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資本家  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
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第41章

 

 二時ちょうどに、デニス・シャノンは地方検事として冒頭陳述を始めた。シャノンはとても簡潔かつ丁寧に述べた――彼はとても人を惹き付ける態度の持ち主だった――ここに提示された起訴状は、陪審席の柵の内側の席にいるフランク・A・クーパーウッド氏を、第一に窃盗罪、第二に横領罪、第三に受託者による窃盗罪、第四に特定の金額――具体的な金額は六万ドル――の横領罪で告発するものである。これは一八七一年十月九日に(同氏の指示により)同氏に渡された小切手に基づくもので、これは(両名の間に存在して一定期間有効であったある種の合意のもと)市財務官の指示で、代理人もしくは小切手の受託者たる同氏が市の減債基金向けに購入した、特定数の市債証書代金を同氏に返済することを目的とするものだった。この基金は、こうした証書が保有者の手元で満期を迎え、支払いのために提示された際に、その証書を引き取るためのものである――しかし問題の小切手はその目的に使われたことがなかった。

 

「さて、みなさん」シャノンはとても静かに言った。「クーパーウッド被告が問題の日に、市財務官から六万ドルを受領したかしなかったかという非常に単純な問題に入る前に、彼がそれを誠実に返済をしなかったとして、原告は彼を、第一に窃盗罪、第二に横領罪、第三に受託者による窃盗罪、第四に小切手に対する横領罪で起訴しましたが、それにあたって原告が何を言わんとしているのかを私からみなさんに説明させてください。さて、このとおり、ここに我々法律家が罪状と呼ぶものが四つあります。四つある理由は次のとおりです。被告は窃盗罪と横領罪が両方同時に成立するかもしれません。あるいは窃盗罪か横領罪の片方だけが有罪で、もう片方は有罪が成立しないかもしれません。市民を代表する地方検事でも確信は持てないと言っていいでしょう。これは被告が両方の罪状で有罪ではないというのではなく、ある意味で両方の側面を持つ犯罪に対して十分な処罰を確実にするには、ひとつの罪状では証拠を提出できないかもしれないからです。こういう場合はですね、みなさん、本件で採用されたように個別の複数の罪状で被疑者を起訴するのが慣例なんです。さて、この事件の四つの罪状は、ある程度重複し互いに補完し合っています。そして我々がその性質と特徴を説明して証拠を提示したあとで、被告がいずれかの罪状で有罪にあたるかどうか、あるいは罪状のうちの二つが、三つが、あるいは四つが全部有罪と、みなさんが適切で正しいと思ったとおりに――もっとはっきり言えば、証拠が示すとおりに言うことがみなさんの義務です。みなさんはご存知かもしれないし、ご存知ないかもしれませんが、窃盗というのは他人の所有物や動産をその人が知らないうちに、あるいは同意なしに持ち去る行為です。そして横領は、自分が保管や管理を任されたものを、特にお金ですが、それを不正に自分のために流用することです。一方、受託者による窃盗罪は、単に窃盗罪をより限定的にしたもので、信頼されて物品が引き渡された相手、つまり代理人や受託者が、相手の所有物を相手が知らないうちに無断で持ち去る行為、に限定するものです。四つ目の罪状を構成する小切手に関する横領罪は、二つ目の罪状を厳密な形でさらに限定的にしたもので、ある特定の明確な目的のために振り出された小切手のお金を着服することを意味します。みなさん、おわかりでしょうが、これらすべての罪状はある意味では同じなんです。互いに重複し合っています。原告は代表者の地方検事を通して、本件被告クーパーウッド氏は四つの罪状すべてで有罪である、と主張します。それでは、みなさん、この犯罪の経過に話を移します。私個人はこの犯罪から、この被告が犯罪に手を染める資本家のタイプでも最も狡猾で危険な頭脳の持ち主であることがわかるのですが、我々は証人を通して、それをみなさんにも証明したいと思います」

 

 ここでは証拠に関する規則と法廷手続き上、検察側が事件を説明するのを中断させることが認められなかったため、シャノンは次に、クーパーウッドがどのような経緯で初めてステナーに出会ったのか、どのように巧みに取り入ってステナーの信頼を得たのか、ステナーの金融知識がいかに乏しかったかなど、自分なりの視点から話をつづけ、最後に、六万ドルの小切手がクーパーウッドに渡された日のこと、窃盗罪の根拠となる小切手の引き渡しについてステナーは財務官として何も知らなかったと主張したこと、さらに、証書が購入されたにしても、小切手を受け取りながらクーパーウッドが減債基金のために購入されたはずの証書をどのように着服したか、に話を向けた。――そして、これらすべてが被告が告発された犯罪を構成しており、被告は疑いの余地なく有罪です、とシャノンは述べた。

 

「ここまで述べたことすべてについて、我々には直接的で確かな証拠があります、みなさん」シャノンは激しい口調で締めくくった。「これは噂や推測の問題ではなく、事実の問題です。揺るぎない直接証言によって、それがどのように行われたのか、みなさんに明かされます。この話をすべて聞き終わってもなおみなさんが、この男は潔白である――この男は起訴された犯罪を犯さなかった――と思うのであれば、この男に無罪を言い渡すのがみなさんの仕事です。逆に、我々が証言台に立たせる証人たちが真実を語っていると思うのであれば、この男を有罪にすることが、被告には不利でも市民の側に立った評決を下すことが、みなさんの仕事です。ご静聴ありがとうございました」

 

 陪審員たちは体が楽になるように身じろぎして、くつろぐ姿勢をとった。その状態でしばらく休息しようと思った。しかし、彼らの怠惰なつくろぎは束の間で、シャノンがさっそくジョージ・W・ステナーの名前を呼んだ。ステナーはとても青白く、かなりぐったりし、疲れ切った様子で急いで前に出た。証人席に座って、聖書に手をのせ、真実を語りますと宣誓する間、彼の目は落ち着きなく神経質に泳いだ。

 

 証言を始めるときも、声が少し弱かった。まず、一八六六年の初旬にクーパーウッドと出会った経緯を語った――正確な日付は思い出せなかったが、市財務官一期目のことだった――当選して就任したのは一八六四年の秋だった。ステナーは市債の状況に悩んでいた。市債が額面を下回っていて、法律上、市は額面でしか売却できなかったからだ。クーパーウッドのことは誰かから彼に推薦された――ストロビク氏だと思うが、自信はなかった。こういう危機のときに市財務官がプローカーを複数もしくは一名雇うのは慣例であり、ステナーはただ慣例に従っただけだった。シャノンの鋭い頭脳から繰り出される絶え間ない誘導と質問を受けて、最初の会話がどのような性質のものだったか、ステナーは説明を続けた――どんなふうにクーパーウッド氏が、ご要望どおりにできると思いますと言ったか、どんなふうに立ち去って、計画を立て、あるいは考え出したか、そして、どんなふうに戻って来てそれをステナーの前に提示したか、これをステナーはよく覚えていた。シャノンの巧みな誘導のもとで、ステナーはこの計画の全容を明らかにした――これは必ずしも普通の人間の誠実さを称賛するものではなく、人間の智謀と技術を証明するものだった。

 

 ステナーとクーパーウッドの関係について多くの議論が交わされた後で、話はいよいよ前年の十月まで進んだ。この頃には、仲間づきあい、長年の仕事で成立した合意、相互利益の関係などによって、クーパーウッドが年間数百万ドルの市債を扱い、市のために売買したり、手広く取引しただけでなく、さらに、五十万ドル相当の市の公金を超低金利で確保し、これがクーパーウッドとステナーのために、いろいろな種類の収益性の高い路面鉄道事業に投資されるところまで行った、との説明がなされた。ステナーは、この点ついて、すべてを明かしたがらなかった。しかしシャノンは、後で自分がステナー本人をまさにこの横領罪で起訴することや、シュテーガーがすぐに反対尋問を行うことがわかっていたので、ステナーを曖昧なままにしておくつもりはなかった。シャノンは陪審に、クーパーウッドは抜け目なくて油断できない人物として印象づけたかったから、徐々にではあるが確実に、彼がとてもずる賢い男だとそれとなく示すことに成功した。時折、クーパーウッドの手口の抜け目ない点が次から次へと明かされ、適度につまびらかにされると、陪審員がちらほらと振り向いてクーパーウッドを見ることがあった。クーパーウッドはこれに気づくと、できるだけ好印象を与えるために、知性と理解力を備えた落ち着いた雰囲気でただステナーを見つめるだけにした。

 

 尋問はようやく、一八七一年十月九日の午後遅く、アルバート・スターズがクーパーウッドに渡したという六万ドルの小切手の問題まで来た。シャノンはステナーに小切手の実物を見せた。あなたは今までにこれを見たことがありますか? はい。どこでですか? 十月二十日頃、ペティ地方検事の事務所でです。これを見たのはそのときが初めてですか? はい。それ以前にこれについて聞いたことがこれまでにありましたか? はい。いつですか? 十月十日です。あなたはそれを、どうやって、どういう状況で最初に聞いたのか、あなた自身の口からわかりやすく陪審に話していただけますか? ステナーは居心地悪そうに椅子の上で体をよじった。話すのはつらいことだった。いくら控えめに言っても、これは彼自身の性格と道徳心の強さについての楽しい話ではない。しかし再び咳払いして、人生というドラマのあの小さいのにつらい(くだり)を語り始めた。それは、窮地に陥り、破産寸前なのを知ったクーパーウッドが、事務所の自分のところにやって来て、一括でもう三十万ドル貸してほしいと要求したというものだった。

 

 ちょうどここで、シュテーガーとシャノンの間でかなり言い争いがあった。この件に関してステナーが真っ赤な嘘をついているように見せかけようとシュテーガーが必死だったからだ。さらにここで、シュテーガーが異議を唱えて、話の本筋から大きく脱線させた。ステナーが「思った」とか「信じた」を連発したからた。

 

「異議あり!」シュテーガーは繰り返し叫んだ。「その発言は、証拠能力がなく、無関係であり、重要性がないので記録から削除するよう願います。証人が自分の考えを述べることは許されておりません。検察官はそのことをよくご存知のはずです」

 

「裁判長」シャノンは主張した。「私は証人がわかりやすく率直に話ができるよう最善を尽くしております。それに、証人がそのようにしていることは明白だと思います」

 

「異議あり!」シュテーガーは大声で繰り返した。「裁判長、証人の誠実さを誇大評価して、陪審の心証をゆがめる権利が地方検事にはないことを私は断言いたします。検察官が証人や証人の誠実さについてどう思うかは、本件には何の関係もありません。裁判長の方からこの件をはっきり検察官に注意していただけるよう、お願い申し上げます」

 

「異議を認めます」ペイダーソン判事は宣言した。「検察官はもっと明確に願います」そして、シャノンは立証作業を続けた。

 

 ステナーの証言は、ある点が極めて重要だった。証言は、クーパーウッドが明かされたくなかったことをはっきりさせたからだ――すなわち、クーパーウッドとステナーがこの直前に言い争いをしたことと、ステナーがクーパーウッドにこれ以上お金を貸さないとはっきり明言していたことであり、さらにはクーパーウッドがこの小切手を入手した前日と、当日改めてステナーに、クーパーウッドが資金繰りでかなり絶望的な状況にあったことと、もし三十万ドル規模の援助がなされなかったらクーパーウッドは破産しそうだったことと、そうなればクーパーウッドもステナーも共に破滅することを伝えていたことである。ステナーによれば、ステナーはこの日の午前中に、減債基金向けの市債購入を中止せよと命じる書簡をクーパーウッドに送っていた。クーパーウッドがステナーの知らないうちに、アルバート・スターズから六万ドルの小切手をこっそり手に入れたのは、同じ日の午後に二人が会話を交わした後だった。この後でステナーは改めてアルバートを派遣して小切手の返還を要求したが断られ、翌日午後五時にクーパーウッドは会社の譲渡を行った。そして、盗まれた小切手で購入されたはずの証書は、本来あるべき減債基金になかった。これはクーパーウッドにとって不利な証言だった。

 

 もしこのすべてが、シュテーガーによるたくさんの激しい反対意見や異議申し立てなしに行われたとか、その後シュテーガーがステナーに反対尋問をしているときに、シャノンによる同様の行動がとられることなしに行われたとか、想像する者がいたなら、その者は大きな間違いを犯している。法廷は時々この二人の激しい論戦で火花を散らしていたので、裁判長は二人を落ち着かせるために、小槌で机を叩いたり、法廷侮辱罪をちらつかせて脅さざるを得なかった。実際、ペイダーソンは激昂したが、陪審は面白がって興味津々だった。

 

「二人とも、いい加減にしないと、双方に重い罰金を科しますよ。ここは法廷であって酒場ではありません。シュテーガーさん、ただちに私と地方検事に謝罪してください。シャノンさん、攻撃的なやり方を控えてください。あなたの態度は不快です。そういうのは法廷にふさわしくありません。もうどちらにも警告しませんよ」

 

 両弁護士とも、弁護士がこういう場でするように謝罪したが、実態はほとんど変わらなかった。どちらの態度も気分もそれ以前のままだった。

 

 こうした煩わしい中断のあとで、シャノンはステナーに尋ねた。「クーパーウッドさんはそのとき、十月九日、三十万ドルの追加融資を頼みに来たとき、あなたに何を言いましたか? 思い出せるかぎりでいいですから、彼の言葉で答えてください――できれば正確に」

 

「異議あり!」シュテーガーは盛んに横槍を入れた。「彼の正確な言葉はステナーさんの記憶以外のどこにも記録されておりません。そういうものについての彼の記憶は、この事件の証拠としては認められません。証人はすでに事件の概要を証言しております」

 

 ペイダーソン判事は厳しい表情で微笑んで「異議を却下します」と答えた。

 

「異議あり!」シュテーガーは叫んだ。

 

「私が思い出せる限りでは」ステナーは証人席の肘掛けを神経質に叩きながら答えた。「もし私が三十万ドルを彼に渡さなければ、彼は破産し、私は貧乏になって刑務所に行くことになる、と言いました」

 

「異議あり!」シュテーガーは跳び上がるように立って叫んだ。「裁判長、私は検察官のこの尋問の進め方全体に異議を申し立てます。地方検事がここでこの証人の不確かな記憶から引き出そうとしている証言は、すべての法律と判例に反しており、本件の事実とも何ら明確な関連性を持っておらず、クーパーウッドさんが自分が破産すると思ったか思わなかったかを反証することも立証することもできません。ステナーさんはこの会話、あるいはこの時にあったどの会話にも、一つの見解を述べるかもしれませんが、クーパーウッドさんには別の見解があるかもしれません。現に両名の見解は異なっております。検察が得意げに主張する割に証明することができない特定の申し立てが、陪審員の心証に偏見を抱かせようとしているものでない限り、私にはシャノン検察官のこの尋問の意図がさっぱりわかりません。証人は正確に覚えている事実だけを証言し、覚えていると思う程度のものについては証言しないよう、裁判長は証人に警告すべきだと思います。私としましては、この五分間でされた証言はすべて削除されるべきと考えます」

 

「異議を却下します」ペイダーソン判事はかなり冷ややかに答えた。陪審の心証に残るステナーの証言の重みを軽減するためだけに話していたシュテーガーは着席した。

 

 シャノンは再びステナーに近づいた。

 

「さあ、できるだけ正確に思い出してください、ステナーさん、その時クーパーウッドさんは他にどんなことを言ったのか、陪審員に話してください。彼は絶対に、あなたは破滅して刑務所に行くことになる、で話をやめませんでしたよね。その時に使われた他の言い回しはありませんでしたか?」

 

「私が覚えている限りでは」ステナーは答えた。「私を脅そうとしている政治的策謀家がたくさんいるとか、もし私が彼に三十万ドル渡さなかったら、私たちは二人とも破滅するとか、仔羊を盗んで裁かれるのなら親羊を盗んで裁かれた方がましだ、と言いました」

 

「ほお!」シャノンは叫んだ。「彼はそんなことを言ったんですか?」

 

「はい、言いました」ステナーは言った。

 

「どういうふうに言いましたか、正確には? 正確な言葉はどういうものでしたか?」シャノンは、力強く人差し指を相手に突きつけて、何が起こったのか鮮明な記憶を引き出そうと相手に迫りながら、語気を強めて問いただした。

 

「ええ、できるだけ正確に思い出しますと、彼が言ったとおりに言いますと」ステナーは曖昧な態度で答えた。「仔羊を盗んで裁かれるのなら親羊を盗んで裁かれた方がましだ、です」

 

「やっぱりそうでしたか!」シャノンは陪審の前を通り過ぎて身を翻し、クーパーウッドを見ながら叫んだ。「私が思っていたとおりだ」

 

「ただの演出です、裁判長」シュテーガーはすかさず立ち上がった。「陪審員の心証に偏見を抱かせるためのものでしかありません。演技です。手持ちの証拠に限定して、自分を有利にするための演技をしないよう裁判長から検察官に警告願います」

 

 傍聴人が微笑んだ。すると、ペイダーソン判事はそれに気づいて、厳しく眉をひそめた。「今のは異議としての申し立てですか、シュテーガーさん?」ペイダーソンは尋ねた。

 

「もちろんです、裁判長」シュテーガーは機転を利かせて主張した。

 

「異議は却下します。検察側も弁護側も、特定の型にはまった表現に限定されるものではありません」

 

 シュテーガーには笑って応える用意もあったが、あえて応えなかった。

 

 クーパーウッドはこういう証言の影響力を恐れ、これに忸怩たる思いでいたが、それでもステナーを哀れむように見た。この男の弱さ、この男のもろさ、この男の意気地なさが我々二人をこんな窮地に追い込んだのだ! 

 

 シャノンがこの思わしくない事実を引き出し終えると、シュテーガーがステナーを尋問する番になった。しかしステナーからは期待したほどの成果は得られなかった。この特定の問題に関して、ステナーは正確な真実を語っていた。その正確な真実の影響を解釈の仕方によって弱めるのは難しいが、時にはできることもある。シュテーガーは、クーパーウッドとのステナーの長年の関係を丹念に検証して、クーパーウッドは常に無私の代理人だった――巧妙で本当に犯罪的な企ての首謀者ではなった――ように見えるようにした。やるのは大変だったが、いい印象を与えた。それでも陪審員は懐疑的な気持ちで聞いていた。手っ取り早く金持ちになる絶好のチャンスに貪欲に飛びついたからといってクーパーウッドを罰するのは公平ではないかもしれない、と陪審員は考えたが、これほどあからさまな人間の強欲に無実のベールをかぶせるだけの価値がないのもまた確かだった。ようやく両弁護士がステナーへの尋問をひとまず終えると、次にアルバート・スターズが証言台に立った。

 

 アルバートは事務官として活躍した全盛期と同じように、細身で、感じがよく、敏捷で、かなり好感のもてる人物だった――このときは少し顔色が悪かったが、その他に変わったところはなかった。わずかばかりの財産が救われたのはクーパーウッドのおかげだった。クーパーウッドはスターズに、もしスターズに対し本当に請求があれば――これはなかったが――財産は本来なら市に渡るべきなのに、スターズの保証人たちが自分たちの利益のために財産を差し押さえようとしている、と自治体改革教会に報告するよう助言したからだ。この監視組織はこの問題に関する数ある報告書の一つを発行していた。アルバートはストロビクたちが慌てて手を引くのを見ていい気分だった。一度は彼の前でむなしく泣かざるを得ないことがあったにせよ、当然アルバートはクーパーウッドに感謝していた。今ではこの銀行家を助けるためなら、自分にできることは何でもしたかった。しかし生来の正直な性格が邪魔をして、ありのままの事実以外は何も語ることができなかった。それは有益な面もあればそうでない面もあった。

 

 スターズは、クーパーウッドが自分は証書を購入した、自分にはその金を受け取る権利がある、ステナーはひどく脅えている、きみに害が及ぶことは何もない、と言っていたのを覚えていると証言した。スターズは提示された市財務官の帳簿にある特定の覚書が正確であると確認し、同じように提示されたクーパーウッドの帳簿にある別の覚書もそれを裏付けるものとして確認した。自分の主席事務官がクーパーウッドに小切手を渡したと知ってステナーが驚いたというスターズの証言は、クーパーウッドに不利なものだったが、クーパーウッドは今後の自分の証言がこの影響を打ち消すことに期待をかけた。

 

 これまでのところ、シュテーガーもクーパーウッドも、自分たちはかなり順調にいっている、この裁判に勝っても驚くには当たらないと感じていた。

 


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