表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
資本家  作者: ドライサーの小説の翻訳作品です
31/59

第31章

 

 フランク・A・クーパーウッド商会が銀行業務を停止したことは、取引所とフィラデルフィア全体に大きな波紋を広げた。あまりに予想外の出来事であり、巻き込まれた額が割りと大きかった。実際、負債額は百二十五万ドルに及び、株価の低迷を受けて、資産の総額はかろうじて七十五万ドルを計上した。貸借対照表が最終的に公開されるまでにかなりの作業を要したが、発表されると株価は全体でさらに三ポイント下落した。翌日の新聞はこれに派手な見出しをつけた。クーパーウッドは永久に機能不全のままでいるつもりはなかった。彼はただ一時的に業務を停止して、可能であれば後で債権者を説得して事業の再開を認めさせたいだけだった。それを阻むものが二つだけあった。馬鹿げた低金利で市の金庫から借りた五十万ドルの問題は、言葉よりもはっきりと何が起きていたのかを物語った。もう一つは六万ドルの小切手の問題だ。持ち前の金融がらみの才覚が、後日の業務再開を助けてくれそうな大口債権者たちに有利になる資産の譲渡方法があることを教えてくれたので、クーパーウッドは速やかに実行した。実際にハーパー・シュテーガーが、ジェイ・クック商会、エドワード・クラーク商会、ドレクセル商会などを先取特権者に指定する書類を作成した。たとえ会社に不満を抱いた少数株主が訴訟を起こして、後で再調整を迫ったり倒産することがあっても、最も有力な支援者たちに先取特権を与えると表明された意思表示が重要なのをクーパーウッドは知っていた。相手がこれを好感して、後でこの事態がすべて収束したときに助けてくれるかもしれないからだ。それに、訴訟が多いというのは、株式と判断力が回復するまで、こういう危機を乗り切るのに好都合なのだ。彼は訴訟が多いことには賛成だった。二人が状況を判断している間、笑顔が少ないこの金融の混乱の渦中でさえ、ハーパー・シュテーガーは一度かなり残忍に微笑んだ。

 

「フランク」シュテーガーは言った。「やりましたね。まもなくここで集団訴訟が広がりますよ。どうせ誰も勝てないのに。訴訟合戦になるでしょう」

 

 クーパーウッドは微笑んだ。

 

「私はただ少し時間がほしいだけだよ」と答えた。それでも生まれて初めて少し落ち込んだ。積極的な労働と思索を何年も捧げてきたこの事業が今終わりを告げたからだ。

 

 この全体を通してクーパーウッドを最も悩ませていたのは、自分が市の金庫に返済義務を負っていて、これが広く知れ渡れば政治や社会活動の中心まで揺るがすことがわかっている五十万ドル――少なくとも、合法もしくは合法に準ずる取り扱いのもの――ではなく、減債基金に収められずじまいで、たとえ必要な金が天から降ったとしても、今では収めることができない回収し損ねた六万ドル分の市債の証書の問題だった。これがないことには原因が追求される。クーパーウッドはこの状況をよく考えた。モレンハウワーかシンプソン(クーパーウッドはどちらとも面識はなかったがバトラーに見捨てられた以上はこの二人だけが頼りだった)もしくはその両方のところへ行き、今すぐ五十万ドルは返済できないが、もし今自分に対して、少し後の通常規模での業務再開に支障をきたす措置が何もとられなければ、問題の五十万ドルは一ドル残さず最終的に金庫に返します、と誓約しようと考えた。もし二人が断って、不当な対応がとられたら、自分の〝準備が完了〟するまで、といってもこれはどう考えてもありえないが、相手を待たせておくつもりだった。しかし実際のところ、自分に対する訴訟は――彼らによるものでさえ――どうやって防げるか、まったくもって定かではない。この金は、自分の帳簿には市への負債、市の帳簿には自分に対する債権と記載されている。さらに「市民による自治体改革協会」という地元の団体があって、時折、公共事業に関する調査を実施した。自分の公金横領はきっとこの団体の耳に入るだろうし、公的な調査が始まるかもしれない。すでにいろいろな人たちがこのことを知っていた。例えば、彼の帳簿を今調べている債権者たちだ。

 

 モレンハウワーかシンプソン、あるいはその両方に会うことが、とにかく重要だとクーパーウッドは考えた。しかし会う前にすべてをハーパー・シュテーガーに話すことに決めた。店を閉めてから数日後にクーパーウッドはシュテーガーを訪ね、余裕綽々で生き残れないなら、証書を減債基金に収めないつもりだったことを除く、この取り扱いに関するすべてを打ち明けた。

 

 ハーパー・シュテーガーは、長身で細身の、優雅なかなり品のいい男性だった。穏やかな声で、完璧なマナーを備え、まるで彼が猫で、犬がどこか近くをうろついてでもいるかのようにいつも歩いた。顔は細長く、かなり女性にもてそうなタイプで、目は青く、髪は砂のような赤みがかった茶色だった。何を考えているのかわからないじっと見すえる目をしていて、それが時々、瞑想的に口を覆う細い繊細な手越しに相手に向けられた。攻撃的にではなく冷淡にどこまでも残酷だったのは、彼が何ものもまったく信じないからだ。貧乏ではなく貧しい生まれでさえなかった。生まれつき狡猾で、自分はもっと裕福になるべきだ――もっと目立つべきだという、かなり建設的な考えの持ち主で、彼を仕事に駆り立てるのはこういうものだけだった。クーパーウッドは、法律での成功に通じる絶好の手段であり、おまけに上客だった。シュテーガーは、クライアントの中でもクーパーウッドには一目置いていた。

 

「訴えさせればいい」このときシュテーガーは言った。彼の卓越した法律的思考は、この状況のあらゆる局面を瞬時に把握していた。「ここには法解釈上の訴訟以外はありませんね。私はそうなるとは思いませんが、もしそうなるとしたら、起訴内容は横領罪か受託者による窃盗罪になるでしょう。この場合、あなたは受託者です。そして、これを免れる唯一の方法は、あなたがステナーの了承を得てその小切手を受け取ったと宣誓することです。私の見るところ、これはあなたの無責任に対する法解釈上の訴訟にしかならないでしょう。それに、この関係がどのようにつづけられたかを証拠として、陪審があなたを有罪にするとは思えません。それでも、有罪はあるかもしれない、陪審がどう判断するかはわかりませんから。でも、きっと裁判でこのすべてが明らかになるでしょう。すべては、陪審があなたがた二人――あなたとステナー――のどちらを信じようとするか、それとこの街の人たちがステナーの身代わり探しをどれくらいやりたがるか、にかかっていると私には思えます。次の選挙がかかってますからね。もしこのパニックが別の時に起きていたら――」

 

 クーパーウッドは手を振って黙らせた。そんなことは百も承知だった。「すべては政治家の決定次第だ。私にはわからない。この状況は複雑すぎるしもみ消しようがない」二人はクーパーウッドの自宅の仕事部屋にいた。「なるようにしかならない」と付け加えた。

 

「ハーパー、あなたの言うように受託者による窃盗の容疑で、私が裁判にかけられて有罪判決を受けたら法的にはどうなるのかな? 刑期は最長で何年くらいになるんだい?」

 

 シュテーガーは手で顎をなでながら少し考えた。「そうですね。そこが深刻な問題ですね? 法律では一年から最長で五年となってますが、横領事件の刑期は普通、平均で一年から三年ってところですね。もちろん、この場合――」

 

「そんなことは百も承知だ」クーパーウッドはいらいらして口を挟んだ。「私の事件は他の事件と何も違っちゃいない。あなただってわかってるでしょ。政治家たちがこれをそうしたければ、横領は横領なんだ」クーパーウッドは考え込んだ。シュテーガーは立ち上がって、ゆっくりと歩き回った。彼もまた考えていた。

 

「裁判が続いている間だけど――上級審で最終的な判決が出るまで――私はずっと刑務所に行ってなきゃならないのかな?」しばらくしてからクーパーウッドは率直に厳しい口調でつけ加えた。

 

「ええ、こういう法的手続きの中に一度そういう時期ありますね」今度は耳をこすって、この問題をできるだけ婉曲に扱おうと努力しながらシュテーガーは慎重に答えた。「このような事件でも初期の段階は、ずっと収監を免れることができます。しかしいったん裁判にかけられて有罪が確定すると、かなりどうにもならなくなります――実際ところは、再審請求と合理的疑いの認定を得るまでの数日間、五日くらいですが、刑務所に入ることが絶対に必要になります。普通はそのくらいかかりますね」

 

 若い銀行家は座って窓の外を眺めていた。シュテーガーは言った。「少し複雑ですかね?」

 

「まあ、そうだろうな」フランクは向き直って自分に言い聞かせるように付け加えた。「刑務所か! 五日も牢屋にはいるのか!」どう考えてもひどい仕打ちだ。もし合理的な疑いの認定を得られるにしても、得られるまで五日も牢の中か! これは避けなければならない! 牢屋! 刑務所! そんなことにでもなったら会社の評判はガタ落ちだ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ