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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第四部:神権の礎 第二章:教皇の軍旗
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フェッルム城攻防戦①

 教会の旗を射抜くというギオル様からの宣戦を受け、正規軍との戦いが始まった。徴兵された平民は去ったけど、迫るその数は依然としてこっちより多い。そして、城の守備兵は()()()()()()()()。俺たちはその時が来るまで、ひたすら城を守るしかないのだ。


「梯子だ。弓兵は梯子を運ぶ兵を狙え!」


 お互いが弓の射程範囲内に入り、激しく射ち合う。城壁には着実に敵兵が取りつき、長梯子の設置を待っていた。俺の言葉を聞いた弓兵は、すぐに狙いを変えて梯子を抱える敵兵を射抜く。特にファーレン伯爵領軍からの獣人弓兵の腕前は見事。梯子を待っていた敵兵は、バタバタと倒れる味方に驚く。一進一退の攻防だけど、城門は破られずに城壁への侵入も防いでいる。


 そして、陽は沈んで初日の戦闘が終わった。


「少数の兵で、こんなに善戦できるなんて思いませんでした」

「鍛えられた正規兵だけど、そもそもの目的はトゥルスキア様の逮捕です。油断もあるんでしょう」


 教会側も教皇を罷免されたラキウスを中心に、五万もの反乱軍が結成されるなんて思わなかっただろう。ラキウスを聖軍の中で孤立させた後、参加している諸侯諸卿の対応を急がせるのが、教会軍派遣の大きな理由だと俺は思っている。徴収兵の数からも、急ごしらえの戦いを念頭としない軍勢の印象だった。


「それでも、川向こうの本軍は油断ならないか……」


 教会軍の司令官クラメンス司教の率いる本軍は、こっちの戦いを静観している。徴収兵が去った時は動揺が見られたけど特に動きを見せない。ラキウスとの決戦を想定して、兵力を温存している可能性もある。


「考えてもしょうがないか。俺たちも休みましょう」

「はい。アルトさんの作戦が上手くいけば、しばらくは長い夜になります。今のうちに兵たちも休ませましょう」


 城内を見渡せば、馬の装具を整えたり食事や寝床の準備をする亜人種たちで溢れている。そう、亜人種たちで。


 ◇


「敵襲だー!」


 夜。城のはるか向こうの先で、人々の叫びと銅鑼の音が城まで木霊(こだま)する。敵陣地では、ポツポツと松明が焚かれる。


「これだと、攻城部隊の全員が飛び起きた感じだな」


 見張りに就いていた獣人が呟く。その言葉通り、向こうでは騒ぎが大きくなり酷く混乱している様子が分かる。


「アルト殿。救援部隊の準備は整っています。いつでも出撃が可能です」

「分かりました。まだ待機でお願いします」

「はっ!」


 城門前には、軽装騎兵たちが待機する。もしもの時の救援だ。


「上手くいってるみたいですね」

「ギオル様。まだ休んでいても良いですよ」

「いやぁ、あっちのことが気になってすぐに目が覚めてしまいました」


 枕の跡を頬へ残すギオル様に望遠鏡を渡す。敵陣地で起きていることを確認すると、苦笑いだった。


「……さすが、ユリウス卿の副官ですね。同士討ちまで持っていきますか」


 これが俺の策だった。教会軍に城が包囲される前、人間族で構成した隊をアースィムさんに率いてもらい脱出させた。そして、戦闘のどさくさに紛れて教会軍に潜入。あっちには人間族しかいないから、潜入するには亜人種は連れていけない。作戦行動は夜も深まった時合に、敵陣地を奇襲。

 だけど、俺たちの兵数だと戦うための奇襲は難しい。そこで、奇襲部隊には戦闘をさせない。その代わり寝ている敵を起こして、警戒感から眠れなくさせようと考えた。睡眠不足で翌日も戦うなんて辛いことだ。


 士気も下げれて、嫌戦ムードを誘発させれる。それがまた士気を下げての繰り返しだ。思考もまとまらず、統制が執れない軍に負ける気がしない。

 でも、ちょっと予想外のことが現場では起きていた。アースィムさんたちは上手く立ち回り、同士討ちを始めさせた。収拾のつかない大混乱だろう。


「何か燃えてる?」

「……えぇ」


 大きな炎の揺らめきに目を凝らしていると、ギオル様が戸惑う声を上げた。


「何が燃えているんですか?」

「あれは、食糧庫ですね。今、敵兵が必死に水をかけてます」

「……やりすぎでしょう」


 どうやら、大戦果を挙げてるようだ。そうなってくると、再潜入あるいは脱出ができるのか不安になってくる。無理だとアースィムさんが判断したら、セレス家の装備する青い火花が空に打ち上る道具を使うと聞いている。その時のために、救援部隊も準備した。


「青い火花って上がってないですよね?」

「はい。わしらは何度も見ているので、あれが上がっていないことは確か」


 念のため、城に残っているセレス領軍のオーク族に聞くと問題はないみたいだ。

 そのまま、同士討ち、食糧庫炎上、睡眠不足、収拾に動く本軍の介入などのアースィムさんの大活躍を見届けて開戦二日目の朝がやってきた。


 俺とギオル様は顔を合わせて同じことを言った。


 アースィムさんは敵に回しちゃダメだ、と。

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