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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第四部:神権の礎 第二章:教皇の軍旗
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過去からの復讐

 洞窟調査には、俺とグリサムさんとアリーシャさんの他に、医者が声をかけた水夫七人が向かった。ファシャルスさんは、身元を隠しながら聖人活動で俺のお供をしている人たちを指揮して町の様子を見ている。念のため、脱出の準備もしておくらしい。


「聖人様。ここらは足元が悪いみたいなのでお気を付けくだせぇ」

「ありがとう。それにしても、あなた方のような逞しい人をつけてくださった医師に感謝をしないといけませんね」


 ランプを持って先頭を行く若い水夫は、俺の言葉に照れ笑いを浮かべながら意気揚々と進む。俺たちの後ろを進む水夫たちの雰囲気は、彼とは正反対な心持のようだ。緊張、不安、焦りを感じる。


 それとなく水夫を警戒をしていたアリーシャさんに、目配せをすると小さく頷いて俺たちと水夫の間に入る。

 彼女はグリサムさんとは違い、寡黙で仕事人という感じだ。そう思うのも、彼女は正面から戦うのではなく、敵を翻弄し分断させて一人ずつ潰す戦術が得意だから。それには敵味方の正確な位置の把握などをしないといけない。マーラの感知者である教会騎士なら自然とできることだけど、それ以外の人がそんな技術を取得するのは厳しい訓練が必要だ。

 

 前を向きながらも、後ろの気配に敏感な彼女が俺たちの間にいれば、後ろから水夫が襲ってきても対応は難しくない。だから、グリサムさんは前を。俺が全体を警戒すれば隙はないだろう。


 だからこそ、驚いた。アリーシャさんが苦悶の声を上げて倒れたことに。警戒に隙はなかった。奇襲を受ける前と後に感じるマーラの揺らぎもなかった。でも、アリーシャさんは倒れて、広がる血の海に沈もうとしている。

 

「このっ!」


 アリーシャさんに止めを刺そうとする、俺の頭一つ小さい体型の黒装束の襲撃者に衝撃波を放とうとした。でも、ためらう。あいつの後ろには呆然と立っている水夫たちの姿があった。敵か味方を図りかねて、衝撃波を放てなかった。やれば、彼らも吹き飛ばされる。

 

「伏せろ!」


 グリサムさんの声に従うと、頭上を矢が通り過ぎる。黒装束が矢を払う隙に、俺は走ってアリーシャさんを奪い返す。グリサムさんの名前を叫べば、俺と入れ替わるように黒装束との間に入る。

 急所を突かれたアリーシャさんの出血は酷い。顔は青ざめている。マーラの回復術に集中しないといけない。その前に、言わないといけない。


「そいつは、マーラの感知者だ!」


 俺の言葉に黒装束はピクリと反応し、グリサムさんは警戒感を高めた。

 もしかしたら、実際は違うかもしれない。でも、訓練を積んだ教会騎士の警戒を潜り抜けられる相手と言えば、まずはマーラの感知者だと疑う。

 

 グリサムさんも、相手がマーラの感知者だと念頭に置けば、戦い方を考えられる。


「あんたら、戦いに巻き込まれるぞ。さっさと逃げろ!」


 水夫たちは、何が起きたのかようやく理解したようだ。残念ながら、彼らは黒装束と仲間だったようだ。腰に提げていた武器を手に取る。


「……お前らは俺に殺されるのが役目だろーが」

「え?」


 黒装束は声変わりを終えた頃のような擦れ気味の声で、水夫たちを次々と殺していく。洞窟に悲鳴がこだまする。彼らの命を奪う逆手で握られていたダガーは、血を吸わせたかのように刀身が赤黒い輝きを放ち始めた。


「ガキ。味方殺しの上に趣味のわりぃ武器だな……」


 グリサムさんも相手の年齢に気付いたようだ。

 黒装束の少年は何も答えず、低い姿勢でダガーを構える。すると、刀身は輝きを強める。マズいと思った瞬間には、黒装束の少年はグリサムさんの目の前まで移動していた。


「……ガキって言うな」

「ぐっ」


 避けられないと判断して剣で防ぐ。だが、またも信じられないことが起きた。ダガーが鍔迫り合いもなく剣を壊したのだ。

 赤黒い輝きのダガーは、グリサムさんの頬を裂いた。判断が遅ければ、首を斬られて死んでいた。


 転がり避けたグリサムさんはすぐに立ち上がり、予備の武器を手に取る。


「お前は後だ。転がってろ」

「……血が、抜け」

「グリサムさん!」

 

 グリサムさんの斬られた頬からは、ダガーへ導かれるように血が流れ出て刀身が吸収している。少量の血ではない。大量にだ。よく見ると、黒装束の少年が殺した水夫たちからも、血がダガーに吸い寄せられている。まるで、ダガーの形をした吸血鬼だ。

 

「そのダガーは、斬った相手の血を吸収して持ち主に力を与える、か?」

「ご明察。鍛えられた教会騎士を殺すなんて、ただの人の体じゃあできねえからな。やっと、この時が来た!」


 さっきまで抑制的だった黒装束の少年は、唯一晒している黄色の瞳を輝かすように感情を昂らせた。


「父ちゃんや母ちゃん。友達や好きだったやつらが殺された日からずっと、お前のことを忘れた日はなかった!」

「何を言ってるんだ?」

「みんなから引き剥がされて、町の衛兵が俺たちを斬り殺そうとした瞬間、母ちゃんが隙を作ってくれて逃げ出せた。あいつらの叫び声が、頭が地面に落ちる音が消えねぇよ」


 黒装束の少年の話は、首を掴まれたかのように息苦しくさせた。指が震える。


「あの時、お前は処刑が始まる前に顔を青くして逃げ出していたよな。よく覚えてるさ」


 吐き気が込み上げてくる。この子はあの時の生き残りだ。


「お前に斬られた男が、死に際に俺の名前を呼んでた。覚えてるか?」


 あの男が死に際に何か言ってたのは覚えてる。あれは、子供の名前だったのか。洞窟から拘束された子供がその男を見て、「父ちゃん」と叫んでいた。あの子供の名前だったのか。


「お前がエレーデンテ候補として故郷を初めて旅立ち、寄ったコローネル侯爵領の領都ヴェドナ近辺でお前ら教会騎士に逮捕され、ヴェドナの代官に処刑された平民たちの唯一の生き残り」


 少年は頭を隠していた布を払った。露わになる火傷や切傷だらけの顔。血が通っていないのではないかと息の飲ませる、青白い肌。もとは別の色であったであろう短い白髪。


 自分の未熟さ故に生み出した、憎しみに染まる少年。


「コランだ。そして今は、エグラーデ様に仕える暗殺者だ。久しぶりだな、アルト」

読んでいただきありがとうございます。『リアクション』や『感想』をいただけると嬉しいです。広告下の評価ポイントでも嬉しいです。

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