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幕間.転生者たちの戦い

ある意味説明会です。主人公はほぼ出てきません。

本日はもう一話投稿する見込みです。

「……なあアズサ」

「何よムラマサ! あたし今いそがしいんだけどー!」


 シャングリラ南部で戦っていたムラマサが声を上げた。

 応じたのは和風の衣服を着た勝気そうな少女である。ムラマサと共に転生し、シャングリラでも力を合わせて生活している。

 アズサが刀を振るうたびにカマイタチが発生し、アマザ王国兵を蹴散らしていく。

 ムラマサもシャングリラ兵に武器を供給しながら敵を斬り伏せていたが、今はその手が止まっている。


「ぼんやりしてないであんたも働きなさいよ! あんたもあたしも範囲攻撃ないんだから、地道に頑張らないとみんなが危ないのよ!」


 アマザ兵はシャングリラ兵よりはるかに数が多い。ムラマサとアズサが敵を減らさないとガトリング込みでもシャングリラ側が劣勢になる。


「それは分かってんだけどよ。……北側ってどうなってたっけか」

「北側? 北側はこっちにガトリング回してくれて、その代わりに……誰もいないわね」

「グレンの話だと北にも十万人くらい敵がいるって話じゃなかったか」

「だったわね」

「……北側、やばくないか」

「やばいわね!?」


 二人が顔を見合わせた。

 シャングリラの兵士は合計で一万人もいない。それを北側と南側に半分ずつ配備した。

 北側には転生者がいない。加えて北側のガトリングを南側に移動してしまった。

 つまり特別な装備もなく二十倍以上の人数差で戦っているということになる。やばい。


「そうは言ってもこっちも放り出せないわよ!? あたしもいっぱいいっぱいだし!」


 アズサの能力は一対一の対人戦に特化している。運動能力が高いため圧倒的多数を相手にしても引けを取らないが、これ以上敵を倒す速度を上げるのは難しい。

 ムラマサは目を閉じて思案顔をする。


「仕方ねえ。ここでお披露目といくか」

「ちょっ!?」


 愛用の刀を地面に刺す。

 面食らったのはアズサだ。戦場で相棒がいきなり丸腰になったのだから無理もない。

 それを隙と見たアマザ兵がムラマサに襲い掛かる。


「アズサ、伏せろよ!」

「っ!」


 アズサはとっさに身を低くした。ムラマサに襲い掛かるアマザ兵も、自分に襲い掛かってくるアマザ兵も気にしない。ムラマサから感じる脅威が木っ端兵士とは比べ物にならないほど膨れ上がったからだ。

 ムラマサは腰に提げていたもう一本の刀に手をかけた。

 アマザ兵が間近に寄り、アズサがしゃがんだ瞬間、抜き放つ。


 横一文字に放たれた真っ白な閃光が視界に収まる全てを両断した。


「…………は?」


 アズサはその光景を目の前にして間抜けに口を開けてしまった。

 アマザ兵も、平原に生えている木も、おそろしく鋭利な断面をさらして地面に倒れ伏した。

 しぃんと耳が痛いほどの静寂が訪れる。


「――ちっ、やっぱり痛むな」


 静寂を破ったのはムラマサだった。片手で刀を握った腕を抑えている。その顔には脂汗がにじんでいた。


「どうしたのよ、顔色がひどいわよ」

「……こいつを使った代償だ」

「こいつって……見るからに普通じゃないわね」


 ムラマサが示した刀を見る。

 ドスのように鍔のない刀だった。刀身は真っ白で刃紋もなく、うっすら輝いているように見える。神々しくも触れた全てを切り捨てる危うさを持ち合わせている。


「あんたが前から作りたがってたやつ?」

「ああ、神刀だ」


 ムラマサは以前から最強の剣を作ろうと無数の試作を重ねてきた。トーマと初めて会った時に打っていたのもそのひとつである。


「まだ完成品とは言えねえがな。それでも威力は抜群だろう」

「そりゃすごい威力だけど、なんでこれまで使わなかったのよ。最初から抜いてれば一撃だったんじゃない?」

「……神刀は持ち主の力を引き出す。限界以上にな。その結果がコレだ」


 神刀を地面に刺し、ムラマサは手のひらをアズサに見せる。

 手のひらは赤紫色に染まっていた。ひどい内出血を起こしていると一目でわかる。よく見れば右腕全体が小刻みに震えていて力が入っていない。魔力も枯渇しており、全身に脂汗をかくムラマサはひどく消耗していた。


「神刀は加減がきかねえ。絶大な威力の代償に使用者の体を壊す。失敗作としか言いようがねえシロモノだな。ついでに攻撃範囲の制御もムズいからうかつに振れば味方の首が飛ぶ。間違っても使うんじゃねえぞ」

「……わかった。ほら、肩貸してあげる。さっさと北側行って様子を確かめるわよ。念のためグレンにも伝えておく?」

「あいつが気付いてねえとは思わねえが、そうだな。アズサの速さなら寄り道したって五分も変わらねえ」


 ムラマサは震える手で神刀を鞘に納める。

 シャングリラ兵に万が一残党がいた場合の処理を任せ、二人はその場を後にした。

 その背中に注がれる視線には誰も気づかなかった。


―――


「うああああっ!」


 シャングリラの北側ではアマザ兵とシャングリラ兵が戦っていた。

 悲鳴じみた声をあげたのはシャングリラ兵である。

 なぜなら、さきほどまでは壊滅状態だったアマザ王国軍に、どこからともなく大量の援軍が現れたからだ。

 百人や二百人ではない。隊列を組んでいた時と同じくらいいるのではないかという人数に圧倒される。

 シャングリラ兵は五千人弱。対するアマザ王国軍は五万人以上いるだろう。シャングリラ兵の方が上等な装備を使っているとはいえ覆せる人数差ではない。

 追い打ちに、シャングリラ兵は全員壁の前にいた。壁の上に弓兵でも配備されていれば守りの優位を活かせるのに、これではただただ圧倒的少数で迎撃するだけだ。誰か壁の上に行こうにもアマザ兵を押しとどめるのに精いっぱいでそんな暇がない。


「ちくしょう、なんだよこの布陣! 南側はムラマサ様たちがいるのにガトリングまで向こうにやって、こっちは俺たちだけなんて! 俺たちは捨て駒かよ!」

「はははっ! 投降すれば命だけは助けてやるぞ! 俺様たちの奴隷として飼ってやる!」

「くそっ!」


 ある者は矢を受け、ある者は囲まれて殴り倒される。すでに何人もアマザ王国軍に捕らえられている。

 アマザ王国は奴隷が横行している。法律もまともに整備されておらず、奴隷になれば死ぬまで道具扱いされることになる。いっそ死んだ方がマシとすら言われている。

 このまま死ぬか奴隷になるか。未来はその二通りしかないように思えた。

 シャングリラの兵士たちがグレンを恨みそうになったその時だった。


 最前線に何かが降って来た。

 ずどんと大きな音と共に砂埃が宙を舞う。その中には人影が見えた。

 唐突に表れたそれに誰もが注目し、一瞬戦闘が止まった。

 人影が背中に手をやり、背負っていた大剣を振る。すると突風が巻き起こり砂埃が吹き飛んだ。

 中から現れたのは漆黒の鎧にボロボロの赤マントを羽織った男だった。


「あまり目立ちたくはないんだがな……仕方ない、か」


 誰に言うでもなく呟いた男はジークフリートだった。


「お前たち、力を貸してやる。覚悟しろアマザ王国! おおおッ!」


 ジークフリートが大剣を振り下ろすとすさまじい衝撃波が巻き起こった。目立つつもりはないとは思えないほどド派手な攻撃だった。

 アマザ兵がゴミのように吹き飛ぶ。なぜかジークフリートの後ろにいたアマザ兵もシャングリラとは反対側の方向へ吹っ飛んだ。


「うおおおッ! これが『影の英雄』ジークフリート様の力!」

「シャングリラの最高戦力! すげえぜ!」

「勝てるぞッ! 仲間たちを助けられるッ!」

「フッ、浮足立つんじゃない! まずは捕まった連中を助け出すぞ! まったく、世話の焼けることだ」

「味方が捕まってる箱を取り戻せ! ジークフリートさんならここでも箱を壊せる!」


 言葉とは裏腹に満足げなジークフリートの合図でシャングリラ兵が打って出る。

 捕まった仲間は四方を鉄格子に囲われた箱に囚われている。仲間の救出さえ終わればジークフリートも自由に力を振るうことができる。そうなれば形勢逆転は決定的だ。

 にわかに勢いづくシャングリラ兵。ジークフリートも手近なアマザ兵を倒していく。


「ホウ、シャングリラにもまともな剣士がいたとはな」

「ぐああっ!」


 今にも箱に触れそうだったシャングリラ兵が悲鳴を上げた。

 いつの間にか箱の前には一人の偉丈夫が立っていた。赤い軍服に黒いマントを羽織った口髭のある男だった。その両手にはそれぞれ怪しい光を放つ剣が握られていた。そこはかとなく強そうな感じである。

 男の眼光は鋭くジークフリートを射抜く。


「オレはヨイツ。アマザ王国最強の剣士だ。貴様の名を聞いてやろう」

「我が名はジークフリート。手練れの剣士と見受けられるが、俺とやる気か?」

「知れたこと。どちらが真の強者か白黒つけようではないか!」

「望むところ! 行くぞ!」

「来い! うおおおおお!」

「ハアアアアア!」


 キンキンキンキンキン!

 カンカンカンカンカン!


「フッ、やるなジークフリート」

「貴様もな、ヨイツ」

「なんて戦いだ……おれたちには剣の動きも見えねえ」

「ああ、割り込める隙がねえ。アマザ王国の連中もビビってるぜ」

「はっ! 今ジークフリートさんがこっちを見た! 今のうちにみんなを助け出せってことか!」

「ジークフリートさん……! みんなのためにあの強い剣士をひきつけてくれてるのか……!?」

「だ、大丈夫なのか、ジークフリートさん押されてないか!?」

「バカ言うんじゃねえ! あの人が負けるはずねえだろ!? 俺たちは黙って自分の仕事をすればいいんだ!」


 キンキンカンカンやってる横でシャングリラ兵が味方を助け出した。


「これが狙いかぁ!」

「まったく手のかかるやつらだ」

「おのれええええ!」

「ああっ! ジークフリートさん!」


 激昂したヨイツがこれまでよりさらに激しい剣閃を放つ。並みの兵士なら細切れになっていただろう。

 しかしジークフリートは平然と立っていた。


「なにッ!? 我が奥義『暗黒光剣ダークネスフォトンブレイド』を受けきっただと!?」

「フッ、貴様もなかなかやるようだが、長年鍛え上げた俺の力には及ばないようだな。ハァッ!」

「ぐああああああッ!?」


 ジークフリートが剣を振ると光と共に衝撃波が放たれ、ヨイツを吹き飛ばした。


「うおおおおおっ! さすがジークフリートさん!」

「最強だぜ! これで俺たちの勝ちだ!」

「万歳、ジークフリートさん、バンザイ!」

「騒ぐんじゃない。残党を倒していくぞ」

「「「「「「はいッ!」」」」」」


 シャングリラ兵は異様な士気でアマザ兵を駆逐していった。

 そんな様子を遠くからウェルシュに乗ったアズサとムラマサ、グレンが見ていた。


「……ムラマサ、なにアレ」

「……さあ、よくわからん」

「……マンセーなノリだな。いや、助かったのは事実だが」


 ジークフリートたちを見る三人は完全に真顔だった。


「ねえムラマサ、あそこに誰かいるわよ?」

「……トーマか? どうしてあんなところに」

「様子がおかしい。二人ともしっかり捕まっていろ!」


 三人は壁の上に座り込むトーマのもとへ急行した。


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