第三十六話「大量の涙」
「アルファートを説得してほしい」
神が俺に言ってきた言葉。
「アルファートは長年私を恨み続けて苦しんでいる。その憎しみの鎖をお前に断ち切ってもらいたい」
俺にそんなことが出来るのだろうか?
「出来るさ、君なら」
そう言うと、真っ白な空間がガラリと変わり真っ黒な空間に変わった。
目の前には女の子がいた。
それが誰かはすぐには分かった。
「アルファート……」
アルファートは泣きじゃくっていた。
だが、俺に気づくと泣くのをやめ、こう言い放ってきた。
「この……役立たずが」
結構な言われようだな。
「なあアルファート」
「お前の話など聞かぬ、私はもがいてみせる」
「もがく必要なんて、ないんだよ」
「お前に私の何が分かる!!」
その瞬間、アルファートの過去が俺の頭にインプットされるかのように入ってきた。
「これがお前の過去か」
「そうさ、私は神の生贄になった」
「…………」
「私だけならまだ良かった。だが神は、私の友達まで……」
「お前も……辛かったんだな」
「同情するくらいなら神を殺せ!」
アルファートの過去。
とても辛いものだ。
だけど!
「なあアルファート」
「何だよ!?」
「お前の友達も神を憎んでいたのかな?」
勝が私を説得してきた。
役立たずの愚か者が今更何を。
「憎んでいるさ、きっと」
「じゃあ何でお前の友達はここにいないんだろう?」
「それは……」
私は思い出していた。
「俺はいいかな。生贄になっても」
「どうして!? 理不尽なのに」
「死んでもさ、また生まれ変われるじゃん?」
「…………」
「俺は次の人生で頑張ることにするよ」
彼らは後悔していなかったのだ。
自分の人生を呪っていなかったのだ。
次の人生があることが分かっていたから。
「お前の友達もきっと次の人生で頑張ろうって思えたから、後悔はしてなかったんじゃなかったのかな?」
「…………」
「お前ももう後悔する必要なんてないんだよ。次の人生があるんだから」
「勝は……後悔してないのか?」
「最初は後悔してたさ、でも」
「でも?」
「俺の仲間は後悔してなかった。楽しい人生だったって言ってくれたよ。それを聞いて俺も踏ん切りついた」
「…………」
「だからさ。お前ももう神を憎んだりする必要、無いんだよ?」
「だったら今までの私の苦労は何だったんだ! 無駄だとでも言いたいのか」
「意味ある行動さ」
「お前は何が言いたい?」
「次に活かせってことだよ」
「……活かす?」
「ああ、俺のやったこともお前のやったことも決して無駄じゃない」
「何を根拠に言っている」
「次こそは正しい人生が歩めるってことさ」
正しい人生……。
「俺は次こそは間違えないと思っている。そういう人生を歩むって決めたんだ」
そう言った勝の目は輝いていた。
「私も次こそは正しい人生を歩めるのかな?」
「歩めるさ。例え次も間違えたってまた次がある。だからもう、後悔する必要なんてないんだ」
後悔する必要がない。
その言葉を聞いた瞬間。私の目から涙が溢れていた。
「みいな」
私を生前の名前で呼ぶ声。
神様の声だ。
「守れなくて。ごめんね」
神様が私に謝ってきた。
その途端、神様の思いが私の中に溢れ出しだ。
そうか。
神様だって苦しかったんだ。
私は今まで神様のせいで不幸になったと思っていた。
でも違った。
神様は黙って見守ることしか出来なかったんだ。
私を。
本当は守りたかったんだ。
「ありがとう。神様」
その思いが伝わっただけで私はもう充分だ。
もう神を恨む必要はない。
「次はいい人生を歩ませるように頑張ってみるよ」
神様。
本当にありがとう。




