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教会騎士アルトの物語 〜黎明の剣と神々の野望〜  作者: 獄門峠
第四部:神権の礎 第二章:教皇の軍旗
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刺さる視線

 レンツァーベックの封鎖宣言を出した後、住人はパニックに陥った。だけどそこは、聖人の肩書きとマーラの力が効いて収まる。

 

 マーラを輝く粒として具現化させ、住民に浴びせるように降らせた。マーラの具現化なんて、教会騎士でも見たことのない人が多いのだ。一般人からすれば、奇跡のような光景だっただろう。しかも、その光景を生み出した人物が聖人となれば、少しは落ち着きを取り戻す。


 ただ、皆を騙した罪悪感に俺は苛まれる。必要だと思うけど、良い気持ちじゃない。俺にこの方法を提案した人物は、レンツァーベックとその周辺が描かれた地図に印を付けている。


「やはり、廃鉱山に何かある? いや、港から続くこの辺りか?」


 ファシャルスさんの眉間はどんどん深くなる。そこへ、()()()()()()()を流し終えたグリサムさんが帰ってくる。


「町は大騒ぎっすね。十年も前に枯れた鉱山から毒が流れるなんて、普通だったら思いもしないでしょうに。民衆を騙すなんて、聖人様は悪い人っすねぇ」


 グリサムさんはいつもの軽い調子で、俺の肩を突く。いや、あなたの上司の作戦でしょうが!


「やめてください。小さい子まで泣き出して、心が痛いんですから!」

「グリサム。それよりも樽はしっかりと処分したんだろうな?」

「だーいじょうぶ。ちゃんとバラして埋めてきましたよ」


 町を封鎖する作戦として、ファシャルスさんは二つのことをやった。

 

 町が騒いだ奇形の魚の正体は、実はセレス地方の田舎で食べられている魚だ。セレス地方は教会との悪い関係もあり、一般人でもめったに行くことのない土地。セレス地方に住む人にとってはありふれた魚。だけど、セレス地方と関わるなんて言語道断な大貴族のエグラド侯爵領で知る人はいないだろう。俺たちがレンツァーベックへ到着する前日あたりから、先行していた人たちに川の上流から放流してもらっていた。今日はそれが初めて釣られたのだろう。

 

 最後に、川の変色はついさっきまでグリサムさんがおこなっていたことだ。リグラムが水に溶けると、薄緑色に変色する。そこで本物のリグラムを流すわけにはいかないので、主に食品に使われることの多い着色料を大量に流した。植物から抽出したものだから害はないけど、リグラムがあると知っている人たちからすれば緊急事態だ。しかも、リグラムを管理する組織を潰した俺がいる時になんて。一応、俺はここにリグラムがあるなんて知らない態でいるから、調べるふりをして鉱山毒と言った。実際に、金属成分が溶けると水は薄緑色になる現象がある。俺が誤解しても仕方がないという理由だ。

 

 ついでに、この町唯一の医者の様子だ。二つの事態が起きて、染めた川の水を飲んだ人がいた時にどんな対応をするのか、観察するように言われていた。医療品でも察するところがあるけど、川の水を飲んだ水夫が俺に何かを言いかけたところに、割いるように入って処置を施す。しかもそれは、飲んだ水を吐かせるわけじゃなくて眠らせるように鎮静させていた。おかしな処置だ。住民たちのパニックを収めるため、目を離したすきに彼らはその場からいなくなった。ちなみに、川に落ちた水夫は「落ちた」のではなく「落とされた」が正しい。うちの同僚たちがすみませんでした。


「アルト殿の話からしても、医者はリグラムの関係者だと考えて良いでしょう。聖人殿には、引き続き医者の監視を」

「日中はそれでもいいですけど、夜の動きの監視はどうします?」

 

 俺の疑問にファシャルスさんは不思議そうな顔をする。近くにいるグリサムさんは同情するような視線を送る。


「当然、夜の監視もしてください。治せそうな者が治療のために治療所へ詰めるのは不自然じゃないでしょう? 医者が拒否しようとしても、鉱山毒なんて一介の町医者の手には負えません。聖人の肩書きとバラール地方1の薬師の弟子の力を使ってよろしくお願いします。それと、医者の近くにいることでマーラの力を使い情報が取れることもあるでしょう。期待しています」

「あ、はい……」


 久しぶりに徹夜の日々が続きそうだ。


 ◇


 封鎖から数日、治療所には大勢の人がやってくる。外出禁止と出したが、病人は別だ。ただ、その病気は多岐にわたる。腰痛、のどの痛み、肩こり、湿疹、咳、赤ちゃんが罹りやすい病気など。鉱毒騒ぎの真実を知る者としては日常的な内容だけど、知らない人にとっては全てが関連に思える。本当に酷い病気の人もいるから気は抜けない。


 ファシャルスさんたち以外にも、俺のお供でレンツァーベックにきた人たちは家々を回って食材の配給や治療のための薬草採取などをしている。その中に、グリサムさんとアリーシャさんが紛れ込み町の内外でリグラムの保管庫を調べている。


 監視している医者の方も治療以外に動く様子が見られない。ただ、心の揺らぎから隠し事があるのは気付いている。あっちも、俺がマーラの感知者だと知っている。だから、決定的な行動や気持ちを誤魔化すように治療に専念しているのだろう。実際、心が読みにくい。

 しばらくして、その医者の心を大きく揺れたのが廃鉱山近くの洞窟を調査すると話した時だ。グリサムさんたちが、鉱毒の発生源として鉱山を調べていたら近くに洞窟を見つけた。その時、グリサムさんたちは気付かないふりをしたが、見張りがいた。医者は、住民である自分たちも知らない場所へ聖人が向かうには危険だからと止める。


「でも、鉱毒について詳しいのは俺だけだから行かないと」

「……分かりました。それなら、念のために障害物を避けられるように力持ちの水夫も同行させましょう。私はここを空けるにはいきませんので留守番をしています」

「ありがとうございます。屈強な水夫さんも一緒なら心強いです!」


 調査前日は治療所で寝泊まりせずに、久しぶりに宿屋へ帰った。医者の感情だけで察するところだけど、果たして蛇が出るかリグラムが出るか。


 考えに耽ながら宿屋へ帰る俺の背中に、医者の視線が刺さる。

読んでいただきありがとうございます。『リアクション』や『感想』をいただけると嬉しいです。広告下の評価ポイントでも嬉しいです。

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