権なので、シュテーガーは検察に向かって丁寧に一礼して前に出た。両手を陪審席の手すりに置いて、とても静かで控えめだが印象的な口調で話し始めた。
「陪審員のみなさん、私の依頼人、三番街で働くこの街の有名な銀行家で資本家のフランク・アルガーノン・クーパーウッドさんが、総額六万ドルをフィラデルフィア市の金庫から自分の財布に不正に移し替えたとして、この地区の地方検事を代表とするペンシルベニア州に起訴されました。これは一八七一年十月九日付で、彼の名義で振り出され、当時この市の財務官の専属秘書兼主席会計士だったアルバート・スターズから受け取った小切手という形をとっています。さて、みなさん、これに関連する事実とは何でしょうか? みなさんはいろいろな証人の話を聞いて、この事件の概略をご存知です。まずはジョージ・W・ステナーの証言を取り上げてみましょう。その証言によりますと、証人は一八六六年のある時期に、かなりの安値をつけていた市債を額面価格に引き上げる方法を教えてくれる――教えてくれるだけでなく、それを実践して自らの知識が正しいことを証明してくれる銀行家だかブローカーが、どうしても必要でした。ステナーさんは当時、金融に関する経験が足りませんでした。クーパーウッドさんは取引所でブローカーやトレーダーとして、うらやましいほどの実績を持つ活発な青年でした。市債を額面で扱う方法を、ステナーさんに理論で説明するだけでなく実践してみせました。その時に、クーパーウッドさんはステナーさんと取り決めをしました。その詳細については、みなさんがステナーさん本人から聞いたとおりです。その結果、大量の市債が販売するためにステナーさんからクーパーウッドさんに引き渡されました。巧みな操作によって――売買の方法はここで説明する必要はありませんが、クーパーウッドさんが活動していた世界では完全に正当で合法的な方法で――市債を額面まで引き上げ、みなさんもここでの証言ですべて聞いたように、毎年その状態を維持しました。
さて、みなさん、ここでの争点は何でしょう? 今ステナーさんをこの法廷に連れてきて、かつての代理人兼ブローカーを窃盗と横領で告発し、市の公金六万ドルを何の見返りも与えずに私的に流用したと主張させている重要な事実とは? 一体何なのでしょう? クーパーウッドさんは密かに、まるで盗む気満々で、いつの間にか、ステナーさんや彼の部下たちに知られぬよう財務官の事務室に入り込み、強引に犯罪的意図をもって六万ドル相当の市の公金を持ち去ったのでしょうか? 全然違います。みなさんも地方検事が説明するのを聞いたでしょうが、罪状というのは、クーパーウッドさんが譲渡を行った前日の午後四時から五時の間の白昼に公然とやってきて、三十分から四十五分ほどステナーさんと閉じこもり、出てきて、アルバート・スターズさんに、最近、市の減債基金向けに六万ドル分の市債を購入したことと、その分の金はまだ支払われていないことを説明し、その金額を市の帳簿の自分の欄に計上し、自分に当然の権利がある小切手を渡すよう求めて立ち去った件です。これに何か注目すべきことがあるのでしょうか、みなさん? 何か変なところがありますか? クーパーウッドさんは、その時に自分が行ったと自分でも言ってましたが、彼がそういう業務を行う市の代理人ではないという証言が今日ここでされたでしょうか? 自分でも言ってましたが、彼が市債を購入しなかったと、どなたかこの証言台で証言したでしょうか?
それではどうしてステナーさんはクーパーウッドさんを、彼が購入する権利を持っていて、しかも彼が購入したことはここでは争われてもいないのに、証書の代金の六万ドルの小切手を窃取して不法に処分したとして告発するのでしょうか? その理由はここにあります――いいですか――ここです。私の依頼人は小切手を要求して、それを持ち去って、自分の銀行の自分の口座に入れたときに、検察側の主張によれば、その小切手と引き替えに受け取った六万ドル分の証書を減債基金に納めるのを怠りました。そしてそれを怠ったことと、同じ日の金融情勢逼迫のせいで支払いを全面的に停止せざるを得なくなったことが原因で、彼は検察側とこの市の共和党の心配性の指導者たちの言う、横領犯だか泥棒だかその類になったのです――その辺は何でも好きなものでいいんです。みなさんがジョージ・W・ステナーと無関心な共和党指導者たちの代わりに、市民の目から見て罪人に見える代わりものを見つけるのであれば」
そして、ここでシュテーガーは大胆かつ挑戦的に、シカゴ大火とその後の恐慌とその政治的影響に関連して現れた政治状況全体を概説して、クーパーウッドを不当に中傷された代理人、火災の前はフィラデルフィアのどの政治指導者にも重宝され一目置かれた人物、火災の後で選挙に負ける恐れが出たときは、手近なところにいた最も手頃なスケープゴートとして選ばれた者、として描写した。
そして、シュテーガーはこれを説明するのに三十分かけた。この後でシュテーガーは、今度はステナーのことを、特定の財務的成果を達成するために、自分たちがその結果に結びつくのを望まない上役の政治的実力者に利用された、まさに手先であり隠れ蓑だと指摘し、直後に続けた。
「しかし今、このすべてを踏まえて考えると、このすべてがいかに馬鹿げているかがおわかりでしょう! 馬鹿げています! フランク・A・クーパーウッドは長年この問題を扱う市の代理人だったのです。彼は、最初に自分とステナーさんが合意した一定の規則のもとで働きました。その規則は、ステナーさんが市の財務官として登場するずっと前の歴代政権から引き継がれた慣習や規則だったので、明らかにステナーさんの上にいる人たちから来たものでした。そのうちの一つは、翌月一日に収支決算をするまで、すべての取引を繰り越すことができるというものでした。つまり、彼は月初まで、市の財務官に一切お金を支払う必要がなく、小切手を送ったり、お金や証書を減債基金に納める必要もありませんでした。その理由はですね――これを注意して聞いてください、みなさん、ここが重要ですから――それはですね、彼が市の財務官のために行った市債その他の取引は、非常に数が多く、迅速さが求められ、事前に予測がつかなかったので、業務を適切に遂行するために――仕事として立ち行かせるために――この種のゆるい簡単なやり方をしなければならなかったからなんです。そうでなければ、彼はステナーさんのために、いや、他の誰のためにも、最大の利益になるように働くことはできなかったでしょう。彼にとっても――市の財務官にとっても――帳簿の処理が追いつかなくなることになりますからね。ステナーさんは証人尋問の早い段階でこのことを証言しています。アルバート・スターズさんも、そう理解していると述べています。では、それだと、どういうことになるのでしょう? つまり、これだけのことです。陪審員のみなさんや、正常なビジネスマンは、こういう場合に、クーパーウッドさん本人が預け入れるこういうものを全部持って、いろんな銀行や減債基金や市の財務官事務所を走り回ったり、部下の会計責任者に『はい、これ、スタプレイ、六万ドルの小切手だ。この分の市債の証書を今日中に減債基金に納めておいてくれ』と言ったりするとでも思うのでしょうか? どうしてそんなことを思わないといけないのでしょう? そんな考え方をするほうが、馬鹿げているんです! 当然のこととして、そしていつもそうしていたように、クーパーウッドさんには決まったやり方があったわけです。時が来れば、この小切手もこれらの証書も自動的に処理されたことでしょう。彼は小切手を簿記係に渡して、それっきり忘れていたのです。みなさんは、こういう大仕事を抱えた銀行家が、何か他のことをするとでも想像するのでしょうか?」
シュテーガーは一息ついて、様子を見て、自分の主張が十分に伝わったことに満足すると、話を続けた。
「もちろん、その答えは、自分が破産しそうなことを知っていた、というものでしょう。ですが、クーパーウッドさんの答えは、そんなことはまったく知らなかった、です。彼自身はここで、自分がそういう事態を考えたもしくは知ったのは、実際にそうなる直前だった、と言って証言しております。では、どうしてこれが、法的権利のある小切手をクーパーウッドさんに渡すことを拒む理由になるのでしょうか? 私にはそれがわかっている気がします。もし私の話を最後まで聞いていただけるのなら、私は理由を説明できると思います」
シュテーガーは見方をかえて、別の知的な角度から陪審に迫った。
それは単に、そのときのジョージ・W・ステナーさんが、直近の大火事と恐慌のために、何らかの理由で――おそらくはクーパーウッドさんが地元の情勢全般に過度に怯えるなと警告したことが理由で――クーパーウッドさんが店を閉めるつもりだ、と想像したからです。そして、低金利で彼に多額の資金を預けていたステナーさんは、これ以上クーパーウッドさんにお金を渡してはいけない、と決めました――提供された労働の代償に実際に彼に支払われるべきお金であり、二・五パーセントの金利でステナーさんが彼に貸し付けたお金とはまったく関係のないお金さえもです。これは馬鹿げた状況ではありませんか? しかし、ジョージ・W・ステナーさんが、本来なら支払われるべきお金をフランク・A・クーパーウッドさんに渡さないと決めたのは、クーパーウッドさんの支払能力とは最初からまったく関係のない、火事と恐慌が原因の自分の恐怖心で彼が満たされたからです。それというのも、ステナーさんは(クーパーウッドさんを仲介人として)市の公金を自分の利益を促進するために不正に流用していて、摘発され、処罰されるかもしれない危険にさらされていたからです。さて、みなさん、この決定のどこに良識があるのでしょう? これでわかりましたか、みなさん? ここで証言されたように、クーパーウッドさんが市債の証書を購入したとき、彼はまだ市の代理人だったでしょうか? 確かに代理人でした。もしそうなら、彼にはそのお金を受け取る権利があったでしょうか? どなたか、ここで立ち上がってそれを否定しようという人はいますか? この件での彼の権利、もしくは誠実さの、どこに疑問があるのでしょう? いったいどうやって疑問がここで生じるのでしょう? 私はみなさんに説明できます。それが生じる場所はひとつだけで、他のどこからも生じません。それは、共和党のスケープゴートを見つけたいというこの街の政治家たちの欲望なのです。
実際には自分のものであるものを要求して受け取ったことを理由に、市の代理人のクーパーウッドさんを起訴するという、このとてもおかしな決定を説明するのに、私の話が随分脇道に逸れている、と今みなさんはお考えかもしれませんが、そんなことはありません。当時の共和党の立場を考えてください。市の公金の巨額の横領の詳細に関する真相が明るみに出ると、目前に迫った選挙にかなりの悪影響が出る事を考えてください。共和党は当選させたい新しい財務官と新しい地方検事を抱えていました。党には、歴代の財務官に、彼らが保有する資金を財務官自身や財務官の友人たちのために低金利で運用する特権を認める慣習がありました。財務官は安月給でしたからね。それなりの生活をするには何らかの手段をもたなければなりませんでした。この市の公金貸付の慣習はジョージ・ステナーさんの責任でしょうか? まったく違います。ではクーパーウッドさんでしょうか? やはり違います。この習慣は、クーパーウッドさんやステナーさんが登場するずっと以前からありました。では、なぜ今になってこんな大騒ぎをするのでしょう? この騒動のすべては、世間に知られるのを、あのときのステナーさんが恐れ、あのとき政治家たちが恐れたことから始まったに過ぎません。これまで財務官は一度も摘発されたことがありません。露見に直面したことは、つまりステナーさんが利用していたかなり悪質な慣行に世間の注意を向けてしまう危機に直面したことは、新しい事態だったのです。それだけのことなんです。大火災と恐慌が、街中のたくさんの金融機関の安全と存続を脅かしていました――その中にクーパーウッドさんの会社もありました。破産者がたくさん出るかもしれません。たくさんの破産者が出るなら、ある人が破産することだってあるでしょう。もしフランク・A・クーパーウッドが破産したら、彼は二・五パーセントという超低金利で市の財務官から借りた五十万ドルをフィラデルフィア市に返せなくなります。このことはクーパーウッドさんにとってかなり不利に働きませんか? 彼は財務官のところへ行って二・五パーセントの金利で融資を依頼したでしょうか? もし依頼したとして、ビジネスの面から見て、そこに何か犯罪的な要素があったでしょうか? 人間には、できるだけ低い金利で借りられる融資先からお金を借りる権利があるのではないでしょうか? もし貸したくなければ、ステナーさんがクーパーウッドさんに貸さなければよかったのではありませんか? 現に彼は今日ここで、最初は自分がクーパーウッドさんを呼び寄せた、と証言したではありませんか? それでは、いったい、どうしてこのような窃盗罪、受託者による窃盗罪、横領罪、小切手による横領罪などいった扇動的な告発がなされたのでしょう?
みなさん、もう一度、よく聞いてください。私がその理由を説明します。ステナーさんの背後にいて、ステナーさんがその命令に従っていた人たちは、誰かを政治的なスケープゴートに仕立てたかったのです――他に誰も見つけることができなければフランク・アルガーノン・クーパーウッドにすればよかったわけです。それが理由です。この神の青い空の下に、他の理由はひとつもありません。もしもクーパーウッドさんがあの時、危機を乗り切るために追加融資を必要としていたなら、お金を提供してこの問題をもみ消す方が彼らにとっては良策だったでしょう。違法ではあったでしょうが――この件でこれまでに行われた他のどれと比べてみてもことさら違法というわけではありません――むしろ、その方が安全だったでしょう。恐怖ですよ、みなさん、恐怖が、勇気の欠如が、大きな危機が発生したときに大きな危機に立ち向かう能力の欠如が、実は彼らの行動の妨げただけなんです。これまで一度も自分たちの信頼を裏切ったことがなく、その忠誠心とすばらしい金融手腕から、彼らと市は大きな利益を得ていたのに、その相手を信じることが怖かったのです。火事と恐慌と破綻の可能性の噂を前にしたその時の財務官には、つづけることも違法行為をやり通す勇気もありませんでした。そして今日ここで証言したとおり、彼は手を引くことに決めました――自分がクーパーウッドさんに融資した全額あるいは少なくとも五十万ドルの大半を返すよう求めたのです。これは実際には、クーパーウッドさんがステナーさんのために使っていたものなのにです。さらには権限で購入した市債の代金として実際に彼に支払うべきお金まで拒否しました。クーパーウッドさんはこれらの取引のいずれかで、代理人として罪を犯したでしょうか? これっぽっちも犯してはいません。この彼の破産に関連して、市の五十万ドルを彼に返済させるために起こされている訴訟があったでしょうか? まったくありません。これはジョージ・W・ステナーの見当違いの愚かな狼狽が起こしただけの事件にすぎず、党の財務官であるステナー以外に、市の損失の責任を負わせられる相手を見つけたいという、事情を知った共和党指導者の強い願望にすぎません。みなさんは今日ここでクーパーウッドさんの証言を聞きました――彼はまずこういう事態が起きないようにするために、ステナーさんのところへ行きました。この警告が仇となり、ステナーさんは激しく動揺して、正気を失い、クーパーウッドさんに融資の全額、自分が二・五パーセントの金利で彼に貸した五十万ドル全額の返済を求めました。これは、どう見ても愚かなお金のやりとりではありませんか? これは、完全に合法な融資を回収するにしてはひどいタイミングではないでしょうか?
さて、六万ドルの小切手の件に戻りましょう。ステナーさんの証言によれば、ステナーさんはクーパーウッドさんが破産する直前の午後訪ねたときに、これ以上お金は渡せない、無理だ、と彼に告げました。するとクーパーウッドさんは部屋を出て一般事務室に出て行き、ステナーさんの知らないうちに、あるいは同意もないのに、彼には権利のない、もしステナーさんが知っていたらなら支払いを止めていたはずの六万ドルの小切手を渡すよう、彼の主席事務官であり秘書のアルバート・スターズさんを説得したのだそうです。
馬鹿げています! どうして彼が知らなかったんですか? 帳簿があったんですよ、彼は見ることだってできた。スターズさんが最初に言ってきたのは翌朝です。クーパーウッドさんはそれを何とも思いませんでした。だって彼にはそれを受け取る権利がありましたから。破産しようがしまいが、こういう事件を管轄するどの裁判所でもそれを回収できたんです。ステナーさんが、自分なら支払いを止めていたのに、などと言うのは愚かなことです。この主張は、おそらく翌朝仲間や政治家たちと相談して後で思いついたものでしょう。すべてが、この時期に共和党にスケープゴートを与えようという策略であり罠であり、罠の一部だったにすぎません。それ以上でもそれ以下でもありません。こればかりはクーパーウッドさんが有罪になるのを見たくて仕方がない人たちでなければわかりませんから」
シュテーガーはいったん話をやめて、意味ありげにシャノンに目を向けた。
「陪審員のみなさん(シュテーガーはようやく、静かに、真剣に結論に入った。)今晩評議室でよく考えれば、この起訴状に記された窃盗罪、受託者による窃盗罪、六万ドルの小切手の横領罪というこの訴えが、この一つの行為がさも犯罪に見えるように言いくるめようとする地方検事の熱心な努力以外の何物でもないことがわかります。これは、クーパーウッドさんを犠牲にしてでも自分の立場を守りたくて仕方がない、危険から逃げ出したい大勢の政治家の興奮した想像力の産物以外の何物でもありません。彼らは自分たちさえ罪に問われなければ、名誉も公正も一切まったく気にしないのです。彼らはペンシルベニア州の共和党員たちに、この市の共和党の運営と管理がうまくいっていないと思われたくないのです。彼らはジョージ・W・ステナーをできる限り守り、私の依頼人を政治的なスケープゴートにしたいのです。そんなことはあってはならないし、許されることはありません。そんなことは、名誉を重んじる知性ある人間として、みなさんが許さないでしょう。そう考えることで、私は安心してみなさんにお任せすることができます」
シュテーガーは突然、陪審員席に背を向けてクーパーウッドの隣の自分の席へ戻った。するとシャノンが立ち上がった。冷静で、力強く、活気に満ちていて、ずっと若々しかった。
人間同士の間にあることとして見れば、シャノンはシュテーガーがクーパーウッドのために築いたこの論証に特に異論はなかったし、クーパーウッドがしたようなお金の稼ぎ方に反対でもなかった。現にシャノンは、もし自分がクーパーウッドの立場だったら、まったく同じことをしただろうと実際に考えていた。しかし、彼は新たに選出された地方検事だった。彼は実績を作らなければならなかったし、その上、彼の上にいる政治権力者たちは、たとえ見せかけでもクーパーウッドは有罪になるべきだと考えていた。そこで、シャノンはまず手すりにしっかり両手を置き、しばらく陪審員の目をじっと見て、頭の中で少し考えをまとめてから話を始めた。
「さて、陪審員のみなさん、私には、私たち全員が今日ここで起きたことにしっかりと注意を払えば、一つの結論にたどり着くのに何の困難もないように思えます。その結論は、私たちみんなが事実を正しく判断しようと努めれば、とても満足できるものになるでしょう。この被告人、クーパーウッドさんは、先ほども述べましたが、窃盗罪、受託者による窃盗罪、横領罪、特定小切手の横領罪で起訴されて本日この法廷に出廷しました。――その小切手とは一八七一年十月九日付で、市の財務官に代わって市の財務官の秘書によって、フランク・A・クーパーウッド商会宛に総額六万ドルで振り出され、それに署名する権利があったときと同じように彼によって署名がなされて、先ほど述べたフランク・A・クーパーウッドさんに引き渡されたものです。彼は、当時自分にはきちんと支払う能力があっただけでなく、事前に六万ドル分の市債の証書も購入済みで、その時点か、もしくは慣例にならって後日、市の減債基金口座に預け入れて、普段なら普通の取引になるはずのもの――つまり、市のために市債を購入し、それを減債基金に預け、迅速かつ適切に払い戻しを受けるという、市の銀行及びブローカーとしてのフランク・A・クーパーウッド商会の業務――を終えたと主張しています。さて、みなさん、この事件で実在する事実とは何でしょう? いわゆるフランク・A・クーパーウッド商会なるものは実在したのでしょうか――みなさんがご存知のように、みなさんが今日ここで証言をお聞きになったように、会社は存在しません、だたのフランク・A・クーパーウッドという個人にすぎません――今述べたフランク・A・クーパーウッドは、彼が受領したというやり方で、このときに小切手を受け取るのにふさわしい人物だったのでしょうか――つまり、そのとき、彼は権限を有する市の代理人だったのでしょうか、それともそうではなかったのでしょうか? 彼に支払能力はあったのでしょうか? 彼は自分が破産すると本当に思っていたのでしょうか、この六万ドルの小切手は、法や道徳、その他のものに関係なく、彼が自分の財政的命脈を守るためにつかんだ最後の一本の細い藁だったのでしょうか、それとも、彼は自分が語った入手方法で入手し、自分が語った入手時期に入手したその金額の市債の証書を、実際に購入していて、ただ単に自分の正当な取り分を受け取っていただけなのでしょうか? 彼はこの市債の証書を、自分が言ったとおりに――彼はそういう行動をする、と自然に、普通に理解されていたように――市の減債基金に預けるつもりだったのでしょうか――それともそうではなかったのでしょうか? ブローカー及び代理人としての彼と市の財務官との関係は、彼がこの六万ドルの小切手を手に入れた日も、いつもと同じままだったのでしょうか、それとも違っていたでしょうか? 両者の関係は、十五分前でも二日前でも二週間前でも――きちんと終了していれば時期は重要ではありませんが――会話によって終了していたでしょうか、それともしていなかったでしょうか? 事業者は、契約が明確な形式を取っていなくて、運用期間の定めもない場合には、いつでも合意を破棄する権利を持っています――みなさんもきっとご存知でしょうが。この事件の証拠を検証する上で、みなさんはそのことを忘れてはなりません。ジョージ・W・ステナーは、フランク・A・クーパーウッドが資金繰りに行き詰まり、もはやこの合意により彼が負っているはずの義務を適切かつ忠実に遂行できないことを知り、もしくは疑い、この六万ドルの小切手が渡される前の一八七一年十月九日に、即刻その場で合意を破棄しましたか、それとも破棄しなかったでしょうか? フランク・A・クーパーウッドさんはそのとき、もう自分が市や財務官の代理人でないことを知り、自分が支払不能であることも知り(ステナーさんの証言によれば彼自身が認めているわけですが)、その後購入したと主張した証書を減債基金に納めるつもりもないのに、ステナーさんの事務所に出向き、秘書に会い、六万ドル相当の市債を購入したと告げて小切手を請求して受け取り、ポケットに入れて立ち去り、市に対していかなる手段、様式、形状でも一切返還しないまま、その二十四時間後に、これとさらに五十万ドルの市への負債を抱えて破産しましたか、それともしませんでしたか? この場合の事実とは何でしょう? 証人たちは何を証言しましたか? ジョージ・W・ステナー、アルバート・スターズ、デービソン頭取、クーパーウッドさん本人は、何を証言しましたか? いずれにせよ、この事件の気になるわかりにくい事実は何でしょう? みなさんはとても奇妙な問題を判断しなければなりません」
シャノンはいったん話をやめて、袖を直しながら陪審員を見つめた。その様子はまるで自分が、名誉を重んじる健全な社会と名誉を重んじる罪と無縁の陪審員に、自分自身を正直者として堂々と押し付けている狡猾でとらえどころのない犯罪者を追っている、と確信しているかのようだった。
それから続けた。
「さて、みなさん、事実はどうなのでしょう? この状況全体がどのようにして起きたのか、みなさんならご自分で正確にわかるはずです。みなさんには分別がありますから。私が言うまでもありません。ここに二人の人物がいます。一人はフィラデルフィア市の財務官に選ばれ、市の利益を守ってその財政を最も有利に運営することを誓った人物で、もう一人は財政の先行きが不透明な時期に難しい財政問題の解決を手助けするために招かれた人物です。そして次は、静かに私的な金融上の了解が成立して、違法な取引へとつづいていくわけです。その中で、一段と狡猾で賢く、三番街の微妙な手法に精通した人物が、もう一方の人物を幸運な投資という見かけだけは魅力的な道に誘導して、偶然とはいえそれでも犯罪に近い、破滅とさらし者と世間から後ろ指をさされる泥沼に引きずり込んだのです。そして、二人のうちで批判の矢面に立つ方の人間――つまり最も危険な立場にいるフィラデルフィア市の財務官が――もはや合理的にも、まあ、勇気を出しても――それ以上は相手についていけなくなるところまで来てしまいました。そのときに、今日の午後ここの証人席でステナーさんによって描写されたような光景がありました――あれですよ、たちの悪い貪欲で無慈悲な金融屋の狼が、ちぢこまった世間知らずな商人の子羊を見下ろすように立って、白い輝く歯をギラギラさせながら、こう言うのです『もし私が要求するお金――とりあえず三十万ドル――を寄こさなければ、あなたは囚人になってあなたの子供たちは路頭に迷い、あなたも奥さんも家族も再び貧乏に逆戻りだ。そしてあなたに手を差し伸べる者は誰もいなくなるんですよ』ステナーさんの証言によれば、これがクーパーウッドさんが彼に言った言葉です。私としては、彼が言ったということに、これっぽっちも疑いを抱いてはおりません。シュテーガーさんは自分の依頼人に言及する場合とても慎重に、上品で、親切で、紳士的な代理人だとか、三番街でコールローンが十から十五パーセント、あるいはそれ以上かかるときに、二・五パーセントの金利で五十万ドルを使うことを事実上余儀なくされただけのブローカーだと述べています。ですが、私はそれを信じる気にはなれません。このすべての中で私が奇妙に思えるのは、もし彼がそんなに上品で、親切で、優しく、穏やかで、関係が希薄な――ただの雇われ人でしかない従属的な代理人だったら――どういうわけでこの六万ドルの小切手の問題が持ち上がる二、三日前にステナーさんの事務所に行き、ステナーさんが宣誓のもとで証言しているような『すぐに、今日中に、私に市のお金をあと三十万ドル渡さないと、私は破産し、あなたは囚人になって刑務所に行くことになりますよ』と言うことができたのでしょう? これは、彼がステナーさんに言った言葉ですが、『私は破産し、あなたは囚人になる。彼らは私には手を出せなくても、あなたのことは逮捕するでしょう。私は単なる代理人ですからね』これは、親切で、罪のない、礼儀正しい代理人、もしくは雇われブローカーの言う言葉に聞こえますか、それとも、厳しい、反抗的な、人を見下した主人――つまりは主導権を握って、公正な手段であれ不正な手段であれ支配して勝つ覚悟のできている人の言葉に聞こえますか?
みなさん、私はジョージ・W・ステナーの弁護をしているのではありません。私の判断では、彼はうぬぼれた彼の共犯者と同じくらい――少なくともそれ以上に――有罪です。羊の皮をかぶって笑顔で現れて、市のお金を二人が儲かるようにできる巧妙な手口を指摘したあの油断できない資本家と同じです。でも私はこのクーパーウッドさんが、つい先ほども聞きましたが、親切で、穏やかで、罪のない代理人と評されるのを聞くと怒りが込み上げます。もしみなさんがこの主張全体を正しく理解したければ、十年から十二年くらいさかのぼって、当時かなりの貧困で苦しんだ政治の世界の駆け出しだった頃と、この非常に狡猾で有能なブローカーでもある代理人が現れて、市の金で金儲けをする手段を指摘する前のジョージ・W・ステナーさんを見なければなりません。ジョージ・W・ステナーはあまり大した人物ではありませんでした。ステナーが新しい市の財務官に選ばれたのを知ったときのフランク・A・クーパーウッドも大した人物ではありませんでした。その時に、上品で、さわやかで、若々しい、立派な身なりの彼が、狐のように抜け目なく現れて、こう言うのが目に浮かびませんか?『お任せください。私に市債を扱わせてください。市のお金を二パーセント以下で貸してください』彼がこう持ちかける声がみなさんには聞こえませんか? その様子を思い浮かべることはできませんか?
初めて市の財務官に就任したとき、ジョージ・W・ステナーは貧乏でした。比較すればかなりの貧乏人でした。彼が持っていたものは、年間二千五百ドルほどの収入をもたらす不動産と保険を扱う小さな仕事だけでした。養わなければならない奥さんと四人の子供がいて、贅沢や快適と呼べるものは、ほんのわずかでも一度も味わったことがありませんでした。そんなときに現れたのがクーパーウッドさんです――確か求めに応じたんでしたね、しかし用事といってもステナーさんの頭には不正な利益を得ようという考えはまったくありませんでした――そして彼は二人の相互利益のために市債の相場を操縦するという壮大な計画を提案します。みなさん、この証言台で見たジョージ・W・ステナーさんの様子から、あそこにいるあの紳士に不正に富を得る計画を持ちかけたのがステナーさんだと思いますか?」
シャノンはクーパーウッドを指さした。
「みなさんにはステナーさんが、金融やそれに伴うこのすばらしい相場操縦についてあの紳士に何かを言える人物に見えますか? みなさんにお尋ねします。この二人はその後で大金を稼いだわけですが、そのすべての巧妙な手口を提案するほど彼は賢く見えますか? 数週間前ここで破産した時に、このクーパーウッドさんが自分の債権者向けに作成した収支報告書によれば、彼は自分の資産を百二十五万ドル以上と考えています。今日の段階で彼は三十四歳を少し過ぎたばかりです。彼が最初に元財務官と仕事の関係を結んだ時点では、どのくらいの資産があったのでしょう? みなさんはご存知ですか? 私は知っています。一か月ほど前に就任した時に、この件を調べてもらいましたから。二十万ドルちょっとなんです、みなさん――二十万ドルをちょっと超える程度でした。ここにその年のダン商会の記録からの抜粋があります。その後、我らのシーザーがどれほど急に豊かになったか、これでみなさんにもおわかりいただけるでしょう。この短い年月でどれほどの利益が彼にもたらされたかがわかります。ジョージ・W・ステナーは、自分が解任されて横領罪で起訴されるまでに、これほどの資産を築いたでしょうか? 彼は築いたでしょうか? ここに当時の彼の負債と資産の一覧表があります。みなさん自身の目でこれを確認してください。三週間前に調べた総資産はちょうど二十二万ドルでした。私には知るだけの根拠がありますが、これは正確な評価額です。クーパーウッドさんは急速にお金持ちになったのに、ステナーさんが随分ゆっくりなのはどうしてだと思いますか? 二人は共犯者なんですよ。三番街のコールレートが時々十六とか十七パーセントになることがあるときに、ステナーさんは巨額の市の資金を二パーセントでクーパーウッドさんに貸し付けていました。そこに座っているクーパーウッドさんなら、このとても安く手に入れた資金を最大限に活用する方法を知っているとは思いませんか? みなさんには彼が知らないように見えますか? みなさんは証言台で彼を見たことがあります。彼が証言するのを聞いたことがあります。とても人当たりがよく、とても率直そうに見え、いかにも善人で、もちろんステナーさんや彼の友だちのために好意として何でもやりながら、それでも、六年ちょっとで百万ドルも稼いでいて、そのくせステナーさんには十六万ドル以下しか稼がせませんでした。もっともこの提携が始まった時点でステナーさんの所持金は微々たるもの――数千ドル――でしたが」
シャノンはいよいよ、クーパーウッドがステナーを訪ねてアルバート・スターズから六万ドルの小切手を受け取った十月九日の大事な取引に話を進めた。この巧妙で犯罪的な(とシャノンは考えているらしい)取引に対する彼の軽蔑には限りがなかった。これは明らかな窃盗で、泥棒だった。クーパーウッドはスターズに小切手を要求したときに、それを知っていたからだ。
「考えてください! (シャノンは振り返って、真っ向からクーパーウッドを見据えて叫んだ。クーパーウッドは平然と構え、動じたり、恥じる様子もなく、彼と対峙した。)考えてください! この男の途方もない厚かましさ――その頭脳のマキャベリのような狡猾さを考えてください。この男は自分が破産することを知っていたのです。資金繰りの二日間後に――彼の邪悪な計画を覆した天災の相殺に明け暮れた二日間の奮闘後に――一か所、つまり市の財務部を除いて、当たれるだけの資金源を片っ端から当たり尽くしてしまったので、無理してでもそこで援助を得られない限り、自分が破産してしまうことを知りました。すでに彼は市の財務部に対して五十万ドルの負債があります。すでに市の財務官を手玉に取って散々利用し、随分深く巻き込んでいたため、財務官は借金の途方もない大きさに怯えていました。そんなことがクーパーウッドさんを思いとどまらせたでしょうか? とんでもありません」
シャノンが目の前で不気味に指を振ったので、クーパーウッドはうっとうしそうに顔をそむけた。「あいつは自分の将来のために、自分を誇示しているんだ」とシュテーガーにささやいた。「陪審員にそう言ってもらいたいな」
「そうしたいのは山々ですが」シュテーガーは冷笑しながら答えた。「私の持ち時間は終わりました」
「どうしてでしょう。(シャノンはもう一度陪審員の方を向いて続けた。)六万ドル分の市債を追加購入したと言ったそばから、その場ですぐにその分の小切手をくれ、とアルバート・スターズに言えてしまうほどの、とてつもなく大きくて狼のように貪欲な厚かましさを考えてください! 彼は言葉どおり、本当にこの市債を購入したのでしょうか? 誰にわかるでしょう? 彼が使っていた迷路のように複雑な会計処理に目を通して実際にわかる人がいるのでしょうか? もし彼が証書を購入していたとしても、市に何の影響も与えるつもりはなかったのです。なぜなら、彼はその証書を、本来あるべき減債基金に納める努力をしなかったのですから。彼も彼の弁護士も、月初までやる必要がなかったと口をそろえて言いますが、法律ではただちにやらねばならないことになっています。そう法的に義務づけられていることは本人もちゃんとわかっていました。彼も彼の弁護士も、彼が破産するとは思わなかったと言っています。だから、そんな心配をする必要はなかったのだと。みなさんのうちのどなたかでも、これを本当に信じたでしょうか? これ以前に彼がこんなに急いで小切手を請求したことがあったでしょうか? この不正取引全体の歴史の中で、こういう事例が他にあったでしょうか? なかったことはみなさんがご存じです。これ以前は一度も、どんな場合でも、彼自身がこの事務所で何かの小切手を請求したことはありませんでした。なのに今回は請求したのです。なぜでしょう? なぜこの時は請求しなくてはならなかったのでしょう? 本人の弁明によれば、あと数時間遅くても何ら違いは生じなかったのですよね? いつものように若いのを使いに送ってもよかったはずです。これ以前はずっとそうしてきたわけですから。なぜ今回は違ったのでしょう? 私からみなさんにその理由を説明します! (シャノンはいきなり声を張り上げて叫んだ。)理由はこうです! 自分が破産するとわかったからです! 一応は合法である最後の逃げ道――ジョージ・W・ステナーの好意――が閉ざされたとわかったからです! 正直なところ、正式な合意では、これ以上は一ドルもフィラデルフィア市から引き出せないことを知ったからです。この小切手を受け取らずに事務所を離れて使いの者を取りに行かせたら、部下に周知させる時間を、危機感に駆られた財務官に与えてしまうことになり、そのときはもうお金を手に入れることはできないとわかったからです。これが理由なんです! みなさん、本当に知りたいのであれば、これが理由です。
さて、陪審員のみなさん、有罪にしようものなら重大な不正を犯すことになると弁護側のシュテーガーさんが言う、この立派な名誉と徳を備えた市民に対する私の論告は終わりました。これだけは言っておかねばなりません。私にはみなさんが正気で理性のある人たちに見えます――日常生活のいたるところで出会う、立派なアメリカのビジネスを立派なアメリカのやり方で営んでいるような人たちということです。さて、陪審員のみなさん(今度はとても穏やかな口調だった。)これだけは言わねばなりません。今日みなさんはここですべてのことを見聞きしたわけですが、それでもなお、フランク・A・クーパーウッドさんは正直で立派な人物である、故意に承知の上でフィラデルフィア市から六万ドルを盗んではいない、彼は証言どおりに証書を実際に購入していて、しかも証言どおりに減債基金に納めるつもりだった、と思うのでしたら、みなさんは彼が今日にでも三番街に戻って、もつれにもつれた自分の財務整理にかかれるよう、速やかに釈放する以外何もしてはいけません。正直で良心的なみなさんがすべきことはそれだけです――ただちに彼をこの社会に解き放ち、被告側弁護人シュテーガーさんの言う、彼に対してとられたひどい不当な仕打ちが少しでも償われるようにしてください。もしそう思うのであれば、すみやかに彼の無罪を認める義務がみなさんにはあります。ジョージ・W・ステナーについては心配しないでください。彼の有罪は本人の供述で成立します。本人が有罪を認めていますから。後ほど裁判なしで判決が言い渡されるでしょう。ですが、この男――彼は自分が正直であり名誉ある人間であると言い、破産するとは思わなかったと言っています。ああいう脅迫的で、強制的で、恐ろしい言葉を使ったのは、自分が破産の危機にあったからではなく、さらに援助を探す手間を避けたかったからだと言っています。みなさんはどう思いますか? みなさんは、彼が減債基金用に証書を六万ドル分の購入したと、そのお金を受け取る権利があったと、本当に思いますか? だったら、どうして彼はそれを減債基金に納めなかったのですか? 証書は今もそこにありませんし、六万ドルはなくなりました。どこにあるのでしょう? ジラード・ナショナル銀行です。そこで彼は十万ドルも借り越していました! 銀行はその小切手と、他の小切手や証書で残りの四万ドル分を受け取ったのでしょうか? 確かに受け取っています。なぜでしょう? みなさんは、彼が店を閉める直前にしたこの最後の小さな好意に対し、ジラード・ナショナル銀行が何らかの形で感謝しているかもしれない、と思いますか? みなさんがこの事件でとても親切に証言している様子をご覧になったデービソン頭取は、とにかく友好的な感情を抱いていて、このことがおそらくは――必ずしもそうだとは言い切れませんが――クーパーウッドさんの状況についての彼のとても好意的な解釈の説明になるかもしれない、と思いますか? そうなのかもしれませんね。みなさんは、私と同じように、そういうふうに考えることだってできます。いずれにしても、みなさん、デービソン頭取は、クーパーウッドさんを名誉ある正直者だと言っています。彼の弁護人のシュテーガーさんもそう言っています。みなさんは証言を聞いてきました。さあ、よく考えてください。もし彼を解き放ちたいのであれば――解き放ってください。(シャノンはだるそうに手をふった。)みなさんが判断してください。私ならしませんがね。しかし私は一介の勤勉な検察官に過ぎません――一人の人間の一つの意見です。みなさんは違う考え方をするかもしれません――それはみなさんにおまかせします。(思わせぶりに、ほとんど軽蔑するみたいに手を振った。)私の役目はこれで終わりです。ご静聴、感謝いたします。みなさん、決めるのはみなさんです」
シャノンは堂々と背を向けた。陪審はざわついた――法廷にいるだけで何もしていない傍聴人もざわついた。ペイダーソン判事は安堵のため息をついた。もうすっかり暗くなり、法廷のめらめら燃えるガス灯はすべて明るく灯っていた。外で雪が降っているのが見えた。裁判長は疲れた様子で書類をいじり、厳粛な態度で陪審員の方を向いて、いつものように法律上の注意事項を説明し始めた。それが済むと陪審員たちは評議室に退出した。
クーパーウッドは、急に人がいなくなり始めた法廷を横切ってやってくる父親の方を向いて言った。
「さあ、これでもうじき結果がわかるでしょう」
「そうだな」ヘンリー・クーパーウッドは少し疲れた様子で答えた。「うまくいくといいがな。ついさっき向こうでバトラーを見かけた」
「いたんですか?」クーパーウッドは尋ねた。これは彼にとって特に気になる問題だった。
「ああ」父親は答えた。「ちょうど帰るところだった」
こんなところまで来て私が裁かれるのを見とどけたがるほどバトラーは私の運命に興味があるのか、とクーパーウッドは思った。シャノンはバトラーの手先であり、ペイダーソン判事はある意味でバトラーの密使だった。クーパーウッドは娘の問題でバトラーを打ち負かしたかもしれないが、陪審が何かのはずみで同情的な態度をとらない限り、ここではそう簡単にバトラーを打ち負かすことはできなかった。陪審員は有罪の評決を出すかもしれない。そのときはバトラーの判事ペイダーソンが判決を下す特権を持つことになる――量刑を最大にして判決を下すだろう。これはあまりいい話ではない――五年なのだ! それを考えると少し冷静になったが、まだ起きてもいないことを心配しても仕方がなかった。シュテーガーは前に出て、保釈が今――陪審員がこの部屋を出た瞬間に――終了し、身柄はこの瞬間事実上、保安官の管理下にあることをクーパーウッドに告げた。面識のあるアドレイ・ジャスパース保安官だった。陪審員が無罪評決を出さなかったら、合理的な疑いを証明するために控訴手続きがとられて承認されるまで、保安官の管理下に留まらなくてはならないことをシュテーガーは付け加えた。
「丸五日はかかるでしょう、フランク」シュテーガーは言った。「ジャスパースは悪い奴じゃない。話が通じる奴です。もちろん運がよければ、彼のところに行く必要はありません。でも今はこの廷吏と一緒に行かねばなりません。もし事が順調に運べば家に帰ることになります。まあ、ここは勝ちたいところですね」シュテーガーは言った。「奴らを笑いものにして、あなたが勝つところを見たいものです。あなたは随分ひどい扱いを受けたと思います。だからそのことを完全にはっきりさせたいと思います。陪審があなたに不利な評決を出しても、一ダースの根拠を並べ立てそんなものくつがえしてやりますよ」
シュテーガーとクーパーウッド親子はさっそく保安官の部下――担当するために近づいてきた〝エディ〟・ザンダースという名前の小柄な男――と一緒に歩き出した。彼らは法廷の奥にある〝ペン〟と呼ばれる小さな部屋に入った。陪審員の退室によって自由を剥奪された被告人たちは全員そこで陪審員の帰りを待たねばならなかった。天井が高い正方形の陰気な場所で、チェストナット・ストリートに面した窓が一つと、どこかに通じている二つ目のドアがあったが、どこに通じているかは誰も知らなかった。そこは薄汚く、すり切れた木の床で、四方の壁に重たい質素な木の長椅子がいくつか並んでいて、絵や飾りの類は何もなかった。二股のガス管が一本、天井の中央から垂れ下がっていた。そこには独特のこもって汚れた鼻をつく臭いがしみついていて、明らかに人生のあらゆる漂流物と残骸のにおいがした――犯罪者もいれば無実の者もいる――それがここで時には立ち、時には座って、審議の結果が何をもたらすかを知るために辛抱強く待っていた。
もちろん、クーパーウッドは嫌気が差したが、あまりにも自立心が旺盛で、有能だったためにそれを表に出すことはできなかった。生涯を通じてずっと清潔で、身だしなみにかけてはほとんど気難しいほどだったのに、ここで不快極まる生活の一形態に否応なく接することになった。傍らにいたシュテーガーが、慰めるように、説明するように、申し訳なさそうに言葉をかけた。
「意に沿わないかもしれませんが、少し待つくらいなら気にすることもないでしょう。評議はそう長くかからないと思います」
「私の助けにはならないかもしれない」クーパーウッドは答えて窓のところへ行き、つけ加えた。「なるようにしかならないからな」
父親は表情を曇らせた。こんな気分を生み出す長期服役の瀬戸際にフランクがいるのだとしたら? 何ということだ! 一瞬、体が震えた。そして何年ぶりかに黙祷を捧げた。




