第24章
クーパーウッドの実際の状態を前もって示すためにも、当時のフィラデルフィアの共和党の情勢や、ジョージ・W・ステナー、エドワード・マリア・バトラー、ヘンリー・A・モレンハウワー、マーク・シンプソン上院議員などとの関係は、ここで簡単に述べられねばならないだろう。すでに見てきたように、バトラーは普段からクーパーウッドと関わりがあって関係は良好だった。ステナーはクーパーウッドの道具だった。モレンハウワーとシンプソン上院議員は、市政の主導権を狙うバトラーの強力なライバルだった。シンプソンは、州議会の与党、共和党の代表者で、新しい選挙法の制定、市の許認可の変更、政務調査の開始など、必要であれば市を監督できる立場にいた。たくさんの有力な新聞社、企業、銀行を自分の意のままに従えていた。モレンハウウーは、ドイツ系と一部のアメリカ人と安定した大企業数社の代表であり、とても堅実で尊敬できる人物だった。三人はみんな政界の実力者で、有能で、危険だった。後者二人は、バトラーの影響力、特にアイルランド系に対する影響力を頼りにしていた。一定数の区長とカトリック系の政治家と一般信徒は、まるで彼が教会の一部であるかのようにバトラーに忠実だった。バトラーはこういう支持者たちに、保護、影響力、援助、そして幅広い善意で報いた。モレンハウワーとシンプソンを経由して市はバトラーに、道路の舗装、橋、高架橋、下水道などの契約という形でたっぷり報いた。バトラーがこういう契約をとるためには、彼が受益者であり指導者でもある共和党の運営がそこそこ健全であり続ねばならなかった。とはいっても、党の健全な運営の継続はモレンハウワーやシンプソンほどバトラーには必要ではなく、ステナーを指名したのもバトラーではなかった。ステナーは他の誰よりもモレンハウワーに直接責任を負っていた。
バトラーは息子と馬車に乗り込むときに、このことを考え、とても悩んでいた。
「さっきクーパーウッドが来てな」バトラーはオーエンに言った。オーエンは最近急速に金融のことがきちんとわかるようになってきた。父親ほどの魅力はなかったが、すでに政治や社交にかけては抜け目ない人物だった。「話によると、かなり切羽詰まっているらしい。あれが聞こえるか?」遠くで「号外! 号外!」と声が叫んでいる間にバトラーは続けた。「シカゴが燃えているそうだ。明日は証券取引所が大騒ぎになるぞ。うちはいろんな銀行にたくさんの路面鉄道株を担保に入れてある。きちんとしてるように見えないと、融資を返済しろと言ってくるからな。朝一番にそっちの対応をしないといけない。クーパーウッドは私の十万ドルを預かっているが、それをそのままにしておいてほしがっている。それにステナーの分もあるという話だ」
「ステナー?」オーエンは気になって尋ねた。「あいつが株をやってたんですか?」オーエンはつい最近ステナーと他のメンバーの噂を小耳に挟んでいたが、それを信用せず、父親にもまだ伝えていなかった。「クーパーウッドはあいつの金をどのくらい持ってるんですか?」オーエンは尋ねた。
バトラーは考えたあげく最終的に「残念なことに、相当な額だ」と言った。「実際問題、これが大金でな――五十万ドルくらいだそうだ。もしそれが知られたら大騒ぎになる、と考えているところなんだ」
「へえ!」オーエンは驚いて叫んだ。「五十万ドルも! それで、お父さん! ステナーが五十万ドルも持ち出したってことですか? まさか、あいつがそんなことをするほど器用だとは思いもしなかったな。五十万ドルか! ばれたら大騒ぎでしょうね」
「ひとまず、落ち着けって!」バトラーは全力で状況のあらゆる局面を想定しながら答えた。「どういう状況だったのか、こっちもまだ正確なことがわからないんだ。あいつだって、そんなに使うつもりはなかったのかもしれん。まだ大丈夫かもしれないんだ。金は投資に回ったんだからな。クーパーウッドだってまだ破産したわけじゃない。巻き返すかもしれん。今、決めねばならないのは、あいつを救うために何らかの手が打てるかどうかだ。もしあいつが本当のことを言ってるのなら――あいつが嘘をつくとは思っとらんが――朝のうちに路面鉄道株が大暴落しなければこれを切り抜けられるそうだ。私はヘンリー・モレンハウワーとマーク・シンプソンに会いに行くところなんだよ。これは二人にも関係するからな。クーパーウッドは私に、銀行家を集めて市場を支えられないか確認してもらいたいと言うんだ。介入して買い支えて株価を維持すれば、我々が自分の融資を守れると考えたわけだな」
オーエンは頭の中でクーパーウッドの事情を――自分の知る限りで――素早く考えた。あの銀行家は駆逐されるべきだと強く感じた。この窮地はクーパーウッドのへまであってステナーのへまではない――とも感じた。父親がそれに気づかないで憤慨しないのが不思議だった。
「これがどういうことか、おわかりでしょ、お父さん」しばらくしてからオーエンは大袈裟に言った。「クーパーウッドはステナーの金を使って株を買い、どつぼにはまったんですよ。この火事がなければ、あいつは逃げ切れたんだ。だけど今、お父さんとシンプソンさんとモレンハウワーさんと他の人たちに、自分を引き上げてもらいたがってるわけですよ。あいつはいい奴だし、僕だって結構気に入ってます。でもあいつの言うとおりにしたら、お父さんは馬鹿を見ますよ。すでに自分のもの以上のものを持ってるわけですから。先日、フロント・ストリート鉄道と、グリーン=コーツ鉄道のほとんどをあいつが所有し、十七番街=十九番街鉄道はあいつとステナーのものだと聞きました。でも、僕はそれを信じませんでした。そのことをお父さんに聞こうと思ってたんです。クーパーウッドはどの場合も自分で過半数を押さてどこかに隠し持ってるんだと思います。ステナーはただの駒にすぎません。あいつがステナーを自在に動かしているんですよ」
オーエンの目が貪欲に対抗意識を燃やして輝いた。クーパーウッドなど、処罰され、売り飛ばされて、オーエンが成功したかった路面鉄道事業から追い出されるべきなのだ。
「なるほどな」バトラーはしわがれた声で厳かに言った。「私はいつもあの若者を切れ者だと思っていたが、まさかここまで切れるとは思わなかった。そうか、これはあいつの策略か。お前もなかなか鋭いじゃないか? まあ、ちゃんと考えれば、そっちは解決できる。しかしな、これはそれだけでは済まないんだ。共和党を忘れてはいけない。私たちの繁栄は、共和党の繁栄と共にあるんだからな」――バトラーは一旦話をやめて息子を見た。「もしクーパーウッドが破産して、その金を戻せなかったら――」バトラーは語尾を濁した。「私を悩ませているのはステナーと市の公金の問題なんだ。こっちをどうにかしないと、今度の秋に党が大変なことになるかもしれない。それとうちの請負契約の一部がな。十一月に選挙があるってことを忘れんことだ。十万ドルを返してもらうべきか私は迷ってるんだ。朝のうちに自分の融資に対応するのにだって、かなりの金が必要になるだろうからな」
これは心理学の興味深い問題である。この状況の本当の問題点がバトラーがわかり始めてきたのは、このときだった。バトラーはクーパーウッドの前で、この青年の個性、彼の用件の魅力的な切り出し方、みずからの彼への贔屓目とにすっかり影響されてしまい、自分とこの事態との関係のあらゆる局面を考えるために、立ち止まらなかったのだ。涼しい夜の空気の中で、もともと野心家であり、クーパーウッドのことになると情けをかけて考えることのないオーエンと話をしているうちに、バトラーはすっかり正気に戻って、物事を正しい光に照らして見始めていた。クーパーウッドが市の財政と共和党と、ついでに言うと自分の私的な権益に大きなダメージを与えたことをバトラーは認めなければならなかった。それでも彼はクーパーウッドのことが好きだった。決して彼を見捨てるつもりはなかった。バトラーは党と自分のためにそうするのと同じくらいクーパーウッドを救うために、モレンハウワーとシンプソンに会いに行くところだった。それでも不祥事には違いない。バトラーはそれが気に入らず――憤慨した。あの若造め! まさかこれほどずる賢いとはな。それでもバトラーはこの期に及んでもなお、クーパーウッドのことが好きで、もし何かでこの若者を救えるなら、何とか救ってやるべきだと感じていた。もし他のメンバーが好意的だったら、クーパーウッドの要望どおりに、最後の最後まで自分の十万ドルは預けたままにしておいてもいい。
「ねえ、お父さん」しばらくしてオーエンが言った。「どうしてお父さんがモレンハウワーやシンプソン以上に心配する必要があるのか僕にはわかりませんね。もしお父さんたち三人があいつを助けたいのなら助けられるでしょうけど、どうしても僕にはそうする理由がわからないんです。事前に発覚したらこれが選挙に悪影響を及ぼすことは僕にだってわかりますが、それまでにもみ消せるんじゃないですか? とにかく、この選挙よりもお父さんの路面鉄道株の方が重要です。だって、もし路面鉄道株を入手できる見通しを立てられれば、もう選挙の心配をする必要はないわけでしょ。朝のうちに十万ドルを引き上げて、それを自分の株式の下落分にあてることを僕はお父さんにお勧めします。これでクーパーウッドは破産するかもしれないが、別にお父さんが痛むわけではないでしょう。お父さんは市場に乗り込んでいってあいつの株を買えばいいんです。あいつの方からやってきてお父さんに株を引き取るよう頼んだとしても僕は驚きませんよ。お父さんは、モレンハウワーとシンプソンに頼んでステナーを脅してもらい、あいつがこれ以上クーパーウッドに金を貸すことがないようにするべきです。それをしないと、クーパーウッドはあいつんとこに駆け込んで、また借りますからね。ステナーは今ずっと遠くにいます。もしクーパーウッドが売らなければ、それはそれでいいことですよ。どうせ破産するでしょうから。そのときにお父さんは他のみんなと同じように市場で入手すればいいんです。あいつは売ると思いますよ。お父さんはステナーの五十万ドルを心配している場合じゃありません。誰もあいつにそんなものを貸せとは頼んでないんですから。自分の面倒は自分で見させればいい。党にはダメージを与えるかもしれないが、そっちは後で考えればいいでしょ。お父さんとモレンハウワーなら、選挙が終わるまでこれを話題にするな、と新聞を押さることができるんですから」
「まあ、落ち着けって!」請負業者の老人が口にするのはこれだけだった。バトラーは懸命に考えていた。




