長男のお楽しみ
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まだ履きなれない長靴で歩く長男は、がに股になってみたり、歩幅を狭めてみたりで覚束ない足取りだ。
それでも雨が楽しみらしく、うきうきした様子で幼稚園から家への道のりを歩いていく。
「あんねー、お空からねー、アメが降ってくるのよ」
私を振り返り、長男は得意げに言った。それは「雨」よりも「飴」の発音だった。
空から降ってくる飴とは、なかなか可愛らしい発想だ。
「そうだね、甘ーい飴が降ってくるといいね」
私は空を見上げた。すると、空に雲がもくもくと出来上がっていくのが見えた。
やっぱり、一雨来そう。
リュックに下げた折り畳み傘に手を伸ばす。剣の柄でも握るような気分。
いざとなれば私は子どもを守るための騎士となるんだ。
そんな空想に耽っていると、ぱらぱら、ぱららっと音がして、私は剣を引き抜く――傘を開く。
長男にかざした傘を伝い落ちる雨粒は……カラフルだった。
「飴?」
「アメ!」
長男、大喜びで傘の下でぴょんぴょん跳ねる。こら、暴れるんじゃない。
傘からひょいと顔を出して、いくつも飴を頬張った。
「あーあー、そんないっぺんに食べちゃ……」
と止めたかったけど、リスのようにほっぺを膨らましている長男を叱りたくはなかった。
私も一粒つまむ。おいしい。
「こんなにおいしいなら、夕飯なくていいかも」
ぽつりとつぶやいた瞬間、無数に降る飴が色褪せて見えた。
長男は新しい飴を舌でキャッチしたが、そのまま首を傾げた。
ずいぶん味が薄くなった。
飴の粒は一つ一つ色を失っていった。
色とりどりだった飴はただ無色透明な雨になってしまった。辺り一面の景色が黒尽くめ。
さっきまでの飴は、虹のようにさっと消えたのだ。
雨の日ってなんて味気ないものだったんだろう。ザーッと叩きつける雨を、私は傘ごしに恨めしくにらみつけた。
長男だって、きっと不満に感じているだろう、と思っていると
「ままー」
長男がくるりと振り返って、私を見上げた。
「からあげー」
「ん?」
「ゆーはん、からあげー」
そっか、リクエストか。
「うん、からあげにしよう」
そう答えると、長男は
「かーら、あげ! かーらあげ!」
と連呼しながら、道に出来始めた水たまりをぴちゃん、ぴちゃんと長靴で踏み鳴らし始めた。
「からっからー、あげあげー」
長男の言葉に調子がつきはじめ、だんだん自作の歌になっていった。
よく長男は歌を自作するのだが、今日のはとりわけ陽気な曲だった。
私の気分もそれにつられて上がっていくようだった。おいしいからあげも作れそうだった。
雨は上がって、からっからのお日様が顔を出していた。
お題:黒尽くめの時雨 必須要素:鶏肉




