第21章
情熱は気まぐれで! 微妙で! 危なっかしい! 何もわざわざそんな祭壇に生贄を捧げなくてもいいだろうに! すぐに、このクーパーウッドが言っていた平均より上の住宅は、満足できる隠れ家という結果を出すだけのために準備が整えられた。この家は、最近夫に先立たれたらしい未亡人に管理された。ここなら場違いな印象を与えずに、アイリーンが立ち寄ることができた。こういう環境、こういう状況でなら、無謀で無思慮な愛情と情熱に支配された彼女に向かって、恋人にすべてを捧げろと説得するのは難しくなかった。アイリーンは本当に他の誰よりもこの男性を求めていたから、一応、愛という救いの要素はあった。他の誰にも思いや感情を抱いていなかった。アイリーンの考えは、どういうわけか自分と彼がずっと一緒にいるかもしれない未来図に向かっていた。クーパーウッド夫人が死ぬかもしれないし、彼が三十五歳で百万ドルを築いたら、あたしと駆け落ちするかもしれない。何らかの形で何らかの調整がされるわ。天があたしにこの男性を与えてくれたのよ。アイリーンは疑いもせず彼を信頼した。きみに災いが降りかからないように私がきみの面倒を見る、と彼が言ったときアイリーンは全面的に彼を信じた。こういう罪は告解でよくあることなのに。
キリスト教世界のある微妙な理論によって、求愛と結婚という慣習的な過程以外に愛は存在しないと信じられるようになったのは、奇妙な事実である。一生かけて一つの愛をまっとうする、がキリスト教の考え方で、この水路だか鋳型に全世界を押し込めようと努力していた。異教徒の思想にはこういう信条はない。先人たちは些細な理由で離縁状を書いていたし、太古の世界では自然は一時的な育児期間を過ぎた後まで二人を結びつけようとはしなかったらしい。二人の互いの共感と理解に基づくなら、現代の家庭が最も理想的な体系であることに疑いを抱く必要はない。だからといって、この事実をもって、必ずしもハッピーエンドを見つけるほど幸運ではなかったすべての愛を非難すべきではない。人生はいかなる鋳型にも押し込めることはできないし、そういう試みはすぐにやめた方がいい。一生添い遂げられる仲睦まじい伴侶を見つけるほど幸運な人は、自分たちを祝福して、それに値する人になるよう励むべきである。恵まれなかった人は、社会ののけ者と書き記されても、ある程度は仕方がない。それに、人間の意志に関係なく、理論があろうがなかろうが、化学や物理の基本的事実は変わらない。類は友を呼ぶ。性格が変われば人間関係も変わる。教義が心を縛る者もいれば、恐怖が縛る者もいる。しかし、人生の化学的物理的要因が大きく、教義も恐怖も効かない者は常に存在する。社会が怖がって手をあげても、ヘレン、メッサリナ、デュ・バリー、ポンパドゥール、マンテノン、ネル・グウィンのような者はいつの時代にもいて栄え、私たちが自分たちの生活に一致させられるものより、自由な人間関係の基準を示している。
この二人は言葉では表しきれないほど互いに結ばれているのを感じた。クーパーウッドはいったん彼女を理解すると、残りの人生を一緒に幸せに暮らしていける相手を見つけたと思った。アイリーンはとても若く、自信と希望に満ち溢れ、うろたえない人だった。互いに連絡を取り合うようになってから数か月間、彼はずっとアイリーンと妻を比較していた。実は、彼の不満はこれまでぼんやりという程度だったかもしれないが、今や確実に現実のものになりつつあった。それでも子供たちはクーパーウッドを喜ばせ、家庭はすばらしかった。リリアンは粘液質で今は痩せているが、まだ所帯じみていなかった。これまで何年もずっと妻に十分満足していたが、ここにきて妻に対する不満が大きくなり始めた。リリアンはアイリーンと違って、若くも活発でもなく、人生の当たり前のことを学んでいないわけではなかった。彼は普段、愚痴っぽい人間ではなかったが、それでも近頃は時々そうなりがちだった。発端は妻の容姿についての質問だ――とても些細なことだが、それでも女性を怒らせ落胆させる苛立たしいささいな質問。何でドレスの色に近い藤色の帽子を買わなかったんだい? 何でもっと外出しないんだい? 運動すると体にいいよ。何でこうしない、何でああしない? 彼は自分がやっていることにほとんど気づかなかったが、リリアンは気がついた。言葉の裏にあるもの――本当の意味――を感じ取って憤慨した。
「ああ、何で――何で?」ある日ぶっきらぼうに言い返した。「何であなたは質問ばかりするの? あなたはもうあまり私を気にかけていないでしょ、だからよ。私にはわかるわ」
クーパーウッドはこの反撃に驚いてのけぞった。これは彼の最近の発言以外に何も根拠もなかったが絶対の自信はなかった。妻を苛立たせたことをほんの少しだけ反省して謝った。
「別にそんなこといいわよ」リリアンは答えた。「気にしてないから。でも、あなたは昔ほどあまり配慮をしなくなったって気づいたの。今のあなたは明けても暮れてもずっと仕事だもの。仕事から頭を離せないんでしょ」
クーパーウッドは安堵のため息をついた。今のところ妻は疑っていなかった。
しかし、少ししてアイリーンとどんどん心が通い合うようになると、妻が疑おうが疑うまいがあまり気にならなくなった。状況のいろいろな展開を考えているうちに、妻が疑うならその方がいいと時折考えるようになった。現に、彼女は争いを好んで闘うタイプではない。妻の性格をいろいろ考えた結果、最初想像したほど、ある種の最終的な再調整にあまり抵抗しないかもしれないと今は判断した。離婚に応じるかもしれない。欲望と夢は彼の中でさえ、彼の頭脳が普段はじき出す正常値とは違う結果を弾き出していた。
いや、この問題は、バトラー家では大ごとでも、自分の家ではそれほどではない、と彼はこのとき自分に言い聞かせた。エドワード・マリア・バトラーとの関係はとても親密になっていた。今でも絶えず有価証券の取り扱いについてバトラーに助言していて、その量は膨大だった。バトラーは、ペンシルベニア石炭会社、デラウェア&ハドソン運河、モリス&エセックス運河、リーディング鉄道などの株式を保有していた。関心がフィラデルフィアの地元の路面鉄道の問題に広がると、老紳士は他の有価証券をできるだけ有利な条件で売却して、その資金を地元の鉄道に再投資することに決めた。バトラーはモレンハウワーとシンプソンが同じことをしているのを知っていた。彼らは地元の重要な問題に優れた判断力を持っていた。クーパーウッドと同様にバトラーは、この分野の地元の情勢を十分に支配すれば、最終的にモレンハウワーやシンプソンと提携できるという考えを持っていた。そうなれば、合併した鉄道に有利な政治的な法令を通すのはとても簡単にできる。運営権でも既存の運営権に必要な延長でも追加できる。他の分野の発行済み株式の換金と、地元の路面鉄道の端株を集めることがクーパーウッドの仕事だった。バトラーは息子のオーエンとカラムを通じて、新しい路線の立案や運営権の獲得に奔走し、必要な法案を成立させるのに十分な影響力を得るために、当然、大量の株式や現金を犠牲にしていた。他の人たちもこの問題のいろいろな利点がどういうものかを知っていたので、これは簡単ではなかった。このおかげで、ここが大きな利益の源泉なのを知ったクーパーウッドは、早めに自分の分を確保できた――まとまった量を買いつけ、バトラーやモレンハウワーなどにはその一部しか渡らなかった。要するに、できれば自分のために働きたかったので、彼はバトラーや他の誰かのためには熱心に働かなかった。
これに関して、背後にいるストロビク、ウィクロフト、ハーモンを事実上代表しているジョージ・W・ステナーが提案した計画には、クーパーウッドの付け入る隙があった。ステナーの計画は、金利二パーセントで市の公金から彼に金を貸すか、彼(保身のために絶対に必要な代理人)が手数料全額を放棄するなら無償にして、その分でフロント・ストリートの北ペンシルベニア鉄道を引き継ぐかだった。この路線は全長が一マイル半と短く、運営権の期間も短かったため、あまり順調ではなく、評価もそう高くなかった。操作技術料としてクーパーウッドはその株式の適正な分け前――二十パーセントを受け取ることになった。ストロビクとウィクロフトは工作が成功すれば、株式を大量に確保できる相手を知っていた。彼らの計画は、この借りた公金で運営権と路線そのものを延長して、その後で再び大量の株式を発行し、それを贔屓の銀行の担保に入れて、元金を市に返済し、その鉄道から得た利益を自分たちでいただくというものだった。このせいでいろいろな個人の間にまで株式が散らばり、せっかく考えて苦労したのに、割と少ししか株式が手元に残らないことを除けば、クーパーウッドはこれに全然困らなかった。
クーパーウッドはチャンスがあればつけ込んだ。そして、この頃までに彼の金融のモラルは、特殊で局所的な性格を持つようになっていた。彼は、取得するとか儲ける行為がそのまま盗みと見なされる場面では、誰かが誰から何かを盗むことが賢明だとは考えなかった。それは賢明でなく――危険である――だから間違いである。取得するとか儲けるという形の行為が、議論や疑惑を招く状況はとても多かった。少なくとも彼の中で道徳は、気候ほどでないにしても、条件次第で変化した。ここフィラデルフィアでは、市財務官は元金をそっくりそのまま返せば、市の公金を無利子で使えるのが伝統だった(政治的にであって一般的にはそうではない)。公金と市財務官は、蜂蜜の詰まった巣箱と女王蜂のようなもので、その周りには雄蜂――政治家――が利益にあやかろうと群がった。このステナーとの取引で不都合な点は、ステナーとストロビクの実質的な上司であるバトラー、モレンハウワー、シンプソンの誰もこの件を知らないことだった。ステナーと彼の背後の黒幕は彼を使って自分たちのために行動していた。上の実力者がこれを聞きつけたら、彼らは遠ざけられるかもしれない。これについては考えなければならなかった。しかし、もし彼がステナーや地元の問題で影響力を持つ他の人との有利な取引を断れば、他の銀行家やブローカーが喜んで応じるだろうから、自分が損をすることになる。それに、バトラー、モレンハウワー、シンプソンがこの先聞きつけるとは限らなかった。
これに関連して、彼も時々乗る十七番街=十九番街鉄道というもう一つの路線があった。もし資金を調達できるなら、こっちの方がはるかに考え甲斐があると感じた。ここは最初、資本金五十万ドルだったが、改善用に一連の社債二十五万ドルが追加され、その利息の支払いに会社はとても苦労していた。株式の大部分は小口投資家に分散していて、彼がそれを集めて社長か代表取締役になるには、全部で二十五万ドル必要だった。しかし、いったん就任してしまえば、この株式で好きなように議決する一方で、株を父親の銀行に担保に入れ、得られるだけの金を手に入れ、さらに株を発行し、それを使って議員に賄賂をおくり、路線延長の問題や、買収による追加、業務提携による補完など他のチャンスをつかむことができる。「賄賂」という言葉が、ここではこうして事務的にアメリカ流に使われるが、州議会が関係すると賄賂はみんなが考えるからである。テレンス・レイリハン――服装も態度も一流の小柄で顔の黒いアイルランド人――ハリスバーグの金融関係者の代表――は五百万ドルの公債が印刷された後クーパーウッドのところにきて言った。お金かそれと同等の換金可能な有価証券がなければ、州都では何もできない。どの有力議員でも、議決票か影響力を行使するとなれば、見返りは欠かせない。もしあなた、クーパーウッドに何か手がけたい計画があるなら、いつでも相談に乗る、とレイリハンは言ってくれた。クーパーウッドはこの十七番街=十九番街鉄道計画を何度も考えたが、進んで取り組みたいと確信に至ったことはなかった。他の方面での義務がとても大きかったからである。しかし誘惑するものがあったから、クーパーウッドは思案を重ねた。
彼に金を貸し、北ペンシルベニア鉄道の取引を操作するステナーの計画は、この十七番街=十九番街鉄道の夢を一段と有望視させた。クーパーウッドは市の財政のために絶えず市債証書の流れを監視していた。マーケットが下落しているときにはそれを守るために大量に買い、上昇しているときは慎重になりながら大量に売却した。これを行うにはこれを可能にする巨額の自由な資金を持たねばならなかった。彼は、自分のすべての有価証券の評価額に影響して、融資の返済を招く結果になる、何らかのマーケットの崩壊を常に恐れていた。嵐は見当たらなかった。合理的には何かが起こるとは思えなかったが、過度な背伸びはしたくなかった。今のところ、この市の公金十五万ドルを使って、この十七番街=十九番街鉄道の問題に取り組んだとしても、背伸びをし過ぎることにはなりそうもなかった。だとすれば、この新しい計画に使う分を、他の事業関連の融資としてステナーからもっと引き出せないだろうか? しかし、もし何かが起こったら――
「フランク」その日の仕事が一段落した午後四時を回って事務所に入るとき、ステナーは言った。クーパーウッドとステナーの関係は「フランク」と「ジョージ」と呼び合う時代に入って随分たっていた。「こっちが望めば受け入れ可能なくらいあの北ペンシルベニアの件は準備ができたとストロビクは思っている。筆頭株主はコルトンという名前の男だと判明した――アイク・コルトンではなくフェルディナンドですって。どうです、名前は?」ステナーはしたり顔で和やかに微笑んだ。
幸運と無関心のせいで市財務官になってから、彼の状況はかなり変わっていた。就任後は服装がぐんと良くなって、態度がかなり好感と自信と落ち着きを見せたから、以前の彼を知る者が見たら彼だとはわからなかっただろう。昔の神経質な目の泳ぎはほぼなくなり、以前は落ち着きがなかったのに必要に迫られて生まれたのか、ゆとりがそれに取って代わった。大きな足は、良質のつま先が四角いソフトレザーの靴に収まり、がっしりした胸と太い脚は、茶色がかった灰色の生地の仕立てのいいスーツのおかげで多少見映えがよく、首にはこのとき低い白のウィングカラーと茶色のシルクのネクタイが巻かれていた。絶えず大きくなっているお腹のあたりで少し下に広がる豊かな胸には、重そうな金の鎖が飾られ、白い袖口には特大のルビーがあしらわれた大きな金のカフスボタンがあった。血色がよく、明らかに栄養が行き渡っていた。実際、彼はとても順調にいっていた。
南九番街の粗末な二階建ての木造家屋から、スプリングガーデン・ストリートにある三階建てで広さが三倍もある、とても快適なレンガ造りの家に引っ越していた。妻には知り合いが数名できた――他の政治家の妻たちだ。子供たちは、昔なら到底望むべくもなかったハイスクールに通っていた。やがて高騰するかもしれない安い不動産を今、市内各地で十四、五か所持っていた。また、南フィラデルフィア鋳造会社とアメリカン・ビーフ&ポーク社の経営に口出ししない共同経営者でもあった。この二つの書類上の会社の主な業務は、市から受注した契約を、与えられた命令を忠実にこなして多くを語らず質問もしない、謙虚な肉屋と鋳物屋に下請けさせることだった。
「ふーん、変わった名前だな」クーパーウッドは無表情で言った。「じゃあ、そいつが持ち主ですか? あの鉄道が計画されたとき、私は採算がとれると思わなかった。短すぎる。もう三マイル伸ばしてケンジントン地区に乗り入れないとね」
「まったくだ」ステナーはぼんやり言った。
「ストロビクは、コルトンが株をいくらで売りたがってると言いましたか?」
「六十八ドルだと思う」
「今の市場レートか。欲張りじゃないんだな? ジョージ、そのレートでいくと」――クーパーウッドはコルトンが持っている株の口数をもとに素早く計算した――「彼ひとりを降ろすのに十二万ドルかかる。それだけではすまない。キッチン判事、ジョセフ・ジマーマン、ドノバン上院議員だっている」――州の上院議員の名前をあげた。「これを手に入れても、かなりの金額を払い続けることになる。線路の延長にはさらに費用がかかるのだから。かかり過ぎだと思うな」
クーパーウッドは、自分が夢見る十七番街=十九番街鉄道とこの鉄道を合併させたらどんなに楽だろうと考え、しばらくしてからこれを踏まえて付け加えた。
「ねえ、ジョージ、どうしてストロビクとハーモンとウィクロフトを通して自分の計画を実行するんですか? 三、四人じゃなく、私とあなただけでこういうことを何とかできませんか? 計画はその方がはるかに儲かると思うんですが」
「そうだよ、そうなるよ!」ステナーは叫んだ。丸い目がかなり頼りなく訴えかけるようにクーパーウッドを見すえた。彼はクーパーウッドのことが好きで、財務面と同じように精神的にも近づけたらなあといつも願っていた。「そのことは私だって考えたさ。だけど、彼らは私なんかよりもこういう問題にかけてははるかに経験豊富なんだ、フランク。長年この手の仕事をしてきたからね。私は彼らほどはこういうことに詳しくないんだ」
クーパーウッドは顔では同調したが腹の中で笑った。
「そんな心配はいりませんよ、ジョージ」クーパーウッドは穏やかに打ち明けるように続けた。「あなたと私が一緒なら、彼ら以上のことを知ってるしやれるんです。いいですか、あなたが今やってる鉄道の件がそうです、ジョージ。あなたと私なら、ウィクロフト、ストロビク、ハーモンと一緒にやるのと同じくらい、それ以上に、うまく扱えます。彼らは問題の解決に知恵を出すわけでなし、お金を出しているわけでもない。出しているのはあなたですからね。彼らがやってるのは、議会や評議会で審議することに同意するだけで、議会に関する限り、他の誰かより――たとえば私以上に何かができるわけでもない。これはレイリハンと準備すればいい、とにかく、この仕事をする人に一定のお金を提供するだけのことです。この町にはストロビクと同じように評議会に働きかけることができる人間は他にもいますから」クーパーウッドは(自分の鉄道会社を支配下に置いたら)バトラーと交渉して、影響力を行使してもらおうと考えていた。これでストロビクたちはおとなしくなるだろう。「私はあなたに北ペンシルベニア線の買収計画を変更しろと頼んでるんじゃありませんよ。それじゃうまくやれません。でも、他にもいろんなものがあるんです。将来、あなたと私とで何かひと仕事、一緒にやれないか考えてみてはどうですか? あなたの立場はぐんとよくなりますよ、私もね。私たちはこれまでこの市債の仕事でうまくやってきたじゃないですか?」
確かに、彼らは極めて順調にやりとげた。もっと上の権力者がやったことを除けば、ステナーの新居、土地、銀行口座、いい服、生活の変化と快適感は主にクーパーウッドが市債の市場をうまく操作したおかげだった。一回二十万ドルの発行がすでに四回あった。クーパーウッドは、ある時は〝買い方〟、ある時は〝売り方〟として行動し、この証書を約三百万ドル分売買していた。ステナーは今や十五万ドルの資産家だった。
「この街には、もし適切に運営されれば、立派な利益を生む資産になりそうな、私の知る路線があります」クーパーウッドは思いを巡らせるように続けた。「ただ、この北ペンシルベニア鉄道と同じで、長さが足りません。営業している地域があまり広くないんです。延長されるべきですが、もしあなたと私がそれを入手できれば、最終的にこの北ペンシルベニア鉄道か他の会社と一緒に一つの会社として運営できるかもしれません。そうすれば役員、事務所、たくさんのものが節約できます。購買力が高まれば必ず儲けは出ます」
クーパーウッドは話をやめて、立派なこじんまりした硬材の事務所の窓から外を眺め、将来に考えを巡らせた。窓からは、かつては住宅だった別のオフィスビルの裏庭以外のものは何も見えなかった。そこには草がかろうじて生えていた。隣の敷地からここを隔てる赤い壁と古風なレンガ塀は、何だかニューマーケット・ストリートの古い家を思わせた。セネカ叔父さんが、ポルトガルの黒人の使用人を従えてキューバの貿易商としてよく来たところだ。こうしてここに座って裏庭を眺めていると、その姿が目に浮かんだ。
「なら」ステナーは餌に食いつき野心を燃やしながら尋ねた。「それを手に入れたらどうだろう――あなたと私とで? お金の問題は私が解決できるとして、いくらくらいかかるんでしょう?」
クーパーウッドは再び腹の中で微笑んだ。
「正確なところはわかりません」しばらくしてから言った。「もっと慎重に調べたいですね。一つ問題なのは、このとおり、私が市の金を大量に抱えてることです。ほら、あなたの市債取引でできた二十万ドルがあるでしょ。それに、この新しい計画にはさらに二、三十万ドルかかる。もしそれがふっとんだら――」
クーパーウッドはあの説明のつかない株の暴落――国民の気質は大きく関係するのに、国の基本的状況はほとんど関係ないあの変なアメリカの落ち込み――を考えていた。「この北ペンシルベニア線買収が済んで一緒にしてしまえば――」
クーパーウッドは顎をなでて、立派で滑らかな口髭を引っ張った。
「これについてはこれ以上聞かないでください、ジョージ」ステナーがどの路線かを考え始めたのを見てクーパーウッドは最後に言った。「くれぐれも他言無用ですよ。事実を正確に把握したいんです。それから話しますよ。もう少しして、北ペンシルベニアの計画が動き出したら、あなたと私とでこれをやれると思います。今は立て込んでいるので、直ちに着手していいものか自分でも確信がありませんが、あなたは静観しててください。そのうちわかります」彼は机の方を向き、ステナーは立ち上がった。
「フランク、行動する準備ができたとあなたが思った瞬間に、私はお望みの金額を預けます」ステナーは叫んだ。この先本当に儲かる話があったら、クーパーウッドはいつでも自分を頼れるのだから、これをやるにあたって彼はそれほど心配していない、くらいの考えでいた。有能ですばらしいクーパーウッドが、二人を金持ちにしてくれるのだからいいじゃないか?「スターズに言えば彼が小切手を送ります。ストロビクは、すぐにでも行動を起こすべきだと考えてましたよ」
「そのつもりですよ、ジョージ」クーパーウッドは自信たっぷりに答えた。「きっとうまくいきます。私に任せてください」
ステナーは太い足を蹴ってズボンを伸ばし、手を差し出した。この新しい計画を考えながら、通りをぶらついた。確かに、クーパーウッドは絶好調で、とても用心深かったから、クーパーウッドと一緒にうまくやれたら、自分は金持ちになるだろう。新しい家と、この美しい銀行と、高まりつつある名声と、バトラーたちとの微妙な関係はステナーに、彼に対するかなりの畏怖の念を抱かせた。しかも、もう一路線! 二人でそこと北ペンシルベニア鉄道を支配するのだ! このままいけば大物になるかもしれない――本当になるかもしれない――この自分が、ジョージ・W・ステナーが、かつては取るに足らない不動産と保険の代理人だった者が。ステナーは考えながら通りをぶらついた。しかし市民の義務の重要性だとか、自分が犯している社会的な倫理の本質については、まるでそれらが存在したことがなったかのように、何も考えていなかった。




