38.戦いのあと
区切りの関係でめっちゃ短いのを一話として投稿します。
すぐ2話目を投稿します。
「とりあえず飲み物と食べ物、必要ないとは思うけど薬も持ってきたから好きに使ってくれ。俺はエア城が壊れてないか見てくる」
トーマが再び眠りについたあと。シャングリラから本当に悪魔の気配が消えていることに確かめた安村はトーマに必要そうなものを揃えてきた。
この部屋へ踏み込むために悪魔たちは爆弾を使った。他にも同様に壊された部屋が無いか気がかりらしい。安村にとって、シャングリラに残った最も大切なものがこのエア城なのだ。
ぼそりと呟いて部屋を出る安村に一礼し、沙雪は再びトーマの寝顔に目を向ける。
今ここにいるのはフィオナではなく沙雪である。早く引っ込んでフィオナに任せたい気持ちはやまやまなのだが、トーマが沙雪の名前を呼んだことを筆頭に聞かなければならないことが山ほどある。
何より、フィオナのことを誤解されたら困る。フィオナは独立した一個の人格なのだ。沙雪が演技しているものと勘違いされたらトーマも沙雪もいたたまれない。誤解されていたらきちんと説明しないと、と決意しながらベッドの片隅に上半身を乗せる。
「私のこと知られちゃったのかな。思い出したのかな」
沙雪はトーマの意思を尊重している。何を考えても何をしても沙雪にそれを咎める権限はなく、行動を制限することも、意思を捻じ曲げるようなこともしない。トーマは人形だが、ミオたち他の人形とは違い自分の意思を持ち、自分の考えで行動する一人の人間でもある。
ただ、記憶に関してのみ干渉した。沙雪は岸辺当真と話す中で、過去の記憶がどれほど彼を苛んでいるか知っていたからだ。この世界では完全無欠の幸せを手に入れてほしかった。けちのつけようもない望むママの人生を生きてほしかった。
だから記憶を消した。辛い過去も、心残りになりえそうな記憶も全てなかったことにした。
「夢の世界で生き返らせるなんて、ヤンデレとかストーカーとか思われてないかな」
そんな懸念もあって沙雪の記憶は念入りに消した。万が一消し漏らしがあって思い出しても即座に消えるよう設定した。他の記憶とは比べ物にならないくらい厳重に処理した。
なのに思い出したというなら、とても困るけれどちょっとうれしい。
「ぐーすか寝やがって」
トーマの寝顔は穏やかなものだ。深い寝息が沙雪の耳に届く。
沙雪がこんなに悩んでいる横でぐっすり眠られると頬を引っ張ってやりたくなる。たぶんその程度じゃ起きないだろうなーと思うと実行したくなるが、我慢するのだ。手を伸ばしたらその瞬間に起きる気がする。
「……ふふ」
そんなことを考えながら上下するトーマの胸を見ているとにやけてきた。
生きている。現実がどうとかどうでもいい。この世界で確かにトーマが生きていると見て取れる。
「なんでこんなことになったんだろうねぇ」
笑いながらつぶやいた。
初めて岸辺当真に会った時にはこんなことになるなんて想像もしていなかった。むしろ避けていたくらいだ。
二人して夢の世界にいて、沙雪は寝顔を見ている。それが妙におかしかった。
トーマが目覚めるまでしばらくかかるだろう。
うとうとしていると中学生の頃を思い出してきた。




