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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第四部:神権の礎 第二章:教皇の軍旗
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エグラーデの舞台演出

 あまりの息苦しさに、自分が息を止めていたことに気付かなかった。コランは息を切らして上下する俺の肩を眺め、およそ声変わりをする年齢の子供が浮かべるべきではない笑みを深くする。


「その様子だと、あの時のことを忘れていたわけじゃあなさそうだな」


 コランが持っている禍々しい輝きを放つダガーは、再び周囲の血を引き寄せて輝きを強めた。グリサムさんも自分の傷を手で押さえているが、流血は止まらない。このままじゃ、まずい。


「その青ざめた表情が見れただけでも最高だが、もっとほしい!」


 力を増幅させたダガーを構える。アリーシャさんの傷は治った。俺も剣を構えないといけないのに、手が震える。


「ハハハ! 俺たちのことを思い出して剣も握れねえってか。どこぞの町の英雄様であり、聖人様が情けない」


 嗤い終えると、コランはスッと目の前から消えた。いや、速すぎて目が追いついていなんだ。コランは俺の目線下からアッパーをするようにダガーで首を狙ってきた。とっさに剣で防げば、すぐに腹を狙って蹴りが飛んでくる。それを防げずに、重い一撃が入る。一連の動きは、マーラの感知者としての戦い慣れをしたものだった。


「おいおい。このくらい防げられるだろうよ。今、その気になれば三か所は刺せていたぜ」

「……コラン。もう、やめてくれ」

「……俺たちもあいつらに同じことを言ったさ。だけどな、友達の首は血まみれで床に転がってた。驚きなのか痛みなのか、目は見開かれたままで俺を見ていたよ。あいつは、俺と一緒に何度も川へ水汲みに行ったんだ。あの時の小せえ体じゃ重くて仕方がなかった。辛い仕事さ。でもな、あいつは弱音を吐いたことは一度もない。何なら、泣き言をいう俺の方を軽くしようとしてくれたんだ。なのにさ、何であんな良い奴の首が斬り飛ばされなきゃいけなかったんだ?」

「……ごめん」


 俺の一言を聞いたコランは、また凄まじい速さで迫って斬りかかる。瞳の白目部分は充血し、そこへ黄色の虹彩と合わさり人間離れした存在感を放つ。


「謝るくらいなら、俺に殺されろ! お前らが洞窟に来なければ、貧しくても生きていられた! クソ貴族が俺たちの生活を壊し、お前たちが俺たちを殺したんだ! 退屈だと村で文句を垂れたいたあの頃を返せ、アルト!」

 

 コランのマーラが伝わって、脳裏にへ村に住んでいた頃の姿と洞窟で暮らしていた姿が流れてくる。村の畑であどけない少年が親の手伝いをしながら、文句を言っている。退屈だと夕方の空を見上げて、友達と笑い合っている。苔の生えた洞窟では、母親や逃げてきた村の老人たちが寝やすいように石を払う。感謝されるたびに、痩せた頬ではにかんでいる。

 それを、俺がこんな顔にさせた。


 コランに剣を向けることができず、攻撃を防ぎながら何をすればいいのか答えのない思考を続けた。

 そこへ、コランが急に飛び退いた。グリサムさんが、矢を放った。



「アルトさん。そのクソガキと何があったのか知らないけど、あんたにはやらないといけないことがあるだろう。務めを思い出せ!」


 そうだ。今は、リグラムの拡散阻止と関係者を調べることが優先だ。――コランを殺す必要もない。


 殺す必要はないけど、追い返すには全力を出さないといけない。ようやく、決心がついて剣を握りなおす。グリサムさんは吸血されて辛そうだ。俺が引き受けないと。


「やっと、やる気になったか。いくぞ!」


 教会騎士を含め、マーラの感知者同士の戦いは相手の何手先を読んで武器を振るうかだ。それは一種の未来予知。そこに至るには、集中力とマーラを使いこなしてきた経験がものをいう。身体強化を維持しながら直観力を高めるために、自身の生命マーラの限界を知り配分を考えないといけない。コランはダガーから与えられるマーラを、怒りや憎しみにより制御している。それは、未熟で荒い使い方だ。俺はそれを経験で知っている。


 エレーデンテの頃、俺の力を利用してレバレス・ノーラの復活を目論む、グラウェル卿に施された怒りによる力の増幅。遠回しにリークトを殺さないといけなくなった力だ。結局は怒りの力を持っていても、マーラの扱いが未熟な頃のラーグでさえ倒すことができなかった。そんな力に、今の俺は頼らないし、負けない。

 

 動揺を鎮めて、コランの動きを読めば大したことはない。俺の得意とする、攻防のバランスが良い上級剣術『平和の型(コンコルディア)』で十分に対処可能だ。


「チッ。これが……!」


 コランも、流れが変わってきたことを察したのだろう。激情は減退し、微かに息も切らせて動きが緩くなってきてきている。アリーシャさんを沈めた時みたいに、暗殺者は一撃必殺が重要だ。長時間も戦う利はないのに、俺を弄るのにこだわり過ぎたんだ。


「コラン。後は追わないから、引け。ダガーの力も弱まってきているだろう?」


 憎々し気に顔を歪める様子に、読みは当たっているようだ。


「……必ず、俺が殺してやる。暗闇から、お前を見ているからな」


 そう言い残し、コランは襲撃の時と同じように素早く消え去った。

 

 その後、回復したアリーシャさんとグリサムさんたちで洞窟を調べてリグラムを見つけた。これをファシャルスさんにも知らせ、町の付近で待機していた教皇軍がレンツァーベックを制圧した。


「エグラーデの掌で踊らされていましたか」

「はい」

 

 ファシャルスさんの言う通り、今回のリグラムの情報が出されたのは俺をここへおびき寄せるためだろう。過去の失敗で生まれてしまった暗殺者コランを見せつける。それで俺の心を揺さぶり、精神的な攻撃をする。でも、暗殺の成功までは目論見になかったと思う。一般人やマーラの感知者以外から見れば、コランは強い。ただし、経験を積んだ教会騎士なら倒せはしなくても退かせることはできる。今のコランの実力はそんな感じだ。


「苦しいなぁ」

 

 エグラーデの目的は達成できた。こんなに気力をゴリゴリと削られたのは久しぶりだ。――本当に、最悪な気分だ。


「しかし、成果もありました。エグラド侯爵家がリグラムの流通と販売に関与を示す証拠が得られた。恐らく、この証拠も何かの誘導でしょうが手札が増えることは良いことです。例え、毒だったとしても」


 その毒を、どう活かすかはラキウス次第。

 暗殺者コランの襲撃に、エグラド侯爵家による犯罪の証拠。一体、エグラーデは俺たちをどこへ導こうとしているんだろう?

読んでいただきありがとうございます。『リアクション』や『感想』をいただけると嬉しいです。評価ポイントでも嬉しいです。

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