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23.さよならアマザ王国②

今回は短め。

 アマザ王国の民家、その地下に三名の男が集まっていた。

 一人はアマザ王国のどこにでもいそうな特徴のない格好をしている。一人はあちこちに包帯を巻きながらもアマザ兵に扮している。最後の一人は黒ずくめにヘルメットをかぶっている。

 黒ずくめが口を開く。


「報告を」

「はい。仲間を一人失いましたが、古参の一人、マギの殺害に成功しました。図書館から各種資料の回収も滞りなく行いました。現在、研究班が内容を確認しています」

「すばらしい。研究室に籠り切りだった彼女を討ち取れたことはとても大きい。資料の内容によってはこれまで以上に動きやすくなるでしょう。続いてアマザ王城担当者、報告をお願いします」

「スカイの殺害には成功しましたが、最優先の対象だったトーマの殺害には失敗しました。反撃を受け狙撃銃を失いました。申し訳ありません」

「構いません。もともと、スカイではなくグレンがトーマと同行する想定でした。想定外の状況でも戦果を挙げたこと、称賛こそすれど非難する筋合いではないでしょう。ましてスカイが身を挺してトーマを守るとは想定できませんでした。……報告はひとまず以上ですね」

「隊長、シャングリラ潜入担当からの情報はありませんか?」

「そのことについて私から報告があります。シャングリラ兵に扮して潜入を図りましたが、彼は死亡しました」

「……転生者に感づかれたのですか?」

「いいえ。兵士に気付かれ殺害されました。偽装魔術が不完全なところを狙われたか、見破られたかのいずれかでしょう」

「偽装が不十分だったのではないでしょうか。それも考えづらい可能性ですが、そもそも同類が殺されていると気付けない転生者たちでは、潜入者を見破るところまで考えが至らないと思うのですが」

「マギの研究を見ても、偽装を見破るための術式はありませんでした」

「確かに偽装を看破された確率は高くない。しかし、考えておかなければならない可能性です。現時点で我々は正面から転生者と戦う術がない。転生者は誰もがこの世界の理を無視したような能力を使う。彼らが我々を脅威と認識し、滅ぼそうとしたなら勝ち目はありません。それゆえ我々は転生者以外を巻き込むことを極力避けてきたのです。基本を忘れてはいけません」

「……失言でした、申し訳ありません。では、誰か一人送り込んで転生者の我々に対する認識を確認した方が良いでしょうか」

「我々ならば結界をすり抜けることはできますが……やめた方が良いでしょう。トーマは我々の気配を探知できる。しばらくは行動を控え、我々に対する意識を薄れさせる方が良いでしょう」

「しかし隊長、それではトーマが……」

「……言いたいことは分かります。ですが、我々の標的はトーマだけでは……」

「隊長? どうかしましたか――――ッ、地震!?」

「全員、転移を――――!!!」


 隊長と呼ばれる悪魔が叫んだ次の瞬間、一帯は真っ白い光に染まった。


―――


 グレンとトーマに作戦なんて立派なものはなかった。


「いくぞ」

「お先に失礼します」


 グレンとトーマはウェルシュに乗りアマザ王国へ向かった。

 決して悪魔に気付かれないよう超高空からの接近。アマザ王国の真上にたどり着いたところでトーマがウェルシュから飛び降りた。

 重力を利用して加速。風魔法で空気抵抗を軽減し、砲弾のような速度で急降下する。

 悪魔がどんな方法で転生者を探しているのか分からない。ならば気付いても対処できない速度での速攻が最善。


 落下しながら周囲に巨大な石柱を無数に展開する。

 硬く、トーマの魔力に共鳴するよう術式を仕込んだ石柱である。

 石柱は一定間隔でアマザ王国を囲むように地面へ突き刺さった。

 トーマは風魔法で勢いを緩和し着地する。両足で着地した直後に地面を思いきり殴りつける。


「グレートウォールっ!!」


 発動するのはそこらの魔法使いでも使える、ただの土壁を作る魔法。敵の接近を阻むために使うシンプルな魔法だ。

 土壁の規模は術者の技量によって変動するが、トーマの膨大な魔力でも十キロ程度の長さが限度である。それ以上遠くまで拡散させた魔力を独力で扱うのは非常に困難だった。十キロ程度の長さではアマザ王国を囲みきれない。

 だから中継器として石柱を用意し、設置してから魔法を発動した。石柱にトーマの魔力が通い、予め定めた通り術式を起動する。

 アマザ王国周辺の地面が大きく鳴動する。トーマは魔力を節約するために、石柱を通じ地面そのものを操っていた。

 わずかな時間で巨大な土壁がアマザ王国を囲んでいた。

 土壁に隙間がないこと、目的の性質を付与できたことを確認したトーマはアマザ王国に背を向けて全力で走りだした。


 その上空でグレンも準備を進めていた。

 人間の限界すら超越した魔力を練り上げ、ウェルシュに注ぎ込む。

 ウェルシュはすでにトーマと戦った時のように実体を放棄していた。龍を象る炎としてアマザ王国に落下していく。

 極限の魔力はウェルシュの口元に収束する。圧縮に圧縮を重ねた焔はもはや白い光となって夜の空に瞬いた。

 眼下でアマザ王国が土壁に囲まれた。

 これで空でも飛ばなければ逃げることはできないが、悠長に壁を超える隙を与えるつもりはなかった。


「『終焔』」


 ぽつりとグレンが呟くと、ウェルシュの口から真っ白い光の珠がアマザ王国に向かって落ちて行った。

 一秒、二秒と静かな時間が続いた。ウェルシュは実体を取り戻し、グレンを乗せてシャングリラ方面へはばたく。ひゅうひゅうと風を切る音だけが耳に届く。

 そして三秒後。


 アマザ王国に白い光の柱が立った。


 一拍遅れてすさまじい閃光、轟音、衝撃がウェルシュの体を揺らす。事前に耳栓をしてアマザ王国方面から目を逸らしていなければグレンでも気を失っていただろう。

 『終焔』は名前の通りグレンの最大・最終魔法である。

 過去に使ったのはレイシス帝国での一回のみ。その時でさえ出力を抑えに抑え、それでもレイシス帝国に巨大なクレーターを作り上げた。地面が溶解し溶岩に満たされたクレーターを見た瞬間に、気軽に使っていい術ではないと自ら封印していた。

 放てば全て終わる。これ以上の破壊力を持つ術は決して作ってはいけないという戒め。二つの意味を込めて『終焔』と名付けた。


 今回はレイシス帝国で放った時よりさらに膨大な魔力を使った。

 加えてトーマのグレートウォールで熱を一定範囲内に押し込めた。

 本来なら魔法で強化しようが土壁ごときで防げる魔法ではないが、事前に打ち合わせし、徹底的に終焔対策をしたことで、短時間ではあるが土壁を維持することに成功した。。

 土壁は熱に耐えるのではなく受け流しアマザ王国内で循環させる。終焔が着弾した時点で人間が生きていける環境ではなくなったが、ダメ押しに炎の嵐が巻き起こる。地獄でももう少しマシなんじゃないかという光景がアマザ王国の中に広がっていた。

 その様子を見る者は誰もいない。グレンとトーマはすでに距離を取った。アマザ王国の住民は一人残らず死に絶えた。骨のひとかけらでも残れば奇跡と言えるほどの惨状だった。

 一分後には光の柱は消滅し、アマザ王国を囲む土壁もなくなっていた。



 たったの一夜で、アマザ王国は跡形もなく消滅した。


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