第22章
その後の一年半の間にクーパーウッドが、ステナー、ストロビク、バトラー、ヴァン・ノストランド州財務官、ハリスバーグのいわゆる〝利権屋〟の代表レイリハン州上院議員、この紳士たちと親しいさまざまな銀行のために行った業務は、膨大で機密性を要するものだった。彼はステナー、ストロビク、ウィクロフト、ハーモン、そして自分のために、北ペンシルベニア鉄道株を買い付け、これにより支配権株式の五分の一を持つ株主になった。クーパーウッドとステナーは共同で十七番街=十九番街鉄道を買収し、それに伴う株のギャンブルにのめり込んだ。
じきに三十四歳になる一八七一年の夏までに、クーパーウッドは推定およそ二百万ドルの銀行業務と総額およそ五十万ドルの個人資産を持っていて、他の諸条件が同じなら、どのアメリカ人にも匹敵しうる富を手にする見込みだった。市は市財務官――依然としてステナー氏――を通してクーパーウッドに約五十万ドル預けていた。州はヴァン・ノストランド州財務官を通して二十万ドルを帳簿に計上しつづけた。ボーデは路面鉄道株で五万ドル規模の投機を行っていた。レイリハンも同額だった。ちょっとした人数の政治家と政治家の取り巻きが、いろいろな金額で彼の帳簿に名を連ねていた。そして、エドワード・マリア・バトラーのために、時には証拠金で十万ドルを抱えることもあった。銀行からの彼の借入金は、担保に入れられたいろいろな有価証券が日々変動するので、七十万ドルにも八十万ドルにもなった。キラキラ光る蜘蛛の巣にいる蜘蛛が、巣のどの糸のこともわかっていて、張り巡らせ、テストを済ませてあるように、クーパーウッドは、豪華絢爛な人脈のネットワークを周囲に巡らせて、自分を巻き込み、細かいことのすべてを観察していたのだ。
彼の持論であり、彼が他の何よりも心血を注いで臨んだのは、路面鉄道株の操作で、特に十七番街=十九番街鉄道を実際に支配することだった。彼はステナーによって銀行に預けられた自分への前渡し金を使って、十七番街=十九番街鉄道の株価が低迷したときに、自分とステナーのために株式の五十一パーセントを何とか取得したので、そのおかげでこの会社を好きなように利用することができた。しかし、これをやり遂げるにあたって彼は後の金融界で言われることになる、とても〝独特な〟手段に訴え、自分の評価額でこの株式を手に入れた。代理人を通じてこの会社に対し、支払い利息の不払いを理由に損害賠償請求訴訟を起したのである。金で雇った人に株を少し握らせて、管財人の適性を判定するために会社の帳簿を調査するよう記録裁判所に申請させ、同時に株式市場を攻撃して三、五、七、十ポイント安で売り込み、怯えた株主の持ち株を市場に放出させた。どの銀行もこの鉄道会社はリスクが高いと判断し、関連する融資の返済を求めた。父親の銀行はここの大株主の一人に融資をしていたので、当然、これも直ちに返済が求められた。それから、代理人を通して、複数の大株主に話が持ちかけられ、救済の手が差し伸べられた。株は四十ドルで引き取られた。彼らは自分たちの苦境の原因を突き止められず、この鉄道は条件が悪いんだと想像したが、そうではなかった。手放したほうがいいな。お金はすぐに用意されるんだし。そして、クーパーウッドとステナーは共同で五十一パーセントを支配した。しかし北ペンシルベニア鉄道のときと同ように、クーパーウッドは小さな少数株主の持ち株すべてをひそかに買い集め、自分は実際に五十一パーセント、ステナーは二十五パーセント以上になった。
これは彼を興奮させた。すぐに、長年温めてきた夢を実現させるチャンスだと思った――この会社を北ペンシルベニア鉄道と合併させて再編成し、それまで一株だったところへ三株発行し、支配権分以外の全部を一般向けに売りさばき、確保した資金で別の鉄道会社の株を買う、そして、これがにわかに活気づくと、同じように売られる。要するに彼は初期の大胆な相場師の一人だった。彼らはのちに自分の勢力拡大のために、アメリカの自然な発展の、これまでとは違うもっと大きな局面をつかみとることになる。
この最初の合併に関連して彼は、二つの鉄道の合併が近いという噂を広め、路線延長の認可を議会に訴え、人の注意を引く目論見書、その後で年次報告書を作成し、増えつづける自分の資金の許す限り証券取引所で株価を高騰させるつもりだった。問題は、ひと相場作って――その間に自分の分の五十万ドルを維持したまま――彼ほどの大量発行分(五十万ドル以上)を売り抜けるには、相場が操縦できるくらいの莫大な資金が必要なことだった。こういう場合、社主は市場に出て大量の架空の買い付けを行い、そうやって架空の需要を作り出すことを余儀なくされるだけではなく、いったんこの架空の需要が大衆を欺いて、大量の株式を売りさばくことができても、自分の持ち株をすべて処分しない限りは、これを支えざるを得ない。例えば、今回のように五千株売却して、五千株保有する場合、発行済みの五千株の公開価格が一定水準以下にならないように注意しなければならない。そうしないと自分の持ち株の価値までそれにつられて下がってしまうからだ。また、ほとんどの場合そうだが、自己保有株式が他の事業の資金繰りとして銀行や信託会社の担保に入っていた場合、公開市場での価値が下がれば、銀行は自分の融資を守るために多額の保証金か、融資の完全返済を要求する。これは彼の仕事の破綻を意味し、彼はたちどころに破産するかもしれない。彼はすでにこの市債の取引でこういう難しい操作を行っていて、債券の価格は日々変動した。彼は主に値動きで利益を出していたので変動は願ってもないものだった。
しかし、この二つ目の負担は十分に興味深かったが、二倍用心深くならねばならないことを意味した。株が高値で売れれば、市財務官から借りた金は返済できるだろうが、先見の明に端を発し、将来性を資本に組み入れ、抜け目のない目論見書と報告書を作成して生まれたこの彼自身の持ち株は、額面価値かそれ以下になってしまう。他の鉄道会社に投資する資金を手に入れたいのだ。全体の財務を管理してしまえばいいのかもしれない。そうなった場合、彼の資産は何百万ドルにもなる。この男の先見性と巧妙さがわかる、実行した抜け目ないことは、自分の鉄道に対して行う延長や追加分用の別の組織や会社を作ったことだった。つまり、ある通りに二、三マイルの線路があって、同じ通りでさらに二、三マイル延長したい場合、この延長した部分を既存の会社に含めるのではなく、別の会社を作って追加した二、三マイルの通行権を管理するのである。そしてこの会社の資本金をいくらと設定し、建設と設備費用をまかなう株式と債券を発行して操作する。これが済んだら、その子会社を親会社に取り込み、それを行うために親会社の株式と社債をさらに発行し、やはり、これらの社債を一般向けに売却する。彼の下で働く弟たちでさえ、多くの取引から派生する様々な影響をわかってはおらず、黙って命令を実行した。時々、ジョセフは困惑してエドワードに言った。「まあ、フランクのことだから自分のことはわかってると思うよ」
その一方で、規則性を誇示したかったので、進行中の義務がすべてすみやかに果たされ、事前に対処さえされていることを見届けるために、細心の注意を払った。評判と地位ほど貴重なものはない。彼の先見性、用心深さ、迅速さは、銀行家たちに好評で、これまで会った中で最も健全で、最も抜け目のない人物の一人であると見なされた。
しかし一八七一年の春から夏にかけてクーパーウッドは、どんな原因のどんな想定できる危険にもさらされていなかったし、実際には思いっきり背伸びをしていた。大成功に味を占め、以前よりも伸び伸びと――気軽に――金融の冒険に乗り出していた。自分に自信があったことが大きな理由だが、徐々に父親まで路面鉄道投機に参加させ、第三ナショナル銀行の資金を借入金の一部に充て、緊急の活動資金が必要になったときに投資金を提供してもらえるようにした。最初、父親は少し神経質で懐疑的だったが、時間が経っても利益以外は何も生まなかったので、大胆になり自信を深めた。
「フランク」父親はメガネ越しに見ながら言った。「少し事を急ぎ過ぎてやしないか? 最近、借入金が随分たまってるだろう」
「ぼくの資産を考えれば、これまでにやったことと変わりませんよ、お父さん。大金を借りないと大きな取引はできません。お父さんだって、ぼく同様にご存知でしょう」
「無論、承知してる、しかし――あのグリーン=コーツ鉄道だが――あそこにかなり肩入れしてるんじゃないか?」
「そんなことはありません。あそこの内情はわかってます。最終的に株価は上がるはずです。強気でいきますよ。もし必要なら、ぼくの他の鉄道会社にくっつけますから」
クーパーウッドは我が子を見つめた。これほど大胆不敵な相場師はこれまでいなかった。
「ぼくのことなら心配いりませんよ、お父さん。何でしたら、ぼくへの融資を引き上げてください。ぼくの株なら他の銀行でも融資してくれますから。ぼくはお父さんの銀行が儲かるところを見たいんです」
これで、ヘンリー・クーパーウッドは納得した。こう言われると言い返せなかった。彼の銀行はフランクに多額の融資をしていたが、他行より多いわけではなかった。そして、彼が抱えている息子の会社の大量の株式については、避けられないことが判明したら、いつ手放すべきかを教えてもらえるはずだった。フランクの弟たちも副業でお金を稼ぐために同じように援助されていた。彼らの利益も今やフランクの利益と結びついて切っても切れない関係だった。
しかし、経済面の機会が増えていくにつれてクーパーウッドは、生活水準と呼んでいいかもしれないものにも、金を惜しまなくなっていた。フィラデルフィアの若い美術商たちは、彼が美術品好きで羽振りが良いことを聞きつけると、家具、タペストリー、敷物、美術品、絵画を――最初はアメリカ、やがて外国の巨匠の作品ばかりを――提案しながら追い回すようになった。彼の家も父親の家もこういう面が充実していなかった。そこで北十番街にも別の家があるから、こっちを美しくしたいと考えた。アイリーンはいつも自宅の現状に不満を抱いていた。自分の憧れを説明する才能はなかったが、格調高い環境への愛着はアイリーンの基本的な憧れだった。二人が密会しているこの場所は美しくあらねばならない。クーパーウッドと同じようにアイリーンもこれを強く望んだ。だから、そこは紛れもない宝の山になり、クーパーウッド邸の部屋のいくつかよりも調度品の質が高かった。彼はここで、中世の祭壇の敷布や敷物やタペストリーなど珍しいものを集め始めた。家具はジョージ王朝風もの――イタリア・ルネッサンスとフランスのルイ王朝色が加味されたチペンデール、シェラトン、ヘッペルホワイトの組み合せ――を買った。磁器、彫像、ギリシャの花瓶、日本の象牙や根付の美しいコレクションなどの好例を学んだ。地元の美術品輸入業者ケーブル&グレイ社の経営者フレッチャー・グレイが、十四世紀に織られたタペストリーの件で彼を訪ねた。グレイは熱烈な愛好家で、会うが早いか、美術品に対する自分の抑えられてはいるが燃えるような愛情の一端をクーパーウッドに伝えた。
「青磁の陰影ひとつとっても時代は五十あるんです、クーパーウッドさん」グレイは解説した。「敷物には少なくとも七つの流派というか時代があります――ペルシャ、アルメニア、アラビア、フランドル、近代ポーランド、ハンガリーなどです。もしこれを始めて、特定の一時代か全時代の完璧な――つまり代表作の――コレクションを完成させたらすばらしいものになりますよ。美しいですからね。私は実物をいくつかこの目で見たことがあります、他は本で読んだ知識ですが」
「あなたは私を改宗させる気ですね、フレッチャー」クーパーウッドは答えた。「あなたや芸術を相手にしてたら私は破滅してしまいますよ。このとおり、私はそういう気質だと思います。あなたやエルスワースやゴードン・ストライク」――絵画に強い関心を持つ別の若者――「の中にいたら私は完全に破滅してしまう。ストライクはすばらしい考えを持ってますね。私に〝正しく〟始めろって言うんです――〝正しく〟っていうのは〝適切に〟っていう意味で使ってますが」と解説し――「どれひとつとっても適切に説明がつく、芸術のそれぞれの流派や時代の希少な珍しいものの代表作を、できる限り集めさせたがるんです。名画というのは価値が上がっていくものであり、今、数十万で手に入るものが、やがて数百万になるって言うんです。彼などは私をアメリカの美術品にかかわらせたがりません」
「そのとおりですよ」グレイは叫んだ。「他の美術商を褒めても私の仕事の足しにはなりませんが。でも、それにはかなり金がかかります」
「そう大したことにはなりませんよ。少なくとも一度に全部やるわけじゃありません。当然、数年がかりでしょうね。ストレイクの考えでは、異なる時代の優れた作品を今いくつか手に入れて、同じ分野のもっといい作品が現れたら後で取り換えればいいそうです」
外見は穏やかでも、彼の心は大きな探究心を帯びていた。最初は富が唯一の目的のように思えていたが、そこに女性の美しさが加えられた。今ようやく、芸術のための芸術――バラ色の夜明けの最初のかすかな輝き――が彼を照らし始めた。そして、女性の美しさに、生活の美しさ――物質的な背景の美しさ――を加えることがいかに必要か――実際問題として偉大な美しさの背景には偉大な芸術しかないことを、彼はわかり始めていた。この少女、アイリーン・バトラー、彼女の未熟な若さと輝きは、これまで彼の中にこれと同じ規模で存在したことがなかった、ひと際目立つものに対する感覚とその必要性を芽生えさせていた。気質に対する気質の反応という微妙なものは明確にできない。自分を惹きつけるものに、自分がどの程度影響されるかなど誰にもわからないからだ。こういう恋愛が、透明な水に加えられた一滴の色素、あるいは微妙な化学処理に入れられた異質の化学薬品、以下でないかせいぜいその程度なのはとっくにわかっていた。
つまり、アイリーン・バトラーは粗野であったにもかかわらず、自ずと確かな力を持っていた。彼女の性質、ある意味で自分を取り巻く見た目の悪い環境への反発は、不合理なまでに野心的と言ってもいいほどだった。思えば、バトラー家で生を受けてこの方、彼女はこういう平凡で非芸術的な幻想と環境の犠牲者であり、その主体だった。しかし、クーパーウッドに出会って精神的に従属したため、以前ならまったく考えもしなかった、資産家的でありながら上流社会的でもある洗練された数多くのすばらしい局面を今は学んでいた。例えば、フランク・クーパーウッドのような男性の妻として将来社交界で活躍できたらどんなにすばらしいだろう。親密な関係を持って何時間もしてから彼が明らかにした、彼の考え方のすばらしさと知略は、説明や教え方がとても明確だったので、彼女でも理解しそこなうことはなかった。彼の金融、芸術、将来的に社交界を見すえた夢はすばらしい。そして、ああ、まさに、あたしは彼のもので、彼はあたしのものよ。アイリーンはこのすべての栄光と歓喜に時々我を忘れるほどだった。
同時に、(下品な事情通からは〝残飯集め〟と心無い言われ方をされた)元生ゴミ回収請負業者としての父親の地元での評判と、自宅の物質的俗悪と芸術的無秩序の状態を是正しようという無駄な努力と、確立された尊敬と社会的栄達の最終聖域として遥か彼方に彼女が認識していたあの立派な門をこの先くぐることを許されない絶望は、こんなに若いうちから彼女の中に、現状の家庭環境に対する凄まじい反感を育てていた。クーパーウッド邸に比べてこの家ときたら! 大切なのに無学な父親! そして、この偉大な男性、あたしの恋人が今、わざわざあたしを愛し――あたしの中に未来の妻を見てくれた。ああ、神さま、これが失われませんように! 最初アイリーンはクーパーウッド家を通じて、数名の人たち、若い男女――特に男性――自分よりも高い地位にいて――自分の美貌と将来の富がこの身を託すことになる相手――に出会うことを期待していたが、あてが外れた。フランク・クーパーウッドは芸術愛好家で裕福になりつづけていたが、クーパーウッド家自体はまだ中枢メンバーではなかった。彼らが受けている微妙な予備的な配慮を除けば、彼らも遠いところにいたのだ。
それでも、本能的にアイリーンはクーパーウッドの中に突破口――扉――を見出した。そしてそれと同じように、うっすらとした、迫りつつある壮大にして芸術性に富んだ未来を。この男性は、彼が今夢見ている以上の高みにのぼるだろう――アイリーンはそう感じた。この男性の中には、漠然とした認識できない形で、偉大な芸術が実在している。これはあたしが自力で計画できるどんなものよりもすばらしい。豪華なもの、壮麗なもの、社会的地位が欲しい。もしあたしがこの男性を手に入れたら、これらはあたしのものになる。行く手には、どうやら、越えられない壁があったが、アイリーンもクーパーウッドも弱い性格ではなかった。二人は最初から二頭の豹のように意気投合した。アイリーンの考えは、雑で、よくまとまっておらず、半分しか語られなかったが、それでもその力強さとあからさまな率直さは同じで、ある程度彼の考えに一致した。
「うちの父は、どうしたらいいのかわからないんだと思うわ」ある日アイリーンはクーパーウッドに言った。「別に父の落ち度じゃないけど、父にはそれができないのよ。自分にはできないとわかってて、あたしがそれを知ってることもわかってるの。あたしは何年もの間、父にはあの古い家から出て行ってほしかったわ。父だって自分がそうすべきなのはわかってるのよ。でも、それでさえ、大した効果はないんだわ」
アイリーンは話をやめ、まっすぐに、はっきりと、力強く彼を見すえた。クーパーウッドは彼女の顔立ちのメダルのようなメリハリ――滑らかなギリシャ風の造形――が好きだった。
「気にしなくていい」クーパーウッドは答えた。「すべては後で調整しよう。今はこの出口が見えないけど、いつかリリアンに打ち明けるのが一番いいと思う。そして他に計画が立てられないか確かめるんだ。私としては子供たちが困らないようにきちんとしたい。私なら十分に養えるからね。リリアンが進んで私と別れたがっても全然驚かないよ。きっと世間には知られたくないだろうからね」
クーパーウッドはリリアンの子供への愛情を、実際的な立場から、男性の感覚で考えていた。
アイリーンは、はっきり見通し、訝しがっている、確信を抱けない目で彼を見た。必ずしも同情しないわけではなかったが、ある意味でこの状況は、大きな同情が必要なものとしてアイリーンには映らなかった。クーパーウッド夫人のアイリーンに対する態度は友好的ではなかった。これは二人の考え方が違うという以外に何の根拠もなかった。クーパーウッド夫人には、どうすれば女の子があんなに顔をあげて堂々として〝気取った〟態度でいられるのか理解できなかったし、アイリーンには、どうすればリリアン・クーパーウッドのようにだらだらと無気力でいられるのか理解できなかった。人生は、乗馬、馬車、ダンス、出かけるためにある。気取ったり、冗談を言ったり、からかったり、色目をつかうためにあるのだ。クーパーウッドのような若くて力強い男性の妻であるこの女が、五歳年上で二児の母だからといって、ロマンチックで興奮さめやらぬ楽しい人生がすべて終わったかのように振る舞うのを見るのは、アイリーンには到底耐えられなかった。やはり、リリアンはフランクにふさわしくない。やはり、フランクはあたしのような若い女性を必要としている。運命はきっと彼をあたしに授けてくれる。そのとき二人はどんなすてきな生活を送るのかしら!
「ねえ、フランク」アイリーンは繰り返し彼に叫んだ。「そうなったらいいわね。あたしたちにできると思う?」
「思うか、だって? できるに決まってるさ。こんなのはただの時間の問題にすぎない。私がこの問題をはっきり妻に伝えれば、妻は私が家庭に留まるとは思わないさ。きみこそ自分の身の振り方を、よく考えることだ。もしきみのお父さんかお兄さんが私を疑ったら、最悪、 この町で一波乱あるだろうからね。私を殺さなかったら、私の金融取引のすべてで闘いを挑んでくるさ。きみは自分がやっていることを慎重に考えているかい?」
「いつも考えてるわよ。何があっても全部否定するわ。あたしが否定すれば、向こうは証明できないんだから。時間はかかっても、どうせ私はあなたのもとへたどり着くのよ」
この時、二人は十番街の家にいた。恋焦がれる女の愛情のこもった指でアイリーンは彼の頬をなでた。
「あなたのためならあたし何でもする」アイリーンは宣言した。「必要なら、あなたのために死んでもいい。あたしはそのくらいあなたを愛してるの」
「でもね、危険なんかありゃしないよ。きみがそんなことをする必要はないだろうね。だけど用心はするんだよ」




