淑女の嗜み
即興バトル参加
制限時間:1時間 文字数:1032字
それは、聖ミカエイラ女学院の穏やかな昼食が終わった頃の事でした。
私たちは柔らかな春の日差しを浴びながら窓辺で歓談にふけっていたのですが、
「うっ」
学院一の才色兼備、麗華さんが突然うめき声をあげ、青ざめました。
麗華さんはしばらくその花びらのような麗しい唇から小さくうめいていましたが、私たちの注目をすべて集めた頃、
「うっ、うおろろろろろろろ」
と、お戻しになられました。
レディとしての嗜みを弁えている生徒たちには、人前で戻すこと自体があるまじきことでしたが、
麗華さんの吐瀉物はヘドロのような緑色をしていましたので、皆様息を呑んでそれを見ていました。
おまけに緑の吐瀉物は、泡がぽこぽこと立ち始めているではありませんか。明らかに異様でした。
けれどお淑やかな私たちの中では
「えっ、何ですの……?」
と疑問を小声で口にする生徒がいたくらいで、誰も悲鳴をあげることはしませんでした。
それが、私たちの悲劇を拡大させたのだと思います。
看護委員がうずくまった麗華さんを介抱しようと歩み出たところ、麗華さんは一度がくっと肩を落としたかと思いきや、めきめきと肉体を盛り上がらせていき、制服を突き破ったかと思うと、恐ろしい巨大な闇色の怪物へと変貌しました。
「あ、あ…………」
私たちは言葉にならない声を上げながら、皆一様に彫像のように動けなくなっていました。
怪物の姿になった麗華さんの瞳は、それでもまだ少女だった頃の面影を残していて、それが不気味で仕方なかったのを覚えています。
麗華さんだった怪物は、爪をフォークのように看護委員に突き立てました。
看護委員は宙に浮いた次の瞬間に麗華さんに一飲みにされました。とても鮮烈な光景でした。
その瞬間はあまりにも静かで、先ほどしっかり身についたマナーで昼食を召しあがっていらっしゃった麗華さんと遜色のない様子でした。
美しい麗華さんは、食事を咀嚼する姿も美しい。それは、咀嚼する白い歯が、くすんだ尖った牙になっても同じです。
私たちは、麗華さんの前に並びました。並ばざるを得ない大きな力がそこに働いていました。
学院中から生徒が集まりつつありました。どなたもそうすることが当然であるかのように列に加わりました。淑女として育てられてきた私たちが、食事に変わるなんて造作もないことです。
私たちは麗華さんのためのフルコースになるのです。
麗華さんの吐瀉物が、皿の端を彩るオリーブソースのように廊下を点々としていました。
お題:やば、昼下がり 必須要素:うっ
即興小説トレーニングでは毎週土曜日に即興バトルというのがあります。全員同じお題で一時間即興小説を書いて被評価数を競うというものです




