after 3〔元高齢者の新代社会で不可逆的ユーモアと隠したい青春の諸事情〕
「超ウケるっしょ。ずっと保護者と思ってたほうが、実は子供だったって」
言いたいことは分かるが、致し方ないとも思える。
「その手の話なら、わたしも最近経験した。聞きたい?」
「モチの子モッチーっしょ」
もはやご当地キャラみたいになってるぞ。
「うちの弟、小学三年生で、先週親子共同の行事があったからわたしも見に行ったんだけど。わたし撮影を任されたんだよね。でさ、開始前に子と親が並ぶんだけど、親側の列のほうが背が低くて、しばらく気づかずに親のほうをずっと撮ってたって話。どう?」
「ェーめっちゃウケるぅ」
全然そんなふうには見えないけどな。
「……やっぱ。マヤカみたいに、バカっぽい話はできないか……」
「褒められてないのだけは分かるやつッ」
ほう、成長したもんだな。
「てかさ。どうチたの? 急に、チエらしくないっていうかさー。悩み事なら聞くよ?」
「マヤカじゃ愚痴にもならん」
「ヒドす!」
まあでも、妥当な――、ん?
友の視線が、何故かこちらに集まってくる。
というか何でマヤカまで。
「ん……マセルはー、ご意見番って、かんじでもなくない?」
「それはそうだけど。忖度のない意見は聞けそうかな」
遠回しに配慮の無い奴と、言われているような気持ちにもなるが。
「――えっと。率直な感想でいいから、言ってみてもいいかな?」
どうぞ。どうせ率直な反応しかできないので、と頷く。
「今の高齢者って、どう思う?」
今の――。
「――……高齢者?」
それはどういう定義の。
「うん。じつはさ、この前バスに乗ってたら突然、ワシは元高齢者だから席を譲れ! て言われてさ……」
なんというコトでしょう。
「うわ、なにそれ。マジどえひーじゃん」
というか――。
「――元なら、関係ないと思うけど……」
「そうなんだけどさ。一応、今の世の中って実年齢で扱うでしょ。だから……」
だから、とは言っても、ねぇ。
「そんなの、普通に身体は元気っしょって言えばいいじゃんか」
「言ったに決まってるでしょ」
決まってるんだ。
「そしたらさ、最近の若者はユーモアも分からんのか、てさ……」
なるほどね。そういうコトか。
「うわー、超ウザいっしょソレ。老害老害」
号外みたいなノリで言うんじゃないよ。
「……本当、ユーモアってなんなんだろうね……」
悩んでるのそっちなんだ。
「結局笑いの感覚って、世代ごとなんだよね」
確かに。
「ェでもさ、そうとも言いきれないっしょ?」
「……何がよ」
てか珍しく異論だな。
「だってさー、幼児番組なんて、イマ見てもツマんないっしょ?」
……む。
「まぁ、ね……」
「面白いかどうかはここの問題だと、アタチは思ゥ」
いずれはふくらむ今は無き胸を叩き、ドヤ顔でマヤカは述べる。
「それもそうかもね、何が面白いと思うかは、体の幼さとは関係がないってコトか……」
「そういうコトー」
逆にいえば、世代を超えて分かりあえる笑いなんてない――のかも、しれない。
「ユーモアって、本来は不可逆的なのかもしれないね……深いわ」
たかがお笑い、されどお笑い。
「ま、アタチたちは戻ったんだけどねェー」
「……マヤカだけは、幼稚園からやりなおしたほうがよかったんじゃない?」
「ヒドら!」
多頭の怪物がお出ましになった。
と思うやいなや、マヤカの視線が私――の鞄に向けられる。
「――マセルがいつもつけてるそのマスコットって、なんのキャラクター? あんまり見たことないんだけどー」
む――。
「そういえば、結構年季も入ってるよね?」
「――……いや、まァ……」
無意識に、鞄ごと身体で見えない位置に動く。
「ぁ、隠チた」
「ほう、それほどってコトか」
うぐぐ。
新時代は、どんな些細な事でも問題になり得る。
次から次へと増えつづける目の前の現実、人類は行ったり来たり、懐かしむ暇もなく。
カシャ。
「――あった、コレだ」
幼い手で文明の利器を見る、友が告げる。
グッバイ、来世でまた会おう、私の青春……。




