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28.真実

前回のあらすじ

 街へ侵入した悪魔にグレンの恋人であるミオが殺された。

 グレンとトーマは仇である悪魔を追った。

 悪魔にとどめを刺そうとしたところで、『隊長』と呼ばれる悪魔が姿を現す。

 その悪魔はトーマたちが現実世界で今も生きていると告げた。

「「は?」」


 グレンとトーマの声が重なった。

 二人には自分が死ぬ瞬間の記憶がある。もちろん自分の死体を確認したわけではないが、これで死なない方がおかしいという状況だった。


「そんなわけないだろうが。俺は自分が轢かれて死ぬ瞬間の記憶がある」

「俺も結構でかいトラックに突っ込まれたんですけど」

「では、二人は自分を轢き殺した車のメーカーが分かるか?」


 グレンとトーマは言葉に詰まった。

 岸辺当真だった最後の瞬間の記憶は目に焼き付いている。巨大なトラックが眼前まで迫った光景だ。

 しかし、メーカーまでは分からない。

 正面にメーカー名が書いてあったはずだ。なんとか思い出そうとするトーマの前でグレンが悪魔を睨みつける。


「分からないだろう」

「そんなもの……轢かれる瞬間にトラックのメーカーなんて確認する余裕があるわけないだろうが」

「ではなぜトラックだと分かった?」

「俺は夜中に轢かれたんだ。一瞬でも相手の大きさくらい分かるだろ。逆光だったけど、ライトが俺の頭くらいの高さで光って……」

「そんな夜中に出かけた理由はなんだ」

「それは……」


 言葉に詰まる。

 転生してから約二十年経ち記憶は薄れているが、交通事故に遭ったのは高校生の頃だったはずだ。特に素行不良でもなかったグレンが深夜に出歩く理由はない。


「念のため、それぞれ前世の名前を教えてくれないか。ああ、私は国都大学医科研究所所属、高見徹也だ」

「……穂村ほむらよう

「岸辺当真です」

「……やはりか」


 悪魔――高見が顔をしかめた。両腕を失くした瞬間にも平然としていた高見が、トーマにいたわし気な視線を向ける。


「穂村くんは交通事故にあった、それは間違いない。ただ、彼を引いたのは大型トラックではなく、軽トラックだ。それも運転手が直前にブレーキを踏めたから命に別状はなかった」

「馬鹿な! じゃあ俺は大型トラックに轢かれた記憶を捏造したっていうのか!?」

「違う。捏造したのはこの世界だ」


 グレンの抗議をぴしゃりと遮った。

 高見のまなざしは真剣そのものでグレンも言葉を続けることができなかった。グレンの怒りを表すように燃え盛っていた炎もいつの間にか沈静化している。


「夢遊症という病を知っているか」

「寝ている最中に無意識で歩き回っちゃうやつですか?」

「少し違う。トーマくんが言ったのは夢遊病だ。夢遊症とは、強い衝撃を受けた拍子に魂が体から抜け出してしまう病のことだ」


 高見の説明はおよそ信じがたいものだった。なにせ転生前の世界では魂の存在が観測されていなかったはずなのだから、魂が抜ける病気と言われても現実味がない。

 しかしトーマもグレンも異世界転生というおよそ現実的ではない出来事を体感している。受け入れられるだけの下地はあった。


「この病気のタチが悪いところは、魂が体に戻らないように都合の良い夢を見せ続けることだ。魂が抜けた体はどんどん衰弱していく。体が死ねば魂も変える場所がなくなる」

「……誰かが魂を集めようとしているみたいな話ですね」

「医者が言うには集合的無意識が魂を取り込もうとしているらしい。詳しいことは分からない。私は医者ではないからな」


 二人は高見の説明を黙って聞いた。

 本来、魂と体は相互補完の関係にある。そのため、衝撃を受けて魂が体とずれてしまっても普通は引かれ合ってすぐに戻る。

 夢遊症にかかってしまった人は魂が体を抜けたままになり、体は現実世界で昏睡し、魂は都合の良い夢の世界で遊んでいる。

 夢の世界は魂が現実世界に帰ろうとしないよう、記憶を改ざんして未練を失くし、諦めがつくように明確な死の瞬間を捏造する。


「心当たりはないか? 自分を無条件に慕ってくれる友人や恋人、簡単に稼げる金、転生者のみに与えられた強い力。ご都合主義的な世界に疑問を覚えたことはなかったか?」


 グレンもトーマもこれ以上ないくらい心当たりがあった。

 シャングリラ市民はグレンを称賛し、ミオというパートナーがいて、金は何もせずにいくらでも入ってきて、焔属性という固有能力を持っている。

 トーマにはフィオナがいる。全パラメータAランクという人間にあるまじき能力値を持ち、シャングリラという理想的な街に住居を構え、何の不自由もなく生活できている。

 トーマもこの世界にやってきた直後は雑なほどテンプレな世界だと思っていた。転生者はチート能力を持っていて、それを見抜けない連中に追放されるなんて、と失笑していた。

 いつの間にか当たり前のように受けれいていた。そういうものなのだと思って考えることすらなくなっていた。


「疑問に思えなくなったのも無理はない。世界にとって都合の悪い記憶は次第に薄れ、都合の良い夢の中に埋没していくように出来ている」

「……お前の言うことが事実だったとして、だ。なぜお前らは俺たちを殺そうとした。世界の構造とお前らの行動には何の関係性もない」

「死ぬことで転生者とこの夢の世界の繋がりが途切れるからだ。夢の世界から放り出された魂はより強い繋がりがある肉体へと帰っていく」

「ならばなぜもっと早くその真実とやらを俺たちに話さなかった!? 最初から話していれば俺たちの対応も違ったはずだ」

「想像してみてくれ。『この世界は夢だから、目覚めるために死んでくれ』なんて言われてハイそうですかと自殺する人はそういない。いなかった」


 高見は静かに首を横に振り、とうとうと語った。

 最初は転生者の了承を得てこの世界から助け出そうとした。

 しかし信じる者は誰もおらず、高見たちを悪魔と呼び、警戒するようになった。

 転生者は押しなべて強大な力を持っている。生産系の能力者はやたらと万能な道具で戦い、当人に戦闘能力が無くても周囲を固める人員が反則気味に強い。

 警戒された状態では転生者を殺すことは困難だった。


「だから暗殺することにした」


 同意を得ていようがいなかろうが殺すことは変わらない。

 そのうえ、転生者が死んだ時の世界の反応も好都合だった。

 世界は死亡した転生者の記憶を他の転生者から奪う。転生者が誰かに殺されたという事実がこの世界に対する恐怖をあおるからである。世界はあくまでも夢みたいな楽園に埋もれてほしいのだ。

 転生者が死亡することで警戒がさらに強まることを予想していた悪魔たちにとって嬉しい誤算だった。


「じゃあ、どうして今さら俺たちに伝えるんですか? 俺たちから他の転生者に伝わったら、仮に俺たちが死んでもその情報は消えないでしょう」


 転生者が殺されても無くなるのはその転生者に関する記憶だけで、その転生者から教わった情報が消えないことは確認できている。もし転生者由来の情報が消えるならトーマは魔法に関する記憶をほとんど失っているはずだ。


「きみがいるからだよ、トーマくん」

「俺が悪魔を探知できるから、暗殺が成り立たなくなった……?」

「それも理由のひとつだ」


 高見はトーマに気づかわし気な視線を向けた。

 理由のひとつと言われてもトーマには他の理由に心当たりがない。

 自分で言った通り高見はもったいぶるつもりはないようで、すぐに言葉を続けた。


「現実のトーマくんがどこにいるか分からないんだよ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の順序立てがしっかりできている。 [気になる点] だんだん複雑になってる物語を暗示などの表現効果を使って見てはどうか。 [一言] 頑張ってください
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