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紅森の即興小説集 ~2014年の挑戦100~  作者: 紅森がらす
1時間挑戦編(主に即興バトル)
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83/100

長男のお楽しみ

制限時間:1時間 文字数:1081字

まだ履きなれない長靴で歩く長男は、がに股になってみたり、歩幅を狭めてみたりで覚束ない足取りだ。

それでも雨が楽しみらしく、うきうきした様子で幼稚園から家への道のりを歩いていく。

「あんねー、お空からねー、アメが降ってくるのよ」

私を振り返り、長男は得意げに言った。それは「雨」よりも「飴」の発音だった。

空から降ってくる飴とは、なかなか可愛らしい発想だ。

「そうだね、甘ーい飴が降ってくるといいね」

私は空を見上げた。すると、空に雲がもくもくと出来上がっていくのが見えた。

やっぱり、一雨来そう。

リュックに下げた折り畳み傘に手を伸ばす。剣の柄でも握るような気分。

いざとなれば私は子どもを守るための騎士となるんだ。

そんな空想に耽っていると、ぱらぱら、ぱららっと音がして、私は剣を引き抜く――傘を開く。

長男にかざした傘を伝い落ちる雨粒は……カラフルだった。

「飴?」

「アメ!」

長男、大喜びで傘の下でぴょんぴょん跳ねる。こら、暴れるんじゃない。

傘からひょいと顔を出して、いくつも飴を頬張った。

「あーあー、そんないっぺんに食べちゃ……」

と止めたかったけど、リスのようにほっぺを膨らましている長男を叱りたくはなかった。

私も一粒つまむ。おいしい。

「こんなにおいしいなら、夕飯なくていいかも」

ぽつりとつぶやいた瞬間、無数に降る飴が色褪せて見えた。

長男は新しい飴を舌でキャッチしたが、そのまま首を傾げた。

ずいぶん味が薄くなった。

飴の粒は一つ一つ色を失っていった。

色とりどりだった飴はただ無色透明な雨になってしまった。辺り一面の景色が黒尽くめ。

さっきまでの飴は、虹のようにさっと消えたのだ。

雨の日ってなんて味気ないものだったんだろう。ザーッと叩きつける雨を、私は傘ごしに恨めしくにらみつけた。

長男だって、きっと不満に感じているだろう、と思っていると

「ままー」

長男がくるりと振り返って、私を見上げた。

「からあげー」

「ん?」

「ゆーはん、からあげー」

そっか、リクエストか。

「うん、からあげにしよう」

そう答えると、長男は

「かーら、あげ! かーらあげ!」

と連呼しながら、道に出来始めた水たまりをぴちゃん、ぴちゃんと長靴で踏み鳴らし始めた。

「からっからー、あげあげー」

長男の言葉に調子がつきはじめ、だんだん自作の歌になっていった。

よく長男は歌を自作するのだが、今日のはとりわけ陽気な曲だった。

私の気分もそれにつられて上がっていくようだった。おいしいからあげも作れそうだった。

雨は上がって、からっからのお日様が顔を出していた。

お題:黒尽くめの時雨 必須要素:鶏肉

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