フェッルム城攻防戦②
「ハハハ。年甲斐もなく、遊び過ぎました。ギオル様の地図のおかげで、楽々と事を成せました」
敵陣地で暴れまわったアースィムさんは、再潜入は無理と判断して全速力で城へ戻ってきた。怪我人はいても死者がいない辺り、アースィムさんの指揮能力の高さがよく分かる奇襲作戦だった。
朝になっても教会軍は攻めてこず、作戦の効果が出ている。ラキウスの来援までの時間稼ぎになった。彼を随行させてくれたユリウス様に感謝だ。
「本当にお疲れさまでした。アースィムさんたちは、しばらく休んでいてください。この様子だとすぐには攻めてこないでしょう」
「では、お言葉に甘えて。それと、もう一点報告があります。こちらの手紙を。これは敵本軍に潜ませていた者が回収したものになります」
「……なっ」
その手紙は封蝋がされたものだった。切り開いて手紙を読むギオル様は目を強く見開く。そこに書かれていたのは、首席枢機卿ガリアス・コローネルは領地のコローネル侯爵領から双子峠に向けて領軍を派遣したこと。派閥の教会貴族の領軍を吸収しながら進軍し、その数は一万人に達する。
手紙から顔を上げて、目の前の教会軍を凝視した。そこには約六万人の兵士がいる。合流されて七万人になれば、ユリウス様やフォルマ伯爵がいるとはいえ五万人を擁する反乱軍でも勝つのは難しい。
「お二人とも、落ち着かれよ。この手紙は未開封のもの。教会軍は援軍のことを知らないのです。到着予定日からは、味方の援軍のほうが到着は早い」
「確かに、トゥルスキア様のほうが到着は早いか。敵方は援軍のことを知らないのなら、短期決戦が重要……」
「その通り。この手紙の内容を本軍に送りましょう。そして、進軍速度を速めてもらいましょう」
アースィムさんの案に乗っかり、セレス家が使う暗号化した三通の手紙をラキウス、フォルマ伯爵、ユリウス様へと送った。三通揃って、ユリウス様が解読すれば内容が分かるという仕組みだ。城は包囲されているけど、小さな脱出口から出て本軍に届ける。昨夜の奇襲で、疲れている教会軍の一部の警戒網は緩んでいるので上手く行けるはずだ。
◇
二日目の昼頃。教会軍は再び攻撃を始めた。顔色の良い様子から、敵本軍から応援に出された兵士が混じっているようだ。その勢いは強く、城壁へ梯子が掛けられている場所もある。さらには、カタパルトからの射出された大岩が頭上を飛び越える。もともと、数で劣るので苦戦の雰囲気が漂った。だけど、ユリウス様が付けてくれたセレス家領軍のオーク重装兵たちの一騎当千の働きが味方を励ます。
そして、敵は忘れている。ここには、変わった力を持つ一人の教会騎士がいることを。
「マーラ、ファール……!」
『あの言葉』を唱え、淡い光を体がまという。そして、底なしに湧き上がるマーラを使い技を繰り出した。
「梯子が燃えているぞ! 飛び降りろ!」
飛ばした炎の玉は、いくつかの梯子を燃やし朽ちさせる。
「何で、こっちにカタパルトの石が落ちてくるんだ!?」
カタパルトから射出された大岩は、衝撃波で弾き返して敵の中へ落ちる。
「また、光の波だ……。逃げろ!」
光の大波が敵兵を呑み込む。効果を高めた浄静波は、精神の鎮静化の域を超えて相手を麻痺状態にした。
「あいつだ! 光っているあいつを破城槌に近づけるな! 放て!」
無数に飛んでくる矢は、マーラで高めた直感力と身体強化を使い、剣でことごとく弾く落とす。これまでの戦いの経験が、技を磨いた。
「アルトさん。援護します!」
俺を追う敵兵に、ギオル様の弓の援護が加わる。そして、辿り着いた破城槌へマーラをまとわせた剣を力一杯叩きつける。
「剣で、破城槌が壊された? 何なんだ、お前は!」
地面に尻もちをついた敵兵は怯えるように俺を指差す。
「教会騎士アルト・メディクルムだ」
◇
二日目の戦い。攻城兵器のほとんどを失った教会軍は撤退した。そして、三日目の戦いは昼頃に終わった。それはなぜか。
双子峠から、巨大な獣の唸り声を思わせる重厚な角笛が幾度も響き渡ったからだ。ラキウス率いる反乱軍が、フェッルム城に到着した。
「間に合ったか……!」
馬上で汗を拭うラキウスは、俺たちを見て笑った。




