探し中(その一)
探せ、必ずあるはずだ。
ただし、探す場所には気をつけろ。
これまでの定説は間違っている。『呉服町』は違うぞ。
あの場所からでは当時、『志賀島』を見ることはできない。『鴻臚館』があるのは、『志賀島』が見える場所だ。
大正時代、一人の博士が異議を唱えた。
九州帝国大学医学部部長、中山平次郎博士だ。
博士は『鴻臚館』を探していた。
その施設が最初に建てられたのは、はるか昔だ。千年以上も前になる。
海外との交流のため、他国からの使節団をもてなす施設だ。いわゆる迎賓館である。
と同時にその施設は、遣隋使や遣唐使、遣新羅使が出発前に滞在する施設でもあった。
最初は『筑紫館』と呼ばれていたが、やがて『鴻臚館』へと名前を変えた。
つまり、『鴻臚館』とは、古代日本において、世界に開かれた窓口だ。
しかし、今は残っていない。どこにあったのかも不明だ。当時の地図も残っていない。
幻の施設『鴻臚館』は、どこにあったのか。
建物はなくなっても、その痕跡が何かしら残っている可能性はある。
これまでの定説では、『鴻臚館』があったのは、『呉服町』(現在の福岡市博多区)だとされてきた。その町にある古い地名から、そう考えられてきたのだ。
それに対して、中山平次郎博士は異議を唱えた。
では、幻の施設『鴻臚館』は、どこにあったのか。
「手がかりならある。『万葉集』の中に」
中山博士が言う。
周囲にいた人たちは、自分の耳を疑った。
「『万葉集』って、あの『万葉集』ですか?」
昔の歌を集めた、古い古い書物だ。現存しているのは、原本ではなく写本のみ。
あれがどうして、幻の施設『鴻臚館』の手がかりになるのか。時代的には重なる部分があるけれど、しょせんは歌だ。
なので、彼らは思う。博士は頭がおかしくなったのか。いい人なのだが、最近は仕事に趣味にと、お忙しかったようだし・・・・・・。
そんな空気を無視して、中山博士は続ける。
「『鴻臚館』の場所を記した『古代の地図』が、『万葉集』の中に隠されている」
そのため、ある程度場所をしぼることが可能。探すべき場所は、『呉服町』ではない。
本当に探すべき場所は・・・・・・。
博士が告げたのは、江戸時代に『福岡城』があった場所だ。福岡藩の中心地。
そこに現在、お城はない。お堀などは残っているが、別の施設になっている。
博士の周囲にいた人たちは、一斉に顔を曇らせた。
あの場所は現在、「帝国陸軍の基地」になっている。基本的に「民間人は立ち入り禁止」だ。
ちょこっとだけ掘らせて欲しい、そんな理由が受け入れられるだろうか。
無理な気がする。軍人は基本的に石頭だ。「基地の中を掘らせてくれ」なんて言ったら、スパイ容疑で逮捕されるかもしれない。
では、どうするのか。
「将来の誰かに期待するのですか?」
今の時代は無理でも、あの場所から基地がなくなる、そんな時代が来るかもしれない。
つまり、未来に託すのだ。
「それも考えた。しかし、それは最終手段だ」
中山博士には秘策があった。
博多の地に眠る『鴻臚館』。
そんな幻の施設を見つけるために、
「ある祭りを利用する」
中山博士の周囲にいる人たちは考えた。
博多には『三大祭り』がある。
五月の『博多どんたく』。
七月の『博多祇園山笠』。
九月の『筥崎宮放生会』だ。
どれも長い歴史を誇る。
中山博士は、その中の一つに目をつけていた。




