ギオルの憂鬱
フェッルム城が重要な理由は二つある。
一つ目。首都リウリスからグールダ山脈を迂回して大軍が通れる場所は双子峠だけ。フェッルム城は首都側での双子峠の入口を守る城だからだ。ここを教会軍に取られてしまうと、反乱軍は回廊での戦いを強いられる。この時に問題となるのが、エグラド側勢力だ。双子峠の出口から挟み撃ちをされたら確実に負ける。
二つ目。主戦場をフェッルム城が見下ろすフェッルム平原に定めたから。ここならマリーダ伯爵と接触する可能性も低い。それに、もしエグラド側勢力が双子峠に侵入して挟み撃ちの可能性を見せても、出口になるフェッルム城からの防衛で戦場への介入に時間がかかる。その間に兵力の再配置だ。
この要衝地は必ず俺たちが押さえないといけない。
「はぁ」
考えを巡らせていると、隣からため息が聞こえた。
「どうしましたか、ギオル様?」
「ユリウス卿と渡り合える自信がありません……」
フェッルム城の奪取と防衛の指揮官として、ギオル様が選ばれた。俺と同じく防衛線の経験があるからという理由と、率いられている精鋭部隊というのがファーレン伯爵家から大部分が出されているからだ。
『今、フェッルム城を押さえるためには、回廊を一気に駆け抜けられる機動力が必要です。そこで、頑強かつ駿馬を揃えるファーレン伯爵家から、選りすぐりの者を出すのがよろしいかと。何より、卿らは絶望的な防衛線を勝ち抜いた経験がおありでしょう?』
ユリウス様はにこやかに笑いながらファーレン伯爵家を指名した。フォルマ伯爵は渋面だったけど、主に無冠貴族の諸卿が賛成してギオル様と俺たちは姿を見せ始めたフェッルム城へ急ぐ。
もしかしたら、ユリウス様は将来のライバルとしてギオル様を意識しているのかもしれない。ギオル様も何となくそれを察して、ため息をついているんだろう。歳も近いんだから仲良くしてよ!
フェッルム城に向かわせたのは、一見すれば死地に送り込まれたように見える。でも、さすがに死んでほしいとは思っていないだろう。その証拠に、セレス家からもユリウス様の副官の一人と兵士を出してくれた。その中には強靭な体を持つオーク族もいる。彼ら一人で、人間族の兵士十人分の働きができると。
作戦だって重要だ。私情で反乱軍の将来を揺るがすようなことをユリウス様もしないだろう。
「がんばって、ギオル様!」
「ア、アルトさん……!」
ごめん。俺には応援することしかできない。
それよりもフェッルム城の尖塔に掲げられている旗は、聖軍の物と変わっていない。先に俺たちがフェッルム城へ到着した!
問題なく入城できた俺たちは、まだ状況が知らされていない城内の人々の説得から始まった。でも、ほとんどはラキウスに味方ができないからと退去をしてもらった。城内の整備と防壁の修繕。武器の手入れや兵士の休息。その諸々を、セレス家から派遣されたユリウス様の副将アースィムさんが采配を振るっている。ギオル様は、ファーレン伯爵領軍として従軍している獣人族の兵士を使って、哨戒活動をしていた。城の周りだけじゃなく、後日の決戦の地になるフェッルム平原の地図まで作成していた。地形を知ることは戦いを有利にしてくれる。その間に俺は、医療品の作成だ。
いつ来るか分からない教会軍に備えて、それぞれが準備を進めた。そして、夜は作戦会議だ。
「ギオル様、メディクルム殿。方々からの情報が集まってきました」
アースィムさんは、数枚の紙を卓上に広げて状況を伝える。教会軍は進路を変えず双子峠を目指していること。北にいるエグラド家やマリーダ伯爵に目立つ動きはないこと。双子峠以南では、ラキウスが反乱を起こしたと知られていること。ラキウスたち反乱軍が双子峠に入ったこと。他にもいくつかあるけどそんなところだ。
「明後日、ここは包囲され開戦となるでしょう。しかし、味方からの救援も早い。二~三日の勝負となります」
「二~三日といっても、相手は六万。苦しい戦いになりそうですね」
数を見れば気の遠くなる思いだけど、救いがあった。それは、この六万の大部分は徴兵されて集まった軍であること。訓練をされた正規兵である領軍ではなく、農民などの戦いの初心者だ。そこに付け入る隙があるだろう。
「ギオル様。こういった場合、兵の士気は脆いものです。士気さえ低下させてしまえば軍は瓦解し、俺たちの勝利です」
「はい。獣人戦争の時に、士気がどれだけ重要かは身をもって学びました」
士気を保つためには略奪の許しや、食料や安全な飲み水に休憩できる場所。心の支えとして司祭の存在や、率いる人の勇姿も必要だろう。
「ギオル様、アースィムさん。俺に策があります。それは……」
その内容にアースィムさんはニヤリと笑い、ギオル様は目を丸くしていた。
さぁ、前哨戦の開始だ。




