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資本家  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
40/59

第40章

 

 クーパーウッドが父親とシュテーガーと一緒に、実にさわやかに、颯爽と(抜け目のない資本家、実業家らしい風貌で)混み合う法廷に現れると、みんなが目を凝らした。そのほとんどの人が、こういう男に有罪を期待するのは無理があると考えた。間違いなく有罪だ、しかし、間違いなく、法の網をくぐり抜ける手段も持っている。傍聴人には彼の弁護士のハーパー・シュテーガーがとても抜け目なく狡猾に見えた。とても寒い日だった。二人とも最新流行の濃い青灰色のオーバーコートを着ていた。クーパーウッドは天気がいいと、小さな花飾りをボタンホールにつけるのだが、この日は何もつけなかった。しかし、ネクタイはラベンダー色の重厚で印象的なシルクで、澄んだ緑色の大きなエメラルドがあしらわれていた。懐中時計の極細の鎖を身につけているだけで、他に飾りの類は何もなかった。いつもは颯爽としているのに控えめで、気立てがよく、それでいて有能で、自助自立の人に見えた。今日ほどそう見えたことはなかった。

 

 クーパーウッドは即座にその場の雰囲気を読み取った。自分に異様な関心を寄せていた。彼の前にはまだ人のいない裁判官席があり、その右側に人のいない陪審席があり、その中間、傍聴席に向かって座る裁判官の左側に、彼がやがて座って証言しなければならない証人席があった。その後ろではジョン・スパークヒーバーという太った廷吏が、すでに裁判官の到着を待ち構えて立っていた。彼の仕事は、宣誓のときに証人が触れる年季の入った脂ぎった聖書を差し出すことと、証言が終わったときに「こっちに進んで」と言うことだった。廷吏は他にもいた――一人は裁判官の机の前にある柵で囲まれた空間につづく入口にいた。そこは囚人の罪状認否が行われ、弁護士が座ったり弁護したりし、被告人が席につく場所だった。もう一人は陪審員室に続く通路、さらにもう一人は一般人が入ってくる扉を警備していた。クーパーウッドは証人の中にいるステナーを観察した。ステナーは今、自分の運命に無力に怯え、誰にも恨みを向けていなかった。彼は本当に誰のことも恨んたことがなかった。今の自分の状況を見て、何よりも今はクーパーウッドの助言に従っていればよかったと思ったが、判決が下されたら、モレンハウワーや彼に代表される政界実力者たちが自分のために知事に働きかけて何かをしてくれる、とまだ信じていた。随分顔色が悪く、以前に比べるとほっそりし、繁栄の時代についたあの血色のいい肉付きはすでに失われていた。新しい灰色のスーツを着て、茶色のネクタイをしめ、髭はきれいに剃られていた。クーパーウッドの見据えるような視線に合うと、彼の目は泳ぎ、下を向き、馬鹿みたいに耳をかいた。クーパーウッドはうなずいた。

 

「なあ」クーパーウッドはシュテーガーに言った。「ジョージには同情するが、まったく愚かな奴だ。それでも、私は自分にできることはすべてやったんだ」

 

 クーパーウッドは横目でステナー夫人のことも観察した――小柄で、やつれた、血色の悪い小さな女で、服装はひどいもんだった。ああいう女と結婚するのが、いかにもステナーらしい、と思った。上流社会に選ばれない、あるいはふさわしくない者同士のみすぼらしい組み合わせは、常に彼を面白がらせるわけではないが、常に興味深いものだった。もちろん、ステナー夫人はクーパーウッドにまったく好感を持っていなかった。実際に彼女は彼のことを夫を破滅させた不正の原因と見ていたからだ。今再び貧乏になり、大きな家からもっと安い住居へ引っ越すことになった。これは夫人にすれば考えるだけで不愉快だった。

 

 しばらくしてペイダーソン判事が、人間というよりは鳩にかなり似た、小柄だががっしりした法廷係員を連れて入って来た。判事らが入廷すると、机の横でうとうとしていた廷吏のスパークヒーバーが判事の机を叩いて「ご起立願います!」とつぶやいた。傍聴人たちはすべての法廷の慣例に従い、立ち上がった。ペイダーソン判事は机の上にあるたくさんの弁論趣意書をかき分けながら、きびきびと質問し「最初の事件は何だね、プロートスさん?」と事務官に話しかけていた。

 

 この日に扱う訴訟の長くて退屈な整理がつづき、弁護士たちのいろいろな細かい申し立てが検討される間の、法廷の光景はクーパーウッドの関心をずっとつなぎとめた。どうしても勝ちたかったし、自分をここに連れてきた不運な出来事の結果には憤慨していた。表にこそ出さなかったが、人々のやる作業があまりにも頻繁に法的に妨げられる、引き延ばしや質問や些細な言い争いを重ねて進んでいく全過程に、彼はいつも激しい苛立ちを覚えた。もしみなさんが彼に尋ねて彼が自分の考えを正確に表現したならこう言っただろう。法律とは、人間の気分と誤解から生じた霧である。それが人生という海を曇らせて、人間という商業や社会に乗り出す小舟の順風の航海を妨げる。法律とは誤解の瘴気であり、そこは人生の病が悪化し、偶然に傷ついた者が、力や偶然という上下の(うす)に挟まれてすり潰される場所でもある。これは奇妙で異様で興味深いが、それでいてむなしい知恵の戦いであり、そこでは無知、無能、狡猾な者、怒った人、弱い者が、他人――つまりは弁護士、自分たち気分、虚栄心、欲望、必要、に応じてもてあそんでいる者――のチェスの駒かバドミントンの羽根にされた。それは罪深くて満足に至ることがない、妨害と引き延ばしの見世物であり、人生と人間のもろさ、策略、輪縄や落とし穴やバネ式など各種の罠に関する痛ましい記録である。全盛期の彼のような強者の手にあれば、法律は剣であり盾であり、油断した者の足元に仕掛ける罠であり、追いかけてくる者の通り道に掘る落とし穴である。それは選択次第でどんなものにでもなるものだった――違法なことをする機会への扉にも、正しく見ようとする者の目に投げつける砂煙にも、真実とその実行、正義とその裁き、犯罪と処罰の間に恣意的におろされるベールにもなった。弁護士は基本的にどんな訴訟のときでも、売買される知的な傭兵だった。クーパーウッドは、弁護士たちの論理的で感情的な決まり文句を聞いて、さらに、彼らがほとんどどんなことでも根拠にして、どんな目的のためにでも、どれほど簡単に嘘をつき、盗み、言い逃れ、事実を歪曲するかを見て、面白がった。偉大な弁護士というのは、クーパーウッドと同じように、クモのように暗がりにある密に編まれた巣に潜み、油断した人間というハエが近づいてくるのを待っている、ただの偉大で無節操な知恵者に過ぎなかった。人生は、せいぜい残忍さで築かれた、暗く、非人間的な、不親切で、無情な闘いであり、法律と弁護士はその不満足な混沌全体を代表する最も卑劣な存在だった。それでもクーパーウッドは人間の病を取り除くために、他の罠や武器を使うのと同じように法律を使い、弁護士については、自分を守るために棍棒やナイフを使うのと同じようにして彼らを使った。彼はどの弁護士のことも特に尊敬しなかった――好きではあったがハーパー・シュテーガーのことさえも尊敬しなかった。彼らは使われる道具に過ぎない――ナイフ、鍵、棍棒、何でもいいが、それ以上ではない。仕事が済めば報酬が支払われてお払い箱だ――脇へ追いやられて忘れ去られた。裁判官については、大体がただの無能な法律家だ。幸運に巡り合って持ち上げられてはいるが、もし同じ立場に立たされたら、どう見ても自分たちの前で弁護する弁護士ほどの力量はない。クーパーウッドは裁判官を全然尊敬していなかった――彼らについては多くを知りすぎたからだ。クーパーウッドは彼らがどれほど追従屋で、政治的野心を持ち、政治家の手先であり、道具、日和見、政財界の大物実力者の前に敷かれている司法的な汚点をぬぐうドアマットであるかも、実力者が彼らをそうやって使うことも知っていた。裁判官は、この埃まみれの不誠実な世界のほとんどの人たちと同じで、愚か者だ。ふん! 彼の腹の底が読めない目は、すべてをわかった上で何の反応も示さなかった。唯一の安全は自分の頭脳の壮大な機知であり、それ以外にはない、と考えた。この人間世界の仕組みに、何か偉大な、あるいは本質的な美徳があることをクーパーウッドに納得させることはできなかった。彼はあまりにも多くのことを知っていた。彼は自分自身を知っていた。

 

 ようやくいろいろな細かい未処理の申し立てをすべて片付けると、裁判官は事務官にフィラデルフィア市対フランク・A・クーパーウッド事件を呼び出すよう命じた。これははっきりした声で読み上げられた。新任の地方検事デニス・シャノンとシュテーガーの両名は同時に立ちあがった。シュテーガーとクーパーウッドは、シャノンと今入廷してペンシルベニア州原告代表として立っているストロビクと共に、裁判官席前のスペースを囲む手すりの内側の長いテーブル席に着いた。シュテーガーはあくまで効果を狙って、この起訴を退けるようペイダーソン判事に申し立てたが却下された。

 

 この事件を審理する陪審団が速やかに選ばれた――今月任に就くために招集された人たちの通常の名簿から十二名が選出された――相手側の弁護人による忌避を受ける準備に入った。この裁判所に関する限り、陪審員の選任手続きはかなり単純なものだった。その仕組みは、中国の官僚似の事務官が、今月のこの裁判所で任につくために招集された陪審員全員――全部で約五十名ほど――の名前を聞き取り、その名前をそれぞれ個別の紙札に記入して回転式抽選器の中に入れて数回まわし、手が触れた最初の札を取り、こうして偶然を頼みとし、誰が陪審員第一号かを決定するというものだった。十二回入れた手が十二名の陪審員の名札を引き出し、名前が呼ばれた者は陪審席に着席するよう命じられた。

 

 クーパーウッドは大きな関心を持ってこの一連の出来事を見守った。自分を裁こうとする者よりももっと重要なものがあるだろうか? 正確な判断を下すには進行が早すぎたが、中流階級の人たちという印象をかすかに受けた。しかし、特に一人の男性、鉄灰色の髪と顎鬚の、もじゃもじゃ眉毛で、黄ばんだ顔色をした、猫背の六十五歳の老人は、気性が優しくて経験豊富そうだから、特定の状況なら議論によっては自分に有利に傾くかもしれない印象をクーパーウッドに与えた。もう一人の、小柄で、鼻と顎の尖った、どこか商人風の男にはすぐに嫌悪感を覚えた。

 

「あの男を陪審員にする必要がないといいな」クーパーウッドは静かにシュテーガーに言った。

 

「する必要はありませんよ」シュテーガーは答えた。「私が忌避しますから。こういう事件では、我々に十五回の専断的忌避権があります。検察側にもありますがね」

 

 陪審席がようやく満員になると二人の弁護士は、事務官が小さな板を持ってくるのを待った。それには選出順に――一列目は陪審員一号、二号、三号、二列目は四号、五号、六号といった具合に――並んだ十二名の陪審員の名前を記した紙札が貼ってあった。検察側弁護士には最初に陪審員たちを審査し忌避できる特権がある。シャノンは立ち上がってその板を取り、彼らの職業や専門分野、この裁判の前にこの事件を知っていたか、被告に対して好感や反感などの偏見があるかを質問し始めた。

 

 金融について多少なりとも知識があって、この種の特殊な状況を理解できる人を見つけるのがシュテーガーとシャノン双方の仕事だった。(シュテーガーの視点から見れば)金融の嵐を乗り切るために、合理的な手段で自助努力をする人物に何らかの偏見を持つ人たちであり、(シャノンの視点から見れば)そこに少しでも何かの詭計、ごまかし、不正操作の疑いがあるのに、それに同情してしまう人たちだった。やがてシャノンとシュテーガー双方がこの陪審について自分たちで観察したように、これは、都市という大海原に投げ込まれた裁判所の網がこの種の目的のために引き上げた、社会に生息するさまざまな種類の小魚で構成されていた。その構成は主に、経営者、代理人、商人、編集者、エンジニア、建築家、毛皮商人、食料雑貨商、巡回セールスマン、作家など、この性質の裁判を担当するのに適した経験を持つあらゆる種類の働く市民だった。傑出した人物を見つけることはまれだが、厳格な常識として知られるあの興味深い資質を少なからず持つ人たちが集まることが多々あった。

 

 その間ずっと、クーパーウッドは静かにこの男たちを観察していた。青白い顔で、幅の広い思索的な額の、貧血気味な手をした若い花屋なら、自分の個人的な魅力に十分影響されそうだから価値があるという印象を受け、シュテーガーにそうささやいた。抜け目ないユダヤ人の毛皮商人がいたが、この恐慌のニュースをすべて読んでいて、路面鉄道株で二千ドルも損を出していたので忌避された。赤い頬と青い目をした亜麻色の髪の、がっしりした雑貨卸売り商人がいたが、彼は頑固そうだとクーパーウッドが言ったので除外された。やせて小粋な、小さな衣料品店の経営者がいたが、彼は免除されたい一心で、自分は聖書による宣誓を信じていないと偽って主張した。ペイダーソン判事は厳しい目で見つめながら男を解放した。その他にも約十人ほどいた――クーパーウッドを知る者、偏見を持っていると自ら認めた者、ガチガチの共和党員でこの犯罪に憤慨している者、ステナーを知る者――は気持ちいいほどに除外された。

 

 しかし十二時までには、双方にとってそれなりに納得のいく陪審が選出された。

 


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