第24話:飴ちゃんが繋ぐ、二つの世界の未来(最終回)
ついに最終回。
飴ちゃんが繋いだ二つの世界の未来。
ヨシコおかん、最後のお節介をお届けします!
ボビンとセリーネの驚きの婚儀、そして煮え切らないグレンとノエルの背中をヨシコと酔いどれのイチロウが強引に押し切った「お節介の祝祭」から数日。
リベリスの街を包んでいた狂乱のような喧騒は、今日、カケルの家で開かれる「ヨシコ一家・送別の大宴会」へと引き継がれていた。
テーブルには、カケルが経営する「前借亭」から運び込まれた極上の料理が所狭しと並んでいる。
そこには、地球からやってきたヨシコの弟妹たちと、リベリスの仲間たちが次元の壁を越えて入り混じり、笑い声を響かせていた。
「母さん、本当に……賑やかだね。こんな光景、僕が一人でこの街に来た時には想像もできなかったよ」
カケルが、標準語の穏やかな口調で、隣に座るヨシコに語りかけた。
「アホ。あんたがこの街で一生懸命生きて、これだけの『縁』を繋いだんや。胸張りなさい」
ヨシコは、ルシアナの腕の中で安らかに寝息を立てる赤ん坊を愛おしそうに抱き上げた。
その柔らかな頬を撫で、額に優しく口づけをする。
そして、ルシアナに向き直り、力強く告げた。
「ルシアナさん。育児いうんは、一人でやるもんやない。しんどい時は、いつでも地球に連絡しなさい。シロウに無理やりゲートを開けさせるから、一瞬で飛んでくるわ。完璧な母親やなくて、幸せな母親でおることを選びなさい。それがこの子への一番のギフトや」
ルシアナは瞳を潤ませ、何度も深く頷いた。
その隣では、金色のスライム・ミュコが「ヨシコ、ミュコもいるもん!」と、誇らしげにキラキラと輝き、ヨシコの腕の中に収まる赤ん坊を慈しむように見つめていた。
宴が最高潮に達した頃、四男・シロウが意を決したように立ち上がった。
彼の隣には、先ほどまで熱っぽく技術談議を交わしていたミレイユが寄り添っている。
「……姉ちゃん。みんな。俺、ここに残るわ」
その宣言に、宴の場が一瞬静まり返った。
シロウは続ける。
「地球の住まいは賃貸やったし、個人事業主の仕事もゲートさえ維持できればどこにいたってできる。……それに、俺自身の人生の『メンテナンス』も、この街でやってみたいんやわ」
そこへ、少し酒の抜けた長男・イチロウが口を挟んだ。
「……フッ、いいだろう。シロウ、地球側の諸々の事務手続きはすべて私が預かっておこう。お前の分も、私という一流の弁護士が法的に『消去』してやるから安心しろ」
イチロウの頼もしい(?)フォローに、ヨシコは呆れ顔で笑い、シロウの背中をバチンと叩いた。
「……しゃあないな。四十過ぎて、ようやく見つけた『やりたいこと』や。ミレイユさん、この変態エンジニアをよろしゅう頼みます!」
笑い声と拍手が巻き起こり、別れを惜しむ祝杯が再び上がった。
ヨシコは、集まった人々に日本から持ってきた「黒糖飴」を握らせて回った。
「ええか、みんな。しんどい時は、ちゃんと周りを頼るんやで。この飴ちゃんなめて、前を向いて歩きなさい!」
最後にカケルとミュコの頭を優しく撫でてから、ヨシコは次元ゲートの中へと消えていった。
気づけば、そこは「魔王軍総務課」のオフィス。
使い古されたデスクの上には、数日分の書類が山積みになっていた。
窓の外には、禍々しくも活気のある魔国の景色が広がっている。
「……ただいま。やっぱり、ここが落ち着くわ」
ヨシコは事務服の襟を整え、デスクの隅に飾られたリベリスでの集合写真を愛おしそうに見つめた。
そこへ、シロウからメッセージが届く。
『姉ちゃん、こっちは順調や。……あ、そういえば孫の名前が決まったで。「ハル」っていうんやけど。姉ちゃん、昔から「春」って季節が好きやったやろ?カケルたちも、姉ちゃんが話してた「春の温かさ」の話を思い出して決めたみたいやわ』
画面の中で笑い合う家族と、元気に手足を動かす赤ん坊。
「……ハル。おいで、ハル」
動画から流れるカケルの声を聞いた瞬間、ヨシコの指が止まった。
シロウやカケルたちは、単にヨシコの「好きな季節」だと思っている。けれど、ヨシコの中だけには、別の情景が広がっていた。
それは、18歳から自分を後回しにして弟妹のためにがむしゃらに働いていた頃、事務のイロハを教えてくれた初恋の先輩、春夫さんの言葉。
『総務の仕事は、春に新しい命が芽吹くために、冬の間じっと地面の中で寒さに耐えて準備を整えるのと似ているんだ。そうやって準備を完璧にして、当たり前のように「春」が訪れるようにするのが、僕たち総務の仕事なんだよ』
若き日の淡い想いと共に刻まれたその哲学が、年月を経て、自分が慈しみ育てたカケルの子供の名となって、再び自分の元へ届けられた。
ヨシコは動画を止め、ふっと意味深な笑みを浮かべた。
その瞳は、遠い過去と、さらに遠いリベリスの未来を同時に見つめていた。
「……名前、そうきたか。あんた、ほんまに『持ってる』子やね」
それが単なる偶然であっても構わなかった。
自分の歩んできた「冬」の時間が、ようやく本当の「春」を連れてきてくれた。
そんな確信が、ヨシコの胸を温かく満たしていく。
「ハル、か……。ええ名前や。あんたの行く道が、いつも陽だまりみたいに温かいもんでありますように」
ヨシコは深く息を吐き出し、立ち上がった。
その背中は、どんな時よりも頼もしく、凛としている。
「よっしゃ。あっちが片付いたら、次はこっちや。魔王さん!また書類が溜まってますよ!今日も世界を整えに行こか!」
ヨシコは黒糖飴を一つ口に放り込み、カリリと音を立てて笑った。最強の総務、ヨシコさんの戦いは、新しい「春」の訪れと共に、これからも続いていく。
(異世界総務のヨシコさん2完)(第3部、お楽しみに!)
『異世界総務のヨシコさん2』、これにて完結です!
最後までお付き合いいただき、おおきに。
ヨシコおかんの春は、まだまだこれから。
また、どっかの不備を正しに来るかもしれへんからね。
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