第23話:愛の形は人それぞれ、リベリスの祝祭
ボビンとセリーネ様の婚儀!
そしてグレンとノエルの煮え切らん背中を、ヨシコおかんが全力で押し切るで!
リベリスの街は、かつてない温かな祝福の空気に包まれていた。
かつてこの街を救った英雄カケルの母親であり、最強の家族を引き連れて再来したヨシコの存在は、街の人々にとって驚きと喜びの象徴となっていた。
だが、今宵の主役はもう一人の誠実な男、ボビンであった。
「ボビン、あんた……。本当にええ顔になったねぇ。初めて会った時の、あの控えめな面影はどこへやらやわ」
領主館のテラスで、ヨシコは感慨深く目を細めた。
ボビンはかつて、実力はトップクラスでありながらも、自らを誇示することなく荷物持ちに徹していた男だった。
激しい戦いの中、どれほど強烈な攻撃を受けても、彼は「ぬるい」と一言だけ吐き捨て、涼しい顔で盾を構え続けた。
それは自分への鼓舞であると同時に、「この程度の攻撃、大したことはない」と仲間に勇気を与える、彼なりの不器用な優しさだった。
その本質を見抜いた領主セリーネ・アルヴェールは、扇をそっと閉じ、鈴を転がすような声で微笑んだ。
「ヨシコ様、この素晴らしい殿方との縁を繋いでくださったこと、心より感謝いたしますわ。世の多くの騎士は、華やかな武功のみを競い合いますけれど……。ボビン様は、誰よりも先に盾を構え、誰よりも最後まで仲間を支え抜く慈悲深き御方。私の治めるこのリベリスを、これからは彼と共に守り、慈しんで参りたいと思っておりますの」
セリーネのエレガントな宣言に、ヨシコは満足げに頷いた。
「セリーネ様、あんたの目は本物や。ボビン、あんたは世界一の盾や。これからはセリーネ様というかけがえのない宝を、その広い背中で守り抜きなさい。……ほら、お祝いの飴ちゃんや。二人で舐めて、甘い未来を築くんやで」
ヨシコから差し出された黒糖飴を、大きな手で恭しく受け取ったボビンは、隣に立つセリーネを静かに見つめた。
そして、今夜ばかりは慣れない正装に身を包んだその胸の奥から、心からの実感を込めて呟いた。
「……あたたかい」
かつて死線を潜り抜けるたびに、冷徹に「ぬるい」と断じてきた彼が、今、初めて触れた心の平穏。
その一言は、過酷な戦いの中にいた彼がようやく辿り着いた、真の幸福の色をしていた。
一方、祝宴の隅では、相変わらず進展のない二人がいた。
受付嬢ノエルの切なげな視線に気づかぬふりで、無骨な冒険者グレンはジョッキを空け続けている。
それを見逃さないのが、お節介のプロ・ヨシコである。
「……あんたら、ええ加減にしなさいよ!」
ヨシコが二人の間に割って入った。
グレンが驚く間も与えず、マシンガントークが炸裂する。
「グレン!あんた、魔物相手には一歩も引かんくせに、なんでノエルさんの前ではそんなに逃げ腰なんや!あんたみたいな『駄馬』はな、ちゃんとした飼い主の手綱を握ってもらわんと、どっかの崖から転げ落ちるだけやで!ノエルさん、あんたもや。この駄馬が動かへんのなら、自分からグイッと手綱を引きなさい。この男を乗りこなせるんは、あんたしかおらへんのやから!」
そこへ、いつもは鉄壁の理性を誇る長男・イチロウが、赤ら顔でふらふらと割り込んできた。
手にはなぜか、既に二人の署名欄以外が完璧に埋められた書類が握られている。
「姉さん……ひっ、姉さんの言う通りだ。グレン殿ォ!結婚は……組織のスタートだ!私はね、既に『将来にわたる生活共同体形成に関する合意書』を……完璧に仕上げてあるんだ!さあ、さっさとここにサインしろ!法的根拠は私が保証するッ!逃げ道はないぞ、ハッハッハ!」
初対面のグレンに対し、普段のクールな国際弁護士とは思えないイチロウのカオスな勢いが襲い掛かる。
ヨシコが「ちょっと、イチロウ!初対面の人に酔っ払って何しとんねん、書類を引っ込めなさい!」と慌てて羽交い締めにする。
だが、この異常なまでの圧力が、逆にグレンの覚悟を決めさせた。
彼はジョッキを置き、ノエルの両手を力強く握った。
「ノエル……。俺は今まで、お前が窓口で笑ってくれているから戦えた。……でも、これからは窓口の向こう側じゃなく、俺の隣で笑っていてほしいんだ。俺の手綱、一生お前に預けていいか?」
ノエルの瞳から涙が溢れ出し、彼女はグレンの胸に飛び込んだ。
周囲からは割れんばかりの拍手と冷やかしの指笛が鳴り響く。
その光景を、ルシアナと赤ん坊を連れたカケルが微笑ましく見守っていた。
隣では、四男・シロウがミレイユと熱っぽく情報工学と魔法回路の同期理論を語り合い、二人の間にもまた、理屈を超えた予感が漂い始めていた。
ヨシコの胸元では、金色のミュコが「ぷるぷる」と輝きながら、ノエルの幸せそうな姿を見て自分まで嬉しそうに跳ねている。
「ヨシコ、みんなキラキラしてるね!ミュコも、この『あたたかい』感じ、大好きだよ!」
ミュコはヨシコの首筋にすり寄り、金色の光を放ちながら甘えた。
ヨシコはその柔らかな弾力を撫でながら、改めてこの街に来て良かったと感じていた。
「愛の形は人それぞれやけど、根っこは全部『相手を想う総務の心』やね。……さて、カケル!今夜は祝杯や!孫に最高の未来を見せるために、今夜だけは賑やかにいこか!」
ヨシコの号令で、リベリスの夜はさらに輝きを増していく。
誠実な盾の男、手綱を握った受付嬢、そして新しい命。
リベリスの街は、ヨシコの家族がもたらした「愛のお節介」によって、より一層深く結ばれていくのだった。
(第24話へ続く)
愛の形は人それぞれ。
みんなキラキラして、最高やわ。
さて、いよいよ大宴会。
そしてヨシコさんが見つめる、懐かしい「春」の記憶……




