after 2〔カラメルは苦い新代社会の心と体はアンバランスに筋肉痛な諸事情〕
「本当無理……筋肉痛、ツラすぎなんだけど……」
世にも珍しくない児童である、我が友が、机に突っ伏して嘆く。
「ぁーだから、今日の体育休んでたんだねェー、チエ。てっきりアレの日かと思ったチ」
「……まだ早ぇよ」
そうは言っても、どうせ数年後の話だ。
しかしながら今回は、日頃の感謝を込め、我が友を案じるとしよう。
「――何か、あったの?」
途端、ほぼ同時に二人の顔がこちらを向き――その目を丸くする。
何。私、オカシナことを言ったか……?
「ァいや、まぁその……」
何故に向こうの方が気まずそうな顔をするのか。
「……実はさ、先日一家総出で、電球の交換をしただけなんだよね……」
なるほど、それはまた難儀な絵面が浮かびますな。
「ぇ。電球って、自分で換えるものなのォ?」
「頭に電球刺してデンキウナギにすんぞ」
妥当な判決ですな。
「そもそもウナギのほうに電球刺さってないし!」
「……てかさ。最近そのちょっと金持ちキャラ、立てようとしてない?」
「ぁ、バレた」
狙ってたんかい。
「べつに好きにすればいいけど……、時代錯誤でしょ」
ある意味で時代は逆行してますけどね。
「でも最近はむしろレアっしょ? ひつじをモチーフにしたあの子も不在のままだチ」
おい。挑戦島のことは何も言うなよ、親の都合なんだから仕方ないだろ。
「……、――そんなコトより。なんか面白い話しなよ」
唐突ですな。
「いいよー」
軽率な発言と言って、過言ではあるまい。
「――二人って、プリン食べたことあるゥ?」
な。
「蹴り○すぞ」
踏んづけちゃうんだから。
「……念のために、聞いただけじゃんか……」
「思わずプッチンしそうになったわ」
十分してましたけどね。
「でプリンが、なに?」
「そのカラメルソースがさー、苦くて、食べれなかったんだよねェ……、前は普通に食べれたのに。不思議っしょ?」
なるほど。
「そんなの味覚が子供に戻ったからでしょ」
「ぇそうなの?」
「心と体は別なんだから、当たり前でしょ」
「なんかソレ、心は奪えてもってやつに似ててカッコイイね」
オマエとんでもないものを奪わてるぞ。
しかしだ。確かに――。
「――味覚が変わったのは実感ある。世の中は……、ナトリウムに支配されてる」
「……ナトリウムゥ」
成分的に、間違っていないと思うが?
「まあそうだね。うちはもとから減塩志向だったから、以前と変わらないけど」
つまり減塩とは、今や、高齢者の為にあらず。
「けど、変な話だよねェ。子供の時は普通に食べれてたのに、一回大人を経験してからだと食べれないってー」
ちな私達はギリ、大人には届いてなかったけどね。
「要するに思い込みってコトでしょ」
「……思いこみ? なんでェ?」
「長らくそういう味だと思ってたものが想像と乖離してて、ショックを受けてるだけ。お茶だと思って、リンゴジュースを飲んでしまった、みたいな感じかな」
うわぁ。経験あるから、よく分かるわぁ。
「じゃーさァ、超甘いお菓子だって思いこんで食べたらカラメルも苦くないの?」
「……それはただの自己催眠でしょ」
適切なツッコミですな。
まあ、思い込みで克服できるのなら大抵の事は苦労しない。
かつて覚えた大人の感覚、それがあっさりと幼い肉体の本能に上書きされてしまった。
つまりところ、そういうコトだ。
「……んー、じゃァさ。アタチのプリン、チエがカラメルソース食べてよォ」
「無理。そもそもカラメル嫌いだし」
「冷たッ! 筋肉痛のくせに冷たっしょ!」
「炎症は冷却が有効だからね」
「それとこれとは関係ないっしょッ」
先に持ち出したのはマヤカの方と思うが。
そんなコトで、言い合う二人の声をBGMに――私の幼い視線は広く感じる空の向こう。
味覚ひとつとっても、過去の自身に弄ばれる新時代。
けれどそうやって、記憶と肉体のギャップに首をかしげながら文句を言うことこそが、今の、私達の日常なのだろう。
見た目はただの児童でも、中身はほんの少しばかり背伸びした現代社会。
今日も今日とて、この世界は、ちまちまと成長だけはしているのだ。




